希少植物「カワラノギク」の保護・育成The culture of few plant「Kawaranogiku」

著者名Authors

はむら自然友の会Hamura Shizen Tomonokai

岡崎学Satoru Okazaki

著者所属Affiliations

  1. 東京都羽村市東2-17-52 岡崎方

1. 活動の経緯

カワラノギクは関東地方の一部の河川に生育するキク科の二年草です。山地に生育するノコンギクやヤマシロギク等のいわゆる野菊の一種で生息地が玉石河原に限られています。1927年に立川市内の河原で発見され、京都大学名誉教授の北村四郎博士により学名がつけられたものです。学名のカントエンシスは、関東地方の河川の中流域に生育するので名前がつけられたもので、多摩川をはじめ、相模川、那珂川、鬼怒川などに自生しています。しかしながら、どこの河川でも水利施設の発達で洪水発生区域が限定されるようになり、玉石河原が減少してしまいました。今や、カワラノギクが生息している河川では、カヤ、ヨシだけでなく潅木が生い茂り、カワラノギクは絶滅の危機にあります。

昭和30~40年代に中流域の羽村の河原に群生していたカワラノギクは、今や河川環境の変化に追従していくことが出来ずに生存の危機に見舞われています。

多摩川では、2001年8月の台風で羽村市、あきる野市内の生育地以外は、洪水のため全て流失してしまいました。

カワラノギクは二年草のため、前年に発芽したものが翌年の10月に開花します。このため、自家受粉でも繁殖するセイヨウタンポポをはじめヒメジョオンやハルジオンのようにどこにでも生える植物と違い、カワラノギクには特定の環境にしか生育できない事情があります。例えば、関東地方の河原の中流域で、しかも玉石がごろごろしているような河原にしか生育できません。カワラノギクそのものは、真夏の日照りが続く乾燥した河原で下葉をボロボロに枯らしてもなお生き残り、厳冬期には寒風吹き荒ぶ寒河原で乾燥と寒さを耐え忍び、ロゼットで過酷な気象条件の中を生き抜いていく植物です。河川の氾濫を適度に利用したり、玉石が見える程度に草が生育しているような場所を好みます。見方次第では、自然環境に左右されやすい植物といえますが、実際には長期にわたっての保護育成活動が必要な植物の一つです。はむら自然友の会では1994年以来、この貴重な植物の保護育成に努力していますが、河川環境の変化や自然遷移に抵抗しながら、育成地の河原状態の維持を目指して、定期的に除草・開墾などを繰り返しています。多摩川にカワラノギクが群生する日を実現し、多くの都民の方々に楽しんでいただきたいと考えています。

ところが、いざ実際にどれだけのカワラノギクが自然状態で生き残っていけるかとなると、非常に悲観的になってしまいます。なぜなら、我々が目の当たりに見ている多摩川の河原は、年々歳々草原が増え、林が増えていく状態です。さらに台風に伴う洪水による流路なども水利施設が完成した関係で水流が一定になり、何年かに一回の割合で大洪水になることがなくなってしまい、常に同じ場所まで水位が上がるようになり、玉石河原の状態のところは、ごく狭い範囲となってしまいました。毎年河原部分の同じ所が洗い流されてしまうので、二年草のカワラノギクは、発芽してもその年の間生き残れないのです。

はむら自然友の会が本格的に育成地を確保して、保存活動を始めたのは1998年からです。当時は羽村大橋下流付近にはかなり広い面積にカワラノギクが群生していましたが、我々が育成地と決めたところは自生種がわずかに残っていた程度でした。羽村では、もうこの時点でカワラナデシコは絶えていましたが、なんとか、羽村地域内でカワラノギクを保護することができました。

当時の建設省京浜工事事務所多摩川上流出張所で占用手続きをし、育成地を確保して農機具を買い揃えて年々拡張してきましたが人力にも限界があり、現在ではおよそ520m2の範囲内で育成しています。

育成地の区画を明確にするために周囲をロープで囲いましたが、周辺環境に配慮して柱は木製とし、看板なども木製で控えめなものにしました。数年前に生態学者からカワラノギクの嫌地現象の話があり、カワラノギクは同じ場所では育たないと言われ、年々育成地を広げながら場所を変えていく予定です。しかし、8年間の実績を見る限り目立つような嫌地現象はみられないので、大規模な開墾を一時中断し、520m2の範囲プラス周囲の状況を観察しながら保護育成活動をすることになり、現在に至っています。実際にロープで区画した周辺にも種子が飛び生育しているところがあります。なるべく人為的にならないよう、自然の状態に近い形で保護育成しているので、最低限の人為作業としての除草作業を実施しています。

2. 除草作業

毎月第二日曜日に実施する草取りだけでは間に合わないので、7月~9月に月2回の除草活動を実施します。真夏は、早朝組や夕方組など自分の都合に合わせて一時間ほどの草取りをしています。庭の手入れのように綺麗に除草してしまうと真夏の太陽をまともに受け、カワラノギクの多くが枯れてしまいます。そこで、カワラノギク以外の植物を残すように調整した結果、現在のようにカワラヨモギ、ヒロハノカワラサイコ、カワラニガナなどの河原特有の植物などと共生させるようにしました。ところが、土手の土留めに用いたコウライシバがカワラノギク育成地に侵入してきて除去しきれない状態で難儀しています。

10月中下旬、開花を迎えると一年間の苦労が報われるときです。日照りで枯れた苗もあり、過酷な河原環境に生き残ったものだけが開花します。花を見る時期は半月、手入れは12ヶ月です。

夏、強烈な日照りが続き河原は干魃状態になります。このとき、2年目のカワラノギクは地上20~30cmの下葉を枯らして水分の蒸散をさけ、種子をつけた枝を干魃から守ります。しかし、2003年の9月には干魃に耐えきれずに育ちの悪い苗は枯れてしまいました。

3. 補植活動

直蒔き以外に発泡スチロール箱に種子を蒔いて発芽2ヶ月後に河原に植えたりしましたが、現在では直蒔きを主流にしています。これも生態学者から苗床育ちのカワラノギクは、病気になりやすいとか育ちが悪いと指摘されたからです。

育成作業開始当時は、会員が各自の家で発泡スチロール製の箱で苗を育て6月の雨期を利用して移植していました。11月~12月に採取した種子を年内、または翌年に砂や砂利を主体にした箱に蒔くと、4月に発芽し、双葉が育ち始めます。6月頃までに10cmほどに生長します。会員各自の庭の生育環境は多くの場合日照不足のため、ひょろひょろした苗になってしまう例が多く、自然の中で育ったものとは比較にならないほどです。しかし、自然状態とはいえリスクを心配して、一部家庭での育成を続けていますが、生育環境への配慮を怠ることのないようにしています。

4. 開墾作業

多摩川の河原は、石や砂利層が隠れてしまい、冬季には枯れ草に覆われてしまいます。カワラノギクの種子が着地する所がなくなり、衰退の一途をたどっています。草木の根っこを引き抜き、砂利層が表面に出るようにして玉石河原を復元するため開墾しなければなりません。この作業は大変過酷な作業で男性の力に頼る以外ありません。特にニセアカシアの根っこがはびこり苦労しています。ニセアカシアは、今や多摩川の厄介者扱いです。

羽村市から下流の福生・あきる野市にかけての河川敷はニセアカシアが林を形成し、河原植物への影響が大きな問題となっています。

はむら自然友の会は、東京都が実施しているみどりのボランティア制度の受け入れ団体として登録されていますが、募集段階で過酷な開墾作業や真夏の太陽の下で行う除草活動に耐えられる強靱な気持ちと体力の持ち主に限るとしているので、応募者が少ない状況です。開墾作業の場合、畑仕事に使用する鍬では歯が立たないので、ツルハシや河原専門の四本鍬で開墾します。たとえ草原でも、根元の下には大きな石や砂利が埋まっていて、表土をはぐだけでも大変な作業です。

年間を通した主な活動は、除草と害虫退治ですが、除草は前述以外の植物では、大敵のアメリカネナシカズラでした。夏から開花直前まで猛威をふるい、いくらとっても退治できませんでした。その他マンネングサやエノコログサ、苔類の除草に苦労しました。害虫は赤いアブラムシにとりつかれ、環境保全の立場から薬剤を使用しないで牛乳を噴霧器でかけたり、最終的には一匹ずつ手でつぶして殺しました。また、冬季は体を動かしても汗をかかないので開墾作業を行い、1年目は育成地拡張のための開墾に全力投球しました。2年目には表土の富栄養化を防止するため「天地返し」といって、土砂の入れ替えを一部分について手がけてみましたが、ともに重労働で長く続けることはできませんでした。

冬季の除草作業はもっぱらコウライシバと多年草のロゼット抜き。カワラノギク育成地の南側の堤防に植栽されているコウライシバの種子が育成地内に入りこみ、カワラノギク育成を阻害し大変迷惑しているので、コウライシバを目の敵にしています。また、ハルジオンやヒメジョオン等の多年草のロゼットも除草対象として引き抜いています。そこに根っこから引き抜いた種子付きのカワラノギクの枯れた枝で、地面をぱたぱたとたたくようにして種子を散布しました。今回は羽村堰付近に設置された魚道建設工事に伴い、掘削された後が裸地化しているので、ここに播種しました。ちなみに現在10本ほど新苗が草むらの中に生えているので来秋が楽しみです。

はむら自然友の会ではカワラノギクの保護・育成に関し、人の手をどこまで差し伸べるか、いつも悩んでいます。除草、害虫退治、開墾による拡張など、なるべく過保護にならぬよう、しかもカワラノギクが絶えることのないようにと日夜努力しているところです。

写真1 育成地全景

写真1 育成地全景

写真2 作業風景

写真2 作業風景

写真3 カワラノギク観察会

写真3 カワラノギク観察会

写真4 12月の結実風景

写真4 12月の結実風景

写真5 満開のカワラノギク

写真5 満開のカワラノギク