在来マルハナバチ類保護のためのセイヨウオオマルハナバチの野生化状況の評価と駆除方法の開発(2)Evaluation of present status on naturalization of introduced bumblebee, Bombus terrestris, and development of extermination procedure against the species for conservation of native bumblebee species (2)

著者名Authors

セイヨウオオマルハナバチ野生化問題研究グループStudy Group for Naturalization of Bombus terrestris

横山潤Jun Yokoyama1)・ 松村千鶴Chizuru Matsumura2)・ 中島真紀Maki Nakajima2)・ 杉浦直人Naoto Sugiura3)・ 松本雅道Masamichi Matsumoto4)・ 加藤真Makoto Kato5)・ 鈴木和雄Kazuo Suzuki6)・ 鷲谷いづみIzumi Washitani2)

著者所属Affiliations

  • 1) 東北大学大学院生命科学研究科
  • 2) 東京大学大学院農学生命科学研究科
  • 3) 熊本大学理学部環境理学科
  • 4) 九州大学大学院生物資源環境学府
  • 5) 京都大学大学院人間環境学研究科
  • 6) 徳島大学総合科学部自然システム学科

要約Summary

本研究は昨年度に続いて、在来の送粉共生系に深刻な影響を与える可能性があるセイヨウオオマルハナバチの野生化状況と生態的特性を明らかにし、その成果を駆除活動に応用することを目的とした。野外調査の結果、北海道など4道県から1,900頭以上のセイヨウオオマルハナバチが採集された。今年度は春の創始女王数が昨年の6倍以上に達し、野生化の範囲も拡大しており、自然巣も8個発見された。一方、継続調査を行っている門別町では、春の女王の捕獲数が昨年の10倍以上であったのに対し、それ以降の捕獲数は昨年並みであった。また平取町では、ハウスのネット展張により昨年に比べて5~7月に野外で採集された個体数が激減した。本年度の活動により、セイヨウオオマルハナバチの野生化個体群の駆除には、創始女王と自然巣の駆除を行うことが特に重要であることが示された。また、野生化の進行をくい止めるためにハウスでのネット展張を他地域でも呼びかけることが重要である。


The recent naturalization of introduced bumblebee, Bombus terrestris, in Japan is expected to give strong impact on native plant-pollinator interactions. In this study, we investigate the present status of naturalization of B. terrestris and the ecological features of the species. We also try to develop the extermination procedure of B. terrestris based on the ecological information obtained in this study. We collected more than 1,900 individuals of B. terrestris in the field from 13 localities belonging to 4 prefectures, involving 6 new records. Especially in Hokkaido, more than 1,800 individuals were obtained. Mass infestation of queens was observed in Hokkaido and individuals collected in 2003 were about 6 times more than those in 2002. 8 natural colonies of B. terrestris were found from Mukawa, Hokkaido. Numbers of individuals collected from Monbetsu in 2003 were about the same as those in 2002 though queens observed in the area increased more than 10 times. Bees collected from May to July in Biratori decreased because of extensive implementation of net extension on greenhouses. We propose following measures to exterminate naturalized populations on B. terrestris: (1) exhaustive collections of queens emerging from hibernation, (2) destroying natural colonies of B. terrestris. Publicizing the implementation of net extension is also important to prevent the release of B. terrestris into the field.

1. はじめに

マルハナバチ類は、主に北半球に分布する大型の社会性ハナバチであり、日本国内には3種6亜種の固有分類群を含む15種6亜種が知られている(伊藤 1991、鷲谷他 1997)。サクラソウなどの絶滅危惧種を含む数多くの植物の受粉に不可欠であり、自身の固有性だけではなく、様々な植物の繁殖を司る生物として自然保護上きわめて重要である。マルハナバチ類は、コロニーを蜜と花粉だけで維持するため、春から秋までの間、絶え間なく花が利用できる環境がないと生活できない。従って、マルハナバチ類の分布は植物相の豊かさに大きく左右され、環境の状態をモニターする指標生物としても卓越した性質を備えている。

しかし近年、農業用の授粉昆虫として利用されているヨーロッパ原産のセイヨウオオマルハナバチ Bombus terrestris(L.)が、在来マルハナバチ類の存在を脅かす外来種として問題視されている。本種は1992年の本格的な導入開始以降、主にハウス栽培トマトの授粉昆虫として全国で利用され、現在では年間約6万コロニーが輸入されていると推定されている(五箇 2003)。増殖力がきわめて高い本種は、花資源や営巣場所を巡る競争力が強く、しかも授粉せずに蜜だけ盗む行動をとることが知られており、野生化によって在来マルハナバチ類とそれに依存する植物の両方の生存に深刻な影響を与える可能性が懸念されていた(加藤 1993,鷲谷・森本 1993)。その懸念は1996年の自然巣の発見で現実のものとなり(保全生態学研究会 1997)、野外での観察・採集例は年々増加している。最も観察例が多い北海道門別町・平取町では、毎年春に多数の女王が観察されており、2002年には国内で3例目となる自然巣も発見され、既に野生化を遂げていると判断せざるをえない状態にある。このまま野生化が進行すると、在来のマルハナバチ類と植物両方の衰退という取り返しのつかない状況を招くおそれがあり、早急な対応が望まれる。

そこで本研究では、昨年に引き続き日本各地での調査をもとにセイヨウオオマルハナバチの野生化状況を把握し、野外での生態的特性を明らかにするとともに、それらの成果を応用して、北海道門別町・平取町・鵡川町を中心に実際の駆除活動を展開し、効果的な駆除方法を立案することを目的とした。

2. 調査地と調査方法

(1) 北海道: 調査は沙流郡平取町(主に南部)、門別町(主に富川地区)、および勇払郡鵡川町(主に田浦地区)において行った。平取町では、沙流川によって形成された扇状地で水田・畑作が営まれており、10年ほど前から温室栽培トマトの受粉にセイヨウオオマルハナバチが使用されている。2002年までは、温室ではセイヨウオオマルハナバチが逸出防止策が徹底されないままに使用されており、逸出は日常的に起きていた。門別町富川地区は沙流川河口に開けた緑の多い市街地である。トマト温室が林立する平取町南部からおよそ5~6km離れている。鵡川町田浦地区は入鹿別川の南東に広がる水田および畑作地帯で、平取町南部からおよそ10km離れている。調査に際してはあらかじめ調査範囲全体をまわって、マルハナバチ類の訪花が最も効率よく観察できる植物種が集中している場所をリストアップし、適宜巡回して効率よく捕獲できるように配慮した。

(2) 静岡県: 引佐郡細江町はミカンや花卉の栽培が盛んな地域で、傾斜地にはミカン畑が広く造成され、またヒノキ・スギの人工林と広葉樹林からなる里山的環境も残っている。調査は過去2年間継続してセイヨウオオマルハナバチが確認されている小野地区(松本 2001)を重点的に行った。この地域ではメロンの受粉用にセイヨウオオマルハナバチを利用しているようである。

(3) 熊本県: 主な調査地は、玉名郡横島町内の(1)トマト栽培用ハウス周辺、(2)菅原神社とその周辺、(3)山の上展望公園、および玉名市大栄にある(4)ニ分岐した道路の内側に作られた花壇である。(2)の調査地から最も近いトマト栽培用ハウスまでの距離は400m、(4)の調査地では、その最短距離がおよそ35mであった。調査地とした一帯は、有明海を埋めたてた造成地であるため、訪花昆虫相、植物相とも非常に貧弱である。ある程度まとまった開花量の見られる植物種は、そのほとんどが外来植物あるいは園芸植物である。

(4) その他: ハウストマト栽培が行われ、野外でのセイヨウオオマルハナバチの目撃情報が得られた地域(北海道静内町・旭川市・鷹栖町・東川町・東神楽町、福島県新地町・原町市)についても、各1~数回の調査を行った。

各地での調査は、ハチの活動に支障のない晴天から薄曇りの日に行った。北海道では2003年5月から9月まで計6回、静岡では2003年4月に1回、熊本では2002年10月から2003年9月まで毎月1回の計13回実施した。調査地で観察されたセイヨウオオマルハナバチは、可能な限り捕獲し、採集日時、カーストの別、行動、訪花植物の種類、個体の状態等を記録した。また、北海道では門別町富川地区の2軒の住民の方々にご協力いただき、2003年4月から9月まで庭や畑等で目撃、ないし捕獲したセイヨウオオマルハナバチの情報および標本を提供していただいた。鵡川町では厚真町鹿沼地区および鵡川町田浦地区の3件の住民の方の所有する私有地で観察をさせていただいた。

3. 結果

(1) セイヨウオオマルハナバチの野生化状況と捕獲数の月別推移

野外調査の結果、調査を行った4道県13市町からセイヨウオオマルハナバチが得られ、本研究で野外で採集されたセイヨウオオマルハナバチは、総数にして1,969頭に達した。各地での捕獲頭数を表1に示す。北海道門別町・平取町および鵡川町からの記録が大半を占め、2003年4月から9月までに1,828頭のセイヨウオオマルハナバチが捕獲された。この中には多数の繁殖個体が含まれており(女王35.8%、雄19.9%)、特に今年度は春に大量の女王が採集されたことが顕著である。上記3町で捕獲された女王数は654頭に達し、昨年の捕獲数の実に6.5倍にふくれあがっている。門別・平取町のみの集計でも昨年の3倍近い数となっており、野生化個体群が急速に増加している様子がうかがえる。熊本では103頭が採集され、働き蜂と雄が多く、特に雄は過半数を占めている。静岡で得られた個体は1頭のみであったが、今回の調査により3年続けてこの地区でセイヨウオオマルハナバチが確認されたことになり、今後も継続して観察する必要がある。このほか、北海道旭川市・鷹栖町・東川町・東神楽町で34頭のセイヨウオオマルハナバチが捕獲された。この地域で得られた個体は雄が多く、ハウスで使用されているコロニーから大量の雄が放出されていると推定され、新たな定着域となっている可能性も高い。

表1 本研究で捕獲したセイヨウオオマルハナバチの個体数

表1 本研究で捕獲したセイヨウオオマルハナバチの個体数

本研究で多数の個体が捕獲された北海道門別・平取・鵡川町と、熊本県玉名市・横島町での、月別の捕獲数推移を図1および図2に示す。北海道では昨年と異なり、春の女王の捕獲数が突出していることが顕著である。また、昨年に比べて、各町間の個体数の月別推移に顕著な差が無くなっている。これは今年より平取町でハウスでのネット展張が行われるようになったため、ハウスからの逸出個体が著しく減少したことに起因する。春の女王数が多いことを除けば、各地域の出現パターンは定性的には昨年の門別町富川地区のものと同様であり、野生化個体群の生活史パターンが経年的に安定して生起していることを示していると考えられる。一方熊本県玉名市・横島町では、捕獲数のピークは4~5月にあり、ハウス内でトマトが開花している期間に一致する。調査地一帯が干拓地で植物相が乏しいことを考えると、本調査地で得られた捕獲個体は、ハウスからの逸出個体であると考えるのが妥当である。ただし、昨年同様厳冬期の2月でも野外での活動個体が観察された点は、本種の低温期の活動能力の高さを示している。

図1 北海道門別・平取・鵡川町における月別捕獲数の推移

図1 北海道門別・平取・鵡川町における月別捕獲数の推移

図2 熊本県玉名市・横島町における月別捕獲数の推移

図2 熊本県玉名市・横島町における月別捕獲数の推移

なお北海道と熊本県では、交尾相手の新女王を探索する目的の雄のパトロール飛行が観察された。このような行動が観察されたことは、野外で実際に雄が繁殖活動を行っていることを示唆しており、野外での女王の観察とともに注目に値する。

(2) 鵡川町におけるセイヨウオオマルハナバチの野生巣の発見

本研究の野外調査の結果、鵡川町から8個の自然巣が発見された。1996年から2002年までに北海道で発見された巣の総数が2個であることを考慮すると、1年でこれだけの数の巣が発見されることは特筆すべきであり、野生化が急速に進行していることを示している。いずれの自然巣も、河川敷や土手、水田・畑地にある用水路の法面や畦で発見された。このような環境にあるネズミ類の古巣に地中性の巣をつくる点で、在来マルハナバチ類の中では特にエゾオオマルハナバチが同様の営巣環境を利用する傾向があることも明らかとなった。

掘り出して調査を行った4巣の規模は、繭数にして約90~400、掘り出し時の総生存個体数にして約300~900と、在来マルハナバチ類と比べても大きく発達しており(伊藤 1991、松浦 1995)、1巣当たり平均100頭以上の新女王を生産していた(表2)。これに対し今年調査期間中に発見された在来マルハナバチ類の巣の新女王生産数はいずれも40頭に満たず、この差がセイヨウオオマルハナバチの急速な増加につながっているものと考えられる。

表2 本研究で発見されたセイヨウオオマルハナバチの自然巣の規模と、在来マルハナバチ類の巣との比較

表2 本研究で発見されたセイヨウオオマルハナバチの自然巣の規模と、在来マルハナバチ類の巣との比較

(3) セイヨウオオマルハナバチの花資源利用

本研究でセイヨウオオマルハナバチの訪花が観察された植物は21科63種に達し、このうち43種が本研究で新たに国内での訪花が確認された種である。在来植物の野外個体群への訪花が観察された例が増えており、昨年は6種であったそのような事例が、今年は15種に達している。わけても北海道でセイヨウオオマルハナバチの訪花が観察されたカタクリ、エゾエンゴサク、オオヤマザクラ、サクラソウ、エゾノコリンゴなどは、在来マルハナバチ類の重要な資源植物であり、これまで以上に花資源を巡る競合が深刻化することが懸念される。また、ツユクサ、イヌホオズキ、オオバコなど、在来マルハナバチ類の訪花がほとんど見られない花資源の利用が観察され、本種の花に対する高い適応能力を伺わせる。

(4) 北海道門別・平取町における2年間のセイヨウオオマルハナバチ捕獲数の推移

2年間継続して調査を行った北海道門別・平取町でのデータを基に、セイヨウオオマルハナバチの捕獲数がどのように推移しているのかを比較した(図3)。門別町では春の女王発生数が急増したが、7月の捕獲数はむしろ昨年より減少し、最も捕獲数の多かった8月も昨年同様のレベルにとどまった。一方、平取町ではやはり春に捕獲された女王の数は昨年に比べて多かったが、5~7月の捕獲数は激減している。しかしこれは、前述の通り平取町で今年度よりトマトハウスでのネット展張が行われるようになったことに因る部分が大きい。

図3 北海道門別・平取町における2002、2003年のセイヨウオオマルハナバチ捕獲数の比較

図3 北海道門別・平取町における2002、2003年のセイヨウオオマルハナバチ捕獲数の比較

4. 考察

(1) セイヨウオオマルハナバチ野生化個体群の分布拡大と大量発生

本年の観察事例の中で最も顕著であったのは、周辺にトマトハウス群がほとんどなく、セイヨウオオマルハナバチの大量利用が行われている場所から離れた位置にある北海道鵡川町での、野外での大量発生が観察されたことである。平取町と鵡川町を結ぶルートでの調査も行ったが、セイヨウオオマルハナバチを発見することはできなかった。このことは、セイヨウオオマルハナバチの分布拡大は連続的に漸次生じるだけではなく、創始個体(群)が移住することで跳躍的にも生じることを示している。鵡川町では過去7年間に発見された巣の4倍の数の野生巣が見つかり、営巣に好適な環境であったことを伺わせる。従って環境条件がそろえば、このような跳躍的な分布拡大は今後も各地で起こりうる。

このような分布拡大様式に対応するためには、あらかじめ野生化地域周辺の生育適地を調べ、定期的なモニタリングを行う必要がある。本研究で多数の自然巣が発見されたことで、営巣可能な環境についてはある程度の予想ができる。花資源利用に関しても情報が集積しているので、このような知見を応用し、モニタリングの効率化を図ることが可能であろう。

このような跳躍的な分布拡大が生じたことと、春に発生する女王の数が劇的に増加したことは無関係ではなく、更にその女王の急増は、一つのコロニーが放出する新女王数が在来マルハナバチに比べて多いことと切り離せない関係がある。現状では仮に現段階での営巣数が在来マルハナバチ類に比べて少なくとも、その年に放出される女王数はそれらを凌駕する可能性がある。しかも昨年度の調査から、セイヨウオオマルハナバチは北海道に生育する在来マルハナバチ類のいずれの種よりも女王の活動開始が早いことがわかっており、個体数が一定の水準以上になると、急速に在来マルハナバチ類の営巣場所を占拠してしまうと考えられる。更に、セイヨウオオマルハナバチは原産地では近縁種の創始初期の巣を乗っ取ることがあることが知られており(Goulson 2003)、このような性質も自然巣の今後の増加に拍車をかけるものと思われる。今年の状況から、セイヨウオオマルハナバチの野生化個体群は今や指数関数的に増加する時期にさしかかっていると考えられ、野外での増加と定着域の拡大をくい止めるためには、広範囲に渡る継続的なモニタリングと駆除活動を行わなければならない。

(2) セイヨウオオマルハナバチと在来マルハナバチ類の花資源を巡る競合関係

 今年度セイヨウオオマルハナバチの訪花が確認された植物の中で、約68%が本種の訪花を初めて記録した植物であることは、訪花の可能性のある植物種を枚挙するために集中的にこれまで観察例のない植物種での観察を行ったことを割り引いても、特に注意すべき点であると考える。今年度は特に女王の大量発生と対応するように、春の林床植物や在来樹木への訪花が確認され、これまでの外来植物主体の訪花パターンよりも更に在来マルハナバチ類の利用する資源を浸食する可能性が懸念される結果となった。カタクリ、エゾエンゴサク、オオヤマザクラはエゾコマルハナバチ、エゾオオマルハナバチをはじめとする各種の在来マルハナバチ類の創始女王にとって重要な花資源となっており、これらの植物へのセイヨウオオマルハナバチの訪花が観察されたことは、巣の創設の最も重要な時期に花資源を巡る競争が起こる可能性を示唆している。今後は野外における競合関係について、駆除を行いながら直接的なデータを集積していく必要がある。

(3) 北海道門別・平取町における2年間のセイヨウオオマルハナバチ捕獲数の変化

門別・平取町での2年間の捕獲データを比較すると、いずれの地域でも今年度の女王捕獲数が多いことがわかる。特に門別町では春の女王の捕獲数は実に10倍以上にふくれあがっている。しかし最終的な捕獲数はそれほど差がなく、2年間を通じて最も捕獲頭数の多かった8月の捕獲数にも春の女王数から予測されるような開きは見られない。沙流川の河川敷や周辺の耕作地の状況を鵡川町での観察結果にてらして考えると、潜在的な営巣環境が十分に存在し、門別町内に多数の女王が営巣可能な環境がなかったとは考えにくい。捕獲努力が均一ではないので一概に捕獲数のみの比較はできないが、このことは春の女王の捕獲に努めれば、野外での個体数の増加を押さえられることを示していると考えられる。

平取町での捕獲努力は昨年に比べて明らかに小さいが、それでも今年度は昨年のように5~7月にかけて大量の働き蜂と雄が捕獲されるという状況は見られなかった。今年度平取町で捕獲されたセイヨウオオマルハナバチの個体数の性別・カースト別の推移は、門別町のそれと定性的に類似しており、これらのことはネット展張によってハウスで使用されている個体の逸出がきわめて少なくなったことと、今年度観察された個体はほぼ純粋に野生化個体群に由来するものであることを示している。ネット展張は、更なる野生化個体の素地となる繁殖個体の放出を防ぐだけではなく、働き蜂の逸出による花資源をめぐる競合の低減にも効果があると考えられ、今年度の調査からその効果の一端が示されたことは、今後このような施策の必要性を訴える上で重要である。

5. 今後の展開

自然環境の人為的改変が進む中、セイヨウオオマルハナバチの野生化は、外来植物の増殖を助長し、在来マルハナバチ類の利用可能な資源を浸食することで、在来の植物、マルハナバチ類両方を衰退に導きかねない。外来植物が各地に多数生育している現在の日本は、セイヨウオオマルハナバチが定着可能な素地が各地に醸成されており、事実鵡川町で観察された野生化地域のような耕作地は、全国に広範囲にわたって存在している。現在の野生化範囲を中心に、営巣・生育適地と考えられる耕作地をリストアップし、重点的にモニタリングを行う必要がある。花資源として利用可能な植物種も在来植物種を中心に増加しており、一般的にはマルハナバチ類が利用しない資源をも利用可能であることが本研究から示されたので、生育適地の判定に当たっては、これまで花資源植物として報告のない植物種も候補に入れて検討することも必要であろう。

効果的な逸出防止策が講じられていない状態でセイヨウオオマルハナバチが利用される限り、本種の野生化に歯止めはかからない。使用に際してはネットを張るなどの逸出防止に有効な方策を必ず実施し、本種の野生化個体群をこれ以上増やさない努力が必要である。実際に今年の平取町における調査から、ネット展張によってハウスから放出されるセイヨウオオマルハナバチが大きく減少することがわかった。このような施策が全国的に行われれば、本種の駆除を効果的に展開することが可能となる。このような施策の必要性を周知する活動を展開することも肝要であろう。

その上で実際の駆除活動として、(1)春の創始女王の捕獲、(2)コロニー創始後の巣の発見と駆除、の2点を中心に行うことが効果的であると考えられる。特に(1)に関しては、本年の調査からも一定の効果が認められ、また(2)についても新女王の発生源を一網打尽にできる点で、極めて効果的な駆除方法である。今後この2点をねらって、大規模な駆除活動を行うことができれば、野生化個体群を縮小させることが可能となるであろう。現在よりも多くの人が参加できる駆除活動を行うための情報ネットワークと一連の行動マニュアルの整備が、この後の駆除活動を行う上での急務である。また、駆除活動のベースとなる在来のマルハナバチ類をめぐる生物同士のつながりの重要性について、更なる啓蒙活動を行うことも今後の重要な課題である。

引用文献

  • 伊藤誠夫.1991.日本産マルハナバチ分類・生態・分布.ベルンド・ハインリッチ(井上民二 監訳),マルハナバチの経済学:258-292.文一総合出版,東京.
  • 加藤真.1993.セイヨウオオマルハナバチの導入による日本の送粉生態系への影響.ミツバチ科学,14:110-114.
  • 五箇公一.2003.マルハナバチ商品化を巡る生態学的問題のこれまでとこれから.植物防疫,57:452-456.
  • 保全生態学研究会.1997.マルハナバチの一斉調査について/セイヨウオオマルハナバチ帰化問題に関するインターネットを使った情報収集.保全生態学研究,2:36-41.
  • 松浦誠.1995.図説・社会性カリバチの生態と進化.北海道大学図書刊行会,札幌.
  • 松本雅道.2001.マルハナバチ一斉調査中に静岡県でセイヨウオオマルハナバチを発見.保全生態学研究,6:85-86.
  • 鷲谷いづみ・鈴木和雄・加藤真・小野正人.1997.マルハナバチ・ハンドブック.文一総合出版,東京.
  • 鷲谷いづみ・森本信生.1993.日本の帰化生物.保育社,東京.
  • Goulson, D. 2003.Bumblebees, Behaviour and Ecology. Oxford University Press, Oxford.