インドネシア・西ジャワ海及びナツナ海における絶滅に瀕したタイマイ繁殖個体群の現状の把握とその資源回復対策の確立Breeding status and recovery of resource of the endangered hawksbill turtle in Western Java Sea and Natuna Sea, Indonesia.

著者名Authors

Akil Yusuf1)・ Abudl Wahid1)・ Sofyan Hamidl1)・ Jamaluddin1)・ 田中真一Shinnichi Tanaka2)・ 菅沼弘行Hiroyuki Suganuma2)

著者所属Affiliations

  1. 1) インドネシアウミガメ研究センター
  2. 2) エバーラスティング・ネイチャー

1. 概要

インドネシアは、世界でも最大のタイマイ繁殖地として知られている。特にナツナ海周辺がインドネシアの中でもタイマイ繁殖地が集中している(Suganuma他 1999)。しかしこれらの繁殖地域では、地方行政によりウミガメ卵採取の入札制度が導入されているところが多い。この研究では、2002年7月に新たにリアウ州から分離したナツナ州におけるタイマイ繁殖状況調査と入札制度の実態を把握した。

ナツナ海周辺では、主要なタイマイ繁殖地である西カリマンタン州、ナツナ州、リアウ州、バンカ・ブリトン州の10地域で、年間2,300巣から2,650巣のタイマイが産卵していることが推定された。また、入札制度は国の法律に反しながらも地方自治体にとって重要な収入源になっており、中には非合法の取引なども実態として存在することがわかった。少なくとも、ウミガメ資源の管理や保護についての対策はこれらの地域ではみられない。また、タイマイが急激に減少し、地域的な消滅の危機にあることも浮き彫りにされた。

世界的に絶滅の危機に瀕しているタイマイについて資源として保護対策を既に実施している地域を参考に、保護対策を立案した。

2. 目的

インドネシアは、絶滅に瀕しているタイマイの世界最大の生息場所である(Suganuma他 1999)。中でもジャワ海周辺地域はタイマイの繁殖地が多数点在することで知られている。近年になって漸くタイマイの繁殖状況が菅沼他の調査によって把握されるようになった。ジャワ海西部とナツナ海の島々は、ジャワ海周辺海域の中でも特にタイマイの重要な繁殖地である。これらの島々は、ジャカルタ特別州、ランプン州、バンカ・ブリトン州、リアウ州、ナツナ州、西カリマンタン州の各州の中に点在する。本活動は西ジャワ海およびナツナ海における未調査のタイマイ繁殖個体群の調査を行い、この地域におけるタイマイ資源の現状把握と資源回復対策の確立を目的とした。

2002年7月にこれまでのリアウ州島嶼部がナツナ州として分離独立したため、新しく行政府が設置されたナツナ島ラナイにて、ウミガメ卵採取の新しい入札制度について情報収集を行うことも目的とした。なお、ナツナ州はPropinsi Kepulauan Riauという名称で、リアウ島嶼州が正式名称であるが、ここでは従来からインドネシアの人々が日常呼称しているナツナ州を使用した。

3. 材料と方法

タイマイ繁殖地調査の選定は、Salim(1984)の資料を利用した。聞き取り調査を基に、ウミガメ類の産卵が多く見られる海岸では実際に海岸を歩き、海岸に残された産卵巣跡を計数した。計数した産卵巣数は、絶対数ではなく相対的な数値である。タイマイの産卵巣は、砂浜ではなく、後背地の草付きのところに見られる場合がほとんどである。そのため、ほぼ1年近く産卵巣跡が残されるので、およその産卵規模を知ることができる((財)東京都海洋環境保全協会 1999)。この調査では、アオウミガメのボディービットも計数したが、アオウミガメは海岸のオープングランドに産卵することと、1回の上陸に数個のボディービットを掘ることがあるため、この数値は実際に産卵した産卵巣数を意味するものではない。

ナツナ海周辺では、ナツナ州(大ナツナ諸島・北ナツナ諸島・南ナツナ諸島・アナンバス諸島)、リアウ州(タンブラン諸島・バダス諸島・シンケップ島周辺・ビンタン島周辺・リンガ島周辺)、バンカ・ブリトン州(ブリトン島周辺-モンペラン諸島・リマ諸島・ティガ諸島・アユルマシン諸島など)、西カリマンタン州(パロ川周辺)の島々や海岸がタイマイの繁殖地として知られている。表1にこの地域における、今回のタイマイの調査状況を示す。図1は、Salim(1984)の情報を元にして、ナツナ海やカリマータ海峡、マカッサル海峡を含めた広義の意味でのジャワ海周辺海域におけるタイマイ繁殖地と調査状況を示している。今回の調査および過去の調査により、ジャワ海のタイマイ繁殖状況が把握されつつある。

図1 ナツナ海周辺のタイマイの繁殖地

図1 ナツナ海周辺のタイマイの繁殖地

表1 西ジャワ海およびナツナ海におけるタイマイ繁殖地調査の経緯

表1 西ジャワ海およびナツナ海におけるタイマイ繁殖地調査の経緯

これらの繁殖地では州政府や地方政府が卵の採取に入札制度を導入しているところも多い。今回の研究では、できうる限り入札者および地方行政の入札担当者から情報を得た。

4. 結果

(1) モンペラン諸島(モンペラン島およびプスムット島)

モンペラン諸島は、スマトラ島とカリマンタン島の中間に位置するブリトン島の北東部に位置する(図1)。1996年以降、菅沼他によってこの諸島の調査が行われている。1996年の調査報告書((財)東京都海洋環境保全協会 1997)によると、モンペラン諸島は25の島と砂礁、瀬、岩礁からなる。島は17島あるが、そのうちタイマイの産卵が確認されているのは11島であった。これらの島のうち、主要な産卵地はモンペラン諸島の最北東端に位置するモンペラン島とプスムット島で、この諸島全体の70%以上の産卵巣はこの2島で占めていた。モンペラン諸島のタイマイの年間産卵巣数は、345~380巣と推定されているので、両島では240巣~270巣くらいの産卵がみられるものと推定された。Groombridge他(1989)によると、1980年代の両島におけるタイマイの年間産卵巣数は3,000巣以上と推定されており、僅か20年足らずの間に1/10以下になった。

プスムット島は1998年10月から、モンペラン島は1999年12月から、それまで違法に採取されていたウミガメ類の卵が、インドネシアウミガメ研究センターと(財)東京都海洋環境保全協会(現在はエバーラスティング・ネイチャーに移行)の協働事業によって保護されている。しかし、2000年1月から9月は保護を依頼していた灯台所長が卵を密売していたことが発覚したため一時保護活動を中止し、所長の移動に伴い10月から再開した。5月から9月は、理解ある灯台職員の協力により産卵数が計数された。結果として、2000年1月から9月はこの島の卵はすべて販売された。表2にモンペラン島とプスムット島のウミガメ類の年間産卵巣数を示す。また、図2にモンペラン島、図3にプスムット島のタイマイの月別産卵巣数を示す。これにより、タイマイの繁殖はインドネシアにおいて通年見られること、2月から6月頃までが産卵最盛期であることなどが判明した。両島ではタイマイの年間産卵巣数は250~281巣であり、1996年の推定値と一致している。ここ数年の間ではタイマイの減少は見られていない。

表2 モンペラン島とプスムット島におけるウミガメ類の産卵巣数

表2 モンペラン島とプスムット島におけるウミガメ類の産卵巣数

図2 モンペラン島におけるタイマイの月別産卵巣数

図2 モンペラン島におけるタイマイの月別産卵巣数

図3 プスムット島におけるタイマイの月別産卵巣数

図3 プスムット島におけるタイマイの月別産卵巣数

モンペラン島のタイマイの自然ふ化率は、平均産卵数141.0個(n=65)で78.7%(2001年)、プスムット島では147.7個(n=140)で79.5%(2001年)である。アオウミガメでは、モンペラン島では平均産卵数が91.9個(n=119)でふ化率76.8%、プスムット島では96.9個(n=570)で77.8%である。モンペラン島では2001年に65巣から6,462頭のふ化稚亀が海に入ったと推定される。プスムット島では140巣から22,325頭で、両島では205巣から28,787頭のふ化稚亀が海に入ったと推定される。

(2) ビンタン島、リンガ島、シンケップ島周辺(2003年2月18日~3月4日)

 インドネシアのタイマイ産卵最盛期の初期にビンタン島、リンガ島、シンケップ島周辺の島々で、タイマイの繁殖状況調査と、地元住民への聞き取り調査を行った。これらの島々は、シンガポールの南に点在する(図1および図4)。ビンタン島周辺では21島、リンガ島周辺では15島、シンケップ島周辺では2島に上陸し、繁殖状況調査を行った。

図4 ビンタン島、リンガ島、シンケップ島周辺のタイマイ繁殖状況および卵の採取状況調査(2003年2月18日~3月4日)

図4 ビンタン島、リンガ島、シンケップ島周辺のタイマイ繁殖状況および卵の採取状況調査(2003年2月18日~3月4日)

1) ビンタン島周辺

ビンタン島周辺では21の島を調査した。そのうち11島でウミガメ類の産卵が見られた。人が居住していた島は4島で、そのいずれにも産卵は見られなかった。確認されたタイマイの産卵巣は177巣で、アオウミガメが3巣であった。

ボルス島では32年間この島に住んでいるムクタール氏が、自分の食用と販売用に卵を採取している。タイマイは1個700から800ルピー、アオウミガメは1,000ルピーで、ビンタン島のリアウ島嶼部の州都(後述)であるタンジュンピナンへ販売している。4月から6月までがタイマイのシーズンで、1晩に2頭上がることもあるという。

パンキルブサール島は、砂を取るための労働者が多くいる。取った砂はシンガポールへ販売している。産卵は見られない。

マポール島は村があり、中国人、ムラユ人、ブギス人、ブトン人、フローレス人など多数の民族がいる。ホテルも2軒ある。

ムラパス島は家が10軒あるが人が住んでいるのは現在4軒だけである。彼らはヤシ園でも働いている。この島には灯台があり、職員が5名いる。タイマイは2月から3月が産卵期だという。アオウミガメも産卵しており、多いときは1晩で5頭上がることもある。卵は早い者勝ちで島民が採取しているが、ほとんどは自分たちの食用としている。島内販売する場合は、1個400ルピーから500ルピーで販売している。産卵跡は高波で消えていた。

ビンタン島周辺におけるタイマイ繁殖規模は、調査時期がタイマイの産卵ピーク初期であることから、300巣から400巣程度と考えられる。

表3-1 ビンタン島周辺

表3-1 ビンタン島周辺

2) リンガ島周辺

リンガ島周辺では15の島を調査した。そのうち13島でウミガメ類の産卵が見られた。人が居住していた島は1島のみであった。確認されたタイマイの産卵巣は145巣で、アオウミガメの産卵巣は見られなかった。

ブルン島では、タイマイのストランディングが見られた。甲長は39cm、甲幅は32cmであった。首にネットによる傷が見られた。

アカド島に、クンタール島の女性が陸生の貝を採集しに来ていた。彼女によるとタイマイは3月から4月が産卵期で年間4巣から5巣であるという。

ブラディン島には家が15軒あるが、調査時は無人島であった。これらの家は漁師が季節により移動してくるためのものである。

このような島もあるが、基本的にはリンガ島の周辺のタイマイ繁殖地は全て無人島である。特に、これらの島の最も北に位置するカパス島はタイマイの繁殖地として重要である。産卵数全体の半数をこの島が占める。リンガ島周辺におけるタイマイ繁殖規模は、調査時期がタイマイの産卵ピーク初期であることから、250巣から350巣程度と考えられる。

表3-2 リンガ島周辺

表3-2 リンガ島周辺

3) シンケップ島周辺

シンケップ島周辺では、2つの島を調査した。両島ともウミガメ類の産卵が見られた。両島とも季節移動の漁師の家があるが、基本的には無人島である。確認されたタイマイの産卵巣は57巣で、アオウミガメの産卵巣は見られなかった。シンケップ島周辺におけるタイマイ繁殖規模は、調査時期がタイマイの産卵ピーク初期であることから100巣程度と考えられる。

表3-3 シンケップ島周辺

表3-3 シンケップ島周辺

4) ビンタン島周辺、リンガ島周辺、シンケップ島周辺のまとめ

調査した3地域では、調査島数は38島、ウミガメ類の産卵がみられた島は26島であった。タイマイの産卵巣数は379巣、アオウミガメはビンタン島周辺のビニョソ島とムラパス島の2島だけであった。これらの島々におけるタイマイの繁殖規模は、年間650巣~850巣程度と推定される。リンガ島周辺のカパス島は、これらの島々の中でも年間100巣以上の繁殖規模を持つ島だと考えられる。

(3) 大ナツナ諸島および北ナツナ諸島(2003年6月17日~24日)

大ナツナ諸島および北ナツナ諸島の調査は、スダナウ島からナツナ島(ブグラン島)の西側を北上し、スミウン島、最北端のスカトゥン島、ナツナ島の北にあるパンジャン島の3島に上陸し、海岸状況調査と聞き取り調査を行った(図5)。これらの3つの島は入札対象の島であるが、かつては入札対象の島が7カ所あった。かつての入札対象の4つの島名は不明である。海岸での産卵巣の計数は行わなかった。

図5 大ナツナ諸島および北ナツナ諸島のタイマイ繁殖状況および卵の採取状況調査(2003年6月17日~24日)

図5 大ナツナ諸島および北ナツナ諸島のタイマイ繁殖状況および卵の採取状況調査(2003年6月17日~24日)

1) スミウン島

スミウン島に住んでいるジャエヌディン氏は56才になるが、父親から引き継いで子供の頃から卵の採取を行っている。島には4世帯ほどの漁業者が居住している。この島には4つの海岸があり、昨年までは兄弟で卵の採取を行っていたが、現在は彼一人で全ての海岸を回っている。入札金額は、2000年が400万ルピー、2001年が500万ルピー、2002年が550万ルピーで、調査時の2003年は700万ルピーである。入札金はナツナ州の州都であるラナイで支払っている。2002年は年間で60巣しか採取していない。タイマイ卵は1個400ルピー、アオウミガメ卵は1,000ルピーで、ラナイへ毎週金曜日に卵を持って行く。2002年は一番多い週でも500個に達しない。2002年は半年でタイマイ卵を1,000個(7巣)、アオウミガメ卵を1,500個(15巣)採取している。これから収入を計算すると190万ルピーである。入札金額に達するためには、時期的にアオウミガメの産卵期であるので、少なくとも今後51頭のアオウミガメの産卵が必要である。2001年の産卵巣数から判断して、今後これだけのアオウミガメが産卵するとは思われない。入札金額を支払うために彼は牛を4頭売っている。牛1頭が150万ルピーであるので、これで入札金額のうちの600万ルピーを補った。ジャエヌディン氏に、このままでは赤字になるばかりだが今後どうするのか聞いたところ、まだ牛が16頭いるので当分は大丈夫だと言っていたが、入札を続ければ続けるほどマイナスが増えていく。ジャエヌディン氏の支払った入札金については更に考察で後述する。

入札の規定により、3,000個の卵をふ化させなければならないが、まだその数に達していない。既に一部を沖の生け簀で飼育している。7月にラナイから役人が調査に来るという。卵の捕食動物であるオオトカゲはこの島にはいない。

産卵はタイマイよりもアオウミガメが多い。タイマイの産卵時期は1月から6月で、アオウミガメは6月から12月である。1990年は1晩で5頭くらいは産卵していた。タイからの漁船がこの近海に多くやってきており、彼はタイ漁船がウミガメを殺していると言っている。1950年代は1晩で2,000個から3,000個の卵が採取できた。1970年からウミガメは減り始めた。1985年頃からタイ人(タイ漁船)が出現し始めた。タイ漁船の混獲によりウミガメが減少したと信じている。入札制度は1960年にはあったが、最初は父親が中国人を雇用し、卵の採取を始めた。

2) スカトゥン島

スカトゥン島は、ナツナ海で最も北に位置する無人島である。ウミガメ卵を採取する人は常駐しておらず、小屋もない。この島の入札者はスダナウ島に住んでいるアルマン氏である。氏は、1990年からこの島の入札をしている。ウミガメ卵はスカトゥン島のすぐ南のラウト島に住んでいるアルマン氏の兄が3日~4日おきに採取し、州都のラナイでアオウミガメもタイマイも1,200ルピーで販売する。ラウト島でもたまに販売している。ラウト島ではタイマイ卵は16個で10,000ルピー、アオウミガメは1個1,000ルピーである。時々スダナウでも販売するが、タイマイは14個で10,000ルピー、アオウミガメは1個1,000ルピーである。産卵するウミガメはタイマイよりもアオウミガメが多い。タイマイの産卵期は12月から2月まで、アオウミガメは6月から10月である。産卵が多いときは、1か月に12,000個の卵が採取できたが、普通は300個である。最近では一番多い月でも500個である。ラウト島には3つの村に1,000軒ほどの家があり、ウミガメ卵の採取権は島民にあるが、産卵はほとんどないので入札制度もない。

アルマン氏は活魚の輸出用の魚を集める別の事業もやっている。近年インドネシアでは、香港への活魚の輸出が盛んになってきている。ナツナ島でも盛んに行われ、活魚を運搬するために香港船が寄港している。

この島でも1960年代に入札が始まっている。2000年から2002年までは、西ブグラン郡の郡都であるスダナウに支払っていたが、2003年は州都のラナイで支払っている。1999年まではナツナ海の7個所の管轄区全てがビンタン島のタンジュンピナンで支払っていた。タンジュンピナンは、2002年7月までのリアウ州島嶼部の行政府があった。2000年の入札金額は400万ルピー、2001年は450万ルピー、2002年は500万ルピー、2003年は700万ルピーであるが、2003年は高額なので、実際は600万ルピーしか支払っていない。入札の規定により、400個の卵をふ化させなければならないが、これまで実施されたことはない。

3) パンジャン島

パンジャン島の入札者は、この島に住んでいるナシール氏である。ちょうど氏は不在で奥さんに話を聞いた。入札対象はパンジャン島だけである。近くのブンガ島、ムラグ島(サマラゴ島)、プガハ島でも卵を採取している。パンジャン島も含めてこれらの島からナシール氏は卵を集めて、ラナイに販売している。卵の儲けは、五分五分で採取人と分け合っている。卵はタイマイが500ルピー、アオウミガメは1,000ルピーである。タイマイの産卵期は3月から4月、アオウミガメは7月から8月である。一番多いときで8月の1週間でアオウミガメの800個であった。ナシール氏は2000年から入札に参加しており、それまでは海岸を人に貸していた。入札金額については奥さんは知らなかった。ナシール氏は人望があるようで、彼の家の周りには漁業者の家が密集しており、彼らは全てナシール氏の元で働いている。

(4) アナンバス諸島(2002年6月28日~7月7日)

アナンバス諸島の調査は、2002年6月28日~7月7日まで菅沼(未発表)が行っている。この諸島のデータはナツナ海のタイマイの繁殖状況を知るために重要であるので、本報告で引用する。アナンバス諸島は、行政上の管轄区としてジュマジャ郡とシアンタン郡に分けられている(図6)。

図6 アナンバス諸島のタイマイ繁殖状況および卵の採取状況調査(2001年6月28日~7月7日)

図6 アナンバス諸島のタイマイ繁殖状況および卵の採取状況調査(2001年6月28日~7月7日)

1) ジュマジャ郡

ジュマジャ郡では13島32海岸を調査した。上陸調査を行ったのはそのうちの7島で、他の6島は聞き取り調査である。郡都はルトゥンである。表4-1にジュマジャ郡のウミガメ類の繁殖状況調査結果を示す。タイマイの産卵が見られたのは、クラムット島、マンカイ島、ピナナン島の3島だけで、他の島ではほとんど産卵は見られていない。ジュマジャ郡全体で、タイマイが64巣、アオウミガメが171巣確認された。

表4-1 ジュマジャ郡におけるウミガメ類の繁殖状況調査

表4-1 ジュマジャ郡におけるウミガメ類の繁殖状況調査

入札制度は、マンカル島とピナナン島で行われているが、採取される卵のほとんどはアオウミガメである。入札は、マンカイ島の3つの各海岸とマンカイクチル島の1つの海岸がそれぞれ対象となっている。マンカイ島北側のテロック・カンドール海岸は3,000万ルピー、同じく北側のウンプン海岸は2,000万ルピー、南東側のプギール海岸は2,000万ルピー、マンカイクチル島北側のスエット海岸は2,000万ルピーで、計9,000万ルピーである。これは当時の換算で日本円にすると130万円程度である。マンカイ島北側のウンプン海岸では、ナツナ島から来て1年になるアフマド氏と近くのクラムット島から来たばかりのタルディン氏が卵の採取をしている。彼らはテロック・カンドール海岸の卵も採取している。2001年はアオウミガメの卵15万個、タイマイの卵5万個を採取したと言っている。産卵巣にするとアオウミガメ約1,500巣、タイマイ約360巣に換算できる。入札の条件として年間500個(アオウミガメでは5巣分、タイマイでは4巣分に相当)の卵をふ化させなければならないが、実際にふ化させているかどうか不明である。また、この数値がどのように決められているかも不明である。1か月でアオウミガメとタイマイ合わせて8,000個、1晩で多いときに1,000個を採取したと言っているが、仮に8000個(アオウミガメの場合、80巣に相当)の採取を1年間続けたとしても960巣にしか達しない。従って、上記のアオウミガメとタイマイの産卵巣1,860巣には実際は達していないものと思われる。また、2002年は最大でもタイマイが1晩に5頭しか産卵していないと言っていることから、更に実際の産卵巣数は減少していると考えられる。彼らはアオウミガメの卵1個を採取すると70ルピー、タイマイでは50ルピーをもらえる。2001年の場合、年間に1,400万ルピーの収入となり、1人当たり700万ルピーの計算になる。1か月当たり約58万ルピーで、一般の漁師とほぼ同じくらいの収入であるが、実際の産卵巣数から考えると収入はより少ないと思われる。採取された卵は、2日おきにクラムット島へ持っていく。1998年にシンガポールから人が来て、アオウミガメを15頭購入していったことがあるらしい。マンカイ島には卵を捕食するオオトカゲが生息している。

ピナナン島も入札対象になっているため、上陸調査を行ったが、人がおらず聞き込み調査はできなかった。タイマイが26巣、アオウミガメが63巣確認されている。この島のタイマイの年間産卵巣数は50巣以下と考えられる。

クラムット島南側の海岸では、ヤルニ氏がかなり古くからウミガメ卵とココヤシの採取をして、1人で生計を立てている。この島は入札対象ではなく、ヤルニ氏の所有になっているので、卵はアオウミガメもタイマイも同じく、マンカイ島の入札者に5個1,000ルピーで買い取ってもらっている。この島の産卵巣数は少なく、タイマイは年間50巣(900~1,000個)以下、アオウミガメも50巣(500個)に達しないと考えられる。従って、ウミガメ卵の収入は多くとも年間30万ルピーである。生活の様子から、現金は最低限必要な米を購入するだけのようである。

入札者のキバン氏とそのアシスタントのシン氏にクラムット島で話を聞くことができた。リアウ州やナツナ州の入札に関しての他地域の情報がかなり流れている。2002年の時点でウミガメ卵はタンブラン諸島と南ナツナ諸島が最も多いと言われている。南ナツナの入札金額は、2002年は1億2,000万ルピー、シアンタン郡は1億ルピーとのことである。ジュマラ郡はアオウミガメが多く、採取された卵はビンタン島のタンジュンピナンで販売されている。販売価格は通常タイマイが700ルピー、アオウミガメが1,000ルピーである。採取者に支払われているのはそのうちの7%である。最も高いときはアオウミガメで1,200ルピーだったが、現在800ルピーに下がっている。タンジュンピナンの町で筆者達が店で聞いた値段は、鶏卵が1 個500ルピー(約7円)、アオウミガメ卵が1,500ルピー(約21円)、タイマイ卵が1,000ルピー(約14円)であるので、ウミガメ卵がいかに高いかがわかる。購入者は華僑の人たちが多いとのことである。入札金額は2001年は6,000万ルピーであるので、2002年の9,000万ルピーは50%増となっている。他地域とは違いここは毎年入札者が変わっている。入札はビンタン島のタンジュンピナンで行われる。これは2002年7月の行政府移行前であるので、この時点では管轄行政府はタンジュンピナンである。アヤム島は産卵巣数が少なくなったので入札対象外となった。2002年は1月から6月までに2~3万個の卵を採取している。アオウミガメの方が多いとのことであったので、全てアオウミガメとしても最大でも300巣しか産卵していないことになる。ジュマラ郡のウミガメ類の繁殖数は急激に減少している可能性が高い。インドネシア全国にみられるバリ人のアオウミガメ漁は、この地域まではまだ達していない。

2) シアンタン郡

シアンタン郡では10島31海岸を調査した。上陸調査を行ったのはそのうちの4島で、他の6島は聞き取り調査である。表4-2にシアンタン郡のウミガメ類の繁殖状況調査結果を示す。タイマイの産卵が見られたのは、デュライ島、パハット島、スムット島の3島だけで、他の島ではほとんど産卵は見られていない。シアンタン郡全体で、タイマイが73巣、アオウミガメが335巣で確認された。

表4-2 シアンタン郡におけるウミガメ類の繁殖状況調査

表4-2 シアンタン郡におけるウミガメ類の繁殖状況調査

入札制度はデュライ島とパハット島で行われているが、デュライ島はほとんどがアオウミガメで、タイマイはパハット島に集中している。デュライ島には2つの海岸があるが、西側の海岸は強風で波が高く上陸できなかった。表4-2の繁殖状況の数値は東側の海岸だけのデータである。また、デュライ島には卵を採取している人が不在で聞き取り調査はできなかった。計数値からみるとタイマイの年間の産卵巣は30巣程度と考えられる。パハット島には2000年からムハンマド氏が1人で卵の採取を行っている。この島には小規模ながら活魚の生け簀があり、近場で漁をしている漁業者が2世帯小屋を持っている。パハット島は上陸調査の計数値では、タイマイが61巣、アオウミガメが187巣であったが、アナンバス諸島の中で唯一タイマイの産卵がアオウミガメより多い島である。この数値から、この島のタイマイの年間産卵巣数は150巣から200巣と考えられる。1日で多いときには700個から800個の卵が採取でき、2~3日おきに卵を郡都であるシアンタン島のタレンパの町へ持っていき、タイマイの卵1個50ルピー、アオウミガメ80ルピーの賃金をもらう。今年は4日間で2,000個から多いときで4,000個くらいの卵を採取している。1960年頃は1晩で60頭(卵は約8,400個)のタイマイが産卵したという。1990年頃は、1晩でアオウミガメとタイマイ合わせて30頭から50頭である。1999年は入札の規定により3,000個の卵をふ化させたが、それ以降はやっていない。入札金額は、1997年は3,500万ルピー、2002年は1億2,000万ルピーであるという。

タレンパの町で、デュライ島とパハット島の入札者であるラドジャ・ハスナン氏の話を聞くことができた。ラドジャ氏は元軍人である。アオウミガメは1個1,200ルピー、タイマイは700ルピーで販売している。これまで採取された卵のデータはあるが、その一部しか見せてもらえなかった。2000年はデュライ島とパハット島合わせて30万個、2001年は25万個の卵を販売している。今年は600頭分の卵しか集まっていない。入札金額はデュライ島が4,000万ルピー、パハット島が8,000万ルピー、両者合わせて1億2,000万ルピーである。ただし、この入札金額にはウミガメ卵だけではなく、ココヤシの採取権も含まれている。

表4-3に、集計データから写させてもらった2001年と2002年の6月のウミガメ卵の採取数を示す。6月はタイマイの産卵期の終わりであり、アオウミガメの産卵最盛期である。従ってパハット島では、タイマイは2001年6月が10巣、2002年が20巣程度と考えられる。アオウミガメは2001年が80巣、2002年が90巣である。デュライ島では、タイマイは2001年が16巣、2002年が25巣、アオウミガメは2001年が470巣、2002年が265巣と考えられる。アオウミガメはデュライ島の方が圧倒的に多く、タイマイは詳細な資料はないが、聞き取り調査と入札金額からパハット島の方が多いと考えられる。 滞在したタレンパのホテルには生け簀があり、その中で未成熟のタイマイが12頭飼育されていた。これらのタイマイはジャカルタに売られる。タイマイの剥製の流通が未だに存在していることが伺われる。

表4-3 パハット島とデュライ島の6月のウミガメ卵の採取数

表4-3 パハット島とデュライ島の6月のウミガメ卵の採取数

5. 考察

インドネシアは、過去最大のべっ甲材の輸出国であった。その大半は日本に輸出されていた。1961年から1987年の輸出を禁止するまで、27年間に196,256kgのべっ甲材を輸出していた。「野生動植物の国際間の商取引に関する条約; 通称ワシントン条約」が提唱された1973年には73,206kgと最大の輸出量があり、実に70,000頭以上のタイマイの甲羅が利用された。27年間のべっ甲材の年平均輸出量は7,269kgとなり、これは7,000頭分以上のタイマイの捕殺を意味している。

インドネシアは1945年に独立宣言をしたが、正式に国際社会から独立国家として認められたのは1949年になってからである。しかし、インドネシアは約300部族が存在するといわれる多民族国家であるため、独立後も同一民族内や民族間の紛争が絶えなかった。その中でも、南スラウェシで勃発したブギス族と政府軍との戦いは、1952年から1965年まで続き、カハール・ムザッカルの反乱と呼ばれるこの戦いはブギス族の民族大移動のきっかけとなった((財)東京都海洋環境保全協会 1999)。ブギス族は、マカッサル族やトラジャ族、ブギスボネ族など5つの民族に別れるが、この反乱はこれらの民族全てを巻き込む反政府闘争というばかりではなく、ブギス族の親戚・家族や友人なども敵対するなど、血みどろの戦いであったようである。そうした中、1950年代後半になって、戦いを逃避するグループがジャワ海へ進出を始めた。ブギス族は元来海洋民族であるが、彼らは一度故郷を捨てると成功するまで故郷に帰って来られないという鉄則を持っている。そのため、ジャワ海に進出したブギス族はかの地で定住する以外に道は残されていなかった。この定住がウミガメの卵の採取と結びついていくことになる。当初は自分たちの食料としての卵が、年と共に経済的価値が向上したのは想像に難くない。

1960年代から1970年代の初めにかけて、リアウ州(現ナツナ州)や西カリマンタン州の都市などでは地方行政による卵の入札制度が始められた。1960年代に入り、インドネシアのべっ甲材輸出が本格化し、その10年後にはほとんど根こそぎ状態の卵の採取が始められた。日本の無節操なべっ甲材の輸入と卵の大規模な採取により、インドネシアのタイマイはこの40年間で激減し、絶滅寸前にまで追いやられている。

インドネシアでは、行政管轄が以下のように分けられている。

  • Negara: 国
  • Propinsi: 州(省)
  • Kabupaten: 県(3ランクある)
  • Kecamatan: 郡
  • Kelurahan または Desa: 村

前述したが、ナツナ州はPropinsi Kepulauan Riauと言う名称で、リアウ島嶼州が正式名称であるが、ここでは従来のナツナ州を使用する。州都はブグラン島(ナツナ島)のラナイである。ナツナ州には9つの郡がある。ランクの高い郡から並べると以下の通りである。

  • Kecamatan Bunguran Timur (東ブグラン郡: 大ナツナ諸島)
  • Kecamatan Bunguran Barat (西ブグラン郡: 大ナツナ諸島と北ナツナ諸島)
  • Kecamatan Jemaja (ジュマジャ郡: アナンバス諸島)
  • Kecamatan Siantan (シアンタン郡: アナンバス諸島)
  • Kecamatan Serasan (スラサン郡: 南ナツナ諸島)
  • Kecamatan Midai (ミダイ郡: ミダイ島)
  • Kecamatan Palmatak (パルマタック郡: アナンバス諸島)
  • Kecamatan Bunguran Utara (北ブグラン郡: 大ナツナ諸島)
  • Kecamatan Subi (スビ郡: 南ナツナ諸島)

かつてのリアウ州ナツナ島嶼部の管轄下であったタンブラン諸島(バダス諸島も含む)は、ナツナ州に行政府を移行していない。これまでどおり、ビンタン島のタンジュンピナンがかつての島嶼部の州都として機能し、これらの諸島はリアウ州の州都であるプカンバルの管轄下にある。

ナツナ海の中で、ウミガメ卵採取の入札制度が施行されているのは、以下の郡と諸島の島々である。入札金額については、州都のラナイにあるDinas Pendapatan Daerah(略してDipenda=地方税局)という税金や入札金を収める役所で調べた金額である。2003年と2001年については担当者のコンピュータから資料を戴いた。2002年についてはコンピュータ入力をしていないので領収書を見せていただいた。入札金は毎年1月中に支払われている。参考として聞き取り調査による落札者の金額も併記する。行政府が移行した2000年以降に入札金額を決定し、許可書を発行しているのは、ナツナ州行政府の経済局である。ウミガメ卵採取の許可書には、各繁殖地において最低で600頭の放流を義務づけている。産卵巣数が多いところでは、年間産卵巣数の2.5%を放流と記載されている。放流は7か月の飼育または6インチまでの大きさで放流することと明記されている。下記の入札金額から類推したタイマイ換算は、タイマイ卵1個1,000ルピーとして、1巣140個計算で行った。数値は入札金額に達する最小値産卵巣数である。

  • Kecamatan Bunguran Timur(Senua島)
    入札金額; 200万ルピー、入札対象; ウミガメ卵・イワツバメの巣
    落札者金額; 未調査
    タイマイ換算; 15巣(2003年はイワツバメの巣は含めていないと考えられる)
    2001年の入札金額は1,500万ルピーであるので、イワツバメの巣の方が入札金額の大部分を占めると考えられる。2002年の領収書は発行されていない。
  • Kecamatan Bunguran Barat (Semiun島、Sekatung島)
    入札金額; 700万ルピー(この金額はスミウン島とスカトゥン島の両方)
    2001年は2003年と同様に700万ルピー、2002年の領収書は発行されていない。
    落札者金額; スミウン島700万ルピー、スカトゥン島700万ルピー
    タイマイ換算; 50巣
    *スミウン島のジャエヌディン氏は700万ルピー、スカトゥン島のアルマン氏は600万ルピー支払っていると言っているが、彼らは直接地方税局に支払っているわけではなく、行政府の経済局の役人を仲介者として支払っている。どちらかが払っていないか、どちらかの入札金が仲介者に搾取されていると考えられる。
  • Kecamatan Jemaja (Mangkai島、Mangkai Kecil島、Pinanang島)
    入札金額; 2003年は入札対象となっていない。
    2001年は500万ルピー、2002年は800万ルピーである。
    落札者金額; 9,000万ルピー(2002年)
    タイマイ換算; 58巣(2002年の入札金額から類推)
    *実際の支払金額と聞き取り調査の金額の差が大きい。仮に9,000万ルピーに達するためのタイマイ換算をしてみると643巣(アオウミガメだと750巣)となり、実際にそれだけ産卵しているとは考えにくい。しかし、島での卵採取人と落札者の金額が一致していることから、落札者は9,000万ルピーを支払っている可能性もある。
  • Kecamatan Siantan(Durai島、Pahat島)
    入札金額; 1,500万ルピー、2001年は3,000万ルピー、2002年は領収書なし。
    タイマイ換算; 108巣
    落札者金額; 1億2,000万ルピー(2002年; ココヤシの採取権も含む)
    *ジュマジャ郡と同様に入札金額との差が大きい。タイマイ換算で858巣である。ココヤシの採取を含めるとしても産卵巣数が大きすぎる。入札金額に対応したタイマイ換算値の方が産卵実数に近いと考えられる。
  • Kecamatan Serasan(Bungin島、Sempadi島、Serasan島sisi海岸、Perantau島、Semuluk島)
    入札金額; 7,500万ルピー、2001年は1億100万ルピー、2002年は領収書なし
    タイマイ換算; 722巣
    落札者金額; 1億1,500万ルピー(1999)(財)東京都海洋環境保全協会(2000)
    *1999年当時、スラサン郡はスビ郡も含めて南ナツナ諸島として入札金をタンジュンピナンに支払っていた。当時は組合があり、組合代表者が入札対象7ヶ所から2億ルピーを集金し、代表者が州政府に1億1,500万ルピーを支払っていた。代表者は8,500万ルピーを手数料として個人で受け取っていた。このシステムは当然のことながら問題化しており、2000年には改善されるとのことであった。入札金額が減少しているのは、スビ郡の2ヶ所(5,000万ルピー)が分けられたためと考えられる。
  • Kecamatan Midai(Midai島)
    入札金額; 200万ルピー、2001年は資料なし、2002年は150万ルピー
    落札者金額; 未調査(ミダイ郡の調査は行っていない)
    タイマイ換算; 15巣(産卵巣はかなり少ないと考えられる)
  • Kecamatan Bunguran Utara(Panjang島)
    入札金額; 300万ルピー、2001年は資料なし、2002年は200万ルピー
    タイマイ換算; 22巣
    *入札金額にはイワツバメの巣の採取権も含まれる。産卵巣はかなり少ないものと考えられる。
  • Kecamatan Subi(Tudang島、Mambat島)
    2000年に行政府が移行して以降、入札対象となっていない。1999年は南ナツナ諸島として2ヶ所で5,000万ルピーを組合に支払っていた。組合はタンジュンピナンから採取許可を受けていた。
  • タンブラン諸島およびバダス諸島全域
    タンブラン諸島(56島中産卵している島は28島)およびバダス諸島(22島中産卵している島は10島)はナツナ州の管轄に入らなかった。ウミガメ卵の採取許可はビンタン島のタンジュンピナンから受けている。(財)東京都海洋環境保全協会の報告書(1996, 1998年)によると、これらの地域の落札者は1人で全諸島からウミガメ卵を採集している。入札金額は、1987年は1,200万ルピー、1996年は1億4,700万ルピーであった。2003年10月に調査を行い、現在とりまとめ中である。タイマイの年間産卵巣数の推定値は、タンブラン諸島で200巣、パダス諸島で300巣である。
  • 西カリマンタン・パロ川周辺
    (財)東京都海洋環境保全協会の報告書(2000)によると、パロ川周辺は、パロ川からマレーシア国境までの60kmにもおよぶ海岸である。卵を採取しているのは南部の25kmほどの地域である。入札制度は、西カリマンタン州政府ではなく、サンバス市で行われている。入札金額は1998年時点で2,100万ルピーである。落札者は1人で1995年から1999年までの産卵巣数と採取した卵数の記録をつけていた。タイマイは415巣から640巣の間を変動している。

上記以外に北ナツナ諸島のラウト島は、伝統的ウミガメ卵の採取を島民に限って認められており、採取された卵のほとんどは島内で消費される。

ナツナ海周辺で、タイマイの繁殖がある程度まとまってみられているのは、シアンタン郡のパハット島、スビ郡のツダン島、バダス諸島のジュンクラン島、西カリマンタン州のパロ川周辺、リンガ島周辺のカバス島、モンペラン諸島のモンペラン島とプスムット島、この報告書では言及していないがセガマ諸島のセガマブサール島、グルシック島周辺のキマル島、リマ諸島のパンジャン島の計9島とパロ川周辺の1地域だけである(表5)。ナツナ海周辺におけるこれらの主要なタイマイの繁殖地では、年間に2,300巣から2,650巣のタイマイが産卵していると推定される。これらの10個所の繁殖地のうち、現在保護されているのは、モンペラン島、プスムット島、セガマブサール島だけである。キマル島もかつては保護されていたが、1999年以降現在まで海賊に占領され、入島できない状況となっている。パロ川周辺は、かつて保護活動を試験的に行ったが、1999年に発生したサンバス市の暴動の影響や保護対象地区が広すぎるため、本格的な保護には至っていない。アナンバス諸島や大ナツナ諸島および北ナツナ諸島では入札地域が減少している。これは明らかにウミガメ産卵巣の減少を示すものであり、現在産卵巣がある程度まとまっている島々を早急に保護する必要がある。ジュンクラン島は1998年、ツダン島は1999年、パンジャン島は1999年の調査であり、既に調査から数年経ており、現在の実数値は表で示した物よりも減少していると思われる。これらの島で入札の対象になっていないのは、キマル島、カバス島、パンジャン島である。ただしキマル島では、海賊占領前は、島の所有者が海岸使用料をブリトン島の地方行政府に支払っていた。

表5 ナツナ海周辺における主要なタイマイ繁殖地

表5 ナツナ海周辺における主要なタイマイ繁殖地

インドネシアでタイマイを保護する場合は、教育・啓蒙活動や法の施行では困難である。実際に国の法律ではウミガメ類は保護されており、卵を含め一切の採捕は禁止されている。入札制度は、国の法律を無視した地方行政の制度である。ナツナ州の場合、入札金額は2003年の6地域で1億400万ルピーに達し、日本円に直すと150万円弱になり、これは約11人分の1年間分の公務員給与に相当する。さらに、ナツナ州は行政府が2000年7月に移行し、現在も諸々の管轄権限が徐々に移行されている状況であり、地方行政にとって入札金は重要な収入源となっている。そのため、入札制度の廃止や縮小は非常に困難な状況である。

現在取りうる具体的で早急な保護対策としては、モンペラン島、プスムット島、セガマブサール島で行っている卵を採取している人の雇用や、もしくは落札者からタイマイ産卵分を買い取る方法が最も適している。しかし、これには持続的かつ莫大な経費が要求される。そのため、このような保護地に広義の意味でのエコツーリズムを導入し、生涯学習や保護の実体験、研修、研究者への研究場所の提供などを実施し、一方通行の経費流失を循環型保護地域へと変遷させていく必要がある。特にタイマイが産卵するような島は全く開発されていない島であり、ウミガメばかりではなく海洋環境全体のニッチの調査や研究に適している。さらに、開発途上国における地域経済のあり方や地方文化の研究など、経済学や民俗学などの研究の場も提供できる要素がある。

写真1 ナツナ島の政府経済局での聞き取り調査 ここで入札の許可証を発行している。

写真1 ナツナ島の政府経済局での聞き取り調査 ここで入札の許可証を発行している。

写真2 入札金を支払う地方税局 ここでも聞き取り調査を行い、実際の入札金額とシステムを調査する。

写真2 入札金を支払う地方税局 ここでも聞き取り調査を行い、実際の入札金額とシステムを調査する。

写真3 スカトゥン島のウミガメ卵採取権を落札したアルマン氏(右から2番目) アルマン氏の話では、入札対象はスカトゥン島だけだと言っていたが、スミウン島も含まれることが地方税局でわかった アルマン氏もスミウン島のジャエヌディン氏もそれぞれ700万ルピーを払っているという。

写真3 スカトゥン島のウミガメ卵採取権を落札したアルマン氏(右から2番目) アルマン氏の話では、入札対象はスカトゥン島だけだと言っていたが、スミウン島も含まれることが地方税局でわかった。アルマン氏もスミウン島のジャエヌディン氏もそれぞれ700万ルピーを払っているという。

写真4 スカトゥン島 ナツナ海で最も北に位置する島である。右の方に見えるのが入札海岸。

写真4 スカトゥン島 ナツナ海で最も北に位置する島である。右の方に見えるのが入札海岸。

写真5 スカトゥン島の入札海岸 2003年はスミウン島と2島で700万ルピー。産卵跡は少ない。

写真5 スカトゥン島の入札海岸 2003年はスミウン島と2島で700万ルピー。産卵跡は少ない。

写真6 スミウン島の入札海岸 中央にカメ小屋が見える。

写真6 スミウン島の入札海岸 中央にカメ小屋が見える。

写真7 スミウン島のジャエヌディン氏(左)のカメ小屋 卵の採取人からの聞き取り調査。

写真7 スミウン島のジャエヌディン氏(左)のカメ小屋 卵の採取人からの聞き取り調査。

写真8 ジャエヌディン氏が採取した2巣分のアオウミガメの卵

写真8 ジャエヌディン氏が採取した2巣分のアオウミガメの卵

写真9 ジャエヌディン氏が飼っている牛 これを売って入札金を支払っている。

写真9 ジャエヌディン氏が飼っている牛 これを売って入札金を支払っている。

写真10 入札の規定により飼育されているふ化稚亀用の生け簀

写真10 入札の規定により飼育されているふ化稚亀用の生け簀

写真11 生け簀の中のアオウミガメのふ化稚亀

写真11 生け簀の中のアオウミガメのふ化稚亀

写真12 入札対象のパンジャン島の北側の海岸とココヤシの畑。

写真12 入札対象のパンジャン島の北側の海岸とココヤシの畑

写真13 一番奥の青い屋根の家がナシール氏の家 周りに彼を慕っている漁師の家が密集している。ナシール氏はウミガメ卵の儲けを卵の採取人と山分けしている。ココヤシや活魚販売の事業も盛んに行っている。発電機があり、電気が使える。

写真13 一番奥の青い屋根の家がナシール氏の家 周りに彼を慕っている漁師の家が密集している。ナシール氏はウミガメ卵の儲けを卵の採取人と山分けしている。ココヤシや活魚販売の事業も盛んに行っている。発電機があり、電気が使える。

引用文献および参考文献

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  • Schulz,Joop.P. 1984. Turtle conservation strategy in Indonesia. ICVN/WWF report No.6. Project 3108 field report.
  • Schulz,Joop.P. 1989. Report on observations on sea turtles East Indonesia (with notes on nature conservation in general). IUCN.
  • Groombridge,B. and R.Luxmoore. 1989. The green turtle and hawksbill (Reptilis:Cheloniidae) world status, exploitation and trade.
  • Suganuma,H., N.Kamezaki and Y.Akil. 1999. Current Status of Nesting Populations of the Hawksbill Turtle (Eretmochelys imbricata) in the Java Sea, Indonesia. Chelonian Research Foundation,Vol.3(2):337-343.
  • (財)東京都海洋環境保全協会海洋生物研究室.1996.平成7年度インドネシア・スリブ諸島におけるタイマイ資源・生態調査報告書.
  • (財)東京都海洋環境保全協会海洋生物研究室.1997.平成8年度インドネシア・ジャワ海におけるタイマイ資源・生態調査報告書.
  • (財)東京都海洋環境保全協会海洋生物研究室.1998.平成9年度インドネシア・ジャワ海におけるタイマイ資源・生態調査報告書.
  • (財)東京都海洋環境保全協会海洋生物研究室.1999.平成10年度インドネシア・ジャワ海におけるタイマイ資源・生態調査報告書.
  • (財)東京都海洋環境保全協会海洋生物研究室.2000.平成11年度インドネシア・ジャワ海におけるタイマイ資源・生態調査報告書.
  • (財)東京都海洋環境保全協会海洋生物研究室.2001.平成12年度インドネシア・ジャワ海におけるタイマイ資源・生態調査報告書.