本州産クマゲラの繁殖期における生態ビデオ作成The making of ecological video in breeding season of Black Woodpeckers born in Honshu, Japan.

著者名Authors

本州産クマゲラ研究会The Black Woodpecker (Dryocopus martius) research association in Honshu, Japan

藤井忠志Tadashi Fujii・ 望月達也Tatsuya Mochizuki・ 小池幸雄Yukio Koike・ 小池宏美Hiromi Koike・ 黍原豊Yutaka Kibihara・ 森下祐介Yusuke Morishita・ 柳原千穂Chiho Yanagihara・ 新藤潤一Junichi Shindou・ 新藤幸子Sachiko Shindou・ 若泉直大Naohiro Wakaizumi・ 千葉一彦Kazuhiko Chiba・ 春日奈穂美Naomi Kasuga・ 藤井啓明Hiroaki FUjii

1. はじめに

クマゲラ (Dryocopus martius) は、日本最大のキツツキであり、世界的分布をみても本州に生息する個体群は、南限・東端に位置する重要種である。

しかしながらその生態は未知で、北海道産の個体群と本州産の個体群が遺伝的交流があるのか? など、いまだに解決されていないブラキストン線以来の重要な課題も抱えている。

また、本州のクマゲラ繁殖期における行動圏などが十分に把握されていなかったことから、クマゲラの生息地である天然ブナ林が伐採の憂き目にあい、その生息地縮小に一層拍車をかけた。

これまで本州産クマゲラは、北東北三県のブナ林にのみ観察され、藤井(2000)によると現在のクマゲラ生息推定個体数は35羽と、今後の種の維持の観点から厳しい数値が提示されているなど保護の緊急性が強調されている。

本活動テ-マは、ブナ林の象徴的種でその生態が未知、かつ生息個体数が著しく減少した本州産クマゲラ個体群の繁殖期における生態を中心に、それを撮影可能な今のうちに記録撮影し、一般への保護思想を喚起することを目的に発足した。

2. 方法

撮影地は白神山地の世界自然遺産指定外地域における既知の繁殖地ではなく、本州産クマゲラ研究会メンバ-しか知らない繁殖地2ケ所を対象にした。

クマゲラのありのままの生態を記録撮影するには、クマゲラに撮影者の存在を認知させないことが重要である。撮影者及び観察記録者は最低 30m以上の距離をおき、自家製のブラインドで覆い、その存在を悟られないようにした。そのため、これまでの8mmビデオカメラでは限界があるため、望遠機能が自由自在なキャノンXL1とパ-ンが容易な油圧式三脚であるマンフロットを購入し、助成決定直後の2000年秋季の紅葉シ-ズンから翌年の巣立ちまで、交互に4人以上のグル-プで入山した。

3. 結果

当初の計画では、撮影を繁殖期に限定していたが、会員から四季折々にわたる映像にしようという声が上がり、紅葉期のクマゲラ、厳冬期のクマゲラ、春のクマゲラ、繁殖期のクマゲラ、巣立ち期のクマゲラという形で1年を通してのクマゲラの生態を記録撮影できた。特に、厳冬期の本州のクマゲラの映像は初めての記録であり、撮影にあたった会員は、腰までの雪の斜面に悪戦苦闘を強いられた。なお、本州産クマゲラの生態撮影のため投入された人数は、延べ56名であった。

撮影時、いまだに脳裏に焼きついて離れないできごともあった。クマゲラの繁殖地にクマタカ (Spizaetus nipalensis) が現れ、その追撃のため、オス個体がクマタカめがけて突進したことである。帰り支度をしカメラをしまった後の事件で、残念ながらこの映像は撮影できなかった。

また、クマゲラが発する音声(キャ-音、コロコロ音)は、ブラインドを張った場合とそうでない場合とで明らかに異なった。換言すると、撮影者や観察者の存在がクマゲラに認知された場合は音声を発し、認知されていない場合は無音であった。ただ、樹冠より上部を飛翔する際や長距離飛翔をする際は、観察者の認知の有無にかかわらずコロコロ音を発していた。

4. 考察と成果

クマゲラが発する音声は、人的影響や自然界の天敵に対する警戒音であることが判明した。その他の音声についても、どのような折りに発せられるのか? クマゲラの生態を把握する上で重要であり、今後声紋の分析も含め個体識別に役立てることができないものか? 検討する必要がある。

また、ありのままのクマゲラの生態を追求するには、ブラインドが必需品であり、撮影者や記録者にブラインドの携帯を義務付ける必要がある。映像の編集段階では、これまで録りためていた8mm映像も取り込み、過去10年以上に及ぶ本州の全繁殖地のクマゲラの映像をつなげることができた。

また、助成期間中の1年間は、本州のクマゲラの生態撮影記録を2繁殖地で、しかも四季折々の映像を記録できた。このような映像は本州では初のことであり、本州産クマゲラ個体群の生態研究の基礎的資料になるものと思われる。

写真 製作したビデオ「本州のクマゲラ」

写真 製作したビデオ「本州のクマゲラ」

5. 文献

  • 藤井忠志. 2000. 本州産クマゲラの繁殖期行動圏と生息個体数推定に関する研究. イオンド大学大学院総合研究科博士論文