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日本自然保護大賞2020(令和元年度)受賞者 活動紹介/講評

【大賞】保護実践部門

株式会社加藤建設

「エコミーティング」活動~自然を守る現場監督をめざして

自然破壊と思われがちな建設業の工事現場だが、むしろ自然を守り回復させられるのは現場監督という思いから、2009年に「エコミーティング」活動を開始。建設の着手前に工事担当者はじめ営業、技術、事務など各部署の社員が集まり、自然のために何ができるかを話し合い、発注者の承認を得て実行している。全社員307名のうち156名がビオトープ管理士を取得し、絶滅危惧種や希少種の保護と生息地保全の実績を多数挙げている。最近では、発注者や業界全体の意識改革、次世代育成を目的とした勉強会などにも注力。建設業界における生物多様性保全をリードしていきたいと考えている。

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■講評

建設現場というと“自然破壊”と思われがちですが。とご自身も仰っていますが、今まで自然保護と工事現場は相反する物と捉えられて来ましたね。自然最前線でのお仕事なのに残念と思っていましたので、㈱加藤建設の皆さんの活動に大きな興味と期待が湧きました。また、発注者や業界全体への意識改革に重きを置くための事前ミーテイングなど、その根底にあるのは「次世代へ残したい豊かな自然」という熱い心だと思います。このような地球全体を見渡せる現場監督さんが世界中の建設業界全体に広がるためのリーダーとなって、頑張っていただきたく大賞に選ばせていただきました。

イルカ

IUCN親善大使
シンガーソングライター
絵本作家

【大賞】教育普及部門

元泉地域農地・水・環境保全組織運営委員会

子どもたちとつなぐ、おらだ田んぼの魅力と田園地域の未来

山形県・河北町で最も人口減少の高い元泉地域で、地域の子供たちの自然離れを憂慮して2008年から始めた田園自然教育水田「めだかの学校」が、町内6小学校すべてで開校されるまでに至り、来校者がのべ1000名を突破。環境保全型農業の推進のみならず、田園回帰家族が町内最多の7戸と地域活性にもつながる看板取り組みとなった。また、2015年に発案した「おらだ田んぼの子供博士養成講座」が、早速小学校で総合学習に採用され始め、今年町内全小学校への普及が確実となった。そして、2018年には東北農政局主催の研修会で、県代表として取り組みを発表。今後も、多くの田園農村の仲間に、新しい農村づくりとして紹介していきたい。

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■講評

元泉地域では、2008年に小学校と協力して町の在来種メダカを放流した田園環境学習専用田「めだかの学校」を開校し、環境に配慮した「べに花 めだか米」を栽培してきました。見学児童たちから町内の小学校に広がり、「べに花 めだか米」も地域の水田の35%にまで拡大、2018年には元泉地域住民の2.4倍にあたる1000人が「メダカの学校」に来校する活動に広がりました。また、年間を通じた「おらだ田んぼの子ども博士養成講座」が小学校教育に採用され、6年生には「田んぼの子ども博士認定証」が町長から渡されます。こうした、地域の自然を生かし、農業者・小学校・町の行政が連携した活動は、人口減少が懸念される地域において、未来へつなぐ地域力を高める環境保全型農業のモデルとして、普及効果が大きいと評価しました。

中静 透

総合地球環境学研究所特任教授

【大賞】子ども・学生部門

鈴鹿高等学校 自然科学部

日本固有の淡水魚・ネコギギの保護と普及啓発活動

伊勢湾・三河湾に流入する河川にしかみられない淡水魚・ネコギギが住める川を守りたいと、鈴鹿川水系で2004年から生息確認調査を開始。調査区間の推定個体数が過去最低となった2016年に、生息域外保全に着手。専門家の指導のもと稚魚の飼育・放流に取り組み、生息個体数の増加に貢献。2019年には、東海三県の飼育施設や教育委員会、文化庁、有識者が集う全国初の「ネコギギサミット」が本校で開催された。本校の生徒は、全員がネコギギのことを知っている。新聞・SNS発信や観察会活動などを通じて、地域にも認知されている。ネコギギをはじめ川の生き物を知ってもらうことで、地域の方々の自然を大切にする心が育まれていくことを期待している。

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■講評

鈴鹿高等学校自然科学部は、学校のすぐ隣の川に生息する国の天然記念物・ネコギギの調査を15年以上続けてきました。近年では、調査・研究だけでなく、川の環境を考える普及啓発活動やネコギギを増やして放流する保護増殖活動に幅を広げてきました。そして、2019年には同校で「ネコギギサミット」を開くまでになりました(主催は三重県教育委員会)。このような活動の継続性や広がりを重視し、高校生パワーで地域の絶滅危惧種の保護活動を強力に推進したことを評価しました。

神谷 有ニ

株式会社山と溪谷社 自然図書出版部部長

【特別賞】沼田 眞 賞

阿部 治

「国連ESDの10年」への取り組み等をとおした環境教育の発展への貢献

日本環境教育学会や日本環境教育フォーラム、地球環境戦略研究機関環境教育プロジェクト、日中韓環境大臣会議環境教育ネットワーク等の設立・運営に深く関わるとともに、2002年ヨハネスブルグサミット(持続可能な開発に関する世界首脳会議)の提言フォーラム幹事として、日本政府に「国連ESDの10年」を提言し、持続可能な開発のための教育の10年推進会議(ESD-J)を発足させた。「国連ESDの10年」が終了した2015年以降も、ESD活動支援センターを立ち上げて取り組みの拡充に尽力。また、これらの活動を通じて、日本をアジア・環太平洋地域における環境教育のハブにすることを実現し、各国の研究者・行政・NGO等間の相互交流・共同研究等の定着化に大きく貢献した。

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■講評

阿部 治さんは、日本における環境教育のパイオニアとして、その確立と発展に大きく寄与するとともに、「国連ESDの10年」の提案とその取り組みや、日本をハブとした環境教育国際ネットワークの構築等を通じて、日本の環境教育の国際発信・国際貢献等の国際化、並びに世界の環境教育の発展に大きく貢献されてきました。特に、近年、国や地方公共団体および多くの民間企業等で活動に取り入れられているSDGsのエンジンとして国際的に推進されているESDは、Mr. ESDと呼ばれた阿部さんの存在抜きには語れません。これらの活動は、沼田眞の名を冠した本賞にふさわしいと評価しました。

亀山 章

日本自然保護協会理事長/東京農工大学名誉教授

自然保護に尽力された沼田眞(ぬまたまこと)博士の志を未来に伝えていくにふさわしい実績や科学性をもった活動に、特別賞として「沼田眞賞」を授与します。沼田眞博士は、生態学者として自然保護の重要性を科学的に説き、日本自然保護協会の元会長として自然を守ることの大切さを訴え、日本の自然保護を国際的な水準に高めました。 

【特別賞】選考委員特別賞

日本野鳥の会東京

葛西海浜公園・三枚洲、東京都初のラムサール条約湿地登録への貢献

東京湾の干潟・浅海域は、1960年代~1970年代初期に大部分が埋め立てられたが、東京港内に残された自然環境の保全を目的に、東京都によって葛西臨海公園・海浜公園が整備された。本会は、公園沖に広がる自然干潟・三枚洲をよりよい形で次代に残そうと、1989年の開園翌年から野鳥観察会や海浜清掃を続けてきた。2013年、公園の1/3を開発する東京五輪カヌー競技場建設が計画されたため、計画の変更を求める活動を積極的に展開した。2014年に建設計画は変更されたものの、公園の将来的な保全が危ぶまれたため、2016年からラムサール条約への登録を求める活動に積極的に取り組み、2018年に東京都初の登録湿地に選ばれた。

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■講評

日本野鳥の会東京は、東京都で唯一の自然干潟である葛西海浜公園「三枚洲」をラムサール条約湿地として登録することを目指し、2016年より本格的な活動を開始しました。その後、国内外へのアピール、関係者への説明などの努力を経て、2018年10月、東京都初のラムサール湿地として登録されるに至りました。東京オリンピックの開催を目前に控えて、当地が東京都の豊かな自然を示すシンボルとなったことは、日本野鳥の会東京をはじめ多くの関係者の努力の賜物であり、その代表として、日本野鳥の会東京に本賞を授与することとしました。

石原 博

三井住友信託銀行(株)業務部兼経営企画部CSR推進室審議役
経団連自然保護協議会企画部会長

【特別賞】選考委員特別賞

宮部 碧

自分にもできることはなにか~「猛禽新聞」をとおして伝えたいこと

愛知県・豊田市内でみられる猛禽類のオオタカに興味を持ったことがきっかけで、生態系の頂点に立つ猛禽類の魅力や大切さを多くの人に伝えようと、小学2年生の時から研究を始め、3年生から手づくりの「猛禽新聞」の作成を始めた。その後、『猛禽類のお医者さん』という本に出会い、北海道・釧路湿原まで著者が取り組む猛禽類医学研究所へ見学に行き、保護鳥の世話や死亡個体の剖検を体験させてもらった。そうした経験を地域の自然保護に活かそうと、上高湿地の保全活動に積極的に参加。多くの人に“自分にもできること”の輪を広げたいと、「猛禽新聞」をとおした情報発信に日々取り組んでいる。新聞は、釧路湿原にある環境省のビジターセンターにも掲示されている。

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■講評

宮部碧くんは、『猛禽類のお医者さん』という本に出会ったのをきっかけに、猛禽類専門の獣医師である斉藤慶輔氏から猛禽類の保護や環境保全について学び、ラムサール登録湿地である釧路湿原や愛知県豊田市の上高湿地での活動経験を、「猛禽新聞」という手作りの新聞にまとめ、釧路湿原野生生物センターや温根内ビジターセンターに掲示してもらうなど情報発信を行ってきました。小学4年生が、このように猛禽類の保護や地域の湿地の保全について学び、これを広く発信する活動は、本賞の受賞にふさわしいと評価しました。

吉田 正人

筑波大学大学院教授
日本自然保護協会専務理事

日本自然保護大賞2020(令和元年度) 入選者一覧(18件/都道府県順)

入選者 都道府県 活動テーマ
秋田県立大曲農業高等学校 生物工学部 秋田県 開発により酸性化した田沢湖の環境を科学的研究でもとに戻す
住友林業株式会社 東京都 富士山麓の自然林再生活動 富士山「まなびの森」プロジェクト
東芝デバイス&ストレージ株式会社グループ 東京都 全国の半導体製造拠点で行う、地域密着型の生物多様性活動
トリプター 東京都 身近な自然が一番面白い! 0歳児から大学生まで都心で自然観察
日清食品ホールディングス株式会社 東京都 ビオトープ造成による生物多様性の向上と里山保全活動
新潟市 新潟県 越後平野における新たな地域学 「みんなの潟学」を活用した取り組み
岐阜県立加茂高等学校 岐阜県 アルゼンチンアリから日本のアリを守れ! 誘導捕獲装置の作成
高富中生物部&富岡小生物部 岐阜県 守れ!ふるさとのヒダサンショウウオ
富士山エコレンジャー連絡会 静岡県 自然に親しむ公共の歩道と路傍の植生や小動物を守る
豊橋市教育委員会、豊橋湿原保護の会、豊橋自然歩道推進協議会 愛知県 土壌シードバンクの埋土種子を活用し、森林化した湿地を再生・保護
NPO法人 里山保全活動団体 遊林会 滋賀県 奇跡的に残った平地の里山を、人と未来につなげる活動
京都府立宮津高等学校 フィールド探究部 京都府 丹後半島の里山における植物保全・希少種保護・巨樹分布リストづくり
琴引浜ネイチャークラブハウス 京都府 琴引浜に寄る海ごみのありさまを調べ、鳴き砂の浜や海を守るためにできること
NPO法人 棚田LOVER's 兵庫県 棚田を愛し、棚田を育む 自然観察とともに命を味わう教育普及活動
認定NPO法人 自然再生センター 島根県 中海のオゴノリの回収による水質浄化と循環型システムへの取り組み
NPO法人 奥雲仙の自然を守る会 長崎県 田代原草原での地域と大学・企業を結ぶミヤマキリシマ保全活動
漫湖水鳥・湿地センター管理運営協議会 沖縄県 みんなの手作り水族館が可能にした、ユニークな魚類モニタリング
やんばるDONぐりーず 沖縄県 やんばるの森の素晴らしさを伝え、森林伐採中止を求める活動

お問い合わせ先

公益財団法人 日本自然保護協会 日本自然保護大賞担当
〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
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TEL. 03-3553-4101 / FAX. 03-3553-0139