日本における[自然の権利]運動の記録(~2002.12)"Rights of Nature" Movements in Japan (~2002.12)

著者名Authors

[自然の権利]セミナーSeminar on the "Rights of Nature"

浅見正夫Masao Asami・ 籠橋隆明Takaaki Kagohashi・ 鬼頭秀一Shuichi Kitoh・ 佐久間淳子Junko Sakuma・ 豊田和弘Kazuhiro Toyoda・ 中原貴久子Kikuko Nakahara・ 余門光子Mitsuko Yomon

著者所属Affiliations

  1. 〒170-0005 東京都豊島区南大塚1-3-25-305 佐久間淳子方

1. 本報告書作成の目的

1996年度助成を受け1997年末に刊行した『報告 日本における[自然の権利]運動』(以後報告書1と表記)を受け、その後の動きや更なる展開を集約・記録し発信することにより、1995年に始まった自然保護運動の手法の一つとしての「自然の権利訴訟」が得たものと残された課題を広く知ってもらい、今後の自然保護運動に役立ててもらう。

2. 報告書作成にあたって留意したこと

報告書1作成時には、全ての「自然の権利訴訟」が係争中であり、その実態がほとんど知られていなかったことから、均等に取り上げるよう配慮し、それぞれの訴訟グループの認識の差を「多様性」と捉えてもらえるように心がけた。

報告書2では、前回紹介した裁判のほとんどが終了し、結果が出ているため、裁判の結果の善し悪し、裁判という手法の選択が適当だったかどうか、運動としての展開がうまくいったかどうか、[自然の権利]とは何か、[自然の権利]は自然保護に役立つのかといった評価が求められると考えた。ただし、本書は運動の報告書であることを重視し、運動内部からは各自の自己評価を記録するにとどめ、裁判書類を豊富に収録することで、読者に判断を預けることとした。

評価書に相当するものは、今後、関係者の手によって編み出されることを期待する。

3. 『報告 日本における[自然の権利]運動』第2集の具体的内容

  • 自然の権利セミナー報告書作成委員会編
  • 定価(本体2,500円+税)
  • 全360ページ 変形A4判(287×210mm)
  • ISBN4-915594-21-1

(1) 「第一部 運動編」

冒頭には、自然の権利訴訟マップを掲載し、1995年に提訴された奄美自然の権利訴訟以降の主な自然保護訴訟を一覧できるようにした。ここでは奄美訴訟以前の「相模大堰建設差止訴訟」(1993年提訴)と「豊前環境権裁判」(1973年提訴)についても触れ、自然の権利訴訟に通ずる発想が既に以前から自然保護訴訟に現れていたことを記録した。

その次に、各訴訟の詳しい経緯をまとめたデータファイルと関連原稿を収めた。今回は、訴訟によって情報量の多寡に幅を持たせた。これは、特に訴訟が終了している方々が既に次の取り組みに入っており、改めて訴訟を振り返る原稿をお願いするのはためらわれたことと、相模大堰建設差止訴訟と生田緑地・里山・自然の権利訴訟、大雪山のナキウサギ裁判の3グループは独自に報告書を作成しているので、当報告書ではその表紙を紹介するにとどめ、さらに詳しい内容はそれぞれを参照していただくように案内した。

その代わり、「第二部シンポジウム採録」には、2003年1月開催した「自然の権利シンポジウム2003」の運動としての議論の経緯を掲載した。弁護士からも原告からも率直な感想が述べられ、第一部を補う内容となっている。

(2) 「第二部 シンポジウム採録」

2003年1月25・26日に開催した「自然の権利シンポジウム2003―改めて、自然の権利を考える ― 奄美自然の権利訴訟 結審を素材に」のレジュメ類から抜粋したものと、ディスカッションを採録した。

ここからは、原告の思いを代理人(弁護士)たちが真剣に受け止め、その弁護士と原告の姿勢に呼応した各領域の専門家たち(法哲学、生態学、環境倫理学など)が大勢支援に加わった構図がよく読みとれる。

写真1 奄美自然の権利訴訟、判決当夜 2001.1.22

写真1 奄美自然の権利訴訟、判決当夜 2001.1.22
原告、弁護団、一般の支援者だけでなく、鬼頭秀一さん(環境倫理学)、交告尚史さん(法学者)、ジャーナリストの顔がみえる。自然保護訴訟を支えるこのありようが実現したことを、今回の報告書では重点を置いて記録した。

(3) 「第三部 資料編」

前回の報告書に掲載した裁判書類以降のものを集めた。

今回は特に、原告の意見陳述と尋問調書、検証指示説明書を意識的に収集した。これらは、原告の思いをどう代理人が理解し法廷で展開したかをよく表している文献である。

また、奄美自然の権利訴訟については、全裁判書類を時系列でまとめたリストを付け加えた。これは、この訴訟が最も多く[自然の権利]についての考察を積み重ねたことから、今後研究者が文献として利用する可能性が高いと判断したためである。巻末の文献リストには、国会図書館のデータベースの検索結果を基本に、報告書1に掲載したものと、新たに独自に収集した情報を付け加えて約220件を紹介した。

写真2 集めた裁判書類の山

写真2 集めた裁判書類の山
原告たちの思いや、弁護士たちのがんばりがよく伝わってくる。これを広く読んでもらうことで、自然の権利訴訟が目指すものがより伝わりやすくなると判断し、OCR処理を行った。

(4) 付録のCD-ROM

1996年度助成の報告書『報告 日本における[自然の権利]運動』をまるごとPDF化したものに加え、奄美訴訟の全法廷傍聴報告(渡邊洋之)と、現地検証報告(佐久間淳子)、控訴審準備書面(奄美訴訟弁護団)をPDF化して納めた。

4. 報告書作りの意義

報告書1は、各訴訟グループの広報ツールとしての意味合いが強く、新聞、テレビ、雑誌などの報道関係者に役立てていただいた。例えば大雪山のナキウサギ裁判原告の神原昭子さんからは、「行政と交渉する際に非常に役だった」との報告をいただいた。単独・個別の訴訟のために作った広報ツールでなく、[自然の権利]というキーワードで多数の訴訟を括って紹介したことが、評価されたのだと推測される。

報告書2は、1990年代に提訴された自然の権利訴訟がほとんど終了していることと、それ以降に提訴され現在係争中の各訴訟グループについては広報機能が高いこと、また、自然原告が分離・却下されているケースが多いため、訴訟グループや報道機関が利用するよりも、法的側面、思想的側面を研究する、社会学の側面から研究するという方が手に取るケースの方が多くなると思われる。マスコミも、新聞、テレビ、雑誌よりも、書籍編集者の方が関心を持つだろうと思われる。

このことは、時期によって読者対象が変わるが、適切に対応すれば、訴訟が終わり、当事者たちが次の取り組みに移っていっても、訴訟の成果を議論の対象とさせ続けることができ、自然保護運動のあり方を考えていく上で将来に渡って長期間役立たせることができると考える。

5. P.N.ファンド助成のネットワーク

今回収録した関さん・小島さんの「ナキウサギ裁判が自然保護運動を変えた」は、「技術と人間」(1999年5月号)に掲載されたものの改稿だが、この原稿を収録できたのは、2002年度P.N.ファンド助成成果発表会の席上で小島望さん(「止めよう日高横断道路」全国連絡会調査部)と出会ったことが、直接のきっかけであった。

そもそも、奄美自然の権利訴訟の代理人、籠橋隆明弁護士と出会ったのは、東京水産大学で開催された「海生哺乳類と人間のかかわり」研究集会(第3回助成1994年2月)がきっかけであった。

また、馬毛島自然の権利訴訟を行っている馬毛島の自然を守る会は、2001年度の助成を受け、馬毛島の自然と歴史:市民調査による報告書とガイドブックを作成している。

このように考えると、P.N.ファンドの助成に支えられた運動のネットワークがいかに大きいかを感じる。このネットワークに加えていただいたことを大変光栄に思い、それだけの責務を果たす一翼を今後も担っていきたい。

写真3 成果物

写真3 成果物