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要望と声明 - 要望と声明も自然保護のための大切な活動です!

(仮称)新小矢部風力発電事業環境影響評価方法書に関する意見書を提出しました

2025年10月29日

日本自然保護協会(NACS-J)は、富山県小矢部市で計画されている(仮称)新小矢部風力発電事業(事業者:HSE株式会社、最大21,500 kW、基数:最大5基)の環境影響評価方法書(作成委託事業者:株式会社建設環境研究所)に対し、生物多様性保全の観点から、一般鳥類および両生類と昆虫類の調査をすべきとの意見書を提出しました。

(仮称) 新小矢部風力発電事業環境影響評価方法書に関する意見書(262KB)PDF

2025年10月28日

HSE株式会社  御中

(仮称)新小矢部風力発電事業環境影響評価方法書に関する意見書

〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 土屋 俊幸

日本自然保護協会(以下、当協会)は、富山県小矢部市で計画されている(仮称)新小矢部風力発電事業(事業者:HSE株式会社、最大21,500 kW、基数:最大5基)の環境影響評価方法書(作成委託事業者:株式会社建設環境研究所)に以下の意見を述べる。

本事業は、HSE株式会社の子会社くろしお風力発電株式会社が、2024年12月まで稲葉山牧野内で運用していた小矢部風力発電所(出力1800kW、基数:3基)の跡地の周辺に、全高146~187mの風力発電機5基を設置する予定である。
本事業は国が定める環境アセスメント法の対象規模以下である。また、富山県が定める条例アセスメントには、風力発電所が対象事業種に指定されていない。したがって、本来であれば環境アセスメント(以下、環境アセス)を実施する義務はないにも関わらず、事業者自ら自主的に環境アセスを実施してその情報を公開し、広く一般に意見を募って事業を進めている。この点は、他の事業者の模範にもなり高く評価できる。

当協会は、小矢部市内全体のネイチャーポジティブの実現を目指した生物多様性保全活動を株式会社ゴールドウインとともに実施している。2024年度には、県内の専門家やナチュラリストの協力を得て小矢部市全域の生物多様性の現状評価にも取り組んでおり、約20ヵ所の生物多様性保全上重要な地域(以下、「重要地域」と略)を特定した。本事業予定地は、この「重要地域」の一つとほとんど重なると評価されており、周辺にも他の「重要地域」が点在していることから、自然環境及び生物多様性の観点から以下の意見を述べる。

1. 鳥類の渡り、一般鳥類に関する調査を実施すべきである

専門家への意見聴取(本アセス図書P.203)では、鳥類研究者より、環境省レッドリストで絶滅危惧IB類に指定されているクマタカが営巣している可能性が指摘されている。絶滅危惧II類のサシバや準絶滅危惧のハチクマの渡りに関しても言及がある。また、文献調査(資-5,表4鳥類の確認種)では、絶滅危惧IB類に指定されているイヌワシも確認されおり、私たちもかつて本事業予定地の西側に生息していた実績を把握している。他にも、私たちの評価において「重要地域」とされた「宮島峡」が本事業地に隣接しており、文献調査にもあるアオシギ(資-4,同上)、ヤマセミ(資-5,同上)、カワガラス(資-6,同上)、サンコウチョウ(資-6,同上)などの生息情報を得ていることから、本事業予定地周辺は小矢部市内において鳥類の重要な繁殖場所である可能性が高い。

しかし、本アセス図書の「動物(特に鳥類)に係る調査、予測及び評価の手法」で示されている内容は、希少猛禽類に関する調査方法のみであり、その他の鳥類の調査に関する記述は一切ない。風力発電機の工事および稼働による猛禽類以外の鳥類への影響も十分に想定されることから、春秋期における定点での鳥類の渡りの調査および、周辺地域も含めた一般鳥類を対象にしたポイントセンサス法や音声録音調査などの調査も実施すべきである。

2. 両生類および昆虫の調査を実施すべきである

本アセス図書で実施予定の動物に関する調査計画には、猛禽類以外の動物の調査計画が全く示されていない。本事業予定地周辺には、石川県と富山県のみに生息し、環境省レッドリストで絶滅危惧IB類に指定されているホクリクサンショウウオが生息している可能性がある。また、私たちの「重要地域」評価によれば、マグソコガネ類などの希少な地表性徘徊甲虫の生息場所であることも確認されている。

その他にも、本アセス図書の文献調査では、アカハライモリ(資-9,表6両生類の確認種)やハッチョウトンボ(資-11,表7昆虫の確認種)、ゲンゴロウ(資-21,同上)やクロゲンゴロウ(資-21,同上)、ミズオオバコ(資-39,表10植物の確認種)やイトモ(資-39,同上)なども確認されており、本事業予定地の範囲に湿地的な微地形が存在する場合にはこれらの希少水生生物が生息している可能性もある。

風力発電機設置の際にこれらの動物群への影響が懸念されることから、その他の分類群に関しても通常の環境アセス調査と同程度の調査を実施すべきである。

以上

小矢部市内から見える事業予定地周辺(中央奥に見える山)