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自然を知るWEBマガジン「知ろう、自然のこと。」会報「自然保護」電子版

日本の中心でツンドラまでの旅を楽しむ国定公園・御嶽山の自然

御嶽山(イラスト:小野木三郎)

2026年4月10日、「御嶽山国定公園」が誕生しました。御嶽山を国立公園として保全されることを願って60年、元自然観察指導員講習会講師の小野木三郎さんに御嶽山が国定公園になるまでの経緯や自然の魅力を語っていただきました。

小野木三郎さんの顔写真

小野木 三郎 (おのぎ さぶろう)

飛騨高山ふるさとを歩こう会代表 雨にもめげず……御嶽山に登り続けて60年

ついに国定公園に!

このたび、長野県と岐阜県にまたがる御嶽山が国定公園になりました。私の愛着深い山岳ですから、お祝いしたい気持ちはいっぱいで、うれしい限りです。その反面、なぜこんなに遅い指定なんだとの苦言も口から出そうです。

御嶽山の自然の価値は、これまで科学的、客観的に正しく評価されてこなかったように思われます。北隣りの乗鞍岳は、はるか昔の1934年以来「国立公園」ですし、西方の白山は1962年に国定公園から国立公園に指定替えされました。

長野県側の御嶽山は、1952年に県立自然公園になっています。分かりやすく大相撲に例えてみると、国立公園の乗鞍岳・白山が横綱に相当、県立自然公園の御嶽山の長野県側は関脇に当たります。

一方、岐阜県側の御嶽山は、やっと1999年に県立自然公園になりました。つまり50年も遅れての関脇昇進です。経緯としては、1990年代に林野庁によるヒューマン・グリーンプランの下で進められたチャオ御岳スノーリゾート開発への反対運動に対応して、岐阜県が自然保護に配慮し、岐阜県側の御嶽山の県立公園化を打ち出しました。

しかし、結果的には、県立公園の中で最も開発しやすい「普通地域」に地種区分され、開発計画は実行されてしまいました。このような経緯を経つつも、ついに2026年4月、国定公園となったのです。

私と御嶽山の出会いは大学時代

私の御嶽山との出会いは、1961年、大学4年生の時に、卒業論文で御嶽山の植物群落調査に行ったのが始まりです。卒業後、教員になるに際して、当時お世話になった旧朝日村(継子岳の山頂まで同村であった)の中学校を志望し、理科の教師となりました。それ以来、毎年登る愛着の深い山です。

その自然の素晴らしさを、機会あるごとに訴え、このころ、NACS-Jの会員になりました。発足したばかりの環境庁に出向いて、国立公園化を要望したり、日本山岳文化学会で「御嶽山から見えてくる自然公園の問題点」を発表したりもしました。

最近では「御嶽山は今日もまた」の楽曲を仕上げ、CDも作りました(作詞が筆者、作曲と唄は、リピート山中)。歌詞は次の如し……

御嶽山に学び育てられ 登り続けて50年 五の池小屋の善松さん
種から再生お駒草 紅いじゅうたん 見事な群生 忘れられないその努力
なつかしむように 今日もまた
昇る煙が目にしみる
 (二番以下略)

御嶽山の高山帯の画像

高山帯の景観。中央奥には剣ケ峰

御嶽山の魅力

御嶽山の魅力は、御嶽教、御嶽講による宗教登山が、今も息づいていることとともに、やはり生物相の豊かさと自然景観にあります。岐阜県側の登山口である濁河温泉を出発すれば、ヒノキ、サワラの温帯性針葉樹の巨木林も目に入るし、シラビソ、オオシラビソ、コメツガ、トウヒなどの亜寒帯針葉樹林を登ることになります。

これは北方寒冷地の「タイガの森」の日本版、日本出張所を歩いていることに相当します。欧米のタイガの森に比べると、彼の地は単調な針葉樹林であるのに対し、種数が豊かで、複雑な森林組成である点に注目です。

針葉樹林の画像

亜高山帯針葉樹林。北方タイガの森の日本版

標高2500m以上は、ハイマツや高山植物の世界で、この高山帯こそは、北極周辺のツンドラの日本出張所に相当します。御嶽山は北緯36度辺りにあり、日本列島のほぼ中央部に位置しています。日本の生物の垂直分布が最も典型的で、歩きながらそれらを観察できる見本園なのです。

高山植物の女王と讃えられるコマクサは、私の卒論調査時には、飛騨頂上直下の砂礫地には皆無でした。前述の歌詞にあるように、五の池小屋主の善松さんが、おおよそ1960年ごろに、継子岳北面に残っていた株から種子を採取、長年かかって今の群生に回復させたものです

現在は、継子岳、飛騨頂上周辺は国定公園の厳重な保護区域にあたり、種子の採取や播種などの行為は規制されています。

また、ライチョウは、2016年の調査で、30の縄張りが確認されています。世界の分布の南限を担う貴重な存在ですから、ライチョウの生息、その一点だけでも、御嶽山は「世界の自然遺産」といえます。

御嶽山は火口湖が一の池から五の池まで5つもあります。まるで富士山が5つ合体しているかのようなもの。その上、砂礫地の登山道が続く植生貧弱な富士山に比べ、御嶽山は北極周辺のツンドラまで旅することと同じ「自然体験」が売り物です。濁河温泉から五の池までなら、日帰り登山も可能ですが、のんびりゆったり「観察登山」をしたいものです。

今回の国定公園化で、やっと関脇から大関に昇進しました。今後の課題は、スキー場などの開発で伐採されしまった亜高山帯針葉樹林の回復です。また、特別保護地区になったのは、山頂周辺だけですが、ライチョウの生息域を考えても、特別保護地区の拡大が望まれます。

ライチョウは夏は山頂や稜線にいますが、冬はハイマツの低木林や森林限界付近まで降りてくるのです。さらに、荒廃した登山道もあることから、国定公園になったこの機会に、管理者である県が責任を持って登山道整備に取り組むことを期待します。

御嶽山ファンの私としては、究極の上を目指して横綱つまり国立公園への編入を願い、応援し続けるつもりです。白山、乗鞍岳、御嶽山、どれも個性的で自然史舞台の一級品、甲乙付け難い実力肉迫の横綱級の山岳です。

コマクサとライチョウの画像

(左)高山植物の女王!コマクサ、(右)岐阜県・長野県の鳥ライチョウのメス