西表島浦内川河口域の生物多様性と伝統的自然資源利用の総合調査A malti-disciplinary study on biodiversity and traditional natural resource utilization around the estuary of the Urauchi River in Iriomote Island Okinawa

著者名Authors

西表島浦内川流域研究会Association of inter disciplinary study at the drainage and estuarine aria Urauchi River, Iriomote Island

松本千枝子Chieko Matsumoto1)・ 安渓遊地Yu-chi Ankei2)・ 山下博由Hiroyoshi Yamashita3)・ 鈴木寿之Toshiyuki Suzuki4)・ 富田京一Kyôichi Tomita5)・ 名和純Jun Nawa6)・ 奥田夏樹Natsuki Okuda7)

著者所属Affiliations

  1. 1) 西表島自然史研究会 (〒907-1432沖縄県八重山郡竹富町字古見243)
  2. 2) 山口県立大学 国際文化学(〒753-8502山口市桜畠3-2-1)
  3. 3) 貝類保全研究会 (〒251-0038藤沢市鵠沼松ヶ岡3-1-26-103)
  4. 4) 兵庫県立尼崎北高等学校 (〒661-0002兵庫県尼崎市塚口町5-40-1)
  5. 5) 肉食爬虫類研究所 (〒130-0023東京都墨田区立川1-512 中田ビル401)
  6. 6) 潟の生態史研究会
  7. 7) 名桜大学綜合研究所 (沖縄県名護市為又1220-1)

要約Summary

琉球列島最長の川である浦内川(西表島)河口域を対象に、自然と人との共存の歴史と現状を調査し、持続的利用のありかたを議論するために研究を実施した。浦内川流域には、わが国最大規模のマングローブ林、鳴き砂の浜であるトゥドゥマリ浜など極めて特徴的な生態系が発達するだけでなく、多数の絶滅危惧種が生息している。

トゥドゥマリ浜の海岸林内では、環境影響評価も実施することなく大規模リゾート施設が建設され、2004年7月から営業を始めている。本施設により浦内川流域生態系への悪影響が強く懸念されることは、複数の学会要望書からも明らかだが、参照できる過去の学術調査報告は存在しない。

本研究では、トゥドゥマリ浜を中心に、浦内川流域(河川、マングローブ、海浜)の生物相を明らかにするため、魚類、貝類を中心に生物相の現況把握調査を実施するとともに、申請者らによる過去の研究の集成を行なった。また、今後の海岸域での生態系モニタリングの準備として、水質、土壌有機物、ベントス調査を行った。

その結果、ウラウチコダマカワザンショウやイソハゼ属の1種などの新種が発見されたほか、トゥドゥマリハマグリを始めとする多くの貴重種が分布していることが明らかになった。浦内川流域は日本有数の良質な自然環境を維持しているが、特に水界生態系を対象とした研究活動からは今後も貴重種の発見等、新たな知見が得られる可能性が高い。リゾート開発やエコツーリズムなど安易な自然利用に流れることなく、バランスの取れた自然との共生は可能なのかどうか、今後の活動を通して考えていきたい。


Interdisciplinary study concerning the coexistence of human being with nature was conducted at the drainage and estuarine area of Urauchi River. Distinctive environment including vast mangrove forest, sandflat and beach with many endangered species make the Urauchi River academically important. Therefore the area has been nationally and prefectural assigned for nature conservation. But there is no effective law protection for the area.

One of the most extensive resort hotel in Okinawa pref. has been opened anew from July, 2004 at the estuarine seaside of Urauchi River (Twudwumari-Hama). However, there has been no environmental impact statement for the development of this resort. Academic associations have claimed environmental assessment against the company and politics. Even the basic information of ecology for example biota is not enough to discuss the validity of resort development.

The aim of our project is to reveal the capacity of nature and social resource for sustainable use of the study area. In this study, we conducted field research to identify rare species of benthic animals especially for molluscs and fishes, which contributes the basic information for current quantitative study supported by PRO NATURA FUND. Preliminary environmental estimations of water and soil were also performed. Furthermore, results of our previous studies which were singly done and related studies were accumulated for the future.

Our study revealed the existence of 9 new species including Ovassiminea sp. of Mollusca and Enneapterygius sp. of fishes. Many other ecologically valuable species were also found (e.g. Meretrix sp.). Further study will demonstrate the distribution of another set of ecologically valuable species, which will prove the importance of this study area. Exhaustive development of nature by human (e.g. resort hotel and ecotourism) should be ceased, and we may be able to try constructing new social and economical system that allows the coexistence of human with nature.

1. はじめに

(1) 調査地の概要

西表島は、奄美諸島から連なる琉球列島の南西端にあたり、北緯24度15分~26分、東経123度39分~57分に位置し、面積284.4km2、周囲約130kmの、沖縄島に次ぐ大きさの島である。亜熱帯海洋性気候に属し、黒潮の影響で年間を通して気温の変化は小さく、年平均気温23.4℃、年間降雨量2,340mm、湿度が年平均78%という湿潤な気候で、マングローブをはじめ亜熱帯照葉樹林まで熱帯性の多様な自然植生が見られ、海域にはサンゴ礁が発達したサンゴ礁生態系が成立するなど、これら多様な環境は西表島特有の生物相と自然環境を形成している。

浦内川は、西表島中央部山系を源流として島の北西部に流入する全長19.4km、河口付近では川幅が約500mもある琉球弧最大の河川である。河口から数kmにおよぶ下流域には広大なマングローブ林が発達し、潮の干満の影響を受ける汽水域は河川勾配が小さい熱帯河川特有のエスチュアリを形成している。

今回の調査地は、この浦内川のマングローブ湿地から海岸林、砂浜(トゥドゥマリ浜)まで含む河口域を中心として、流域全体を視野に入れ設定を行った。トゥドゥマリ浜一帯は、海岸植生が発達した良質の海岸林を形成していたが、2003年のリゾートホテル建設により大規模な開発が行われ、海岸に面した海岸林はほぼ消滅に至っている。

この大規模リゾートの建設に際しては、環境アセスメントも行われず、日本生態学会をはじめ日本魚類学会、ベントス学会などからも実施を求める要望書が出されたにもかかわらず、環境影響調査がなされないまま、営業に至っている。

(2) 調査の概要

具体的な調査研究としては、主として多様な生物群を対象とする研究者の力を合わせ、まず分類群ごとに従来の研究成果の集成を行なった。これを踏まえ、できるかぎり各季節に現地調査を実施し、浦内川河口域の河川、マングローブ、砂浜とその背後の海岸林、海中・海底を対象とした動植物相の一覧を作成している。並行して、生態系の全体像の把握のために、食物連鎖における上位性、ハビタットの特徴をよく示す典型性、西表島の特殊性などを指標として、注目される種・群集を選び調査を行なっている。具体的には現在のところ、魚類・両生爬虫類・貝類・底生動物・鳴き砂・地名の調査を実施している。

2. 西表島浦内川流域の貝類相と保全の必要性

(1) 保全上重要な種

1) レッドデータブック登載種(絶滅危惧種)

国内のレッドデータブックに記載された貝類は、表1に示したように、これまで40種が確認され、うち25種は生息を確認、10種は生息している可能性が高い新鮮な殻が確認されている。レッドデータブック記載種のうち、特に重要視されるのは、アマオブネ科の諸種・キバウミニナ・コハクオカミミガイ・キヌメハマシイノミ・ナミノコガイなどである。これらの種は、日本本土および琉球列島において生息地が局限されており、また生息環境の基盤が破壊されやすい場所に生息している。淡水域に生息するアマオブネ科の種やマングローブ汽水域に生息する種の殆どは、幼生の時期に海まで回遊するため、流域全体の保全が必要である。

表1 浦内川流域の貝類のレッドデータブック記載種 (PDF/85KB)

2) 新種(4種)

Clenchiella sp. ヤイマカチドキシタダミ(腹足綱吸腔目ミズツボ科)
日本新記録属であるカチドキシタダミ属(Clenchiella)の新種。浦内川河口マングローブ域から発見され、西表島の白浜・古見・大原でも確認された。殻径約1.5mmの平巻き状の巻貝。カチドキシタダミ属の種はこれまで、香港・タイ・インド・フィリピン・パプアニューギニアから記録されているが、日本で発見されたのは初めてで、これまで知られてきた諸種とは異なり新種である(福田・Ponder 準備中)。
○Hydrobiidae gen. et sp. ミズツボ科の1種(腹足綱吸腔目ミズツボ科)
ヤイマカチドキシタダミと同じミズツボ科の新属新種。カチドキシタダミ属に近縁であるが異なった特徴を持っており、新属が創設される予定である。浦内川河口マングローブ域から発見された。殻径約1mmの平巻き状の巻貝(福田・Ponder 準備中)。
Ovassiminea sp. ウラウチコダマカワザンショウ(腹足綱吸腔目カワザンショウ科)
日本新記録属であるコダマカワザンショウ属(Ovassiminea)の新種。浦内川河口マングローブ域から発見された。殻長約3mmの巻貝。コダマカワザンショウ属の種はこれまで、台湾・香港・タイ・マレーシア・インド・オーストラリアから記録されているが、日本で発見されたのは初めてで、これまで知られてきた諸種とは異なり新種である(福田・Ponder 準備中)。
○Assimineidae gen. et sp. コーヒーイロカワザンショウ(腹足綱吸腔目カワザンショウ科)
属名未確定種。浦内川河口マングローブ域から発見された。殻長約4mmの巻貝。これまで知られているコダマカワザワンショウ科の諸種とは異なり新種である。属については、今後の研究が必要(福田・Ponder 準備中)。

以上の4新種は、西表島浦内川流域研究会と岡山大学農学部水系保全学研究室の調査・研究で発見された。2004年11月26日にその発見を石垣市庁記者クラブで速報し、カトゥラプシキシタダミ以外の和名はその時に提唱された。カトゥラプシキシタダミの和名は日本貝類学会平成17年度大会で提唱された(山下ほか2005)。これらの新種の記載は、福田宏博士(岡山大学)とW. F. Ponder博士(Australian Museum)によって準備されている。

3) 新種の可能性がある種(3種)

Solen sp. マテガイ属の1種(二枚貝綱マルスダレガイ目マテガイ科)
日本新記録種。種名未確定。トゥドゥマリ浜に生息。琉球列島では他に数ヶ所で確認されているのみ(名和 未発表)。新種の可能性が高い。
Meretrix sp. トゥドゥマリハマグリ(この和名は山下ほか(2003)で新称)(二枚貝綱マルスダレガイ目マルスダレガイ科)
種名未確定。ハマグリ属の1種で、浦内川河口~トゥドゥマリ浜にのみ生息する。琉球列島でハマグリ属の種が現棲しているのは、トゥドゥマリ浜のみである。殻形態の特徴はM. lamarckii チョウセンハマグリに近似する。小型であること、正三角形に近い殻型を有すことはトゥドゥマリハマグリの最も大きな特徴である。トゥドゥマリハマグリと同種と考えられる種は、沖縄本島や西表島仲間川からも化石として産出しているが、その最後の生き残り個体群であると考えられる。今後、殻形態やDNAの詳細な検討を行なう必要がある。トゥドゥマリ浜の「ハマグリ」については、明治時代以降の炭坑時代に日本本土から移入されたという説が地元に根強く残っているが、浦内川河口の貝塚から本種に近似した小型のハマグリが発見されたので、ネイティブな種であるという結論に至った。ハマグリ類は水質の汚染に敏感かつ弱いと考えられ、この貴重な「固有種」はリゾート開発の影響を受けて最初に絶滅が危惧される種である。
Offadesma sp. オナガリュウグウハゴロモ属の1種(二枚貝綱ウミタケモドキ目リュウグウハゴロモ科)
種名未確定。トゥドゥマリ浜で打ち上げの殻が複数採集された。相模湾~紀伊半島に分布が知られるOffadesma nakamigawai オナガリュウグウハゴロモや、オーストラリアなどに分布するOffadesma angasi ミナミオナガリュウグウハゴロモに近似しているが、殻形態にいくつかの相違が見られる。

4) 日本では現在、浦内川河口・トゥドゥマリ浜でしか確認されていない種(8種)

○Hydrobiidae gen. et sp. ミズツボ科の1種(前出)
Ovassiminea sp. ウラウチコダマカワザンショウ(前出)
○Assimineidae gen. et sp. コーヒーイロカワザンショウ(前出)
Divalucina cumingi チヂミセワケツキガイ(二枚貝綱マルスダレガイ目ツキガイ科)
日本新記録属・種。トゥドゥマリ浜で打ち上げの殻が採集された。オーストラリアなどに分布。
Phacoides cf. argentea アツツキガイ近似種(二枚貝綱マルスダレガイ目ツキガイ科)
日本新記録種。種名未確定。トゥドゥマリ浜で打ち上げの殻が複数採集された。
Maoricardium setosum ツギノオナガトリガイ(二枚貝綱マルスダレガイ目ザルガイ科)
日本新記録属・種。トゥドゥマリ浜で打ち上げの殻が複数採集された。台湾以南から知られ、これまで日本では記録されていなかった。
Meretrix sp. トゥドゥマリハマグリ(前出)
Offadesma sp. オナガリュウグウハゴロモ属の1種(前出)

5) 日本では西表島でしか確認されていない種(前掲諸種を除く)

Phacosoma aspera ツキカガミ(二枚貝綱マルスダレガイ目マルスダレガイ科)
浦内川河口干潟に生息。西表島の船浦・仲良川河口などでも確認されている。中国大陸南岸とフィリピンに分布する種で、西表島は分布の北限にあたる(名和 2001)。

6) 日本および琉球列島での生息地が著しく少ない種(前掲諸種を除く)

Terebralia palustris キバウミニナ(吸腔目キバウミニナ科)
日本では八重山諸島にのみ生息する。八重山諸島のマングローブ域の生物相を特徴づける重要な種。水産庁のレッドデータブック(水産庁 1998)では危急種と評価され、WWFジャパンのレッドデータブック(和田ほか 1996)では「沖縄本島で絶滅・八重山諸島で危険」と評価されている。
Tonna alium トキワガイ(腹足綱吸腔目ヤツシロガイ科)
トゥドゥマリ浜で新鮮な殻を複数確認。琉球列島では産地が少なく、他に沖縄本島金武湾・中城湾で知られるのみ(名和 未発表)。
Murex(Murex)ternispina クロトゲホネガイ(腹足綱吸腔目アッキガイ科)
トゥドゥマリ浜で新鮮な殻を確認。高知県以南から記録されているが、具体的な産地記録の殆どない種。
Harpa major ショクコウラ(腹足綱吸腔目ショクコウラ科)
トゥドゥマリ浜に生息。琉球列島では産地が少なく、他に沖縄本島金武湾・中城湾で知られるのみ(名和 未発表)。
Donax(Latona)cuneatus ナミノコガイ(二枚貝綱マルスダレガイ目フジノハナガイ科)
トゥドゥマリ浜に生息。琉球列島では8ヶ所に生息し、八重山諸島ではトゥドゥマリ浜が唯一の生息地である(名和 未発表)。近似種のD.(L.) faba リュウキュウナミノコが琉球列島の海岸に広く分布するのに対し、ナミノコガイの分布は局地的である。トゥドゥマリ浜の個体群は殻サイズが日本最大級であると考えられる。波打ち際に生息する。
Anodontia sp. カブラツキガイ属の1種(二枚貝綱マルスダレガイ目ツキガイ科)
浦内川河口で殻が確認された。石垣島・西表島のマングローブ域に分布している。
Eamesiella corrugata シワツキガイ(二枚貝綱マルスダレガイ目ツキガイ科)
浦内川河口で新鮮な殻が確認された。石垣島・西表島のマングローブ域に分布している。八重山諸島が分布の北限(名和 2001)。
Cadella sp. クサビザラ属の1種(二枚貝綱マルスダレガイ目ニッコウガイ科)
トゥドゥマリ浜の低潮帯~潮下帯の砂底に多産する。琉球列島では他に3ヶ所で確認されているのみ(名和 未発表)。
Lioconcha philippinarum イナズマスダレ(二枚貝綱マルスダレガイ目マルスダレガイ科)
トゥドゥマリ浜で新鮮な殻を複数確認。他には沖縄本島周辺で3ヶ所確認されているのみ(名和 未発表)。
Callista phasianella ハナヤカワスレ(二枚貝綱マルスダレガイ目マルスダレガイ科)
トゥドゥマリ浜の潮下帯砂底・ウミヒルモ類の生える海草場に生息する。琉球列島では他に3ヶ所で確認されているのみ(名和 未発表)。

(2) 貝類の生息地としての環境の特性と重要性

1) 浦内川上流部淡水域

トゲカワニナ科やアマオブネ科の種が生息している。アマオブネ科では絶滅危惧種が5種、種名未詳種が少なくとも3種生息している。トゲカワニナ科やアマオブネ科の種は、幼生の時期に海まで回遊するため、流域全体の保全が必要である。

2) 浦内川下流部汽水域(河口域:マングローブ湿地・干潟)

マングローブ湿地の代表的な種は、アマオブネ科・タマキビ科・カワザンショウ科・キバウミニナ・オカミミガイ科・イタボガキ科・シワツキガイ・ヒルギシジミなどで、八重山特有のマングローブ湿地の貝類相が良好な状態で見られる。絶滅危惧種が多く生息しており、キバウミニナ・コハクオカミミガイ・キヌメハマシイノミなどは特に重要である。ミズツボ科・カワザンショウ科の複数の種は分類学的な位置が確定していない。今後も未知の種が発見される可能性がある。

河口干潟には、オオカニノテムシロ・コブムシロ・ウメノハナガイ・リュウキュウザクラ・ツキカガミ・トゥドゥマリハマグリなどが生息し、独得の干潟貝類相を形成している。浦内川の河口は開口部が狭く内湾的環境を示しており、ヤタテガイのように温暖な内湾に特徴的な種が生息している。琉球列島に存在する内湾生態系としての価値も高い。

この他、中流部汽水域は未調査であり、今後の調査によっては重要な発見がされる可能性がある。

3) トゥドゥマリ浜

トゥドゥマリ浜はリーフのない砂岩起源の細砂の砂浜であり、琉球列島の中では極めて特殊な海岸生態系である。細砂の砂浜には、トウガタカニモリ・ベニソデ・トキワガイ・ショクコウラ・スジイモ・オオチリメンギリ・アツツキガイ・ツギノオナガトリガイ・ナミノコガイ・Cadella sp.・Solen sp.・オミナエシハマグリ・ハナヤカワスレ・カミブスマ・イナズマスダレ・オフクマスオ・Offadesma sp.・トゥドゥマリハマグリなどが見られるが、これは日本および琉球列島の中で他に比較する場所のない極めて特徴的な貝類相である。

湾口部では岩礫地に生息する種も豊富で、ヤサガタムカシタモト・ヒメショクコウラ・ミダレシマヤタテ・ツノイロチョウチンフデ・ジュズカケサヤガタイモ・コグルマなどの他、多くの亜熱帯・熱帯系の種が生息しており、トゥドゥマリ浜は全体として非常に多様性の高い貝類の生息地であることが明らかである。

(3) まとめ

以上のように、浦内川流域・トゥドゥマリ浜には、非常に多くの貝類が生息し、絶滅危惧種・分布の限定された種・分類学的位置付けが不明の種も多く含まれている。浦内川流域・トゥドゥマリ浜は、貝類の生息地として日本はもちろん世界的に見ても極めて重要かつ貴重な場所であることが明らかである。

他の生物群の調査でも明らかなように、現在残されているこの地域の生態系の豊かさは、今日の地球上の環境の社会的状況において、奇跡的なものと言えるであろう。このような豊かな生物多様性は、生物多様性条約に明記されているように、全人類の財産であり、地球の未来の健全な発展のための基盤である。

ユニマットのリゾートホテルの環境評価においては、水棲貝類についての調査・検討が全く成されておらず、本文で指摘したような浦内川流域・トゥドゥマリ浜の自然の重要性が認識されていない。これは海岸・水域に隣接した開発計画の環境影響評価としては、非常に大きな問題点であると指摘される。

このような「全地球的な価値」を有する地域の開発においては、一企業と言えども、地球や人類の未来に対して重い責任が生じることは明白である。リゾートホテルの事業者と行政には、その点を深く認識することを希望する。

1) トゥドゥマリハマグリの重要性と絶滅の危険性

トゥドゥマリハマグリは既に述べたように、トゥドゥマリ浜において隔離と固有化が進んだと考えられるハマグリ属の1種で、全く同じような殻形態を持ったハマグリは日本およびインド・太平洋からこれまで確認されていない。ハマグリ属の進化を考える上で非常に重要な種であると考えられる。DNAの分析でしか種の位置は確定できないが、西表島・トゥドゥマリ浜の固有種である可能性も持っており、また琉球列島でハマグリ属の種が現棲しているのはトゥドゥマリ浜のみであることからも、その重要性・貴重性が社会的に強く認識されるべきである。

ハマグリ属の種は、日本においては絶滅の危機に瀕しており、Meretrix lusoria ハマグリ・M. Lamarcki チョウセンハマグリは共に深刻な減少傾向にあり、水産資源としては現在はM. petechialis シナハマグリなどを中心に国内消費の殆どを海外からの輸入に頼っている(山下ほか 2004)。このハマグリ類の減少傾向は、ハマグリ類が海洋環境の悪化に弱い生物であることを示唆している。

トゥドゥマリ浜周辺の開発によって、海洋環境が悪化すれば、トゥドゥマリハマグリは最初に絶滅する生物となることが強く予想される。世界でここにしかいない種かも知れないこのハマグリは、現在存亡の淵に立たされている。日本国民・西表島の住民は、この愛らしいハマグリの存在に注目して欲しい。

2) トゥドゥマリ浜の環境特性と砂浜貝類群集

サンゴ礁に縁取られた琉球列島の海岸は、大部分が石灰岩盤と生物起源砕屑堆積物(サンゴ片・有孔虫など)からなっている。

そうした中で、サンゴ礁の大きな切れ目には、陸源堆積物からなる砂浜海岸が、サンゴ礁の間にはめこまれるようにして形成されている場所がある。奄美大島嘉徳・徳之島山(さん)・沖縄県大浦湾奥・沖縄島与那原(よなばる)海岸(埋立により1999年消滅)・西表島トゥドゥマリ浜に発達していて、いずれの場所も河川が流入し、水深勾配の大きい入り江状地形である。この砂浜海岸は、琉球列島においては極めて限られた自然環境であり、そこには特異な貝類群集が見られる。それは日本本土温帯域における砂浜のものとは由来の異なる、琉球列島亜熱帯域特有の群集であると考えられる。

トゥドゥマリ浜では深度勾配(高潮帯渚線から水深10m以深)に伴う種相の推移が見られ、琉球列島で最もスケールの大きい「砂浜貝類群集」を呈している。こうしたことから、トゥドゥマリ浜の「砂浜貝類群集」は、琉球列島の海岸生物の由来や海岸環境の成立過程を解明していく上で重要な生物群であると思われる。また、琉球列島の海岸自然環境の多様性を理解する上での指標の一つとなりうる。

3.西表島浦内川流域の魚類相

浦内川流域における魚類相についてまとめられた文献は少なく、この30年間の調査結果をふまえ浦内川の魚類相を明らかにした。環境省レッドリストには、絶滅のおそれのある種(絶滅危惧I類およびII類)として76種があげられている(環境庁 1999)。この内、浦内川には16種が生息する(本流に14種、集落内細流に2種)。また、将来レッドリストに掲載される可能性が高い種が17種、日本では浦内川でしか確認されていない種12種を含む、約400種の魚類が生息しており、一河川にこれほど多くの種と絶滅危惧種が生息する川は他に例を見ない(鈴木 未発表)。

これら絶滅危惧種16種のうち、キバラヨシノボリをのぞく15種は、いずれも通し回遊魚とよばれ、仔稚魚の時期を海から汽水域で過ごす(川那部ほか 2001)。すなわち、トゥドゥマリ浜から浦内川汽水域を重要な生育場所としている。また、波打ち際(破波帯)は、仔稚魚にとって特に大切な生育場所である(千田ほか編著 2001)。

今回行った調査での新たな知見はまだ得られていないが、浦内川で採集された10種が新種(未記載種)として挙げられる。今後これらの新種については早急に記載していきたい。

開発に伴う問題点として、(1)排水中の大量の有機物、界面活性剤、環境ホルモンによる水質汚染、(2)大量取水による渇水、(3)大量のゴミと、ダイオキシンの問題、(4)除草剤散布による水質汚染、(5)夜間照明や騒音による忌避や遡上障害、(6)観光客の増加による森林や河川の荒廃などがあげられ、絶滅危惧種や希少種の絶滅が懸念される。

希少種リスト(図2、3)

1) 絶滅危惧IA類

  • ○ウラウチフエダイ(渓流域に生息)
  • ○コマチハゼ(マングローブ林に生息)
  • ○ミスジハゼ(マングローブ林に生息)
  • ○クロトサカハゼ(河口域に生息)
  • ○コンジキハゼ(マングローブ林に生息)
  • ○アゴヒゲハゼ(マングローブ林に生息)

2) 絶滅危惧IB類

  • ○ニセシマイサキ(渓流域に生息)
  • ○ヨコシマイサキ(渓流域に生息)
  • ○シミズシマシサキ(渓流域に生息)
  • ○ツバサハゼ(渓流域に生息)
  • ○タメトモハゼ(湿地や細流に生息)
  • ○タナゴモドキ(湿地や細流に生息)
  • ○キバラヨシノボリ(渓流域に生息)
  • ○ルリボウズハゼ(渓流域に生息)

3) 絶滅危惧II類

  • ○ナガレフウライボラ(渓流域に生息)
  • ○ジャノメハゼ(マングローブ林に生息)

4) レッドリストに将来掲載される可能性が高い種

  • ○ゴマハゼ属の1種(マングローブ林に生息)
  • ほか16種

5) 未記載種(新種)

  • ○ハゼ科の1種(新属新種)(河口域に生息)(渋川・鈴木 未発表)
  • ○オオメワラスボ科の1種(属は日本初のもの)(河口域に生息)(昆・鈴木 未発表)
  • ○クモハゼ属の1種(河口域に生息)(明仁ほか 2000)
  • ○ニラミハゼ属の1種(河口域に生息)(渋川・鈴木 2001)
  • ○イソハゼ属の1種(月が浜河口域に生息)(渋川・鈴木 未発表)
  • ほか5種

6) 日本では浦内川でしか確認されていない種類

  • ○アカメ属の1種(鈴木ほか 1995)
  • ○アトクギス(月が浜や河口域に生息)(鈴木ほか 2001)
  • ○ナミダカワウツボ(河口域に生息)(波戸岡ほか 1992)
  • ○ボラ科の1種(属は日本初のもの)(渓流域に生息)(瀬能 私信)
  • ○イトヒキハゼ属の1種(河口域に生息)(渋川・鈴木・矢野 未発表)
  • ○オグロオトメエイ(河口域に生息)(吉郷・吉野 1999)
  • ○イソギンポ属の1種(河口に生息)(鈴木・細川 未発表)
  • ○ゼブラアナゴ(月が浜に生息)(益田ほか編 1988)
  • ほか4種

図2 環境省によるレッドリストに掲載されている絶滅危惧種が多い(全76種のうち16種)

図2 環境省によるレッドリストに掲載されている絶滅危惧種が多い(全76種のうち16種)

図3 未記載種(10種)・日本未記載種(9種)が多い

図3 未記載種(10種)・日本未記載種(9種)が多い

4. 西表島浦内川流域の地名(1)

その地域で、古くから使われてきた地名を収集することは、時代とともにする消失するおそれが多い方言名を記録するとともに、人が自然とどのような関わりを持って暮らしてきたかという自然認識を知るの一つの方法でもあると考えられる。このことから、浦内川流域一帯の地名を明らかにするために石垣金星氏を中心とした地元住民からの聞き取りを行い、一部ではあるが現在も使われている地名を中心に記録を試みた。

調査地は、西表島西部地域-現在は浦内となっているカトウラ~干立、祖内にわたる浦内川流域を主に記録した。

図1 西表島浦内川流域の地名(1)

図1 西表島浦内川流域の地名(1)

参考文献

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