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自然観察指導員:更新情報Information

自然観察会など野外活動時におけるクマ対策の基本的な考え方

2025年12月2日

2025年12月2日

公益財団法人日本自然保護協会(NACS-J)は、今年のクマ出没の状況を踏まえ、自然観察会など野外活動時におけるクマ対策の基本的な考え方を整理しました。自然観察会の主催者やその関係者が地域に応じて対応策を立てる際の参考にしてください。

1.クマ(ツキノワグマ、ヒグマ)についての基本情報

日本には、ツキノワグマが四国と本州に、ヒグマが北海道に生息しています。九州のツキノワグマは絶滅しており、四国のツキノワグマは、2024年度に26頭しか確認されておらず、絶滅の危機にあります。
クマ類の分布域は拡大傾向にあり過去40年間に約2倍に拡大しています。また、ヒグマは過去30年間で推定生息数は倍増しています。ツキノワグマの生息数推定は限られていますが、兵庫県では年率15%の増加をしていることから、全国的にも増加していると推測されます。2000年以降にブナ科堅果(ドングリ)の不作の年には、大量出没が発生するようになり、その規模が増加しています。

クマは、季節毎に森林の多様な動植物を餌資源とする、森林生態系の「アンブレラ種」です。また、多様な果実を食べて、その種子を大量に長距離移動させる「種子散布」、遡上してきたサケ・マス類を捕食してその栄養塩を陸上に運ぶなど、生態系での役割をしています。大型哺乳動物であるクマが、人口密度が高く、狭い島国の日本に生息していることは、日本の豊かな生物多様性の象徴といえます。

人間活動域への出没と人身被害の増加と対策について、NACS-Jの現状認識はこちらを参照ください。
2025年のクマによる人身被害の増加とその対応について、NACS-Jの現状認識

2.自然観察会におけるクマ対策の基本的な枠組み

自然観察会など野外活動において、リスクマネジメントが必須です。リスクマネジメントとは、
①下見等を通して事前にリスクを予測・分析する
②事故を未然に防ぐ対策を立て、スタッフ間で、場合によっては参加者とも共有する
③万が一、事故が発生した場合の対応策を考え、スタッフ間で、場合によっては参加者とも共有する
という一連の流れです。活動地の自然が豊かであるほど野生動物の生息域でもあることを認識し、それに伴うリスクを理解し、対策を立てることが大切です。

自然観察会での具体的な対策

【事前】

  • 自然観察会のフィールドが、クマの生息地およびその周辺なのかどうか、日頃から、都道府県のクマ出没情報サイト等で情報を集めておきます。
  • 観察会の立案では、ルート・時間帯・参加者構成・スタッフの装備と参加者の持ち物・参加者への情報提供のし方などを、クマの特性や遭遇の条件を踏まえて計画します。クマの出没が懸念される地域では、クマの活動が活発になる早朝と夕方の観察会は避けたほうが良いでしょう。
  • クマ鈴、クマ撃退スプレー、クマよけ花火、ホイッスルなど、状況に応じたクマ対策装備を用意します。行事災害保険への加入や救急セットの携行など、基本的なリスクマネジメントも忘れてはいけません。
  • 下見は、単独ではなく必ず複数名で、クマ対策装備を持った上で行います。
  • 下見では、糞や爪痕、クマ棚やクマ剥ぎなどクマの痕跡がルートや周辺にないかをよく観察し、記録します。発見できなかった場合は、「探したが発見できなかった」ことを日付とともに記録します。
  • 地元自治体、ビジターセンター等から注意喚起情報を得ます。また、下見の際などに、登山者、林業や農業の従事者など自然観察会フィールドの利用者、地域住民などからヒアリングし、情報を得ます。このようにして、地域密着の情報収集に努めます。
  • 緊急時の人的配置や手順(だれが、いつ、何をするか)、連絡先(救急医、消防、警察、地元自治体など)リストづくり、緊急時の連絡窓口の一本化など、緊急体制を構築し、スタッフのなかで周知しておきます。
  • 観察会開催前に何回か「クマの生息・出没情報」「ルートのクマの痕跡有無」「参加者の経験・年齢構成」などを確認し、リスクが高いと判断した場合は、たとえ直前であっても対策を強化するか中止・延期を検討します。

【観察会当日】

  • 観察会当日、参加者に、クマとの遭遇時にどう行動すべきか、なぜその行動をするのかといった説明をします。
  • 観察会中は、見通しの悪い藪や観察路のカーブの直前などでは、声を出す、手を叩く、ホイッスルを吹くなどして人の存在を知らせます。
  • ゴミや弁当の食べ残し等を絶対に残さないなど、参加者にクマを誘引しない行動を促します。
  • 自然観察会の事後、遭遇がなかったか、目撃情報はなかったかなどを参加者からも聞き取り、これらの情報も含めてスタッフで振り返り、改善点を整理し、今後の活動に活かします。

もしもクマに出会ってしまったら・・・・

クマを刺激しないように、とにかく落ち着いて冷静に行動することが重要です。

  • 距離が離れている場合
    ゆっくりとその場を立ち去る。
  • 距離が近い場合
    慌てて走ったり大声を出してクマを興奮させないようにしましょう。クマから目を離さずに、背を向けずにゆっくりと後退してください。
  • 向かってきたら(威嚇突進)
    多くの場合は、突進の途中で止まり後退するか、目前でUターンをして逃げていきます。落ち着いて、クマとの間に障害物が来るようにゆっくりと後退しましょう。
  • 突進してきたら(攻撃突進)
    市販のクマ撃退用スプレーも有効射程距離にいる場合は有効です。それでも攻撃を受けた時は、うつ伏せになり急所となる首の後ろを両手でガードするなどして防御姿勢をとるようにしてください。
    ツキノワグマによる被害と予防(四国ツキノワグマ保護プログラム)

留意すべき点

  • 指導者として、「自然を畏れ、敬う」態度で行動することが大切です。
  • 自然観察会という「教育・体験の場」を通じて、参加者や地域住民が、クマをはじめとする野生動物に対する正しい知識・意識を持ち、単に警戒するのでなく、「野生動物と共に暮らせる社会」を目指していけるよう努力しましょう。
  • 集落や市街地に出没し、人慣れして人を恐れない個体が増えています。クマの生息域およびその周辺では、そのような個体と遭遇する可能性があるため、日頃から信頼のおける情報・知識による備えが必要です。
  • 近年、SNS(ソーシャルネットワークサービス)により様々な情報をより早く、より簡単に入手できるようになりました。クマ出没に関しても、根拠に乏しい情報や明らかな誤情報、生成AI(人工知能)による事実とは異なる動画などが散見されます。また、地域や年、季節、個体によってクマの行動や状況は変わります。これらのことを前提に、できるだけ信頼できる情報を選び、冷静に考え、適切に判断していくことが、自然観察指導員をはじめとする野外活動者には求められます。

参考になるサイト

各都道府県でもクマに関する出没情報等を発信しています。「クマ ●●県」等で検索してみてください。

参考になる書籍

  • 米田一彦『山でクマに会う方法』山と渓谷社,1996
  • 小池伸介『わたしのクマ研究』さ・え・ら書房,2017
  • 小池伸介『ツキノワグマのすべて』文一総合出版,2020
  • 菊谷詩子『となりにすんでるクマのこと』福音館書店「たくさんのふしぎ」2024.11月号

以上は、基本的にツキノワグマに関する書籍

以上は2025年12月2日時点のもので、適宜更新をしていきます。