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2003.07.01(2023.06.01 更新)

【自然しらべ2003】見えてきたこと

調べる対象:カメ

カメをさがしてわかったこと—日本で初めての大規模なカメ調査!(座談会)

矢部 隆・日本カメ自然誌研究会 × 志村智子・日本自然保護協会

しむら:矢部先生。こんにちは! 日本全国から、こんなにたくさんカメ情報が集まりました。NACS-Jのカメスタッフ一同、びっくりしています。

やべ:これまでの「自然しらべ」もそうですが、全国のNACS-Jの会員の方が参加すると本当に日本全体の自然環境のようすがつかめますね。 今回の結果には、「日本カメ自然誌研究会」が独自に行なってきたアンケート調査も含まれていますが、のべ1,029人が参加し、46都道府県から報告があったという大規模なカメの調査は日本で初めてのものです。

人口密度が高い場所からの情報が多いという偏りがありますし、すべての報告者の方々がカメにくわしいわけではないので、種が誤認されているケースもあると思われます。しかしそれらのことに注意を払えば、今回の調査報告は日本国内でのカメの生息状況を推測するのにきわめて有用だと思います。

カメが観察された場所は70%近くが川や河原、池や湖、田んぼや畑。都市部の人工的で閉鎖的な堀や池は22%程度です。NACS-J関係の皆さん、よく自然を歩いていますね。今回の結果は、日本の自然の中でのカメの生息状況がよくわかる資料といえます。

しむら:みなさんが見つけたカメは、のべ個体数5,966頭で、うち3,708頭、つまり10頭のうち6頭がミシシッピアカミミガメですが、これって……?!

やべ:名前のとおり、もともと北米のミシシッピ川下流域に生息しているカメです。ミドリガメと言えばピンとくるかもしれません。この外来ガメが日本で一番目に付くカメになっているわけです。

しむら:南は沖縄県の石垣島から、そして北は北海道からもカメ情報が届いていますが。

やべ:北海道にはカメは自然分布していませんので、人が持ち込んだのは明らかです。石垣島からも精力的な観察の報告が寄せられました。琉球列島もまた、カメをはじめいろいろな動物が人間によって放されている場所です。今後も引き続き、多くの人の目で観察を続けていただきたいと思います。

しむら:一人がさがせる範囲は狭くても、みんなで力をあわせれば、いろんなことがわかってくるわけですね。

やべ:カエルもそうですが、ニホンイシガメやヤエヤマイシガメ、クサガメ、スッポンは水域と陸地を連続的に利用して生活する動物です。ですから、これらのカメたちが幼体から成体まで、オスもメスも健全に生活していることは、エコトーンを中心とした陸域と水域が健全な環境である指標になると考えています。これからも、身近なカメや、カメの暮らしている環境を観察していきましょう。

やべ:今回ご報告するのは、みなさんの報告から得られた、おもな結果ですが、今後1年ほどかけて日本カメ自然誌研究会がもっとくわしく分析し、今後日本のカメについて考えなければならないことをまとめる予定です。引き続きアンケートを送っていただくと同時に、楽しみにお待ちください。

しむら:了解しました!

やべ:では、集まった報告をもう少しくわしくみて、日本のカメの現在について考えてみましょう。

 

 

 

カメの種類ごとに見てみる

ミシシッピアカミミガメ - 池だけでなく川でも定着 -

ミシシッピアカミミガメ trachemys scripta elegans 英名:Red-eared slider

北米原産。日本だけでなく世界各国に広まっている。日本には1950年代後半から輸入され始めた。

圧倒的に多数だったのがミシシッピアカミミガメでした。全体の6割を占めており、2位以下のクサガメ(約2割)、ニホンイシガメ(約1割)を大きく引き離しています。この外来のカメは、45%以上が川や河原、池や湖、田んぼや畑で見つかっており、都市部の閉鎖的な堀や池だけではなく、開けた水系で完全に定着していると言えます。産卵している写真を送ってくださった方もいました。もはや日本でもっとも目に付くカメとなりました。
人口密度の高い太平洋ベルト地帯からの報告が多いですが、沖縄や北海道、東北地方などでも見つかっており、報告のあった46都道府県中41都道府県(89%)から報告がありました。
(解説:矢部 隆・日本カメ自然誌研究会)

ミシシッピアカミミガメのみつかった場所(分布図)と環境

 

 

クサガメ - 北海道からも報告が -

クサガメ Chinemys reevesii 英名:Reeves’pond turtle(Chinese three-keeled pond turtle)

国内では本州・四国・九州、国外では中国・朝鮮半島・台湾に分布。

クサガメは北九州・瀬戸内・関西東海地方でよく見つかっており、首都圏からもたくさんの報告があります。
このカメは、戦後、「ゼニガメ」という商品名(本来のゼニガメはニホンイシガメの幼体)で養殖されたものがペットとして大量に流通しています。その中から野外に放逐されたものやその子孫も、都市近郊を中心として多いはずです。北海道で見つかった個体は明らかに移入です。
じつは、日本列島に生息するクサガメや、ニホンイシガメ、スッポンの本来の自然分布ははっきりわかっていません。クサガメはペットとして人間が広めてしまいました。今回のアンケート調査を元にして、必要な場所では現地調査を行ない、自然分布か人為分布かをくわしくしらべ、自然環境の保全に活かせるようにする必要があります。
(解説:矢部 隆・日本カメ自然誌研究会)

クサガメのみつかった場所(分布図)

 

 

ニホンイシガメ - 日本固有のカメはわずか1割 -

ニホンイシガメ Mauremys japonica 英名:Japanese pond turtle

日本固有種。本州・四国・九州に分布する。甲羅の後ろのふちがギザギザになっている。

ニホンイシガメが確認された場所は、クサガメとほぼ重なっていますが、北海道では見つかっていません。
じつは、日本列島に生息するニホンイシガメや、クサガメ、スッポンの本来の自然分布ははっきりわかっていません。ニホンイシガメは、現在の流通量は少ないですが、近世には縁起物やペットとして流通していたようです。今回のアンケート調査を元にして、必要な場所では現地調査を行ない、自然分布か人為分布か をくわしくしらべ、自然環境の保全に活かせるようにする必要があります。
(解説:矢部 隆・日本カメ自然誌研究会)

ニホンイシガメのみつかった場所(分布図)

 

 

スッポン - 食用として全国に広まる -

スッポン Pelodiscus sinensis 英名:Chinese softshell turtle

国内では、本州・四国・九州・沖縄などに分布する。国外では、中国・朝鮮半島・シベリア東南部・台湾・ベトナム北部などに分布。甲羅は平たく柔らかな皮膚で覆われている。

スッポンが確認された場所は、ニホンイシガメと同じで、クサガメとほぼ重なっていますが、北海道では見つかっていません。
石垣島からも見つかっていますが、琉球列島のものはすべて人為的に導入されたものであることがわかっています。
じつは、日本列島に生息するスッポンや、ニホンイシガメ、クサガメの本来の自然分布ははっきりわかっていません。スッポンは食用として、人間が全国に広めてしまいました。今回のアンケート調査を元にして、必要な場所では現地調査を行ない、自然分布か人為分布か をくわしくしらべ、自然環境の保全に活かせるようにする必要があります。
(解説:矢部 隆・日本カメ自然誌研究会)

スッポンの見つかった場所(分布図)

 

 

カミツキガメ - 無責任なペットの放逐 -

カミツキガメ Chelydra serpentina 英名:Snapping turtle

北米原産。1960年代からペットとして輸入されている。2000年12月「動物の保護及び管理に関する法律」の改正で危険動物に指定され、飼育には各都道府県条例に基づく届け出が必要になった。

危険動物であるカミツキガメの報告が9府県から寄せられているのも気になります。
水底を徘徊する種で、あまり上陸しないので目立たないはずなのですが、これだけの報告があるということは、潜在的には相当の数の個体が日本に居着いていると推測できます。千葉県の印旛沼ではすでに野外で繁殖していることが確認されています。
その他、キバラガメ、ミシシッピニオイガメ、ハイイロチズガメ、ハナガメなどの外来種が見つかっており、無責任なペットの放逐の状況が現れています。
(解説:矢部 隆・日本カメ自然誌研究会)

カミツキガメのみつかった場所(分布図)

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