この計画はもともと、石狩川の治水のため、石狩川の増水時にここに流れ込む千歳川を逆流させて日本海に放水するというものであった。そのための放水路が北海道中南部を東西に分断するという、非常に大規模な土木工事計画である。しかしながら、この計画が初めて具体化した「石狩川水系工事実施基本計画」が諮問され承諾を受けたのは、非公開で行われる河川審議会であり、関係自治体・住民の意見や状況が熟知されていたか、大いに疑問である。また、最近ではこの計画の目的は、千歳川の治水に重点がおかれるようになってきた。千歳川流域の治水を考えるならば、流域の低地を農地兼用の遊水地にするだけでもある程度の洪水対策が可能であるにもかかわらず、放水路を造るとその農地兼用の遊水地とほぼ同じ面積の農地が千歳川流域以外の地域から失われることになる。また、放水路によって水脈が分断される美々川流域、工事で出される大量の残土、洪水時に放出される汚れた水による漁業への影響、放水路に沿って内陸に流入する冷気による農業被害など、千歳川と無関係な地域にも多くの問題を引き起こすと推測される。
さらに、この治水計画は、この流量までは洪水を防ぐことができるという値である「計画高水量」を、毎秒1万8000立方メートルとしている。この値は、石狩川での史上最大の流量である1万2000立方mをはるかに上回る。安全度を高めることは望ましいが、他地域にも犠牲をしてまで安全度を高めることは受け入れられるものではない。ちなみに、この値を毎秒1000立方メートル減らしただけで放水路計画は不要となる。
このように多くの問題点をもつ計画に対して、保護団体などから少なくとも8つの代替案が提案されてきたが、くわしい検討過程や科学的根拠が示されないまま一方的に否定されている。もちろん自然環境保全面からいっても、美々川流域の豊かな自然に多大な影響を与えることが心配される。
美々川流域の自然は、湧水群がえぐった渓谷によって特徴づけられている。落葉広葉樹の自然林が残る谷壁とほとんど改修を受けていない河川、そして川に沿って広がる湿地が一セットになって保全されている地域は、石狩川-苫小牧低地帯のなかでも、もはや美々川流域だけである。このような自然を保全する場所に、単に貴重種や稀少種だけに注目した自然評価ではなく、「生物の多様性保全」の観点から自然の評価と保全策が必要である。特に、湧水や河川、湿地の維持に貴重な役割を果たしている地下水の保全は「一連の流域環境全体の保全」のために不可欠なことであり、放水路計画が地下水脈を断ち切ることが危惧される。
報告書では、これらの未解決の問題に対応するため、以下の点を提案した。
1.放水路計画の基礎となった資料の公開と代替案の検討。
2.包括的な環境アセスメントの実施とその過程の公開。
3.放水路計画の再検討と総合的治水計画の策定。
4.大規模公共事業に関する意思決定の公正化・透明化。
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