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2021.03.15(2021.03.17 更新)

潜在的な保護地域としての公有緑地の現状と可能性 ~全国の都市公園・青少年施設等へのアンケート調査結果から~

調査報告

専門度:専門度3

調査報告

テーマ:環境教育子育て

フィールド:公有緑地動物園植物園水族館森林公園青少年施設ふれあいの里

日本自然保護協会では2018年から2020年にかけて国立環境研究所と合同で、全国の都市公園・青少年施設・動植物園などへのアンケート調査を行いました。その結果、これらの公有緑地が果たす潜在的な保護地域としての重要性が示唆されましたでの概要をお伝えします。

本調査にご協力いただいた皆様に心からお礼申し上げます。


潜在的な保護地域としての公有緑地の現状と可能性
~全国の都市公園・青少年施設等へのアンケート調査結果から~

日本自然保護協会 市民活動推進部
高川晋一

はじめに

生物多様性の保全を目指した世界目標「愛知ターゲット」が2010年にできてから10年が経過するものの、身近な自然における「ありふれた生き物たちの衰退」が進むなど日本の自然環境は厳しい状況が続いています。また、過去数十年にわたって様々な民間団体による活発な自然保護教育活動が行われてきましたが、自然体験の乏しい世代は増え続け、さらに全国的な人口減少によって各地のボランティア活動が徐々に衰退しています。身近な自然環境を保全するためにも、人口減少時代における自然保護教育を強力に進めていくためにも、従来とは異なる形での自然保護のしくみを新たに作っていくことが必要です。

日本自然保護協会ではその一つとして、広い緑地を有し、人々が自然と触れ合うために集い、そして有給職員がいる「公有緑地」の潜在的な保全・教育拠点としての価値に注目しています。生物多様性の保全を主目的としておらず、また国が正式に保護地域とは認めていない場所であっても、保全や自然保護教育の拠点として機能している場所が全国には多数あります。現在このような「民間保護地域やOECMs」は国際的にも注目を集めており、各国でその実態把握や、自然保護の仕組みに取り込むための制度作りが始まっています。

民間保護地域とOECMの詳細については国立環境研究所のウェブサイトにわかりやすく紹介されています。

OECMs-保護区ともう一つの保全地域-(外部サイト)

 
日本ではまだこのような議論は始まったばかりの段階であり、現況把握も十分になされていません。そこで日本自然保護協会では、国立環境研究所と共同で2018年から2020年にかけて、公有緑地を有する全国の都市公園・青少年施設・動植物水族館などの施設を対象にアンケート調査を行いました。ここではその結果の一部をご紹介します。

 

調査方法

アンケート調査は、全国の青少年施設、動植物園水族館、比較的規模の大きな都市公園、その他の公有施設(森林公園、農業公園、ふれあいの里など)2,159箇所を対象に行いました。各施設において野生生物が生息する緑地の状況や、各施設での生物多様性保全・環境教育活動の程度や内容についてお聞きし、577の施設から回答をいただきました。

 

調査結果

要約

  • 都市公園や青少年施設等の公有緑地は、野生生物の生息地として重要な場所を含み、また生物多様性を重んじる区画を有する施設は全体の4割におよび、潜在的な保護地域としての価値が高い。
  • 何らかの保全活動や環境教育活動を行っている施設は全体の6割以上にのぼるが、保全・教育活動をとても重視していると回答した施設は2割程度である。生物多様性保全や環境教育活動の拠点としても機能しうる新たな政策誘導(法律の整備・改訂や、認定制度づくりなど)が必要である。

 

公有緑地の敷地内における野生生物の生育生息の状況

各施設の敷地内に含まれる野生生物が生息する緑地の面積は、「100ha未満~10ha以上」および「10ha未満」と回答した施設の割合が高く、それぞれ33.8%37.3%でした。100ha以上と回答した割合が最も高かったのは青少年施設でした。また、敷地内に生物多様性の保全を重んじるエリアがあるかどうかを聞いた結果は、「大部分がそれに該当」との回答が全体の10.7%、「一部に存在する」との回答が28.9%でした。

敷地内の緑地に絶滅危惧種などの希少種は生息・生育していますか?」の質問に対しては、「生息している」との回答は全体の27.5%に上った一方で、「わからない」との回答が最多の47.8%でした。

敷地内の自然環境や生息する野生生物についてどの程度把握できているか?」については、「かなり把握できている」が全体の17.6%、「部分的に把握できている」が47.1%となっていました。特に植物園では「かなり把握できている」とする割合が高く、希少種が生息すると回答した割合も他タイプの施設と比較して最も高くなっていました。

自然環境を把握するための観察会や調査等の取り組み」が「定期的に行われている」と回答したのは全体の18.2%にのぼり、過去も含めて「何らかの取り組みが行われている」と回答したのは全体の54.3%でした。

各施設における自然環境・野生生物の把握度の棒グラフ

各施設における希少種生息の有無の棒グラフ

図:施設の敷地内の自然環境・野生生物の把握状況(上)
同敷地内の希少種の有無(下)

 

生物多様性保全の拠点としての活動実態

続いて、「緑地管理主体として自身の団体では生物多様性保全をどの程度重視しているか?」については全体の20.4%が「とても重視している」と回答し、43.5%が「それなりに重視している」と回答しました。

保全活動の内容として最も多かったのは「野生生物保全のための植生管理等」で全体の23.5%であり、次いで「外来種の防除管理活動」でした。「何もおこなっていない」との回答は全体の37.6%でした。

各施設における生物多様性保全の重視度の棒グラフ

緑地管理者としての生物多様性保全活動の有無の棒グラフ

図:緑地管理者主体としての生物多様性保全の重視の度合い(上)
その保全活動の内容(下。複数回答)

生物多様性保全を重視していると回答した施設の割合が高かったのは動植物園水族館であり、青少年施設や都市公園の割合は低くなっていました。しかし都市公園にあっても、敷地内全域で生物多様性の保全を重視し博物館施設も併設している「みなくち子どもの森(滋賀県甲賀市)」や、敷地内を多様なゾーニングで植生管理しながら周辺地域の希少植物の保全拠点ともなっている「長池公園(東京都八王子市)」など、保護地域として機能しながら特徴的な活動を行っている都市公園も複数確認できました。

次に、保護地域の要件として重要である「生物多様性の保全のための何らかの指針や計画が明文化されているか?」という質問については、「あり」と回答した施設は全体の15.1%にとどまりました。施設の設置根拠となっている条例や要綱に自然環境保全についての記述がある施設や、数は少ないものの保全指針を施設で独自に策定している施設もみられました(例:横浜自然観察の森保全管理計画、富山市ファミリーパーク新整備計画、万博の森育成等計画、静岡県立森林公園(浜北地区)全体管理計画など)。

 

自然保護教育活動の拠点としての活動実態

敷地内における、市民によるボランティア活動など他団体の活動も含めての環境教育活動については、60.7%の施設が「行っている」と回答しました。最も高かったのは青少年施設75.6%であり、最も低かったのは都市公園46.8%でした。

緑地管理者としての環境教育活動の重視の程度」については、23.0%が「とても重視している」、45.0%が「それなりに重視している」と回答し、合計68.0%に上りました。施設タイプごとの回答結果は、「それなりに重視」の回答まで含めると、上記と同様に青少年施設が最も割合が高く、都市公園が最も低い結果でした。ただし「とても重視」との回答割合は動物園水族館で最も高くなっていました。

各施設における敷地内での環境教育活動の有無の棒グラフ

緑地管理者としての環境教育活動の重視度の棒グラフ

図:敷地内での環境教育のための何らかの活動の有無(上)
緑地管理者としての環境教育活動の重視の度合い(下)

管理者自らが行っている活動としては、5つの選択肢のうち「自然とふれあう野外活動」と「観察会など自然のことを伝える体験イベント」の実施割合が最も高く、それぞれ全体の41.6%41.4%でした。

図:緑地管理者として主催で行っている環境教育活動の内容

 

まとめ

本アンケートの結果を通じて、大規模な都市公園や青少年施設・動植物水族館等の全国の公有緑地には、その4割ほどに生物多様性保全を重んじるエリアが存在し、また3割弱で希少種の生息生育が確認されており、6割以上の施設で何らかの生物多様性保全活動が行われていることが分かり、生物多様性の保護地域としての潜在的な価値が明らかとなりました。

敷地内の自然環境を十分に把握できていない施設も5割弱に及ぶことから、現在明らかにされている以上に保全上重要な緑地が含まれている可能性もあります。また、そのような自然環境を活用して6~7割の施設で環境教育が行われており、有給職員がいることからも今後のボランティア人口減少時代においても重要な教育拠点の一つともなると考えられます。例えば全国の動物園には年間のべ数千万人が訪れており、国民の多くが日常的に利用している公有緑地の自然保護教育施設としての潜在的価値は極めて高いと言えます。

一方で、保全・教育拠点として充実した活動を行っている公有緑地の存在が多く確認できたものの、都市公園や青少年施設においては全国的にみれば何も行っていない施設の方が多い状況です。また、動植物園水族館は本来、自然科学も含めた資料の保管・展示・教育活動を行うことを目的とした「博物館法」に基づいて設置されていますが、すべての施設で環境教育活動が重視されている状況ではありません。保護地域や教育拠点としての潜在的な価値の高いこれらの公有地での活動をより計画的に増やしていけるような新たな仕組み・制度づくりが強く求められます。

動植物園水族館については、例えば富士市ファミリーパーク(富山県富山市)や多摩動物公園(東京都日野市)のように、敷地内の在来生態系を保全し環境教育活動にも積極的に利用する施設をより増加させていけるよう、既存の認定制度(認定希少種保全動植物園等制度)の拡張や、博物館法に関わる制度を充実させていくことが望まれます。都市公園についても、自治体が基本計画を策定する際に生物多様性に配慮することを促す手引きや指針が既に策定されていますが、法律や条例の改正を通じて保全・教育機能を公園にも組み込んでいくことが重要です。

全国の青少年施設については、各自治体・指定管理者が独自の目的・方法で運営しており、統制をとるような法制度がありません。また、各自治体の森林公園や、環境省が設置に関わった全国の自然観察の森やいきものふれあいの里なども、極めて充実した保全活動・環境教育活動が行われている場所が多いものの、全国一律で取り組みを進めるような根拠となる法律がありません。そのため、潜在的な保護地域として優良な施設を認定し発信していく制度や、その運営を担う人材を全国で養成していく事業などが必要だと考えられます。

日本自然保護協会では、様々な団体や各地の自然観察指導員をはじめとする市民とも連携しながら、公有緑地が地域の新たな生物多様性保全・自然保護教育の拠点となるよう、引き続き調査研究や政策提言、人材育成などに取り組みます。

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