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要望と声明 - 要望と声明も自然保護のための大切な活動です!

(仮称)今金せたな風力発電事業 環境影響評価準備書に関する意見書を提出いたしました

2025年10月8日

日本自然保護協会(NACS-J)は、北海道今金町及びせたな町で計画されている(仮称)今金せたな風力発電事業「(仮称)今金せたな風力発電事業」の環境影響評価準備書に対して、環境配慮書段階においても指摘したとおり、近接する「若松トドマツ希少個体群保護林」の質に変化を及ぼす可能性が高く、自然環境への悪影響が引続き強く懸念されることから「風力発電機WT10」1基については建設を見合わせるべきとの意見書を提出しました。

(仮称)今金せたな風力発電事業 環境影響評価準備書に関する意見書(535KB)PDF

2025年10月8日

ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社 御中

〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 土屋 俊幸

(仮称)今金せたな風力発電事業 環境影響評価準備書に関する意見書

日本自然保護協会は、自然環境と生物多様性の保全の観点から、北海道今金町及びせたな町で計画されている(仮称)今金せたな風力発電事業 環境影響評価準備書(事業者:ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社、最大79,8000 kW、基数:19基)の環境影響評価準備書(作成委託事業者:一般財団法人日本気象協会、以下本アセス図書と言う)に関する意見を述べる。

1.建設予定19基のうち「若松トドマツ希少個体群保護林」に近接する「風力発電機WT10」1基の建設は行うべきではない

本事業で建設予定の風力発電機19基のうち「風力発電機WT10」(以下、当該発電機)は、林野庁北海道森林管理局が設置した「若松トドマツ希少個体群保護林」(以下、当該保護林)に近接しており、自然環境と生物多様性の保全の観点から懸念が大きいことから建設を見合わせるべきである。

本事業は、当初、環境配慮書段階で林野庁北海道森林管理局が設置した当該保護林を事業実施想定区域に含めていたが、次の環境影響評価方法書段階では事業実施区域から除外して一定程度の環境配慮を行っている。そして、今回の本アセス図書では、当該保護林に関する事業者の見解として、「改変区域から保護林周辺を除外し、林縁から風力発電機までの離隔を確保しました。」と記載もされており、当初の計画を変更した事業者の姿勢は評価する。

しかし、本アセス図書で示されている当該発電機の設置予定場所は、そのタワー基部と当該保護林の林縁との距離が約80mしか離れておらず、ブレードの旋回範囲にいたっては約20mしか離れていない。この距離では「改変区域から保護林周辺を除外し、林縁から風力発電機までの離隔を確保しました。」とは言い難い。

また、当該発電機の建設時に発生する濁水を処理するために設置される沈砂池に関しては、その排水を当該保護林の中心部に位置する谷に流下させる設計になっている。当該保護林の尾根上に位置する当該発電機の建設にあたっては、相当量の切土や盛土が見込まれ、これまで流入していなかった範囲の降水も含めて、工事に伴う濁水と土砂の発生は避けられない。さらに、建設後は、当該発電機周辺がそれまでの林地から裸地または草地になることにより、濁水発生の恐れが高くなるだけでなく、再緑化に使用される植物の種子が保護林内に流入する恐れも高い。当然、再緑化にあたり、在来種の播種や遺伝的な配慮はなされると思われるが、当該保護林内に生息していない草地性の種子の保護林内への流入は大きな懸念である。

以上のように、当該発電機は、当該保護林の質に変化を及ぼす可能性が高く、自然環境や生物多様性への悪影響が引続き強く懸念される。
NACS-Jは、これまでも本事業に対して意見を述べてきており、他にも夜間の渡り鳥の調査を詳細に行うことなどを求めてきた。一部では改善が見られるものの、当該保護林への影響が避けられない当該発電機の建設は、自然環境や生物多様性の観点から絶対に行うべきではない。

ネイチャーポジティブの実現のためには、気候変動対策と生物多様性保全は車の両輪として実施されなければならない。気候変動対策によって、深刻な生物多様性の棄損があってはならない。生物多様性を棄損するような再生可能エネルギー施設の増加は、気候変動対策の推進にも悪影響があることは明白である。日本を代表する上場企業のグループ会社として、責任ある行動をとられることを強く望む。

以上

保護林とブレードの旋回範囲の位置関係を示した地図 事業予定地から排水の方向を示した地図