【配布資料】今日から始める自然観察「枯れ木こそ山のにきわい! 倒木観察のススメ」
自然観察ツール2025年11・12月号会報電子版今日から始める自然観察
2025年11月5日
このページは、筆者の方に教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可・抜粋利用不可)。ダウンロードして、自然観察などでご活用ください。
枯れ木も山のにぎわい?いえいえ、枯れ木こそ山のにぎわいです。注意して観察すると、枯れ木にはいろいろな生きものの営みが見えてきます。倒木の生きもの観察のコツをお伝えします。
深澤 遊
東北大学大学院農学研究科准教授
倒木は生物多様性の宝庫です。森の生物種の3割が倒木などの枯死木に依存して生活していると言われています。ただ、小さな生きものが多く、隠れていることが多いため、注意してみないと目に入りません。倒木観察には虫眼鏡があると良いでしょう。季節や、樹種、倒れてからの時間の違いで、見られる生きものは変わります。
菌類による倒木の分解
倒木は、さまざまな菌類によって分解されていきます。倒木表面にキノコを出すのはそのうちのごく一部の菌類ですが、キノコは養分が豊富なので、いろいろな生きものが食べに来ます。また、菌類の種類によって分解の仕方もさまざまです。例えば、白色腐朽菌と褐色腐朽菌とで分解の仕方が違います。倒木の主な成分はリグニンとセルロースです。リグニンは分解しにくい茶色い物質で、褐色腐朽菌はセルロースのみ分解するので倒木は茶色く、ブロック状に崩れるようになります。白色腐朽菌は両方分解し、倒木は白く、繊維状にやわらかくなります。白色腐朽菌によって分解された倒木の方が、生きものが利用可能なセルロース(分解すればブドウ糖になる)が豊富なので、白色腐朽材を好んで食べる生きものが多いですが、褐色腐朽材を好む変わり者もいます。
炭素の貯蔵庫としての倒木
倒木は、さまざまな生きもののすみかになっているだけでなく、重量の約半分が炭素でできていて、炭素の貯蔵庫になっています。倒木の分解が進んでも、一部は分解されずに土壌中に有機物として長期間貯留されます。
倒木を林床から取り除いてしまうことは、倒木に依存する生きものを絶滅へと導き、森林の炭素貯留量を減らす可能性があります。
倒木観察のコツ
できるだけ目を近づけて表面を「なめるように」よく見てみましょう。小さいものや樹皮に擬態している生きものが見えてきます。もし可能なら、倒木をひっくり返してみましょう。いろいろな生きものが隠れています。ネズミのトンネルが見られることもあります。ノコギリを持っていたら、断面を切ると、菌類の縄張りの境界線が観察できます。

多種のキノコが生える倒木

このような木を切断すると、帯線(倒木内のキノコの縄張りの境界線)が見える

白色腐朽と褐色腐朽は1本の倒木の中でも隣り合って見られる

変形菌の一種、ヘビヌカホコリ

倒木の上に置かれた動物のフン(右)にはサクラ類の種子がたくさん入っている。それが発芽したもの(左)

倒木の上に飛び出したオオイシアブの抜け殻
倒木観察のマナーや注意点
ひっくり返した倒木は元通りにしておきましょう。必要以上に破壊しないようにしましょう。
倒木にいる生きものを探そう!
コケや樹木の実生
コケに顔を近づけてよく見ると、種類によって葉の形や密度が違う。乾いて縮れている場合は、水を1滴垂らすと葉がピンと伸びる。運がよければコケに擬態したシリブトガガンボの幼虫が見られるかも。ふんわりしたコケのマットの上には、樹木の実生が生えていることも。
変形菌・キノコ
変形菌やキノコが生えていることもある。変形菌は高さ数ミリの「こけし」型の種類から、直径数センチのお饅頭型の種類までいろいろ。キノコもシイタケ型のやわらかい種類、サルノコシカケ型の硬い種類、コウヤクタケ型の薄く広がった種類、チャワンタケ型のお椀の形をした種類など多様だ。
菌類を食べに来る虫
変形菌やキノコは養分が豊富なので、いろいろな生きものが食べにくる。体長1㎜程度のトビムシやダニの仲間、もう少し大きいヤスデやデオキノコムシの仲間、ナメクジやカタツムリも変形菌・キノコが大好き。キノコの汁を吸うヒラタカメムシの仲間は、平べったい体で、樹皮に擬態している。
倒木の裏側
もし可能なら、倒木をひっくり返してみよう。表面とはまた違う世界が広がっている。突然の日光に慌てふためくアリやシロアリの仲間、その巣に居候するアリヅカムシなどの面白い昆虫も見つかるかもしれない。冬季には、冬眠するスズメバチの女王が見つかることもある。

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