2025.04.23(2025.04.24 更新)
ネイチャー・ポジティブな未来を拓く大阪・関西万博に向けて
解説
専門度:
2019年12月撮影の夢洲。土砂投入中の土地にできた雨水池にカモ類が数千羽休息していた。(写真:大阪自然環境保全協会)
テーマ:生息環境保全絶滅危惧種海の保全
2025年4月13日から開催されている大阪・関西万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げ、持続可能な社会の実現に貢献する国際的なイベントとして、社会の注目が寄せられています。
その会場地である夢洲(ゆめしま)は、埋立てによる人工島でありながら、干潟や草地、湿地といった多様な自然環境が形成され、絶滅危惧種を含む多くの野生動植物が確認されてきた重要な生息地でした。特に、コアジサシやセイタカシギなどの希少な鳥類が繁殖する場となった夢洲は、「大阪の生物多様性ホットスポット」として高い評価を受けていました。かけがえのない自然環境が存在していましたが、この万博の開催に伴う開発によって、その生態系が著しく損なわれてしました。
地球上の生物多様性は今急速に失われており、国内においても多くの生物種が絶滅危惧種となっています。そうした中、世界ではネイチャーポジティブな社会の実現に向けて、多くの国や企業、自治体などが取り組んでいます。それは人工的な環境であっても、絶滅の危機に瀕する渡り鳥たちのために例外ではありません。
万博開催に向けた整備事業では、こうした生態系の価値が十分に考慮されたとは言い難く、日本自然保護協会(NACS-J)を含む自然保護6団体は、博覧会協会や大阪市と意見交換や保全整備の提案をしてきました。しかし、「万博終了後は原状復帰して大阪市に返却する」、「万博後の土地利用は定まっていない」という姿勢は変わらず、何も具体化されることはありませんでした。
私たちは、万博の理念が真に「いのち輝く未来社会」を実現するものであるために、その根幹に「自然と共生する社会のあり方」を据えることが不可欠であると考え、以下のことを関係機関に強く求めます。
- 夢洲をはじめとした大阪湾岸の保護・再生に向けた長期的なビジョンの策定
- 万博終了後の土地利用において、生物多様性の回復を柱とした再活用の検討
- 自然保護団体や研究者、市民との対話と協働による透明な意思決定の推進
大阪・関西万博が、単なる未来技術の発信地にとどまらず、地球環境と私たちの暮らしがいかに密接に関わっているかを世界に示す機会となるよう、そして、大阪湾沿岸における自然環境の再生、渡り鳥のための中継地の確保、水鳥のための豊かな湿地づくりが進み、「ネイチャーポジティブな未来」の実現につながるよう、私たちは今後も提言と支援を続けていきます。
(特任部長 大野 正人)
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