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(仮称)北海道厚田風力発電事業 環境影響評価準備書に関する意見書を提出しました

2026年4月22日

日本自然保護協会(NACS-J)は、北海道石狩市で計画されている(仮称)北海道厚田風力発電事業(事業者:東急不動産株式会社、最大:64,500 kW、基数:15 基程度)の環境影響評価準備書(作成委託事業者:一般財団法人日本気象協会)に対し、オジロワシをはじめとした多くの絶滅のおそれのある猛禽類に対し甚大な影響を及ぼしかねず、計画中止を含む抜本的な再検討を求め意見書を提出しました。

(仮称)北海道厚田風力発電事業 環境影響評価準備書に関する意見書 (954KB)PDF


2026年4月21日

東急不動産株式会社 御中

(仮称)北海道厚田風力発電事業 環境影響評価準備書に関する意見書

〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 土屋 俊幸

日本自然保護協会は、自然環境と生物多様性の保全の観点から、北海道石狩市で計画されている(仮称)北海道厚田風力発電事業(事業者:東急不動産株式会社、最大:64,500 kW、基数:15 基程度)の環境影響評価準備書(作成委託事業者:一般財団法人日本気象協会、以下「本アセス図書」と言う)に関する意見を述べる。

1.本事業は過去に例を見ないほどオジロワシの衝突リスクが高く、計画中止を含む事業の再検討を行うべき

本事業の計画地では、本アセス図書作成のための現地調査により、絶滅のおそれのある猛禽類のハチクマ(環境省レッドリスト:準絶滅危惧)、オジロワシ(同:絶滅危惧Ⅱ類)、ハイタカ(同:準絶滅危惧)、オオタカ(同:準絶滅危惧)、クマタカ(同:絶滅危惧IB類)、ハヤブサ(同:絶滅危惧Ⅱ類)の生息が確認されている。これは、本アセス図書の図3.1-25(1)~(6)にも示されているとおり、「北海道の猛禽類2020年版」掲載の2次(10km)メッシュの情報では十分に把握できない重要な利用実態が、本計画地及びその周辺に存在することを示している。

例えば、ハチクマについては、対象事業実施区域内で204例210個体(うち改変区域内95個体)の飛翔および対象事業実施区域中央部での営巣が確認されている。本事業によるハチクマのブレード等への衝突確率は、環境省モデルで0.0437個体/年、由井モデルで0.1255個体/年と高い値が示されている(本アセス図書、表10.1.81(14))。
また、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(以下、種の保存法)にも指定されているオジロワシに至っては、対象事業実施区域内で295例317個体(うち改変区域内104個体)と多数の飛翔が確認されており、ブレード等への接触確率は環境省モデルで0.5496個体/年、由井モデルで1.2806個体/年(2024年単年では1.5870個体/年)となっている(本アセス図書、表10.1.81(21-3))。

この数値は、2020年以降に発行された風力発電事業の環境影響評価準備書のなかでも著しく高く、事業実施区域内でオジロワシの飛翔が確認された全25件のうち、接触確率が0.5個体/年を超えているものは本事業のみである。一般的に衝突確率が高いと判断される0.05個体/年と比較すると、環境省モデルで10倍以上、由井モデルで24倍以上という異常な数値になっている。

この点に関しては、浜里ウインドファーム(北海道幌延町)の事例も重要な示唆を与える。同施設では、2023年5月の運転開始からわずか2年足らずで、オジロワシの衝突が11件も発生するなど、バードストライクが多発している。特筆すべきは、同事業のアセス手続き段階で、環境省などから猛禽類のバードストライクに関して重大な影響の懸念が示されていた点である。これに対して事業者は、「計画地周辺での採餌行動がほとんど確認されない」ことを理由に、ブレードやタワー等への接近・接触が生じる可能性は低いと予測して(浜里風力発電事業環境影響評価書、表10.1-4-33(13))、建設を推し進めた経緯がある。

しかし、現実には、運転開始直後からオジロワシの衝突が多発した。事業者は、タワーの側面やナセル上部への目玉模様の施工、猛禽類などの接近を検知した際に忌避音が発生するシステムの導入など、再三の対策を講じたものの目立った効果はなく、2025年3月には全基の日中稼働の停止を余儀なくされている。その後、2025年12月に新たな猛禽類接近検知システムを導入して全基の終日運転を再開したものの、わずか1か月で再びオジロワシの衝突が発生し、現在は再度の日中運転停止を実施している。

本事業においても、浜里ウインドファーム同様に、計画地での採餌行動の少なさを理由に、ブレード等への接触の可能性が小さいと予測している(本アセス図書、表10.1.4-81(21-2))。さらに、浜里ウインドファームでその効果の薄さが露呈した同様の猛禽類接近検知システムを導入することを根拠に、オジロワシの年間予測衝突数が低下すると予測している点(本アセス図書、P.1085)は、極めて楽観的と言わざるを得ない。
また、注目すべきは、浜里ウインドファームのオジロワシの衝突確率が環境省モデルで0.415個体/年であり(浜里風力発電事業環境影響評価書、表10.1-4-32)、本事業の衝突確率の方が高い点であり、本事業が実施された場合、浜里ウインドファームを上回る頻度でオジロワシのバードストライクが発生する蓋然性がある。

なお、浜里ウインドファームでは、2026年2月、稼働停止中に遊転していたとされる風車ブレードに種の保存法にも指定されているオオワシ(環境省レッドリスト:絶滅危惧Ⅱ類)が衝突する事故も発生している。このように猛禽類の生息密度が高い地域においては、風車の稼働状況にかかわらず、その存在自体が猛禽類のバードストライクの直接的な脅威となることを示唆している。

前述のとおり、本事業の計画地では、絶滅の危機に瀕している多くの猛禽類の生息が確認されており、特に風力発電機の設置を予定している全域でオジロワシ等の飛翔密度が非常に高い調査結果を本アセス図書で示しているにもかかわらず、バードストライクを防止する有効な方策が示されていない現状において、本事業は少なくとも現計画のままで実施すべきではなく、計画中止を含む事業の再検討が必要である。

2.石狩市による風力発電ゾーニング計画書との整合性を図るべき

本事業の計画地である石狩市は、2018年度、環境省の委託事業「平成29年度風力発電等に係るゾーニング導入可能性検討モデル事業」を活用し、石狩市全域を対象とするアンケート調査や環境調査などを実施した上で、地域固有の自然環境や社会環境など幅広く収集した情報をもとに多角的な視点から作成した「風力発電ゾーニング計画書」(以下、ゾーニング計画書)を公表している。本事業は、このゾーニング計画書で「環境保全を優先すべきエリア」と定められた「環境保全エリア」内において計画されている。

本アセス図書では、現地調査の結果に基づき、風力発電機の設置予定地が「環境保全エリア」として妥当であるかを検証している。特に、鳥類の多様性のみに着目した評価を行い、石狩市のゾーニング計画書の妥当性に疑義を呈している。しかし、石狩市風力発電ゾーニング計画で実施されたような、鳥類以外の生物や社会環境など多様な情報から導き出された結論ではないため、「環境保全を優先すべきエリア」でないと結論づける根拠としては不十分である。

本アセス図書で示している鳥類の多様性についても、森林型環境では鳥類多様性が事業地内で低かったものの、草地などそれ以外の環境では差が見られないことから、事業地全体が鳥類多様性の観点から特に高い価値を有する場所でないと断じることはできない。本アセス図書によれば、現地調査により確認された重要な鳥類28種(本アセス図書、P.1011など)のうち、18種が事業実施区域内で確認されている(本アセス図書、P.1009-1105)。これら18種の鳥類のなかには、種の保存法にも指定されているチュウヒ(環境省レッドリスト:絶滅危惧IB類)やハヤブサ(同:絶滅危惧Ⅱ類)をはじめ、本州で激減しているオオジシギ(同:準絶滅危惧種)、ウズラ(同:絶滅危惧Ⅱ類)、ホオアカなど、草原を重要な生息地としている鳥類が複数確認されている。したがって、森林性鳥類に偏った評価のみをもって「生物多様性上の重要性は低い」と整理することには無理がある。

そもそも、石狩市が作成したゾーニング計画書に対して「十分に現状を捉えていない」と疑義を呈したいのであれば、まずはゾーニングの見直しを石狩市に働きかけるべきである。前述のとおり、このゾーニング計画書は、石狩市全域を対象としたアンケート調査や環境調査など、石狩市が正当な手続きを踏んで策定したものである。事業者独自の調査結果のみを根拠にこれを否定し、事業を強行することは、地域の意向を無視した独断的な行為と言わざるを得ない。事業者によるこのような一方的な主張は、各地で進められている地域主体のゾーニング作成の取り組みを軽視するものである。これが認められれば、本事業に留まらず、全国の「不適切な先例」となりかねない。

このように地域が策定したゾーニング計画書において「環境保全エリア」と定められた区域で大規模な風力発電事業を行おうとしている事業者の姿勢は、自治体や地域住民との信頼関係を著しく損なうものである。よって、石狩市によって作成されたゾーニング計画書を形骸化させるような事業は、断じて実施すべきではない。

3.本事業予定地でのネイチャーポジティブ推進方策はグリーンウォッシュにほかならない

本事業の事業者である東急不動産株式会社は、本事業を紹介する資料において「地域共生型の再生可能エネルギー事業」という標語を掲げ、「カーボンニュートラルとネイチャーポジティブの同時実現」を強調している。本アセス図書においても、牧草地跡地等の自然再生に加えて、事業計画地を「自然共生サイト」へ登録することで「30by30(2030年までに陸と海の30%以上を保全する国際目標)」へ貢献を掲げており、本事業が気候変動対策のみならず生物多様性の保全や再生にも資するものであることを主張している。しかし、これらの主張は到底正当なものと認めることはできない。前述した通り、希少な猛禽類のバードストライクのリスクを看過し、地域の意向を無視して進めようとしている本事業は、その理念とは正反対の「ネイチャーネガティブ(自然破壊)」「地域破壊」を招きかねないものである。

本事業地が大規模牧草地となる以前は森林であった事実に鑑みれば、改変区域外のオオアワダチソウ(外来種)などが優占する牧草地跡地等を、二次的な草地や森林に転換することは、外来種の排除という側面では、一定のネイチャーポジティブに資する可能性がある。しかし、前述の本意見書項目2で指摘したように、事業計画地の草原は鳥類多様性の面では地域の中で重要な自然環境を有しており、一概に劣化した場所と断じるべきではない。

まずは、風力発電機の設置予定地を中心とした改変区域内における影響の回避や緩和を最優先し、その上で改変区域外での保全や回復措置を検討するという、IUCN(国際自然保護連合)が定めたネイチャーポジティブ10原則の根幹「ミティゲーションヒエラルキー(影響軽減の優先順位)」の遵守が不可欠である。本アセス図書P.5には改変区域内外での在来樹木の植栽が計画されているが、風力発電機の導入が自然環境に与える甚大な悪影響の可能性を棚上げし、ネイチャーポジティブの名のもとに既存の草原をたとえ在来樹木であっても安易な植樹によって消失させる行為は、「事業による悪影響の隠蔽」にほかならない。これはまさに、環境配慮を装いながら実態は破壊を伴う「グリーンウォッシュ」と受け止められかねない。
このような考え方で事業を強行しようとする東急不動産株式会社が、あたかもネイチャーポジティブの先達者であるかのように振る舞うことは、日本におけるネイチャーポジティブの取り組みそのものを歪め、その信頼性を根幹から揺るがす事態を招くことになりかねない。

なお、本アセス図書における「30by30」への言及を精査する限り、事業者である東急不動産株式会社はこの国際目標の本質を理解していないのではないかという疑念を抱かざるを得ない。30by30は、2022年の「生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)」で採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)のターゲット3に基づくものである。その核心は「生物多様性保全上重要な場所を優先し、効果的な保全・管理下に置く」ことにある。つまり、既に豊かな生態系を有し、保全の優先度が高い場所を適切に守ることが主眼であり、牧草地跡地の自然再生行為は、「30by30(ターゲット3)」ではなく、GBFターゲット2が定める「劣化地の自然再生」に対応するものである。なお、本事業のように生物多様性にとって重要な場所を破壊し、別の場所で「再生」を試みることで相殺(オフセット)するような考え方は、ターゲット2、ターゲット3のどちらの趣旨とも明白に異なることを確認しておきたい。

本アセス図書には、「自然共生サイト(OECM)に登録し、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の情報開示ができることを目指している」という記述があるが、同様の理由から、再生を前提とした土地は本来、OECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)として認定される対象にはなり得ない。事業者である東急不動産株式会社は、国際的な保全目標の枠組み、そしてユニークな制度である地域生物多様性増進法に基づく自然共生サイトの仕組みを正しく理解すべきである。

東急不動産株式会社は、日本を代表する上場企業であり、地域に根付いたまちづくりを第二次世界大戦以前から、日本各地で実践してきた先進企業としての定評を得てきた。2025年2月には、環境省が主催している「第6回ESGファイナンス・アワード・ジャパン」の環境サステナブル企業部門で「ネイチャーポジティブ賞」受賞している。真にネイチャーポジティブを社として推進するお考えをお持ちならば、このような生態系リスクの高い場所での風力発電導入を強行すべきではない。生物多様性への影響が低い土地を再選定したうえで、慎重に事業を進めるべきである。また、真に石狩市のネイチャーポジティブに貢献したいのであれば、現行の事業計画をいったん中止し、市内の生物多様性の現状、特に保全が急務とされる重要地域を科学的に特定し、それら重要地域における保全活動への直接的な支援を優先すべきである。

以上