WCC参加報告
ビジネスと自然保護をつなぐ国際的議論
2026年1月6日
プロジェクト
日本自然保護協会(以下、NACS-J)の森本です。2025年10月9日から15日にかけて、アラブ首長国連邦アブダビでIUCN世界自然保護会議(以下、WCC)が開催されました。私は本会議に参加し、自然保護とビジネスを両立させる国際的な最新動向や、ビジネスセクターに求められる役割について情報収集を行いました。本レポートでは、WCCで初めて開催されたビジネスサミットを中心に、日本国内での取り組みに活かせるポイントについて報告します。
WCCは、NACS-Jも加盟している世界自然保護連合(以下、IUCN)が主催。4年に一度開かれ、「自然保護のオリンピック」とも呼ばれます。政府、研究者、NGO、企業、市民団体など、世界各国から多様なステークホルダーが集い、科学・政策・社会・経済といった複合的な視点から、地球規模の環境課題について議論が行われます。
今回のWCCで特に大きな注目を集めたのが、初めて開催されたビジネスサミットです。
20以上の産業分野、70社以上から600名を超えるビジネス関係者が参加し、100名以上のビジネスリーダーが登壇。ビジネスと自然保護について50を超えるセッションが展開されました。セッションのテーマは、政策との連携、資金動員、AIやテクノロジーによる自然保護の革新など、多岐にわたりました。
その中でも繰り返し議論されたのは、ネイチャーポジティブ※の達成に向け、企業が果たすべき役割です。その実現には、生物多様性保全に加え、気候変動対策や循環型経済などを統合的に進める必要があり、官民、地域、企業、NGOなど、複数セクターの連携が不可欠です。
※ネイチャーポジティブ
人と地球のために、生物多様性の損失に歯止めをかけ、自然を回復させること。第15回生物多様性条約締約国会議で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」で2030年までのミッションとしてこの考え方が掲げられた。日本の「生物多様性国家戦略2023-2030」にも国家目標としてネイチャーポジティブの実現が掲げられている。
こうした議論の中で、重要なアプローチとして示されたのが、企業と地域社会を対等なパートナーとして捉える考え方です。サミットでは、自然再生を企業と地域が協働で進める事例が紹介されました。
例えば、フィリピンでは、企業支援のもと養魚池周辺の再植林を進める中で、地域の生計手段の確保が課題であることが明らかになりました。そのため、マングローブ再生とあわせて漁業の事業を企業と地域の共同で立ち上げています。さらに、環境のモニタリング調査を地域住民の雇用によって実施することで、自然再生と持続的な雇用の両立を実現しています。
他にも、ブラジルの鉱業会社Vale社は、生物多様性保全とともに地域への貢献を目指し、アマゾン地域で森林農業(アグロフォレストリー)を基盤とした持続可能なビジネスを展開。現在では、300人以上の地元農家と協働しています。
これらの事例から、地域が主体的に関わることで、自然保護の担い手不足を補い、取り組みを持続可能なものにできることが示されました。また、このような取り組みは、自然の力を活かし地域や社会の課題を解決する「Nature-based Solutions」にも位置づけられます。そして、企業と地域社会が対等なパートナーであるためには、間をつなぐ信頼できる中間組織の存在が、不可欠である点も共通認識として示されました。
ビジネスと自然保護の連携を後押しする存在として、金融セクターの役割も注目されました。世界的な金融機関であるBNPパリバ銀行は、生物多様性保全を気候変動対策と並ぶ最優先課題と位置づけ、金融機関として積極的に関与していく姿勢を示しています。一方で、ビジネスでは短期的な成果が重視されやすく、自然再生のように長期的に価値が生まれる取り組みは評価されにくいという課題が共有されました。生態系の回復による災害リスクの低減や炭素吸収による気候安定化などの効果は、成果が表れるまでに時間を要します。短期的な成果にとらわれず、自然再生に本質的に貢献する行動や投資を正当に評価する仕組みづくりの必要性が浮かび上がりました。
現在、NACS-Jでは、地域、企業とパートナーシップを構築し、市町村を基盤としたランドスケープアプローチでネイチャーポジティブを目指す「日本版ネイチャーポジティブアプローチ」 を推進しています。ビジネスサミットで交わされた議論は、この取り組みをさらに深化させる上で、多くの示唆を与えるものでした。特に、ビジネスセクターと地域社会が協働して自然再生に取り組むことの重要性、そしてその間をつなぐ中間組織としての役割について、改めて認識を深める機会となりました。
また、WCCで得た知見を国内の取り組みにつなげるため、NACS-Jは2025年11月12日に、ビジネスセクターを対象としたセミナーを開催しました。本セミナーでは、自然保護を単なる社会貢献ではなく、事業や経営戦略に直結するテーマとして捉える重要性を発信。参加申し込みは400名以上を超え、ネイチャーポジティブをビジネスとして実践することへの高い関心がうかがえました。
ネイチャーポジティブの実現は、多様な主体が連携することで前進します。ビジネスセクターもまた自然保護を担う重要な存在です。NACS-Jは今後も、企業と地域をつなぐ橋渡しの役割を果たし、国際的な知見を活動に活かしていきます。


