みなかみ
ネイチャーポジティブ
プロジェクト

権現ため池
日本自然保護協会(NACS-J)は、ネイチャーポジティブな社会の実現を目指し、三菱地所、群馬県みなかみ町と2023年に10年間の連携協定を締結しました。企業・行政・NGOがそれぞれの知見を活かし、持続可能な社会の実現に取り組みます。
Contents
生物多様性が劣化した人工林を自然林へ転換する活動
管理の行き届いていない人工林は、自然の林よりも生物多様性が低いことがわかっています。この取り組みでは、そのような人工林を本来の植生等を踏まえた自然の林へ戻していくことで、生物多様性の保全と回復を目指します。みなかみ町内を舞台に10年で約80haを目標に活動予定です。自然林へ戻していく過程では、植樹や除伐などの手法を用います。また、イヌワシやクマタカなど、生態系の指標種にもなる動植物の保全と一体となった取り組みを推進します。

アカマツ林の伐採前後の様子
生物多様性豊かな里地里山の保全と再生活動
里地里山は、長い年月をかけて人と自然が関わり合い形成された日本の特長的な自然環境のひとつで、水田やため池、草地などの多様な環境に、多くの動植物が生息しています。しかし、耕作放棄や外来種の移入などに起因した里地里山の荒廃は、日本の生物多様性を保全する上で大きな課題となっており、みなかみ町も例外ではありません。本取り組みでは、みなかみ町の里地里山を舞台に、ため池の外来種防除などを実施し、生物多様性豊かな里地里山の保全と復元を目指します。

かいぼりによってブラックバスなどの外来種を駆除した
ニホンジカの低密度管理の実現
ニホンジカの増加は、農林業への被害や森林生態系の破壊など、全国的な課題となっており、みなかみ町でも増えつつあることから、その対策が急務となっています。一般的な対策は、主に個体数が高密度となった地域での対応が中心であり、低密度を維持するための取り組みには先行事例がありません。本取り組みでは、みなかみ町を舞台に、低密度を維持するための管理目標、モニタリング、捕獲、食肉利用、実施体制について持続可能な管理のしくみを構築することを目指します。

ドローン調査により撮影したニホンジカ。
Nature-based Solutionの実践
一連の取り組みを通じて、生物多様性を活かした防災・減災、水源涵養、獣害対策、持続的な地域づくりなど、Nature-based Solution (Nbs)※を実践していきます。具体的には、人工林を自然林へ転換する活動のなかで出た木材の利活用や、生物多様性豊かな里地里山で育まれた一次産品の高付加価値化、低密度管理実現に向けたシカ肉の利活用などの検討を進めていきます。また、自然の守り手を増やすべく、本取り組みへの市民参加や教育への活用の検討も進め、関係人口の増加や特色のある教育の推進にもつなげていきます。
※ Nbs:Nature-basedSolutionsの略。「自然に根差した解決策」と直訳され、社会課題解決におけるアプローチとして世界的に注目されており、国連環境計画でもその重要性が訴えられている。

活動がどれくらいNbSに適合しているかは8つの基準で評価していく
定量評価への挑戦と活用
生物多様性の定量的評価は、生物多様性条約COP15においてもネイチャーポジティブな社会の実現に向け、重要な議題となりました。本取り組みでは、研究機関や大学等とも連携し、みなかみネイチャーポジティブプロジェクトを通じて、見込まれる生物多様性や自然の有する多面的機能、生態系サービスなどの定量的な評価に挑戦します。確立した評価手法は、TNFD※をはじめとする適時開示や、ユネスコエコパークの定期報告などに活用し、世界に向けても発信していきます。
TNFD: 企業活動が自然にどの程度依存し影響を与えているかを評価し、自然関連リスク・機会への対応を株主や投資家等に対して開示する枠組みです。自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)が2023年に国際的な開示ガイドラインを公表しています。

日本を代表する自然科学と社会科学の専門家によるワーキンググループでの議論の様子