長期モニタリングによる北方林成長動態の時系列変化の実態評価
―十勝川源流部原生自然環境保全地域における亜寒帯性針広混交林の動態と維持機構―
Quatitaive analysis of temporal pattern in the growth dynamics of conifer/broad-leaved forest in northern Japan
~Coarse woody debris and tree competition of the subboreal conifer/broadleaf forest in Tokachi-Gawa Genryubu Wilderness Area, northern Japan.~

著者名Authors

森林動態研究グループForest Dynamics Research Group

久保田康裕Yasuhiro Kubota1)

著者所属Affiliations

  1. 1) 鹿児島大学教育学部(〒890-0065鹿児島市郡元一丁目)
    Department of Biology, Faculty of Education, Kagoshima University, Kohrimoto, Kagoshima 890-0065, Japan

要約Summary

今回の研究助成を受けて、北海道の十勝川源流部原生自然環境保全地域と知床国立公園のモニタリングサイトを再調査し、調査区自体のメンテナンスを行った。十勝川源流部原生自然環境保全地域のモニタリングサイト(6.5ha)は亜寒帯性の針広混交林で、1994年に設定されたもので今回が第一回目の再調査である。一方知床国立公園のモニタリングサイト(4ha)は冷温帯性の針広混交林で、1991年に設定され、1994年、1997年に再調査が行われている。森林群集の更新・維持機構を理解するためには、林木個体レベルでの成長・枯死に関する動態特性を把握することが不可欠である。したがって、モニタリングサイトでは各個体を標識し、その分布地図データ、サイズデータを定期的に計測してくことになる。今回の発表では2000年と2001年に行った再調査のデータをもとに、過去10年間での林木の成長・枯死様式を報告する。

十勝川源流部原生自然環境保全地域の亜寒帯性針広混交林では、倒木のようなcoarse woody debris(CWD)が各種の更新動態や競争関係に与える影響を評価した。この林分ではササが優占するため、CWDが定着サイトとして重要な役割を担っていることが明らかとなった。さらに種間でのCWDに対する更新依存性の違いは、定着後の種間・種内の競争関係にも影響を及ぼすことがわかった。樹木個体レベルの成長動態に対する競争効果は、比較的小さかったが、これは樹木の更新サイトが特定のセーフサイト(CWD)に限定されていて、空間構造的に競争が生じにくくなっていることに起因する。林床にササが優占する亜寒帯性針広混交林では、倒木のようなCWDの供給パターンが林木密度や空間構造に影響し、最終的に個体間の光を巡る競争にまで影響を及ぼしていることが予想された。


The objective of this study is to investigate the effects of CWD as species-specific safe site on competition mode among the component species in the subboreal conifer/broadleaf forest in Tokachi-Gawa Genryubu Wilderness Area, northern Japan. We compared intertree spatial distribution and competition mode. If the establishment sites as a measure of the utilization status of CWD such as fallen log, mound and stump were different among the component species, inter/intra-specific competition would be reduced by partitioning regeneration niche on the forest floor. We expect therefore that the maintenance mechanisms of species diversity can be determined by combination between competition and establishment processes on CWD.

Little inter-specific competition in the early life stage among Picea jezoensis, Abies sachalinensis and Betula ermanii were realized by habitat segregation depended on CWD. Inter-specific competition of Sorbus commixta and Acer ukurunduense with Betula ermanii, whose establishment was less dependent on CWD, was due to sharing the same regeneration site (e.g., on the ground). These suggest that CWD plays an important role for reducing competitive effects among the species, and contributes to the maintenance of species diversity. However, Symmetric competition among canopy trees of Picea jezoensis, Abies sachalinensis and Betula ermanii means that interference between patches established on each fallen log or butterless occurs in the late life history stage. This implies that spatial distribution of CWD can affect the intensity of competition caused by crowdedness of canopy trees. In the case of huge amounts of CWD supplied by disturbance such as typhoon, for example, competition among individual trees could be tense despite of their establishments were segregated in different fallen logs.

はじめに

近年、北方林は地球環境変化の影響を大きく受ける森林群集として注目されている。例えば、今後起こりうる地球温暖化による気候変化は、北方林の気候的適域を消滅させ、その分布や生産力を衰退させることが計算機シュミレーションで予測されている。ところが、北方林の維持機構に関する野外での研究は緒についたばかりであり、地球環境変化に対する北方林の動態反応を実態評価するには至っていない。この研究の目的は、短期的には北方林の更新動態や維持機構を明らかにすること、また長期的には地球環境変化による北方林の動態反応を解明することである。

本研究の対象地は、貴重な原生林として保全されている地域である。知床国立公園の針広混交林と十勝川源流部原生自然環境保全地域の針葉樹林には、約10年前からモニタリングサイト(総面積16.23ha)が設置され北方林の更新・維持機構に関する調査が継続されており、林木個体レベルでの成長・枯死に関する動態特性が明らかにされつつある(久保田ほか1994、Kubota 2000)。今回の調査では永久方形区の再センサスを行い、10年間での林木の成長・枯死様式を明らかにした。また将来的にもモニタリングサイトを継承していくためのメンテナンスを行った。データ解析では過去のセンサスデータと併せて、林分・種個体群レベルでセンサス時期毎(3-4年スパンで3時期)の成長・枯死に関する動態特性の時系列変化を解析した。本研究の視点は、センサス時期間での気候条件の違いが北方林の動態に及ぼす影響を、林分の発達段階と種組成という二つの構造属性を介した作用系として理解することである。若齢から老齢に至る様々な発達段階にある林分現存量の成長率や枯死率を各時期毎に比較し、それに基づいて、どのような発達段階の林分が最も敏感に気候環境変化に反応するのかを解析することである。同時に北方林を構成する種個体群(針葉樹と広葉樹種)の動態特性を各時期毎で比較し、各種個体群の気候環境変化に対する感受性を検討することを目的とした。なお本研究のような長い時間スケールに及ぶ群集動態は、長期にわたる継続調査が最も重要となる。したがって、今回の調査自体にその緊急性を見出すことは難しいが、長期生態研究の1プロセスと位置付けるならば、今回の継続調査は将来的な展望において、その危急性及び重要性を十分に併せ持つと思われる。

本論では、現在まで取りまとめのほぼ終了している十勝川源流部原生自然環境保全地域の短期的な動態特性とその種多様性維持について報告する。近年北方林では、Coarse woody debris(CWD)の生態学的重要性が強調されているので、CWDの分布状況およびそれが林木種の更新動態や成長動態に及ぼす影響を明らかにした。

調査地

調査地は北海道の大雪山国立公園東部に隣接する十勝川源流部原生自然環境保全地域である。年平均気温は0.7~1.9℃、年平均降水量は1,192mmである。積雪は11月から4月にかけて見られる。植生は標高1,000m以上では、エゾマツ、ダケカンバ、トドマツが混交する上部針広混交林、低標高域ではエゾマツとトドマツが優占する針葉樹林である。林床はクマイザサとチシマザサが覆っており、部分的にはツツジ科の低木種が分布している。

調査・解析方法

永久調査区(6ha)は1993年8月に、標高約1,000mの緩やかな斜面に設定された。調査区は10×10mのグリッドセルに分割されている。樹高2m以上の全ての立木は標識され、その種名と胸高直径が記録されている。さらに各個体の定着立地を判断できるものに限り、倒木、マウンド、根株、地面に分けて記録した。各個体の胸高直径はマーカーの塗布されている位置で、スチールメジャーによって計測している。2000年と2001年に胸高直径の再測定を行うと同時に、調査区のメンテナンスが行われた。その際、枯死個体と新規加入個体も記録された。

個体の直径成長に対する個体間の競争効果を検出しようとした。各個体についてその周囲10m(100m2)あるいは周囲30m(900m2)のグリッドセル内の個体群葉群密度を競争効果の指標とした。競争効果は一方向的競争効果と二方向的競争効果双方について検討した。一方向的競争効果は、各個体の周辺において、そのサイズより大きな個体の葉群を指標とし、二方向的競争効果は、各個体周辺に分布する全個体の葉群を指標とした。統計的な解析では、各個体の直径成長率を従属変数とし、各個体の胸高直径、その個体より大きな周辺個体葉群密度、その個体周辺の全個体葉群密度等を独立変数として、重回帰分析を行った。

結果

林分構造

地上部現存量は255.7t/ha、立ち枯れ個体の現存量は41.1t/haだった。6.5haの調査区で、樹高2m以上の個体を標識した結果、11種の林木種が確認された。林冠層はエゾマツ、ダケカンバ、トドマツが優占し、その下層にナナカマド、オガラバナが分布していた。林冠ギャップは1,121m2/ha、平均ギャップサイズは56m2だった。林床はチシマザサとクマイザサが優占し、その葉群は1~2mに達していた。林床で形態を確認できた倒木は136本/haで、林床の3.4%を占めていた。ほとんどの倒木は、エゾマツ、ダケカンバ、トドマツである。立木の定着立地は種間で有意に異なっていた(χ2検定,P<0.001)。エゾマツとトドマツは倒木と根株に分布が集中しており、ダケカンバ、ナナカマド、オガラバナは地面に多く分布していた(図1)。各種個体群の空間構造は、その強度は異なるがすべて集中分布していた。特に、ナナカマドとオガラバナは強い集中分布を示した。ダケカンバは最も弱い集中分布だった(図2)。

図1 各種の定着立地

図1 各種の定着立地

図2 各種の空間分布。面積スケールとL関数の関係

図2 各種の空間分布。面積スケールとL関数の関係

各種個体群の動態特性

各種個体の直径成長率は胸高直径に依存したパターンを示した(図3)。エゾマツ、ダケカンバ、トドマツは胸高直径20-30cmまで成長率が増加し、それより大きなサイズ個体では成長率が低下した。これらの成長パターンは、ゴンペルツの成長関数で回帰できた(P<0.01)。ナナカマドとオガラバナのサイズに伴う死亡率のパターンはU字型を、エゾマツ、ダケカンバ、トドマツは逆J字型を示した(図4)。ナナカマドとオガラバナの死亡形態は、そのほとんどが立ち枯れだった。

図3 各種個体群の胸高直径サイズと直径成長率の関係

図3 各種個体群の胸高直径サイズと直径成長率の関係

図4 各種個体群の胸高直径サイズと死亡率の関係

図4 各種個体群の胸高直径サイズと死亡率の関係

競争効果は林冠層(胸高直径10cm以上)と下層(胸高直径10cm以下)に属する個体別に解析された(図5)。エゾマツ、ダケカンバ、トドマツの各林冠個体の成長は、種内種間を問わず、ほとんど一方向的競争効果に影響されていなかった。しかし二方向的競争効果は、エゾマツ、ダケカンバ、トドマツの各種内で検出された。またエゾマツとダケカンバ、トドマツとエゾマツはそれぞれで種間の二方向的競争効果が検出された。下層に分布するナナカマドとオガラバナは、ダケカンバから二方向的競争効果を受けていた。なお個体間の競争効果のほとんどは900m2の近接面積で検出されたが、そのあらわれは近接面積によって若干異なっていた。ダケカンバとエゾマツの種間競争、エゾマツ、ダケカンバ、トドマツの種内競争は900m2の近接面積で検出されており、唯一エゾマツとトドマツの種間競争は100m2の近接面積で検出された。

図5 種内間の個体間競争様式

図5 種内間の個体間競争様式
矢印は負の回帰係数を示す(P<0.05)

考察

本論の結果からは、生活史初期においてエゾマツやトドマツとダケカンバ、ナナカマド、オガラバナの更新ニッチの分割が完了してしまうことが示唆された。またその後下層では同種内競争が卓越し、林冠層ではダケカンバを含む、二方向の競争関係が生じることが示された。なおここで得られた林冠種間(エゾマツ・ダケカンバ・トドマツ)の相互作用は、KUBOTA & HARA(1995)の結果とほぼ一致しており、この群集タイプで共通している特徴と言えるだろう。

これらの種群の共存を考える場合、種間競争の効果はそれほど大きくなく、競争を回避させるセーフサイトの存在が重要であることが予想される。この地域の混交林ではCWDが更新サイトとして重要な役割を果たしていることは、すでに幾つかの研究から知られている。例えば同じセーフサイト上に定着したエゾマツとトドマツの稚樹個体群は、セーフサイトを奪い合うことになる。実際、個体間の競争関係をみてもエゾマツとトドマツの間でのみ、小面積スケールでの種間競争が検出されており、CWD上におけるセーフサイトの奪い合いを裏付けている。針葉樹であるエゾマツ、トドマツと広葉樹であるダケカンバ、ナナカマド、オガラバナについては、生活史の極めて初期の段階で各種群の空間分布がパッチ化され、その後の種間競争を回避する重要な要因となっていると思われる。下層種であるナナカマドやオガラバナは、主にダケカンバから被陰効果を受けており、針葉樹種と広葉樹種間の競争関係はエゾマツとダケカンバを除いてほとんどなく、針葉樹種と広葉樹種の混交が競争関係に影響される可能性は低いと考えられた。唯一検出されたエゾマツとダケカンバの競争関係は、ナナカマドやオガラバナよりも、エゾマツとCWDの共有度合いが高いことに起因する思われる。仮に針葉樹と広葉樹種の混交状態が、各種にとってのセーフサイト(CWD)供給に決定されているならば、針葉樹種と広葉樹種の混交パターンは、大規模な撹乱等によって長期的時間スケールでは大きく変動する可能性もある。特にCWDの供給量は、針葉樹種の混交比にとって重要と思われる。

引用文献

  • Kubota Y. 2000. The spatial dynamics of regeneration in a conifer-broadleaf mixed forest in northern Japan. Journal of Vegetation Science, 11: 633-640.
  • Kubota Y. 1997. Demographic traits of understory trees and population dynamics of a Picea-Abies forest in Taisetsuzan National Park, northern Japan. Ecological Research 12: 1-9.
  • Kubota Y. & Hara T. 1995. Canopy tree competition and species coexistence in a subboreal forest, northern Japan. Annals of Botany, 76: 503-512.
  • 久保田康裕・渡辺展之・渡辺修・紺野康夫.1994. 十勝川源流部原生自然環境保全地域における北方森林群集のサイズ構造と林分の更新過程.十勝川源流部原生自然環境保全地域調査報告書(環境庁自然保護局、財団法人 日本自然保護協会編):3-16.