チゴハヤブサの調査保護と子供達への環境教育活動Protection and investigation of Falco subbuteo and environmental education activity to children

著者名Authors

札幌チゴハヤブサの会 Sapporo Falco Subbuteo Association

東郷典彰Noriaki Tougou・ 敦賀英男Hideo Tsuruga

著者所属Affiliations

  1. 1) 北海道庁 (札幌市中央区北3条西6丁目)
  2. 2) 北海道大学工学部 (札幌市北区北13条西8丁目)

1. はじめに

北海道と東北地方には毎年4月の終わりから5月の初めになると、比較的小さな猛禽類であるチゴハヤブサのつがいが、越冬地の中国南部から繁殖のため渡来して来る。体の大きさはハトほどであるが、翼が長いので飛んでいる姿は一回り大きく見える。渡って来たチゴハヤブサは6月の初旬になると、ほぼ3日に一個ずつ卵を産み、3から4個の卵を産卵する。抱卵は2個目の産卵から本格的に行い、約1ケ月間抱卵すると7月の中旬に卵は1~2日の間に孵化をする。孵化した雛は約1カ月間、巣の中で育てられ、8月の中旬に巣立ちを迎える。巣立ちした若鳥はまだ自分で餌を捕ることができないので、しばらくは親に付いて餌をもらう。10月に入ると親鳥は子別れをして、越冬地に向かって先に渡りを行う。残された若鳥も10月中旬には、越冬地に向かって渡りを始める。これがチゴハヤブサの繁殖地での大まかな行動である。

チゴハヤブサの性質で最も大きな特色は、飛ぶ速さが早いという他に、自分で巣を作らず、カラスの空き巣を利用して産卵し、育趨することである。また、縄張りを持ち巣の周り数百m以内に近づく、他のチゴハヤブサを攻撃し排除する。さらに巣の状態と環境が変わらなければ、次の年も同じ巣を利用することが大きな特徴である。

前年に使った巣が壊れていたり無くなっていたりする場合には、縄張りの範囲内で近くの空いているカラスの巣を使うことが多い。

初めて渡来して産卵するつがいは、縄張りの決まっていない所にあるカラスの空巣を捜さなければならない。隣のチゴハヤブサの巣との距離がおおよそ1.5km以下に近づくと、2つの巣の中間で縄張り争いが生じる。

チゴハヤブサが営巣する場所は、森林のような樹木の茂った所ではなく、人が住んでいる地域で、周りが拓けた所にあるカラスの巣を良く使う。巣のある高さは一般に10m以上の高い所で、幹に近い所に造られた巣をよく利用する。また、ゴルフ練習場の高いフェンスの上や送電線の鉄塔など、高い所にあるカラスの巣を利用する場合もある。最近では送電線の鉄塔に掛けられたカラスの巣を、電力会社が「鉄塔を腐食させる恐れがある」ということで、鉄塔を金網で覆ったり、巣を撤去したりするので、チゴハヤブサが鉄塔を利用することは稀になっている。

札幌市とその近郊では毎年20つがい程度のチゴハヤブサが営巣し、子育てをしているが、2003年では鉄塔を利用したのは1カ所のみであった。また、ゴルフ練習場の鉄骨の上に造られたカラスの巣を利用したのが1カ所であった。巣は樹木、特に松やトウヒに造られたカラスの巣が多い。

猛禽類であるチゴハヤブサは、速く飛ぶことで飛んでいる小鳥や昆虫を大きな爪で捕まえ、餌としている。抱卵と育趨時期には、餌となる小鳥をもっぱら雄が狩りをして捕まえ、雌に渡している。雌は雛の成長に合わせて、初めのうちは餌を小さく引き裂いて与え、巣立ち近くには小さい小鳥を1羽、丸ごと雛に与えるようになる。

このようなチゴハヤブサの生態を冊子にまとめ、多くの人にチゴハヤブサを知ってもらうために、チゴハヤブサの観察用ガイドブックを作成した。

2. 渡来調査と営巣地点調査

札幌チゴハヤブサの会はこれまで毎年、札幌とその近郊で営巣し、雛を育てているチゴハヤブサの営巣分布を調査して来た。2002年は札幌には図1に示すように13箇所の営巣を確認した。これらの巣から巣立った若鳥の総数は23羽であった。図2は2003年の営巣地点を示した。2003年は17箇所の営巣を確認したが、無事に雛の巣立を迎えた巣は10個所であった。2003年の札幌におけるチゴハヤブサの巣立ちの総数は21羽であった。一つの巣で最も多い雛の数は3羽で3個所の巣で見られた。営巣の場所は前年と同じ巣を使ったものが5ケ所で、他の巣は前の年に使った巣が落ちたり、壊れたりしてしまったために、縄張りの内で近くの空いているカラスの巣に移動したものである。図1に示した2001年の営巣場所と比べてみると大きな移動はないことがわかる。

図1 札幌市内のチゴハヤブサの営巣場所(2002.9)

図1 札幌市内のチゴハヤブサの営巣場所(2002.9)

図2 札幌市内のチゴハヤブサの営巣地点と巣立ちヒナの数(2003.9.1)

図2 札幌市内のチゴハヤブサの営巣地点と巣立ちヒナの数(2003.9.1)

産卵から巣立ちまでの間で、卵や雛がカラスに襲われたり、巣から落ちたりすることも少なくない。毎年、必ず数羽の雛が巣から落ちている。2003年にも2個所で雛が巣から落ち、動物園や個人に育てられた後放鳥された。過去にはカラスに巣の中の雛が襲われて全滅したこともあった。

札幌チゴハヤブサの会は、2002年にチゴハヤブサが営巣すると予測されたカラスの巣に小型のビデオカメラを設置して、チゴハヤブサの産卵から巣立ちまで、1日に18時間ビデオテープに記録することに成功した。この記録を解析すると、3羽の雛が巣立ちまでに与えられた小鳥の数は307羽で、トンボは310匹、セミは54匹であった。2003年も同じ巣にビデオカメラを設置し観察を行ったが、孵化直後の強風によって巣が壊れたため、3羽の雛が巣から落ちて全滅してしまった。写真1と写真2に2002年と2003年のつがいの写真を示した。左)はオスで右)はメスである。写真から同じペアであることがわかる。

写真1 2002年のチゴハヤブサのつがい オス

写真1 2002年のチゴハヤブサのつがい メス

写真1 2002年のチゴハヤブサのつがい 上はオスで下はメス。

写真1 2003年のチゴハヤブサのつがい オス

写真1 2003年のチゴハヤブサのつがい メス

写真2 2003年のチゴハヤブサのつがい 上はオスで下はメス。

3. チゴハヤブサの観察会

札幌チゴハヤブサの会が毎年夏に行なっている小中学生を対象とした「チゴハヤブサの子育て観察会」を平成15年8月3日に開催した。プロ・ナトゥーラ・ファンドにより作成したガイドブックを手にチゴハヤブサの観察を行った。一般の参加者は18名で、当会の協力者は9名であった。当日はあいにくの雨であったが、バスで現地に到着した時には少し小止みになった。観察場所では巣立ち直前の3羽のチゴハヤブサの雛の姿を、フィールドスコープを通して間近に見ることができた。

4. 中学生にチゴハヤブサの生態を紹介

札幌チゴハヤブサの会は2003年9月3日に札幌市立青葉中学校の生徒4名と引率教諭1名の訪問を受けた。これは中学校の教育活動の一環として、野生生物の絶滅危惧種に関する調査の一環として訪れたものであった。チゴハヤブサは現在、絶滅危惧種には指定されていないが、人間と同じ地域に生息することから、環境の指標として捉えることができると考えられる。そして、チゴハヤブサが減少することのないように環境を保全する必要があることを訴えた。

5. チゴハヤブサ営巣地域住民に対する啓蒙活動

6月22日に札幌市北区の営巣地近くの町内会館で、チゴハヤブサを紹介するビデオ「街の中に生きるチゴハヤブサ」を上映した。営巣地近くに住む30名ほどの住人の参加を受け、チゴハヤブサが来ることの意味を伝えることができた。

チゴハヤブサ営巣地近隣の住民に対しては、作成したチゴハヤブサ観察ガイドブックを渡し、この鳥は環境が良ければ毎年同じ巣を使うことを伝え、自然環境の保全に協力を依頼した。