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自然しらべ2016 海辺で花しらべ! 写真コンテスト入賞作品発表

2016.12.20
活動報告

「自然しらべ2016 海辺で花しらべ!」

お子さんから研究者まで、誰もが気軽に参加できる自然しらべでは、参加者の皆さんに「対象の生きものや自然の写真」を撮って送っていただいています。写真があることで、専門家が1枚1枚写真を見て、生きものの種類や自然の状態を確認することができるため、文字だけの情報とは異なり、高い精度の調査記録を得ることができています。

送られてきた写真には、親子で楽しく自然しらべにチャレンジしている様子や、記録写真として優れたもの、芸術的な写真まで、アッと!と驚く画像がたくさんあります。 そこで、調査期間中に撮影・投稿された写真を対象に、写真コンテストを行いました。

今年は5名の方が入賞されましたのでご紹介します。

グランプリ賞

撮影者:武良里恵子さん(鳥取県境港市)
撮影日:2016年9月24日
撮影地:鳥取県境港市麦垣町 弓ヶ浜半島の海岸

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感 想:
弓ヶ浜半島は真白な砂浜と青松の防風林で囲まれたきれいな海岸が続いています。現在、境港市はそのほとんどの砂浜が埋め立てられ工場や商業施設が建っています。子供の頃、毎日泳いで遊んだ砂浜は今ではヨットの停泊するマリーナになりました。しかし、マリーナから米子市に続く砂浜では昔からあったであろう色々な植物を見つけることが出来ました。ハマゴウ、ウンラン、コウボウムギ、ハマボウフウ、ハマヒルガオなどが生えていました。

タンポポのようなハマニガナも波打ち際の近くで咲いていました。白い砂に映える黄色のハマニガナをメインに写真を撮りました。これからもこの自然がそのまま残ることを願っています。

講 評:
砂浜に生える植物には、背の高いものはほとんどありませんが、中でもハマニガナの背の低さは群を抜いています。なにせ地上に現れるのは、葉と花しかなく、しかもその葉の柄(葉柄)の部分も、地中にあるため、葉の位置は地面すれすれです。茎も地下茎として地中を進むため、地上にはほとんど出てきません。その低いハマニガナと遠景を、同じ写真に収めるのは簡単にはいきません。

武良さんの写真は、その点ハマニガナの糸のような雌しべがわかるくらい、花はくっきりととらえられているだけでなく、生育地の状況までもがよくわかる写真になっています。日本海側に広く見られる白い砂が、明るい砂浜の様子をさらに引き立てています。花の後方に、砂が乗っている葉が見られますが、おそらく風で飛んできた砂が葉の上にかぶさったのでしょう。まわりにほとんど他の植物がないところも、砂浜で生きることの厳しさを感じさせます。

(由良 浩 千葉県立中央博物館 )

日本自然保護協会賞

撮影者:渡辺謙克さん(岩手県釜石市)
撮影日:2016年5月10日
撮影地:岩手県下閉伊郡田野畑村 明戸海岸

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感 想:
震災復旧や復興の名目で進められる海岸線の大規模土木工事については、被災地住民としての立場と浜辺の自然を愛する者としての立場とで、自身の気持ちが常に葛藤している日々でした。そんな中、被災防潮堤遺構保存の工事現場で自立で再生していく浜辺の植物たちの姿を見て、共存の可能性が僅かでも垣間見れたことに、一瞬心が安らぎました。

講 評:
かわいい紫色のハマエンドウが、ガレキの中で咲いています。東日本大震災後の海岸植物のようすをとらえた組み写真です。復興工事が進む多くの海岸では、海辺の風景は日々変わっています。写真の岩手県田野畑村の明戸海岸もそのひとつですが、ここは津波で壊れた防潮堤を震災遺構として残すことが決まったそうです。

撮影者が仕事で訪れた際に花に気づき、後日、カメラを持って撮影してくださったとのこと。花の盛りはやや過ぎてしまったようだったがとのことですが、変わりゆく海辺を捉えた一枚は、いろいろなことを考えさせてくれます。この海岸は三陸復興国立公園「みちのく潮風トレイル」の一部とのこと。砂浜との付き合い方をみんなで考えていきたいと思います。

(志村智子 日本自然保護協会)

ビックリしたで賞

撮影者:坂本彰さん(高知県高知市)
撮影日:2016年5月7日
撮影地:高知県高知市 種崎海岸

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感 想:
高知市の種崎海岸は月の名所とうたわれた桂浜から1kmほど北にある砂浜海岸で、かつては海水浴場として多くの市民に利用されていました。高知県自然観察指導員連絡会では、海岸の植物観察会のフィールドとして利用してきましたが、最近はオオフタバムグラやコマツヨイグサといった外来種が増えています。不用意に投棄された個体から分布が広がったと推測されるウチワサボテンの群落は種崎海岸の東の部分にあり、日本の海岸とは思えないような景観になっています。
在来の海岸植物への影響も懸念されることから、県立牧野植物園とも連携し、個体数や分布域の調査をしたうえで駆除に取り組まなければならないと考えています。

講 評:
メキシコの国旗にもデザインされたウチワサボテンが一面に繁殖し、右手に土湾が広がっているとは思えない光景です。ウチワサボテンはアメリカ大陸原産で、日本では砂浜や河原で繫殖していることから、生態系に被害を及ぼす恐れがあるとして「重点対策外来種」に選定されています。
写真は、見慣れたサボテンを題材にしながら、外来種の問題を考えさせる力を持っています。坂本さんは、5月に土佐市から安芸市にかけての海岸を調査し、この光景に驚いて撮影しました。「ウチワサボテンは室戸岬周辺の海岸でも問題になっているそうです。この外来種にどう対応していくか、高知県立牧野植物園と相談中です」と話しています。

(青山健一 読売新聞教育ネットワーク事務局)

砂浜サイエンス賞

撮影者:中村征夫さん(新潟県新潟市)
撮影日:2016年8月15日
撮影地:新潟県佐渡市 素浜海岸

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感 想:
この海岸は素浜(そばま)と呼び、小佐渡の西側に位置し、南北に4㎞の砂浜となっており、その一部は海水浴場に活用されています。初めて訪れる場所でしたが、想像以上に広大な砂浜と、そこからの景観の素晴らしさに感動しました。この日は、あいにくの小雨日和でしたが、砂浜に入ってみると、結構多くの種を見ることができました。
この「ネコノシタ」は、地元の調査報告書によると、日本海側の北限とのことです。陸地側に沿って群落が見つかりましたが、黄花の咲く最盛期は過ぎており、長い茎を分岐しながら勢いよく伸ばし、節から根を深くおろして増殖していく様子が撮れた一枚ではないかと思っています。遠くに見える岬は、小木半島です。また、来て見たいと思いながら帰路につきました。

講 評:
ネコノシタにはハマグルマという別名があります。名前の由来には、花を風車に見立てて「浜車」だという説と、砂の上を這う枝(ほふく枝)が車輪のように四方八方に放射状に伸びるからという説があります。ただ、実際にほふく枝が、四方八方に伸びている姿を見ることは、昔は多かったかもしれませんが、今では少ないように思います。
写真では、ネコノシタが新天地を求めて勢い良くほふく枝を伸ばしている姿がよくとらえられています。おそらく、新しく吹き寄せられた砂に、いち早く生活の場を広げようとしているのでしょう。一方、遠くの海に見える浸食防止の離岸堤は、この砂浜が本当の自然の砂浜ではないことも物語っています。砂浜の風景を撮影しようと思うと、多くの場合コンクリート製の人工物がどうしても写ってしまうというのが、日本の砂浜の悲しい現実です。

(由良 浩 千葉県立中央博物館)

楽しくしらべました賞

撮影者:NPO法人ラブ・ネイチャーズ(静岡県浜松市)
撮影日 :2016年9月17日
撮影地:静岡県浜松市 遠州灘海浜公園

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感 想:
この調査は、私たちNPOが行う事業のひとつ「こども自然楽校(県営遠州灘海浜公園主催)」の自然体験プログラムの中で実施しました。17家族44名の参加者は、普段あまり見ることのない海辺の植物に興味深々。

写真の、コウボウムギを使った“習字できるかな!?”企画は、子供達に大好評! 「見て!見て!ホントに書けたよ!」と大喜びでした。調査では、コウボウムギ、ハマヒルガオ、ケカモノハシなどが見られ、普段の観察ポイント(公園や里地・里山)とは違った海岸ならではの植生に新鮮さを感じました。一方で、砂丘や干潟などの貴重な自然が失われている現状も目の当たりにしました。

講 評:
コウボウムギは比較的見つけやすい海岸植物ですが、その名前を教えてもらわなければ、なかなか注目しない植物でしょう。初めて見つけた時、私も「由来は『弘法の筆』かな」とは思いました。そう由来を想像するだけで何となく納得してしまうのが大人です。でも、子どもは違います。実際に筆のように使って字を書くことで「あ、字が書けるんだ!」と目を輝かせます。こんな小さな感動の繰り返しが、「かけがえのない自然を大切しよう」という心を育てることにつながります。

まず子どもの感動を引き出そうと、大人が半紙や墨汁を準備して海岸に向かったことが素晴らしいと思います。イベントを楽しむ子どもたちの笑顔が、自然と思い浮かぶ写真になりました。

(吉良敦岐  読売新聞 読売KODOMO新聞編集部)

20116shirabe8.jpg写真コンテスト審査会(2016年11月24日 日本自然保護協会事務局会議室)

審査委員
学術協力:
由良 浩  千葉県立中央博物館
共催:
青山健一  読売新聞 教育ネットワーク事務局
吉良敦岐  読売新聞 読売KODOMO新聞編集部

NACS-J事務局:
志村智子  日本自然保護協会 自然保護部

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