中国海南島における野生哺乳類の保護区設定と保護システムの確立Research of conservation and reservior designs based on wildlife distribution data in Hainan Main Island, China

著者名Authors

李玉春Li Yuchun1)

著者所属Affiliations

  1. 1) 中国・海南師範学院野生動物保護管理研究センター

要約Summary

中国海南島に生息する稀少陸棲哺乳類の分布データを基にGAP分析を用い、既存の自然保護区の評価を行った。分析に用いた哺乳類は、稀少種で、かつIUCN、CITESと中国レッド・ブックに含まれるクロテナガザル(Hylobates concolor)、ターミンジカ(Cervus eldi hainanus)、ツキノワグマ(Ursus thibetanus)、ウンピョウ(Neofelis nebulosa)、アカゲザル(Macaca mulatta)、コツメカワウソ(Lutra lutra)、サンバー(Cervus unicolor)の7種の保護種であった。GAP分析には海南省の植生-土地利用図、保護区分布図を用いた。その結果、既存の国家級と省級自然保護区の面積は狭く(1,721km2)、分析に用いた野生動物保護種の分布面積(14,270km2)の12.0%に過ぎなかった。自然保護区は保護種が分布しない地域にもあり、その面積は保護区総面積の35.7%を占めた。海南島の保護空白地域は8,463km2で、既存の自然保護区は海南島の野生動物(哺乳類)保護には大変不足している。このことから、海南島の陸棲哺乳類を保護するには既存の散在する小さい保護区ではなく、これらの保護種の分布のホットスポットをカバーできる二つあるいは一つの大きな保護区が必要であることを提案する。

1. はじめに

海南島は熱帯-亜熱帯気候区にあり、生物種の豊富な島で、生物多様性のホットスポットの一つになっている。海南島の野生動物を保護するために、野生動物の分布の現状および歴史的変遷を聞き取り調査で明らかにした(李 2003)。海南島内の自然保護区は、国家級自然保護区の覇王嶺(Bawangling)自然保護区、大田(Datian)自然保護区と尖峰嶺(Jianfengling)自然保護区、省級自然保護区の五指山(Wuzhishan)自然保護区、吊羅山(Diaoluoshan)自然保護区、邦溪(Bangxi)自然保護区、甘什嶺(Ganxhaling)自然保護区、佳西(Jiaxi)自然保護区、南湾(Nanwan)自然保護区、加新(Jiaxin)自然保護区、会山(Huishan)森林経営所、尖嶺(Jianling)森林経営所、上溪(Shangxi)森林経営所、番加(Fanjia)森林経営所、南林(Nanling)自然保護区、礼記(Liji)自然保護区、六連嶺(Liulianling)景観站の17箇所が設定されている(図1)。これらの保護区は、設置時の面積は僅か913km2、平均設置面積が53.7km2で、海南島面積の2.3%に過ぎなかった。各保護区は設置後の拡大などによって1,721km2(GIS測定値)に多少増加したが、依然狭い状態である。また、その分布は散在的で、互いにつながっていない(図1)。

図1 海南島における自然保護区

図1 海南島における自然保護区

Bawangling=覇王嶺国家級自然保護区、Datian=大田国家級自然保護区、Jianfengling=尖峰嶺国家級自然保護区、Wuzhishan=五指山自然保護区、Diaoluoshan=吊羅山自然保護区、Bangxi=邦溪自然保護区、Ganxhaling=甘什嶺自然保護区、Jiaxi=佳西自然保護区、Nanwan=南湾自然保護区、Jiaxin=加新自然保護区、Huishan=会山森林経営所、Jianling=尖嶺森林経営所、Shangxi=上溪森林経営所、Fanjia=番加森林経営所、Nanling=南林自然保護区、Liji=礼記自然保護区、Liulianling=六連嶺景観站

野生動物を保護するためには、自然保護区の設置が最も有効な手法である。しかも、保護区設置の仕方は野生動物保護にとって重要であり、その面積や設置場所などは自然保護区の機能を大きく左右する。そこで、海南島に分布する12種の陸棲哺乳類の分布データ(李 2003)を使い、GAP分析(Geographical Analysis for Protection of Biodiversity, Scott et al. 1993)を用いて、現存の保護区の役割を評価し、自然保護区の拡大や保護区設定と保護システムの確立のための分析を行った。

2. 調査地域

海南島は、中国南部、北緯18°12′~20°10′、東経108°40′~111°03′に位置し、熱帯生物地理区に属する。島は東西約290km、南北約180km、面積は3.39万km2である。地形、植生および土地利用によって島は西南部の山岳地帯と東北部の台地・平原地帯に分けることができる。東北から西南方向に脊梁山脈が続き(図2)、五指山(1,867m)、鸚歌嶺(1,812m)と雅加大嶺(1,519m)などの標高1,800m級の山並みが続き、これらを中心に島の外側に向かって標高が漸減する。海南島は高温多湿で、年平均気温23~25℃、年平均降水量1,600mm以上であるが、乾湿の季節性が明瞭である。

図2 海南島の植生―土地利用図

図2 海南島の植生―土地利用図

植生―土地利用の各タイプの後の( )内の数字は面積(km2)を示す。

西南部の山岳地帯は自然林、東北部の台地や平原は殆どが人工林に覆われ、橡膠樹(Hevea brasiliensis パラゴムノキ)、小叶鞍と椰子の木が多く、農地、果樹園、経済作物種の栽培地帯と森林地帯はモザイク状に混ざっている。

海南島には76種の哺乳類が記録されているが(広東省昆虫研究所動物研究室・中山大学生物系 1983)、このうちコウモリ類やネズミ類などの小型動物を除いた中大型陸棲哺乳類は20種である。そのうち、クロテナガザルはIUCNの絶滅危惧IB類(EN)に、ターミンジカ、ツキノワグマ、ウンピョウの3種は絶滅危惧II類(VU)に、それぞれ指定されている(IUCN 1994)。アカゲザル、サンバー、コツメカワウソの3種は中国レッド・ブック(汪松ら 1998)にII級保護動物と指定されている(中華人民共和国林業部・農業部 1989)。また、これら7種の保護動物はサンバーを除いて、CITES(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)の附録Iと附録IIにもそれぞれ指定されている。

海南島には、陸棲野生動物あるいは森林保護を目的とする国家級と省級自然保護区(以下は単に自然保護区と呼ぶ)は17箇所設置されている。国家級保護区は機能的には充実し、経費、パトロール員、設備などの条件が最もよく整備されており、密猟はほとんど発生していない。また、省級自然保護区は、国家級自然保護区ほどの条件や保護機能はないが、密猟は稀にしか発生していない。ところで、海南島では市県級の保護区(森林経営所)も設定されているが、動物の保護にはほとんど機能していないため、ここでは分析に使用しなかった。

3. 方法

今回の分析に使った陸棲動物の分布データは2001年6月から2002年6月までの間に実施した聞き取り調査によるもので、李(2003)が既に報告している。今回の分析には1998年時点の動物分布データを使った。分析に使用したGISデータは、野生動物分布図は李(2003)の海南島12種陸棲哺乳動物分布データ、海南島の植生-土地利用図は海南省測量局のもの(海南省測絵局 1996)で、自然保護区分布図は海南島の保護区位置図から作成したものである。

今回の分析は、GAP分析を用いて海南島における自然保護区の評価を行うため、動物分布図とそれらの重ね合わせ図(動物豊富度図)、植生-土地利用図を使用した。さらに、これらのデータを使って海南島における自然保護区の設計を行った。

(1) 動物分布図

動物の遭遇地点データの取りまとめ方は既に前回の報告で述べており(李 2003)、ここでは略す。動物との遭遇点データはベクター・データ(vector data)で、これをラスター・データ(raster data)に変換した。植生-土地利用図の解像度と一致させるため、1kmのグリッド・サイズを用いた。

GAP分析では評価基準となる動物種の選択が重要である。今回の分析では、中国あるいはCITES、IUCNの保護カテゴリーに含められた7種(以下保護種と呼ぶ)の分布を用いた。動物の生息地域GISレイヤーは単に各グリッドに発見された7種の有・無を採用した。このデータはベクター・データで地理的に「不連続」のため、動物の分布域を示すには適切ではない。動物と遭遇した“点(ポイント)"をこの動物の生息(分布)を代表するとして、ポイント・データを1kmグリッドのラスター・データに変換し、10kmのバッファ(buffer)で動物の分布域を求めた。

保護区の評価や設計を行うために、各種の分布域レイヤーを重ね、海南島における7種の保護動物の分布重複地図を作成し、多くの種が分布を重ねる地域を保護種「ホットスポット」とした。

(2) 植生-土地利用図

海南島の植生-土地利用図は、17タイプの植生-土地利用に分けられているが(図2)、ここでは7タイプにまとめて表示する。このうちGAP分析には、農業植生(農地)と経済林園は人工的でかつ経済活動地で、低谷台地草原は農業用地と連携し、安定な植生タイプではないことから(つまり、使われていない平地・農地)、自然保護区の設置には不適であるため、保護区設立の適性範囲に使用しなかった。従って、この3タイプ以外の15タイプの植生-土地利用(開放水面を含む)を保護区の指定に適切であると規定した。

(3) 自然保護区分布図

海南島に設置されている自然保護区の分布図は、1/400,000の地形図を使ってデジタル化し、1.0kmグリッドのスケールでラスター・データを作成した。

GAP分析は、保護動物7種の分布データ、植生-土地利用図と保護区分布図を使って行った。基本的には既存の自然保護区の機能評価、保護すべき「空白」地域の検索と将来の自然保護区の設定を分析した。

分析にはIdrisi32(Clark University)を用いた。本文に使ったデータ(例えば保護区の面積)はGISデータ・ベースやその計算結果に基づいた。

4. 結果

(1) 保護種の分布および自然保護区との関係

調査した7種の保護動物の重複分布域を図3に示した。この7種の分布域は西南部の山岳地域に集中し、面積は14,270km2であった。この7種の分布域と自然保護区設置に適する植生-土地利用域を重ねた、自然保護区適地を図4に示した。この結果から、以下の3点が言える。

図3 海南島における保護動物の分布と保護区の位置関係

図3 海南島における保護動物の分布と保護区の位置関係

図4 海南島における保護動物の分布と保護区適地との重複地域と保護区の位置関係

図4 海南島における保護動物の分布と保護区適地との重複地域と保護区の位置関係

  • 1) これら7種の保護動物は西南部山地域に集中的に分布し、その面積は14,270km2であった。海南島の沿岸部や東北部の台地・平地にはこれら7種の保護動物は分布していない。
  • 2) 海南島の国家級と省級自然保護区は、面積(1,721km2)が狭くて、この7種の保護動物の分布面積(14,270km2)の12.0%に過ぎなかった。
  • 3) 自然保護区は保護動物のいない地域もカバーしている。保護動物(7種)の分布域をカバーしていない保護区の面積は614km2、保護区総面積の35.7%を占めていた。

以上の結果から、海南島の保護動物は西南部山地域に集中分布する。既存の自然保護区は面積が狭く、保護動物の分布域と比べると大変不足している。自然保護区は設置の場所から言えば海南島の陸棲保護動物の保護には十分に機能していないと結論することができる。

(2) 保護空白地域の分布特性とその検索

 植生-土地利用図と7種の保護動物の分布域を重ね、海南島における保護空白地域を検索した(図4)。農業植生(農地)と経済林園は最も面積が大きく、それぞれ10,085km2と6,037km2で、全島の約半分(46.6%)を占めていた。また、低谷台地草原を保護不適地域に入れると、その面積は18,216km2となり、島全体の52.6%は保護区設定の不適地域になった。植生-土地利用データから言えば、海南島の保護適性地域は島全体の47.4%に相当する。

図4が示したように、植生-土地利用データと保護種分布データを重ねた結果、保護区を設置すべき地域の面積は9,458km2であった。既存の保護区地域を除くと、保護空白地域の面積は8,463km2で、現行の自然保護区(国家級と省級)は海南島の野生動物(哺乳類)を保護するには大変不足していると結論づけられる。

(3) 哺乳類動物多様性分布と将来保護区の設定

1) 哺乳類動物多様性分布と既存保護区の関係

保護動物7種の種数分布を図5に示した。このうち、4種類の保護動物が重複して分布するホットスポットは4か所(HS1~4)認められたが、これらの地域は必ずしも既存の自然保護区と一致していなかった。霸王嶺自然保護区内に部分的に4種類が分布するホットスポットHS3が認められたが、ほかの3つのホットスポットは全て保護区内には認められなかった。このように、既存の保護区は、海南島の哺乳類動物の保護に十分に機能しているとは言えない。

2) 設定すべき保護区域

海南島には広域に渡る「無人区域」はなく、空間的に人間と自然環境はモザイク状に混ざっている。このような状況では面積の大きな保護区の設定はより困難であるが、少なくとも海南島に2つの「保護区地域」を設定するべきであろう。つまり、HS1とHS2をカバーする「保護区地域」とHS3とHS4をカバーする「保護区地域」(図5)、あるいはこれらの保護動物ホットスポットをカバーできる1つの大きな「保護区」を設置する必要がある。具体的な設置範囲は、更なる検討が必要である。

図5 海南島における保護動物の種類数の分布と保護区の関係

図5 海南島における保護動物の種類数の分布と保護区の関係

HS1~4は4種以上の保護動物が分布を重複させる地域(ホットスポット)を示す。

5.考察

人間活動や密猟が野生動物の生存に大きな影響を与える今日、自然保護区は野生動物を保護する最も有効な手法である。自然保護区の設定や機能は、地域の自然・社会・経済的な要素に関係して、野生動物の保護に果たす役割を評価する必要があり、新しい保護区を設置する際には、その設置する場所や面積が地域の生物多様性の保護に最も有効でなければならない。GISを用いるGAP分析は自然保護区の評価や設計に有効な手法であり(Scott et al. 1993, Noss & Cooperrider 1994)、世界中の生物多様性保護の研究や計画に使われている(Strittholt & Boerner 1995, Caicco et al. 1995, 田ら 2002, 李ら 1999)。

保護区の機能評価については、「生物多様性」レイヤーの統一的な「基準」がない。今回の分析は、保護動物である7種類の哺乳類動物の分布データを使った。この原因は、①保護地域(保護区)の設置や保護活動は、ある面で地域の経済活動との矛盾もあり、実践的な保護区評価や設置は社会・経済的な面で地域住民に受け入れられなければならない。特に熱帯に位置する海南島の多くの場合は、人間が住まない広い領域がなく、野生動物と人間(地元住民)がモザイク状に入り組んで共生している。②保護動物を使った保護区評価や設置設計は各方面から認められやすく、実践性がより高い。③今回分析に使用した7種以外の種は、分布域がより広く、密度もより高い(李 2003)。それゆえ、「生物多様性」レイヤーは異なるレベルを用いる必要があり、場合によっては「目標的」な分析を行うことが必要であろう。その面から言えば、本研究の結果は将来的にも利用価値が高く、更にデータを付加する形で検討される展開性を持っている。

今回のGAP分析の結果、海南島における自然保護区は野生動物の保護に面積が狭すぎ、設置場所が野生動物の分布域とずれることが分かった。その原因は、1) 国家級自然保護区の霸王嶺自然保護区、大田自然保護区は特定な保護種であるクロテナガザルとターミンジカを保護する特定の目的のために設定された保護区で、その設置場所は他の種の分布を考えなかったはずであるし、面積(それぞれ5,639haと1,314ha)は極めて狭い。2) 図1に示したように、省級の“自然保護区“の中に、会山森林経営所、尖嶺森林経営所、上溪森林経営所、番加森林経営所の4つの森林経営を目的とする保護区「森林経営所」を含めたが、この保護区はその設置場所に野生動物の保護が配慮されていない。省級の邦溪自然保護区はターミンジカの保護を目的に設定された専門保護区で、面積は僅か362haで、自然保護区とはいえない程度の大きさである。それ以外の省級の五指山自然保護区、佳西自然保護区、甘什嶺自然保護区も面積が狭く、海南島の西南部山地地域に普遍に分布する陸棲哺乳類動物の保護に機能しにくいと考えられる。

謝辞

この研究は、P.N.ファンド助成により行われた。調査企画から結果のとりまとめにわたって宇都宮大学農学部の小金澤正昭教授からは貴重なご指導を賜った。宇都宮大学農学部野生鳥獣管理研究室の金子賢太郎氏には無人撮影調査に参加、指導いただいた。動物生息調査には海南師範学院生物系の張洪溢助教授、吊羅山の楊文澤氏に参加いただいた。これらの方々に深く感謝の意を表する次第である。

引用文献

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