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自然を知るWEBマガジン「知ろう、自然のこと。」会報「自然保護」電子版

【配布資料】今日から始める自然観察「葉巻きづくりの名手オトシブミの観察」

<会報『自然保護』No.611より転載>
このページは、筆者の方に教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可・抜粋利用不可)。ダウンロードして、自然観察などでご活用ください。
【今日から始める自然観察】葉巻きづくりの名手オトシブミの観察(1.6MB)PDF

新緑の季節に現れて活動するオトシブミ。このころ、落とし文という和菓子が店頭に並び、情緒を感じさせる虫でもあります。葉っぱをくるくると器用に丸めた「揺籃」と呼ばれる葉巻きづくりの名手で、観察の対象としても魅力的な存在です。今回は、オトシブミの観察がさらに楽しくなるポイントをまとめてみました。

小林さんの顔写真

小林 知里 (こばやし ちさと)

東北大学生命科学研究科 ネイチャーポジティブ発展社会実現拠点 特任助教

この葉っぱの巻物は「揺籃」「ゆりかご」などと呼ばれ、作り主はオトシブミというゾウムシに近い甲虫の仲間です。巻物が「落とし文(誰が書いたか分からないようにして道に落とした手紙)」にそっくりということでこの名前が付きました。

揺籃の中には卵が包まれていて、揺籃は卵や幼虫を外敵や乾燥から守るだけではなく、幼虫期の食糧にもなります。揺籃作りは1時間ほどかかる大変な作業で、メスだけが揺籃を作ります。

日本には約30種類のオトシブミが生息しています。揺籃によく使う植物は種によってそれぞれ好みがありますが、1~2種類の植物しか使わない種類もいれば、数十種類使うものもいます。山地では、ブナ、ナラ類、シデ類、ミズキ、フジ、エゴノキ、サクラ・キイチゴ類、ツツジ類などでよく見つかります。樹木を使う種類が多いですが、イラクサの仲間などの草本を使う種類もいます。

オトシブミの最大の天敵は揺籃の中の卵を狙う体長1㎜ほどの卵寄生バチです。丁寧に隙間なくぴっちりと折りたたまれた揺籃は、このハチから卵を守るために進化したと考えられています。

エゴツルクビオトシブミの暮らし

エゴツルクビオトシブミ(メス)の成虫の画像

初夏、冬眠から目覚めた成虫は新葉を食べて成熟し、繁殖を始めます。メスが作成した揺籃の中には1個の卵が包まれていて、孵化した幼虫は揺籃の内部の葉を食べて成長し、約3週間ほどで蛹・成虫となり揺籃の外へ出てきます。暖かい地方では羽化した成虫がそのまま繁殖し、揺籃を作る場合もありますが、多くの場合は羽化した成虫は、夏〜冬を落ち葉や樹皮の隙間などで休眠して過ごし、翌春になってから揺籃を作ります。

エゴツルクビオトシブミの揺籠の画像

揺籃の断面。 中央に黄色の卵が見える

エゴツルクビオトシブミの蛹の画像

揺籃探しと観察のコツ

オトシブミや揺籃の探し方のコツは、陽がよく当たり新葉がたくさん出ている場所を探すことです。樹上だけでなく、足元も見てみてください。揺籃が見つかったら、①どんな形で葉っぱが切られているか、②何の植物を使っているか、③主脈に一定の間隔でかみ傷があるか、などに注目すると楽しいです。落ちている揺籃の場合は、葉の鋸歯の形、葉裏表の色合い、手触りなどから周囲に生える木の葉と照らし合わせ、ぜひ探偵になった気持ちで、使われている植物を推理してみてください。近くの落ち葉も参考になります。

葉の切り方は?使われている植物は何?裾部分の 葉の処理は

エゴツルクビオトシブミの揺籃。約2cm

巻き方の手順

(エゴツルクビオトシブミの場合)
① 測定・吟味:葉上を決まったルートで歩き、決まった場所をかじって葉の大きさや質を確認
左右交互にこの作業を何度か繰り返す
② 裁断:葉の大きさや質が気に入ったら、作成スタート。大顎と前脚を使って葉を裁断していく
③ 折りたたみ:裁断後、表を内側にして葉を脚で挟み、縦に半分に折りたたみながら折りぐせを付ける
④ 巻き始め:葉の先から、脚と大顎を使ってぐっと押さえ込むようにして力を込めて巻いていく
⑤ 産卵:数回巻いたところで、巻いた部分の真ん中に口で穴を開けて、その穴に産卵する
⑥ 巻きの続き:産卵後、円筒形の「底」と「ふた」ができるよう筋を付け折り込みながら残りを巻き上げる
⑦ かぶせ折り・完成:巻きがほどけないよう、葉の最後のところをひっくり返してかぶせて完成!
※切り落としタイプ:この種は樹上ぶらさがりタイプと切り落としタイプ両方の揺籃を作り、後者は葉を左右から主脈へ向かって裁断してから折り、最後に枝から切り落とす

イラスト:atelier*zephyr (Directed by Eusapia Co., Ltd.)

いろんな揺籃

樹上ぶら下がりタイプ

エゴツルクビオトシブミの揺籠

葉の切り方は片方から主脈を超こえて1本で切り込む型と、左右両方
から主脈へ向けて切り込む型とある。最もよく目にするタイプ。
例:ウスアカオトシブミ、ウスモンオトシブミ、ヒメコブオトシブミ、エゴツルクビオトシブミなど

樹上しっかりくっ付きタイプ

ビロウドアシナガオトシブミの揺籃

しっかりと木にくっ付き揺れない。切り方は端から主脈の手前で少し直角に曲げる型(L字の形)や、主脈を少し傷つけるだけの型も。目にすることが比較的少ないタイプ。
例:ゴマダラオトシブミ、アカクビナガオトシブミなど

地面に切り落としタイプ

切り残された葉

樹上で切り残し部分を見つけたら、近くに落ちている証拠なので、ぜひ探してみよう。
例:ヒゲナガオトシブミ、アシナガオトシブミ、ナミオトシブミ、エゴツルクビオトシブミなど

チョッキリの揺籃

ヤマイクビチョッキリの揺籃

オトシブミに近い仲間で「チョッキリ」というグループがある。チョッキリも一部の種類は葉巻きを作るが、オトシブミの揺籃とは切り方も葉の折りたたみ方も違う

ルリオトシブミの揺籃

ルリオトシブミの揺籃の画像
ルリオトシブミの仲間は日本に6種いて、どの種も体長5mmほどととても小さい。1枚の葉を使って揺籃を作る他のオトシブミと違って、ルリオトシブミは葉の縁を細長くリボン状に切り取り、その葉片を巻いて揺籃を作る。探し方のコツは、樹上の葉の縁の切り取り痕を見つけること!見つけたら、その真下の地面の上を、落ち葉をかき分けながら宝探し気分でよ〜く探してみよう。
ルリオトシブミはメスがお腹に特殊なカビの仲間を育てるポケットを持っていて、揺籃にそのカビを塗るという面白い特徴がある。カビた揺籃の中で幼虫は元気に育つ。なぜカビを塗るのか? 他の有害な雑菌を防ぐためと言われているが、まだ分からないことが多い。


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