吉野川河口干潟周辺における「人と自然とのふれあい」をベースにした環境マップの作成Creating a "Human-Nature Interaction" Environment map of the Yoshino River Delta

著者名Authors

とくしま自然観察の会Tokushima Association of Nature Observation

井口利枝子Rieko Iguchi・ 近森憲助Kensuke Chikamori1)・ 樋口緑Midori Higuchi・ 大久保多加代Takayo Okubo・ 大原米子Yoneko Oohara・ 猪子知子Tomoko Inoko・ 吉田啓子Keiko Yoshida・ 渡邉重義Shigeyoshi Watanabe2)・ 粟飯原治仁Haruhito Aihara・ 田島正子Masako Tajima・ 津川なち子Nachiko Tsugawa・ 太田尚子Naoko Ota・ 村田佳代子Kayoko Murata

著者所属Affiliations

  1. 1) 鳴門教育大学総合学習開発講座
  2. 2) 愛媛大学教育学部理科教育講座

1. 目的

第十堰の住民投票で日本中に名をはせた吉野川。河口から第十堰の14.5kmまで広がる汽水域と、日本一の川幅を誇る河口に広がる干潟は、今日失われつつある日本の河口本来の姿があり、人々に豊かな水辺環境を提供している。この河口域500haは、様々な渡り鳥にとって重要な中継地となっており、1996年のラムサ―ル会議で立ち上げられた「東アジア・オーストラリア地域におけるシギ・チドリ類重要生息地ネットワーク」に日本で最初に参加し、さらに環境省の日本の重要湿地500( http://www.sizenken.biodic.go.jp/wetland/ )に選定されている。そして、ここではレッド・データブック掲載種である、シオマネキやルイスハンミョウなどたくさんの稀少種がごくあたりまえに豊富に生息している。しかし今、複数の大型公共事業(東環状大橋・四国横断自動車道路橋・マリンピア沖洲第2期工事)によって、河口干潟の自然は切り刻まれようとしており、特に干潟の中枢部を通過する東環状大橋(仮称)の建設は、残念ながら本活動期間中に着工になった。様々な人々から愛されてきた吉野川河口について、私たちは情報をできるだけ多岐に渡って集積し、そのデータをもとに環境マップを作成することによって、吉野川河口干潟のことを市民にわかりやすく伝え、河口干潟の保全に関心を持つ人々とのネットワークを広げていくことを本活動の第一の目的とした。

2. 方法と結果

(1) 市民レベルでの調査

1) 市民に対するアンケート調査(街頭と河口周辺で実施)

「吉野川河口干潟をどのように感じているのだろうか?」「河口干潟の開発に関してはどのように思っているのだろうか?」本活動のスタートとして、河口干潟周辺の自然や開発に関する市民の意識や関心について調査を行なった。私たちは、常に社会的な事情を意識しながら、市民の目線を大切にした活動をしていきたいと考えており、本活動でも、市民の思いを反映した環境マップをつくるためにアンケート結果をベースにしたいと考え、徳島駅前や商店街などで街頭アンケート(322人回答)を行った。着工直前になった東環状大橋については、44%が「必要でない」という声があり、計画については、約半数が「知らない」・「わからない」と答え、民意とは何か、情報公開とは何かなど大きな課題を残していることがわかった。

さらに吉野川河口周辺の堤防で散歩をしている人々にアンケート調査(140人回答)を行った。「吉野川河口のどんなところが好きですか?」という問いかけに対して、たくさんの人が河口の風景や大きさ、広がりと答えている。さらに、「橋が架かったらどんな変化があると思いますか?」に対しては、風景や環境の変化を敏感に予想し、多くの人が心配し、関心を持っていることがわかった。

図1-1 東環状大橋の建設計画を知っていますか?

図1-2 東環状大橋は必要だと思いますか?

図1-3 吉野川河口のどんなところが好きですか?

図1-4 河口に橋が架かったらどんな変化があると思いますか?

図1 市民に対するアンケート調査結果

人がどんどんと便利になることが、果たして豊かな暮らしなのか?多くの人々から、人と自然との関わりについて、いまこそ見つめ直す時かもしれないという声が聞かれた。東環状大橋(仮称)建設を考えることは、自分たちの暮らしぶりに思いをめぐらせ、様々なことを問われることだと思う。

2) 生物調査、干潟に関わる人の暮らしや環境変化に関する情報収集

国土交通省が第十堰可動堰化計画の際に実施した河口域の環境調査について、情報公開を求めながらそのデータを市民と共有し、またそれを評価するために東京大学大学院の清野聡子先生など専門家に助言を受け、市民レベルで生物調査を始めた。得られた情報については、本会のホームページ( http://www.shiomaneki.net/ )で公開している。さらに、干潟の利用状況の調査として、人、渡り鳥などの生物の立場からの環境調査を行った。吉野川河口干潟では、人間だけでなく、多様な生き物が年間を通じて、様々な利用の仕方をしていることを再認識した。

(2) 自然観察会の開催

今まで同様、定期的に吉野川河口干潟で自然観察会を開きながら、専門家を招いて、楽しく吉野川河口干潟の価値がわかるような観察会を開いた。なかでも和歌山大学の古賀庸憲助教授との観察会は、カニ類の様々な行動を専門的に学ぶことができて大好評であった。

(3) 学習会の開催

1) 学習会「吉野川河口干潟をめぐる市民の井戸端会議」

NACS-Jの吉田正人理事が徳島大学でのシンポジウムに来県する機会をとらえて講師をお願いし、吉野川河口干潟の保全活動に関わっている6つの市民団体に呼びかけて学習会を開いた。吉野川河口干潟周辺の開発、特に東環状大橋建設計画は、環境影響評価、情報公開、住民合意、市民参加などたくさんの課題をかかえたまま進められてきた。そこで、川づくりや干潟保全について、全国での先進的な事例を学ぶことによって、吉野川河口保全に向けて全国的な視野で考え、知恵を出しあうためのネットワークの必要性を市民の間で確認しあった。

2) 学習会「市民の思いを反映する方法として、環境マップの作成」

2005年愛知万博(国際博覧会)の会場となる瀬戸市の海上の森で1990年から自然観察会を開いている「ものみ山自然観察会」代表の曽我部行子さんを講師に招いた。海上の森は古くから地域住民が関わる、いわゆる里山と呼ばれる自然環境にあたる。曽我部さんは、環境万博を唱う国際博覧会ではあるが、博覧会会場に使用されれば、現在の海上の森の様子は全く違ったものになってしまうことに危惧を抱き、その価値評価を市民にわかりやすい形で伝えようと、綿密な調査のもと、内容濃い『海上の森環境マップ』を作成した。「人」にとってどのような価値評価を持った自然環境地域であるのかという視点に注目して、環境マップの中に精神面での項目を盛り込むことを参考にした。

(4) 吉野川河口干潟の環境マップを作成

私たちは1994年に吉野川干潟で自然観察会を始めたが、10年間の情報、アンケート調査や環境調査などをベースにして、吉野川河口干潟の生き物、干潟の重要性、干潟と人の暮らしとのかかわりなどを紹介したものをまとめ印刷した(B4判4ページ・カラー刷り・1万部印刷)。残念ながら、2003年12月6日より、干潟の真上に架かる東環状大橋(仮称)の工事が始まり、爽快感に満ちた広々とした河口の風景は、今少しずつ、分断されようとしている。この渡河橋建設は、私たちが便利で快適な生活を追求する中で生み出されてきたものだが、私たちは、この工事によって何を失いつつあるのだろうか。この環境マップの中には、吉野川干潟の生物カレンダー図を盛り込み、また橋建設によって心配される環境変化についてわかりやすい形で伝えることを工夫した。環境マップを持って、一人でも多くの人に直接河口に足を運んでもらい、干潟のすばらしさを再発見してもらいたい。そして、吉野川河口干潟を見守り続ける人々を増やすことで、干潟保全の新たなスタートにしようと配布を始めている。

3. 今後の課題

活動期間を通して、自然観察会や調査への参加を呼びかけることで一人でも多くの人に直接干潟へ足を運んでもらう機会を作ることに力を入れた。また私たち自身も日常的に干潟へ足を運ぶことを心がけ、河口干潟に関する情報を集めた。しかし、本活動期間中は、東環状大橋(仮称)の建設事業について、吉野川の河川管理者である国土交通省による架橋の許認可審査が決定され、事業主である徳島県が架橋工事に着工したという非常に大きな状況変化があった。

私たちは環境マップの中で、「吉野川河口干潟の何がすごいのか、私たちは何を大切に思ってきたのか、吉野川の干潟の中央を通る大橋の建設によって、私たちは何を失おうとしているのか」を問いかけた。今後は河口干潟の価値を伝え、河口干潟の保全について、自分たちの生活に引き寄せて考えられる人々を増やしていくことが課題である。橋を架けることの意味を干潟と私たちの生活との「つながり」を原点として、これからも問いかけていきたい。

写真1 吉野川河口干潟環境マップ

写真1 吉野川河口干潟環境マップ

写真2 干潟での自然観察会

写真2 干潟での自然観察会

写真3 学習会「市民の思いを反映する方法として、環境マップの作成」

写真3 学習会「市民の思いを反映する方法として、環境マップの作成」

写真4 吉野川河口干潟の広々とした空の風景

写真4 吉野川河口干潟の広々とした空の風景

写真5 干潟の真上を通過する東環状大橋(仮称)建設工事

写真5 干潟の真上を通過する東環状大橋(仮称)建設工事

写真6 徳島駅前でのアンケート調査

写真6 徳島駅前でのアンケート調査