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日本自然保護大賞2018(平成29年度)受賞者 活動紹介/講評

【大賞】保護実践部門

和白干潟を守る会

博多湾・和白干潟の保全活動

博多湾の東部にある和白干潟(福岡県)は、大都市にありながら、野生生物が豊富に生息する自然環境であり、東アジアの水鳥の渡りのルートとして国際的にも重要な湿地となっている。和白干潟沖では1994年以来人工島の建設工事が進んでおり、環境悪化が心配されている。和白干潟を守る会は、和白干潟の豊かな自然を守り、未来の子どもたちに伝えていくために30年にわたって環境教育としての自然観察会やクリーン作戦、水質・砂質調査、鳥類調査による保護実践のほか、「和白干潟通信」の発行や「和白干潟まつり」などによる普及活動を継続的に行っている。

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■講評

保護実践部門は今年度も各地から多くの応募があり、保護活動が地域に定着して成果を挙げていることが分りました。そのなかで、「和白干潟を守る会」は、和白干潟を活動の場として30年にわたる長い歴史を持っており、干潟の自然観察会や水質・砂質調査など幅広い活動を続けてこられました。近年では、和白干潟をラムサール条約登録湿地にするための活動も始めており、会のさらなる発展が期待されています。こうした実績が評価されて、保護実践部門の受賞にふさわしいと判断されました。

亀山 章

日本自然保護協会理事長/東京農工大学名誉教授

【大賞】教育普及部門

井の頭恩賜公園100年実行委員会

市民協働で取り組む“かいぼり”による井の頭池の自然再生

東京都にある井の頭恩賜公園は、公園開園100周年に向けて水と緑の再生などを目指し、関係団体や行政で構成された「井の頭恩賜公園100年実行委員会」を2006年に設立。その後、井の頭池の外来種対策と水質改善を目的に、「かいぼり」を3回実施してきた。その結果、水質の改善や絶滅危惧種イノカシラフラスコモの復活、在来魚類・エビ類などの回復が確認されるなど、武蔵野の水辺の生態系が蘇ってきている。より多くの市民が取り組みに参加できるよう、市民ボランティア「井の頭かいぼり隊」を養成し、外来種の駆除作業や来園者への普及啓発活動に積極的に取り組んできた。

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■講評

この部門は、今年度も地域に貢献する、すばらしいものばかりが集まりました。なかでも「井の頭恩賜公園100年実行委員会」は、「かいぼり」を地域の市民団体などと連携して行い、在来淡水生物が増えただけでなく、絶滅危惧種イノガシラフラスコモが復活するなど、武蔵野の水辺の生態系が蘇る成果を挙げ、さらに「かいぼり隊」、「おさかなレスキュー隊」、「かいぼりステーション」などのユニークな活動により来園者への効果的な生態系保全と情報発信を行い、TV番組でも紹介されるなど、大きな普及効果を発揮したことが今回の受賞につながりました。

中静 透

東北大学生命科学研究科教授

【大賞】子ども・学生部門

自然探険コロボックルくらぶ

「わたしたちは土の道がいい!」子ども未来環境会議を開催

子ども達の自然体験などが行われてきた綾瀬川の河畔林「綾瀬の森」(埼玉県)。その森を含む3.5 kmの土手に遊歩道舗装計画が決まった。夜の森の生き物調べでたくさんのセミの幼虫が土から出てくるのを観察していた子ども達は、遊歩道を舗装するのではなく土の道にしてほしいと市長・知事へメールを出したり、舗装した遊歩道と土の道との比較調査をするなど自主的な取り組みを行った。調査結果を基に行政担当者の方を招いて、森で「子ども未来環境会議」を開催し、遊歩道を土にすることを提案した結果、行政の方針が転換し、土の道になることが決定した。

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■講評

「自然との共生」に四苦八苦している今。既に汚染された地球に生まれた子供ども達が一石を投じました。「道路は人しか歩けないけど土の道は人も歩けるし虫もいる。だから土がいい」5才の子どもの言葉です。「綾瀬の森」遊歩道建設が決定した時「舗装しないで」と訴えたのも蝉の幼虫が土から生まれるのを見て来た子ども達の意見でした。高校生リーダーとも連携し、市の方針を覆しました。積極的な子ども達の活動を知り、未来からやって来る子ども達が自然再生への大きな鍵を沢山持っている!そんな希望を抱き嬉しく思いました。

イルカ

IUCN親善大使
シンガーソングライター
絵本作家

沼田 眞 賞

藤田 喜久

生物としてのヤシガニ、文化としてのヤシガニを未来につなぐ

ヤシガニは、世界最大の陸棲甲殻類であり、古くから食料などとして沖縄の人々と関わりをもった生物である。近年、沖縄県内におけるヤシガニの需要が増え、個体数の減少や各島の集団の体サイズが小さくなるなどの影響が出ており、環境省及び沖縄県のレッドリストにて絶滅危惧Ⅱ類に指定されている。藤田氏は、ヤシガニ研究と並行し、各地で講演会や博物館企画展などの働きかけを行い、地域レベルでの保護条例の制定を実現させた。現在は、島ごとのヤシガニの遺伝的多様性の研究を進めるほか、さらなる普及啓発活動にも力を入れている。

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■講評

藤田氏は、琉球諸島における無脊椎動物の研究を通じて、沖縄の海の生物多様性の重要性を訴える科学者である。その業績は、ヤシガニの保護、ミヤコサワガニの研究、クニガミクモヒトデなどの海底洞窟性の新種の発見など多岐にわたる。最近では、沖縄島東部の大浦湾における新種の甲殻類の発見など、これまで注目されてこなかった生息地の重要性にスポットライトをあてた。藤田氏の地道な研究に基づく保護活動は、日本自然保護協会沼田眞賞の受賞にふさわしいものである。

吉田 正人

筑波大学大学院教授
日本自然保護協会専務理事

*沼田眞賞
自然保護に尽力された沼田眞博士の志を未来に伝えていくにふさわしい活動に、特別賞として「沼田眞賞」を授与します。沼田眞博士は、生態学者として自然保護の重要性を科学的に説き、日本自然保護協会の会長として自然を守ることの大切さを訴え、日本の自然保護を国際的な水準に高めました。

選考委員特別賞

住商フーズ株式会社

バードフレンドリー®コーヒー推進「1杯から始める渡り鳥保全」

「バードフレンドリーR認証コーヒー」は、1999年に米国スミソニアン渡り鳥センターが持続可能なコーヒーの生産を掲げて創設した認証プログラムで、森林を伐採せず木陰でコーヒーを栽培し、そこに住む渡り鳥を守っている。住商フーズ株式会社は2004年に同センターと独占契約を締結して日本への輸入を開始し、日本で販売して14年になる。売上の一部を、同センターを通じて世界中の渡り鳥の調査・研究・保護活動に還元し、日々のコーヒー1杯と渡り鳥の保全を結びつけ、誰の手にも届く自然保護の選択肢として積極的に国内流通を促進している。

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■講評

渡り鳥の保護と1杯のコーヒーという異質なものを結びつける発想は、消費者にとって気軽に環境保全を始められ、また貢献を実感できる取り組みとして、ユニークかつ先進的である。自社の環境保全活動を推進するために、NGOなどの取り組みと協力し、さらに自社のネットワークや消費者をも巻き込むという方法は、他の企業にとっても参考になるものであり、選考委員の共感を得た。一人ひとりの環境保全に対する意識を高め、生物多様性の主流化にもつながるこのような活動が、さらに広がることを期待したい。

石原 博

三井住友信託銀行(株)業務部兼経営企画部CSR推進室審議役
経団連自然保護協議会企画部会長

選考委員特別賞

兵庫県立神戸商業高等学校 理科研究部

海岸漂着ゴミの回収と、その漂流ルートの解明

高校のすぐ近くにある西舞子海岸は、海浜植物も多く生育する貴重な砂浜であるが、たくさんの漂着ゴミが散乱している。海のゴミには国境がなく、断片化してマイクロプラスチックとなるとさらに回収が困難になることから、4年前から毎月1回漂着ゴミの回収活動を始めた。回収した漂着ペットボトルの生産国と賞味期限の記載についてのデータを集め、瀬戸内海各地からも回収したペットボトルのデータと合わせて漂着ゴミの漂流ルートを推定した。この結果を広く知ってもらうために、フォーラムなどで発表し海のゴミ問題の啓発活動も行っている。

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■講評

目の前の自然海岸がゴミであふれている。それを「なんとかしたい」という気持ちから活動を続け、それがどこから来るのか? そしてどこに行くのか? そんな素朴な疑問をていねいにたどった活動です。海や川のつながりや、そこでの人々の負の行為。それらを自分たちの「目」と「手」で調べ、広げていく過程はとても健全で正しいものだと感じました。彼らの活動は、自然保護・環境問題は頭で考えるものではなく、目の前の問題に身体で取り組んで、そのうえで考えていく……そんなあたりまえのことが重要であると改めて気づかせてくれました。

神谷 有ニ

(株)山と溪谷社自然図書出版部部長・デジタル事業推進室室長

日本自然保護大賞2018(平成29年度) 入選者一覧(都道府県順)

入選者 都道府県 活動テーマ
岩手県立盛岡農業高等学校 環境科学科 森とみどりの班 岩手県 平成29年5月、浄水場に生徒の手で自然林ビオトープ造成
NPO法人草木谷を守る会 秋田県 谷津田再生プロジェクト「田んぼの楽校」
青柳和良 (ネイチャーフロント米沢代表) 山形県 吾妻山への恩返し-吾妻連峰弥兵衛平湿原の保護と植生復元-
元泉地域農地・水・環境保全組織 山形県 農村が先導する恒常的な『田園自然の保護再生教育取組』
こどもエコクラブ(八溝自然たんけんたい) 茨城県 ―生きものたちと共存できる大子町に―
(サシバの住める里山づくり)
利根沼田自然を愛する会 群馬県 ブナの森『森の博物館 玉原』を伝え守る活動
朝霞の森運営委員会 埼玉県 都市の中での「日常の自然保護」活動の実践と地域への浸透
日野市環境学習サポートクラブ ひのどんぐりクラブ? 東京都 子どもたちの郷土の自然を愛する心を育む住民主体の環境学習サポート活動?
NPO緑のダム北相模 東京都 中高大学生で荒廃する人工林を整備、多様性のある森を目指す「相模湖若者の森づくり」
山下博由 神奈川県 日本・韓国における貝類と海洋生態系保全の活動
山県市立高富中学校生物部ふくぼっち班 岐阜県 守れ! ふるさとのヒダサンショウウオ
富士山エコレンジャー連絡会 静岡県 自然に親しむ公共の歩道と路傍の植生や小動物を守る
特定非営利活動法人 グラウンドワーク三島? 静岡県 市民力を結集してドブ川を多様な生き物がすむ原自然の川に再生?
豊橋市教育委員会、豊橋湿原保護の会、豊橋自然歩道推進協議会 愛知県 土壌シードバンクの埋土種子を活用して、森林化した湿地を再生する。
清風高等学校 大阪府 八尾市高安地域のニッポンバラタナゴの保護活動
和歌山県立向陽中学校理科部 和歌山県 孟子不動谷における生物調査からみえる里山環境の変遷
山陽女子中学校・高等学校 地歴部 岡山県 瀬戸内海の海底ごみ問題の解決に向けての女子中高生の挑戦
飯田知彦 広島県 学術的研究とその結果による鳥類と生態系の保護の実践について
広島市立日浦小学校 広島県 日浦小学校にやってくる「生き物探し」
一般財団法人九電みらい財団及び九州電力株式会社 福岡県 地域との協働による坊ガツル湿原一帯の環境保全活動
筑後川まるごと博物館運営委員会 福岡県 自然を守るリーダーを育てる「ちくご川子ども学芸員養成講座」

お問い合わせ先

公益財団法人 日本自然保護協会 日本自然保護大賞担当
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