ロシアにおけるシマフクロウの生息環境調査と日本の保護への応用Habitat study of the Blakiston's Fish Owls in Russia and the application of its results to the conservation in Japan

著者名Authors

日露シマフクロウ研究グループJapan and Russia, International Fish Owl Research Group

竹中健Takeshi Takenaka1)・ Sergey Surmach2)・ Sergey Abdeyuk3)

著者所属Affiliations

  1. 1) シマフクロウ環境研究会
    Fish Owl Environmental Research
  2. 2) ロシア科学アカデミー土壌生物学研究所鳥類研究室
    Institute of Biology and Soil Sciences, lab. Ornithology, Russian Academy of Sciences
  3. 3) アムール‐ウスリーセンター
    Amur-Ussury Centre

要約Summary

日本において個体数が危機的に減少しているシマフクロウの生息環境を保全することを目的に、原生自然が多く残るロシア沿海地方の日本海に面した地域でシマフクロウの生息調査と環境調査を行った。調査の結果、多数のシマフクロウの生息を確認し、極めて高密度に生息することが明らかになった。行動圏の大きさは6-8kmと推定され、日本の個体の行動圏より小さかった。営巣木はサイズが北海道のものと同じレベルであった。河川には春から初冬にかけてサケ科魚類が連続して遡上し、魚類密度も高いと推測され、シマフクロウの餌条件は非常に良いと考えられた。生息地の景観は、地形、植物相、動物相、魚類相の面で北海道と非常によく似ているため、今後詳細かつ定量的な調査を進めることで、過去の北海道の環境を復元することが可能であると示唆された。一方、現在は自然度が高いが、周辺の森林伐採が進んでおり予断を許さない状況にあることが明らかになった。


Blakiston’s Fish Owls in Japan are well known as one of the endangered species. The main reasons for their population reduction have been caused by the habitat destruction. In order to protect owls and make population increase, the habitat conservation is the most important way; however, we are not able to understand their habitat requirements scientifically, as the primitive landscape is quite rare in Hokkaido recently. Facing to the other side of the Sea of Japan, Primorye-Russia has great population of the Fish Owls and primitive nature. Investigation in Russian Fish Owls’ habitat will contribute Japanese future protection. From 2000 to 2001, researches are conducted in Terney, Oliga, and Samarga regions. Many Fish Owls are observed in a basin in Terney and the home range of each pairs might reach to 6-8 km, which is smaller than the Japanese owls’. Forests and rivers have high biomass and quality; in addition, fauna, flora and landscape are quite similar to Japan. This means that the detail research hereafter in the area will be very useful and important. On the other hand, advancing the forest harvesting in Shihote-Alin Mountains are observed everywhere. Careful remark is needed to conserve the habitat of the wild animals.

はじめに

シマフクロウ(Ketupa blakistoni)は世界に分布するフクロウ類の中で最大のフクロウであり、ユーラシア大陸極東沿岸と北海道周辺にしか分布していない。シマフクロウは2亜種に分類されており、大陸に分布するものをK. b. doerriesi、北海道、サハリン、国後の島嶼に分布するものをK. b. blakistoniとしている。魚食性で大径木の樹洞に営巣するシマフクロウは自然度の高い環境を生息に必要とするが、日本では環境悪化が原因で20世紀に入って生息域と生息数が激減した。筆者らが現在確認している生息地は北海道東部を中心にわずかに約50地点で、成鳥の個体数は120羽程度と推定しており、RDBの絶滅危惧種に指定されている。絶滅に瀕するシマフクロウの今後の保護のためには生息環境の保全が最も重要であるが、個体数の減少と環境改変が進んでしまった結果、今では保護の目標となるべき本来の生態や生息環境がはっきりとしていない。

一方、大陸のシマフクロウは、ロシアのシホテアリニ山脈を中心とする地域からオホーツク海に沿ってマガダン周辺まで分布しているが、近年のシホテアリニ周辺の調査で多くの生息地が確認され、相当数の個体がいることが明らかになってきている。沿海地方は旧ソビエト時代に開発の手が比較的入らなかったことから、良好な自然環境が保たれているとされている。今後の日本のシマフクロウ保護を考える上では、原始河川や森林が数多く残るロシアの生息地を調査し、生息状況や環境に関する情報を得ることが不可欠である。その結果を日本の生息地改善もしくは復元に応用することが本調査の主要な目的である。

調査地および調査方法

過去の独自調査により、沿海地方の日本海沿岸地域の環境が地形や気候条件など北海道と多くの点で共通する印象を得ているため、本調査の主要地域をプリモリエ州のオリガ地方、テルネイ地方、サマルガ地方に設定した。オリガ地方、テルネイ地方はロシア側研究者のチームにより1998-2000年にいくつかの生息地情報を得ており、2000年11月および2001年6月に日本チームでそれぞれ2週間の現地調査を行った。調査体制は11月調査は日本から竹中ほか1名、ロシア側からAbdeyukの計3名、6月調査は竹中、Abdeyuk(一部参加)の1-2名で行い、調査地を猟場にする現地ハンターが場合により調査補助を行った。調査は生息確認調査と共に、営巣環境、河川環境を調査した。調査地名は現段階では公表を控えることとし、便宜上河川名をα,β…と表記する。

サマルガ地方は今まで全く情報が得られていない地域であり、ロシアチーム2名が2001年4月に約1ヶ月間、本助成で始めて調査を行った。陸路でのアプローチ方法が無いためヘリコプターで中核の村に入り、そこを拠点に流域を調査した。サマルガ地域は少数民族のウデゲが伝統的生活を行っている地域でもある。2001年6月に日本チームの現地調査を目指したが、交通障害と燃料不足、洪水のため調査を断念した。

ロシアの森林ではトラやヒグマなどの猛獣が多いため、生息調査の多くは猟師などの案内人同行の上、車両もしくは徒歩にて行い、森林での宿泊は猟師小屋やテントで行った。

なお、以下の文章で記載される生物種は日本に分布しないもののみ学名を併記した。

調査結果

1. 生息調査

(1) テルネイ地方

α流域はシホテアリニ山塊の東端にある中規模の流域である。河口から本流最上流部までの直線距離は約30kmである。標高1,000m程度の分水嶺を源流とする。上流でほぼ同規模の支流に別れ、中流域で支流αA、下流地帯で支流αB、河口付近で支流αCが合流する。αAは山間部を流れる10km程度の中規模の支流である(写真1)。αBは緩やかな流れの約10kmの小規模な支流である。αCは水源まで20kmと比較的流路長が長く規模の大きな支流であるが、広い谷部に分流と網状流が発達している。

写真1 河川中流部景観(テルネイ地方)

写真1 河川中流部景観(テルネイ地方)

情報収集と調査の結果、この流域には最低7-8の生息地があることが推測された。図1に鳴声と痕跡の確認地点、ロシアチームの過去の調査と最近数年間の繁殖期の鳴声情報、ロシアチームの確認した営巣地、以上の情報から推定行動圏を示した。なお、生息数や行動圏は今後情報蓄積が進むにつれて大きく変わる可能性が高い。

図1 テルネイ地方シマフクロウ生息状況

図1 テルネイ地方シマフクロウ生息状況

  • α-1 本流αの中流域で住民により毎年春に鳴き声が聞かれており、ロシアチームも2000年2月につがいの鳴き声を確認している。本調査では小集落の下流3kmにおいてつがいを目視、鳴き声の確認をした。ねぐら地点には多量の羽毛があり、やや古いものがあったことから、恒常的に使っている場所だと思われたが、繁殖は失敗した。ある日別個体(メス)が現れ一度だけ鳴き声を発したのに反応して激しく警戒して鳴き、翌日本流を下流に2km移動し、支流αA合流下500mまで鳴きながら移動した。
  • α-2 支流αAの下流で、ロシアチームが2000年春に営巣木を特定した。繁殖は失敗した。本調査では数度の調査でも確認ができなかった。2000年春にα-1と同時期に確認されていることから別個体。
  • α-3 支流αBでは猟師により毎年つがいの鳴き声情報が得られている。本調査では確認できなかったが、6月の調査期寸前に別の猟師により鳴きかわしが聞かれた。
  • α-4およびα-5 支流αCでは、猟師などにより流域全般に渡って鳴き声の情報がある。ロシアチームは1999年繁殖期に下流部の同一地点から2つがいの鳴き交わしを確認した。下流側のつがいをα-4,上流側つがいをα-5とするが、α-4は1999年にある猟師により密猟されたとの情報がある。本調査では縄張りの境界線付近の上流2-3kmで11月に複数の足跡を確認し、境界線の下流1-2kmで6月に鳴き交わしを確認した。α-4が密猟されていなくなったとすると、本調査で確認されたのはα-5で、行動圏を多少下流に広げたのかもしれない。
  • α-6 近くに猟師小屋があり、鳴き声はよく確認されている。2001年5月にはほぼ同じ地点でつがいの鳴き交わしが頻繁に聞かれていた。6月の調査で調査補助者がつがいの鳴き声を聞き、林内を踏査したところ多量の羽毛を採取した。
  • α-7 6月の調査で、明け方に単独の鳴き声を確認した。α-6地点から8km上流。つがいかどうかは不明。
  • α-8 支流αAの営巣地点の上流10kmで住民により情報がある。つがいかどうか不明。β流域は流域αの北にある小流域である。
  • β-1 地元住民から情報があり、ロシアチームが2000年に営巣木を確認した。6月の本調査でつがいを確認した。2000年の営巣木は利用していなかったが、比較的営巣木から近い斜面で鳴き交わしを始め、鳴きながら上流に移動し、最終的に3km上流で鳴きやんだ。

γ流域は流域α,βの北に位置し、シホテアリニ山脈の脊梁部を水源とする大規模河川である。流域の多くでシマフクロウの情報があり、ロシアチームが1999-2000年に下流地帯で複数つがいの営巣を確認している(本調査では下流域は到達不可能で調査は行っていない)。

  • γ-1 猟師によりつがいの鳴声情報があり、6月の本調査で単独(オス)の鳴き声を確認した。

(2) オリガ地方

オリガ地方δ流域はシホテアリニ山脈の南部地域に位置する中規模の河川である。1998年にロシアチームが営巣確認した。本調査では11月に現地調査を行ったが生息の痕跡は確認できなかった。

(3) サマルガ地方

サマルガ地方はロシアチームのみで調査を行った。調査はサマルガ川本流沿いの中下流域で行い、4-5地点でつがいを確認した。ただし繁殖地は見つからなかった。地元猟師(ウデゲ)の話では毎年3-5羽のシマフクロウを冬に同じ場所で捕獲しているが、減ることなく常に補充されているらしい。また、個体が冬季に上流部から下流部に季節移動しているふしがあるらしい。ロシアチームはシマフクロウが捕獲により間引きされていても個体数が減らないことから、周辺にも相当数の個体が安定して生息しており、さらに小規模の季節的移動をしていると考えている。

シマフクロウを捕獲する猟師は2001年に亡くなったらしく、それ以上の細かい情報はわからないが、シマフクロウの脂肪から民間薬を作るため捕獲していたそうである。

(4) 北海道産亜種との相違

夜間であるが、α-1個体を比較的近距離で観察することができた。目視個体(オス)は河川が道路に接する地点で道路縁に止まり、対岸のメスと鳴き交わしを行っていた。数分間観察できたがその後飛び立ちメスと合流した。体長には北海道のものと大きな差はないが、羽色はかなり濃く、濃褐色で頭頂に白い羽毛が目立った。採取した体毛も褐色が強かった(写真2)。

写真2 採取されたシマフクロウの羽根。日本のものより濃色。

写真2 採取されたシマフクロウの羽根。日本のものより濃色。

鳴き声は3つがいと単独オス、単独メスを確認したが、つがいは北海道産亜種と明らかに違うデュエットを行った。北海道の個体は、オスのBoo‐Booの2声に続けてメスのW(w)ooが答え、全体として3音がワンセットとなり45-60秒間隔でデュエットが繰り返される。調査地域の亜種は、声のトーンは同じであるが、オスHo、メスHo、オスHoo、メスHuuの順に1声づつ交互に鳴き交わしを行い、全体として4声がワンセットで30-45秒間隔で繰り返された。

2. 生息地の景観概要

シマフクロウが高密度に確認されたα流域について、生息地の景観の概要を述べる。

α流域は河口から支流αAの合流点まで広い沖積平野になっている。河口には約300軒の集落があり、主要な産業は農林水産業と狩猟である。気温は冬季は-30度以下になることがあるが、内陸よりは気温が高い。沖には寒流が流れており夏もあまり気温が上がらない。河口部での川幅は約50m、水深1-2m、底質は平均5cm程度の丸レキである。川は蛇行と分流を繰り返す。河畔林は安定した段丘面にはドロノキ、ハルニレの巨木が林立する。河口近くの低地帯は湿地帯が多いが、多くは牧草地として利用されている。周辺の丘陵地はミズナラ(Quercus mongolica)、シナノキ(Tilia amurensis)、キハダ、シラカバ、ヤエガワカンバ、イタヤカエデ、ケヤマハンノキ、カラマツ(Larix gmelinii)の二次林である。北海道の植生景観と酷似する。

河口近くで合流する支流αB、αCは流域の半ばまで広い沖積低地と丘陵地である。αCのつがいα-5~6の生息地周辺では川幅が15mのBbタイプ河川で、川の透明度はきわめて高く、水深30cm、底質は10-20cmの丸レキで、エビモやバイカモが生育しており、非常に安定した流量を維持している。網状流が発達しており、冬季も凍結しない部分が多い。上流までほぼ同じ流況である。αBとαCには流路に沿って林道がついているが、本流に橋がないため自動車の乗り入れができず、基本的に狩猟権を持つ一部の猟師以外はあまり入り込みはない。魚類はサクラマスとオショロコマが多い。川べりにはカワウソ(Lutra lutra)、アメリカミンク(Mustela vison,移入種)の痕跡が多数見られる。αCは中流からチョウセンゴヨウ、トドマツ、エゾマツの針葉樹が増えはじめる。林内ではクロテン、イノシシ、ジャコウジカ(Muschus moschiferus)、アカシカ(Cervus elaphus)、ノロシカ(Capreolus capreolus)、 ヒグマ、ツキノワグマ、トラ(Felis tigris)、キタキツネ、タヌキ、ユキウサギ、エゾリス、シマリスの痕跡を見ることができる。多くの哺乳類は日本と共通する。

本流は河口から10kmの支流αA合流付近で川に山地斜面が迫る。ここから上流部は内陸性気候に変わり、斜面はチョウセンゴヨウ、エゾマツ、トドマツ、カラマツなど針葉樹が優占しはじめるが、ミズナラ、カンバ類も多い。α-1地点で本流はBbタイプの川幅25m、水深30cm、平均径30-50cmのレキ底となる。河畔林はドロノキ、ヤナギ類、ハルニレだが、チョウセンゴヨウ、トドマツなどの針葉樹も混じり始める。河口から20kmほどでAaタイプの山地渓流となり、多くの支流と分流し川幅10m以下となる。明瞭な河畔林帯はなくなり針葉樹が河岸まで迫るようになる。周辺の森林は針葉樹とカンバ類が優占する。本流や支流αAには動物の痕跡があるが、林道が流路に沿っているため、支流αBやαCに比べると痕跡密度が低い。

3. 営巣環境

(1) 営巣木

ロシア調査チームが1998-2000年に確認した営巣木の中から調査可能な3本を計測した(表1)。

表1 シマフクロウ営巣木

表1 シマフクロウ営巣木

テルネイ地方の営巣木α-2Nは、2000年の調査で確認されたが繁殖は失敗した。営巣木はオヒョウニレを主体とする河畔林の胸高直径98cm、樹高34mのドロノキで、河川から150m、比高4mの低位河岸段丘上に位置していた。樹洞は地上26mに位置していた。

テルネイ地方の営巣木β-1Nは2000年に確認したが繁殖は成功しなかった。営巣木は川から30m、比高2mのドロノキ、ハンノキを主体とする氾濫原河畔林に位置する、樹高22m、胸高直径96cmのドロノキで、地上15mに樹洞があった。

オリガ地方の営巣木δ-1Nは1999年に繁殖が確認された。川から30mの低位段丘上に位置する樹高16m、胸高直径89cmのハルニレで、地上から7mの位置に樹洞があった(写真3)。

写真3 営巣木(オリガ地方)

写真3 営巣木(オリガ地方)

(2) 営巣地の植生

テルネイ地方の営巣地α-2Nと、オリガ地方の営巣地δ-1N周辺の植生調査を行った。植生調査は、河畔林の中に約200mのラインを3本とり、それぞれ四分角法で胸高直径10cm以上の樹木をランダムサンプリングして、出現樹木の樹種、胸高直径、樹高を記載し、樹木密度を算出した(写真4)。樹木の同定はロシアチームから補助を受けたが、一部誤認の可能性がある。樹高は目測で行った。

写真4 植生調査風景(テルネイ地方)

写真4 植生調査風景(テルネイ地方)

α-2N

ランダムサンプリング(計132本)の結果、ニレ(ハルニレ、オヒョウニレ)24%、ケヤマハンノキ18%、イタヤカエデ17%を主体として、ドロノキ、チョウセンゴヨウ、ヤチダモ、ヤエガワカンバ、シラカバ、エゾマツ、トドマツ、マンシュウクルミ(Juglans mandshurica)、ヤナギsp.、ウワミズザクラ(Prunus sp.)、ハシドイ(Syringa sp.)の15種が得られた。3本のサンプリングラインで平均胸高直径および樹木密度は36.8cm-307.5本/ha、37.0cm-257.9本/ha、35.2cm-327.3本/haであった。全体では胸高直径90cm以上の大木が5.3%と比較的多く、平均36.3cmであった(図2)。大径木はほとんどがドロノキであった。樹高は高木層が30-34mの高さであった。

図2 営巣地河畔林樹種および胸高直径構成 テルネイ地方

図2 営巣地河畔林樹種および胸高直径構成 テルネイ地方

図2 同 オリガ地方

図2 同 オリガ地方

δ-1N

ランダムサンプリング(計132本)の結果、ニレ(ハルニレ、オヒョウニレ)34%、ハシドイ17%、マンシュウクルミ12%、ヤチダモ10%を主体として、他にキハダ、ウワミズザクラ、ノリウツギ、イタヤカエデ、ドロノキの10種が得られた。3本のサンプリングラインで平均胸高直径および樹木密度は29.8cm-370.5本/ha、26.3cm-557.2本/ha、35.7cm-295.0本/haであり、ライン間で大きな差があった。胸高直径の全平均値は30.6cmで、90cm以上の大径木は0.8%と少なかった。

4. 魚類相および生活史

魚類相の調査はα流域住民への聞き取りで行った。流域で主に採捕される魚類はサケ科魚類を中心に、多くが日本と共通していた。ただし、生活史が日本のものとやや違った。地元住民の情報を元に整理すると以下のようになる。

  • オショロコマ…極めて多い。5月末-6月遡上、10-11月産卵。冬季は河川で過ごし4月に降海。
  • サクラマス…極めて多い。6-8月遡上、9月産卵、死亡。河川残留個体としてヤマメが周年いる。
  • アメマス…多い。8-9月遡上、10月産卵後、一部降海、一部河川残留。
  • カラフトマス…極めて多い。7-8月遡上、産卵し死亡。
  • シロザケ…少い。8-10月遡上、産卵後死亡。
  • イトウ…少い。5月遡上、6月産卵、降海。一部は河川に残留。
  • ウグイ…多い。春に大量に遡上。
  • アブラハヤ…多い。6月に下流部で群れて産卵。

考察

本調査の中で、特に高密度にシマフクロウが分布したα流域では、河川沿いに約6-8km長の行動圏を持っていることが示唆された。これは北海道でのシマフクロウの一般的な行動圏の大きさ、河川沿いに10-15kmに比べると明らかに小さい。ただ、北海道ではシマフクロウが行動圏を接して多数生息していることはほとんど無いため、行動圏をある程度拡大していると考えられる。今後営巣地が特定され、行動圏の詳細や環境利用がはっきりしてくれば、より具体的な比較検討が行えるであろう。このような高密度のシマフクロウの生息を維持しているのは、明らかに餌の豊富な環境であることと、営巣に適する巨木が依然として数多く存在している環境があり、さらに高密度に生息していることで新規個体の供給がスムーズに行われているからであろう。

魚類は河川における生息密度が非常に高いと考えられる上に、春の雪解け直後から回遊魚が遡上をはじめ、降雪の寸前まで続くことから、シマフクロウの雛が育つ上では非常に有利な環境であるといえる。現在の北海道ではサケマスは河口で捕獲され、ダムや頭首工での遡上遮断や河川環境事態の悪化で河川の魚類は激減してしまい、これがシマフクロウ減少の主要な要因になっている。本調査地の魚類生息状況をさらに定量化することで、シマフクロウの生息に必要な魚類資源量を提示することが可能であろう。また、調査の結果得られた営巣木のサイズは北海道における平均値(DBH=98cm)と変わらず、河畔林の樹種構成も北海道とほぼ同じであるということは、シマフクロウの営巣木を今後恒常的に提供できる河畔林の質を具体的にシュミレートする材料となりうる。いずれにしても多くの景観要素が北海道と共通していることから、開拓初期の北海道の景観を知る上では非常に参考になる地域であると言える。

本調査地ではシマフクロウだけではなく、多くの生物の痕跡を見たが、特にカワウソの痕跡が非常に多かった。これは過去に実施した沿海地方の他地域やサハリンでも同様である。カワウソはシマフクロウと同じ魚食性で、周知のように北海道では絶滅し、本州でもほぼ絶滅状態である。シマフクロウが生きる環境を定量的に明らかにすることは、カワウソが生息できる環境を把握することにも繋がるはずである。

注目すべきは、調査地域では未だに狩猟で生計の一部もしくは多くを立てる人々が存在していることである。猟師は地域ごとに組合を作り、猟場は基本的に特定猟師に帰属するため、猟師は猟場の資源管理意識が高く、猟場内の生物を熟知している。高度の自然に依存する産業とその採取限界を詳しく分析することは、日本の野生生物保護上重要な示唆を与えると考えられる。また、サマルガ地方ではシマフクロウを採取する先住民族の事例が得られたが、捕獲することの良し悪しは別として、民族学上貴重な情報であると思われたが、詳しい聞き取りが行われないままその猟師が死去したのは極めて残念である。

しかしながら、自然度が高いとはいえ、本調査地やその周辺地域での今後の状況は予断を許さない。シホテアリニ山脈の多くの部分は、山火事で二次林化しているが、さらに近年急速に森林伐採が進んでいる。現在シホテアリニ山中に整備されている道路のほぼ全ては伐採木の搬出路である。伐採に伴い斜面の崩落や土砂の流出が各所で見られ、河畔林の中を道路が貫き、洪水で道路が流されるたびに新たな道路を作っている状況である。環境の悪化は主に猟師を不安にさせているが、さらに問題なのは、地域の産業構造が持続的な一次産業形態から変わり始めていることである。伐採木の主要な消費先は日本であるので、ロシアの自然を守る上での我々の具体的な行動が望まれる。

終わりに

本調査は今後の調査のための開拓的要素が強かった。調査地域は日本人が過去にほとんど立ち入ったことがないため、信頼関係の構築には非常に気を使った。金銭や物品で利害関係を構築することは慎むようにした。また、調査地域は辺境のため慢性的に燃料が不足しており、本調査で燃料を買い上げると地域の燃料不足を引き起こすので、いくつかの調査は断念した。本調査自体が微妙なバランスの上で成り立っている地域経済や人々の価値観に影響を与えることは、極力避けたいと考えた。しかしながら、帰国後の筆者(竹中)の仮報告を聞き、現地への訪問を計画している団体があることなどを聞くと心中穏やかでない。エコツアーが地域経済や価値観を崩壊させた例は非常に多く、果ては自然環境にも悪影響を及ぼす。現状では、本調査地にエコツアー仕立ての訪問をするのは可能な限り控えていただきたいのが、調査地を開拓した筆者の切なる希望である(もっと影響の少ない訪問場所はいくらでもある)。

謝辞

Vladimir Volkov 一家には調査や生活面などあらゆる面でサポート頂いた。飯島千恵さんは自費で調査に参加して手伝いを頂いた。この場を借りてお礼申し上げます。

文献

  • Hayashi, Y. 1997. Home Range, Habitat Use and Natal Dispersal of Blakiston's Fish-Owls. Journal of Raptor Research. Vol.31, No.3, pp.283-285.
  • Takenaka, T. 1998. Distribution, Habitat Environments and Reasons for Reduction of the Endangered Blakiston's Fish Owl in Hokkaido, Japan. 北海道大学博士論文
  • 竹中健. 1999. シマフクロウ. 知床の鳥類, pp.78-125. 北海道新聞社.