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自然を知るWEBマガジン「知ろう、自然のこと。」会報「自然保護」電子版

水の上のデジタル社会

デジタル社会を支えるデータセンター、半導体工場、銅などの採掘現場。これらを動かすには莫大な量の水が必要となります。急増する世界の水需要について水ジャーナリストの橋本淳司氏に解説していただきます。

橋本 淳司 (はしもと じゅんじ)(アクアスフィア・水教育研究所、武蔵野大学サステナビリティ学科)

大量の水を使うデータセンター

私たちは、デジタル社会を現実の資源とは切り離されたものとして捉えがちです。しかし実際には、その基盤は極めて物理的であり、とりわけ水に大きく依存しています。

WHO(世界保健機関)、ユニセフによると、世界では今も約22億人が安全に管理された飲料水を利用できず、約35億人が安全な衛生設備を利用できない状況にあります。その一方で、世界の水利用は増え続けています(図1)。特に、工業用水や発電用水の増加が顕著で、従来は主に農業に使われてきた水が、産業やエネルギー分野へとシフトしつつあります。つまり、水不足に苦しむ人々が依然として多く存在する一方で、新たな水需要は拡大し続けているのです(図2)。

新たな水需要として分かりやすいのが、データセンターによる水の直接的な消費です。クラウドやAIの普及により、データセンターは世界中で急増しています。データセンターは24時間365日稼働し続け、大量の熱を発生させます。この熱を適切に処理するため、冷却は不可欠です。テック企業1は、冷却に使用する水の一部を循環させるなど効率化を進めており、使用量の削減に努めています。しかし、冷却方式の一つである気化冷却では、水が蒸発することで熱を逃がすため、循環しても最終的には一定量の水が消費されます。このため、結果として水資源への負荷は無視できません。

米国には2024年時点で5000を超えるデータセンターが存在し、中でもバージニア州北部のラウドン郡には、アマゾン、グーグル、マイクロソフト、メタといった巨大テック企業のデータセンターが集積しています。この地域が選ばれた理由について、米ジョージ・ワシントン大学のジョン・E・ビショフ博士は「高速通信網」「電力」「水」の3つを挙げています。実際、バージニア州のデータセンター集積地では、水使用量が2019年から2023年にかけて約63%増加し、年間約700万m2に達したと「フィナンシャルタイムス」が報じています。これは6~8万人規模の都市の年間生活用水量に匹敵します。複数のメディアの報道によると、ラウドン郡内のデータセンター用地は2019年以降で2倍以上に拡大し、現在も多くの施設が建設中です。

カナダの調査会社プレセデンス・リサーチによると、世界のデータセンター市場は、2025年に55兆3000億円2でしたが、2034年までに155兆円まで拡大するとしています。

日本も例外ではありません。『データセンター調査報告書2025』(クラウド&データセンター完全ガイド監修)によれば、2024年時点で日本国内の商用データセンターには約73万ラック3が稼働しており、大型のハイパースケール型が約39万ラック、中小規模のリテール型が約34万ラックを占めています。今後は生成AIやクラウド処理の需要拡大を背景に、2030年までに累積で約98万ラック分のデータセンターが建設される見通しで、そのうちの約64万ラックは大量の電気と水を使うハイパースケール型であると予測されています。

世界の水使用量の推移と予測グラフ

図1:世界の水使用量の推移と予測
OECD(経済協力開発機構)の分析によれば、世界の水使用量は1930年代から2000年にかけて
4倍に増え、2050年にはさらに約1.5倍に増えると予測されている。
「Our World in Data」「OECD Reassessing the projections of the World Water
Development Report」などをもとに作成

世界の水需要予測とその内訳(2000-2050年)のグラフ

図2:世界の水需要予測とその内訳(2000-2050年)
世界(2050年)に着目すると水需要量の増加、とりわけ発電、製造にかかる水需要が増加する予測/
OECD(2012)「Environmentarl Outlook to 2050」OECD Publishingより

デジタル社会の構築に水は不可欠

スマートフォンや自動車などに不可欠な半導体の製造では、高純度の「超純水」が大量に使われます。台湾の半導体大手TSMCの報告書によれば、2023年には同社の主要工業団地で1日あたり約25万9000m2の水が使用されました(TSMC Sustainability Report 2024)。これは90~100万人規模の都市の1日分の生活用水に相当します。TSMCの熊本進出は国内外で大きな注目を集めました。熊本が選ばれた理由の1つに安定した水資源の存在があります。熊本県は2025年4月、半導体工場が集積する地域において、2030年には地下水位が、2023年と比べて最大1.12m低下する可能性があると公表しました。県が示した予測では、半導体工場が年間1200万m2の水を汲み上げる想定に加え、工業化に伴って周辺の田畑や森林が減少し、地中にしみ込む雨水の量が減ることが原因としています。

さらに、デジタル社会を支える素材として重要なのが銅です。銅は電気を通す金属として、データセンターや電気自動車、再生可能エネルギー設備に不可欠です。太陽光発電や風力発電、EVの普及に伴い、その需要は急増しています。しかし、銅の生産には大量の水が必要です。銅鉱石に含まれる金属の割合は0.4〜0.6%程度と低く、その抽出には水を使用する浮遊選鉱工程が広く用いられています。

世界最大級の銅産出国であるチリでは、鉱山による地下水の利用が進み、水資源の枯渇や生態系への影響が深刻化しています。そのため、チリ北部の鉱山では海水淡水化が進められています。例えば、世界最大級のエスコンディーダ鉱山では、約180km離れた海岸から淡水化した水を、標高約3200mの鉱山までパイプラインで輸送しています。しかし、このプロセスには大量のエネルギーが必要であり、水とエネルギーの新たな負荷を生み出しています。

電気と水のジレンマ

そして最後に見落とされがちなのが、電力を通じた間接的な水の使用です。データセンターや半導体工場は大量の電力を消費しますが、その発電にも水が使われています。IEA(国際エネルギー機関)の分析によれば、世界のエネルギー部門による水使用量は2021年に約3700億m2、2030年には約4000億m2に増加すると見込まれています。原子力発電所の冷却や、バイオ燃料生産に伴う灌漑がその主な要因です。

このように、デジタル社会の水利用は、直接的なものにとどまらず、資源やエネルギーを通じて社会全体に広がっています。しかもその負荷は、特定の地域に集中する傾向があります。

企業には、水と電力の双方を含めた資源消費を可視化し、説明責任を果たすことが求められています。私たちは情報と資源の関係に無頓着です。デジタル社会とは、水の上に築かれた社会であるという現実を、私たちは改めて認識する必要があります。

1:ITなど幅広いテクノロジーを使ってサービスを提供する企業
2:1ドル=143円換算
3:サーバーなどのIT機器を収容する標準規格の棚の単位