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チョウセンイタチ侵出地域におけるニホンイタチの生息分布とその保全に関する研究

紀伊半島野生動物研究会

青井俊樹1)・ 前田喜四雄2)

1) 北海道大学農学部付属苫小牧地方演習林
2) 奈良教育大学自然環境教育センター

The study for distribution and presearvation of Japanese weasel in Siberian weasel invaded area

The society of Researchers for Wild Animals in Kii Peninsula

Toshiki Aoi1) and Kishio Maeda2)

移入種に駆逐されつつある在来野生動物種の保全を考えていく一環として、紀伊半島における、チョウセンイタチとニホンイタチの生息分布の現状について調査した。調査方法は、死体回収法と生け捕り調査法によっておこなった。その結果、両種の分布の境界は、三重県側では志摩半島上を東西に走る山岳地一帯に、和歌山県側では日置川下流部付近にあると考えられた。またその分布の状況から、チョウセンイタチは海岸沿いに広がる低平野部に沿って分布を拡大してきていると考えられた。日置川下流域でチョウセンイタチの分布が留まっている原因として、それ以南は海岸から急斜面が立ち上がっていて低平野部がほとんどなく、そのため人間の生業活動域が極端に少ないためと思われる。チョウセンイタチの分布の最前線では、まだ両種が同所的に混成していることが確認された。今後はこの混生域における2種の種間関係を追跡調査していくことが重要である。

1. はじめに

帰化動物あるいは移入動物の侵出、定着は、わが国固有の生物相から成り立つ生態系に大きな影響を及ぼし始めている。たとえば近年ではハクビシン、アライグマなどの侵入と生息域の拡大が、農作物や飼育動物(魚類を含む)の被害増大につながり、その度合いは年々深刻になっている。主として戦後(一説には戦前に飼育情報もあり)わが国に入り込んだとされるチョウセンイタチ(Mustela sibirica)は、ニホンイタチ(M. itatsi)を次第に駆逐し、現在では九州、四国、中国地方はもとより、関西から東海地方にまで分布域を拡大させている。それに伴ってニホンイタチは内陸部へ追いやられ、少なくともこれらの地域の低平野部や都市部ではほとんどチョウセンイタチによって占領されてしまったと考えられる。しかしこれらはあくまでも伝聞情報が主であり、その詳しい侵出の過程や分布実態は必ずしも明らかになっていないのが実状である。そこで本研究では、まずその両種が生息する地域における互いの正確な生息分布の実態を把握することを最大の目的とし、わが国固有種であるニホンイタチの将来的な生息の保全につなげていくことをめざすものである。

2. 調査地および方法

上述のような西日本一帯におけるチョウセンイタチの侵出状況下にあって、紀伊半島南部では、海岸に沿った低平野部においてもニホンイタチの生息が確認されている貴重な地域である(青井 未発表資料)。そこで本研究は、紀伊半島を調査対象地とし、とりわけ半島南部における2種のイタチの生息分布実態調査をおこなった。

方法は、まず地元新聞にイタチ類の生息分布調査実施の概要をとりあげてもらい、交通事故などにより死亡したイタチ類を、着払いのクール宅急便にて北大和歌山演習林まで送って頂きたい旨を呼びかけてもらった。

この死体回収調査と平行して、生け捕りワナによる捕獲調査を実施した。まず、イタチ捕獲用の木製ボックストラップ25個を製作し、このワナを用いて捕獲をおこなった。捕獲場所は海岸部の低平野部や、河川沿い、集落およびその周辺などを対象とし、ワナ掛けは一地域連続三日間を原則とした。エサは当初は、鳥肉を用いたが中途からはキビナゴ、ドジョウなどの生魚を使用した。

捕獲調査の範囲は、和歌山県側では田辺市以南から新宮市まで、三重県側では海山町以南から、熊野川で和歌山県と接する県境までである。それ以外の地域に関しては、送付された死亡個体および奈良教育大学自然環境教育センターに保存されていた標本を用いた。なお、捕獲調査は環境庁による学術研究目的の鳥獣捕獲許可を取得して実施した。

3. 結果および考察

(1) 2種のイタチ類の判別基準

調査査期間中にチョウセンイタチ11頭、ニホンイタチ22頭の外部形態計測可能な死体標本および生け捕り標本を得た。ここで、この2種のイタチの種別の確認方法について述べる。通常この2種のイタチは、習熟してくるとその大きさ、毛皮の質や色彩など、外見を一瞥するだけで判別可能となる。しかしこれはあまり普遍的な方法とはいえず、特にニホンイタチのオスとチョウセンイタチのメスは、大きさが類似しているため混乱する可能性がある。そこで、判別材料として一般的にいわれている尾率で検証した。その結果、尾率は50%を境に2種は明瞭に別れ、オーバーラップは一例もなかった(図−1)。したがってこの2種のイタチは尾率を測定することにより、確実に判別できることが明らかになった。

図-1. チョウセンイタチとニホンイタチの尾率  Fig.1. The ratio of tail lengh to the body length
図-1. チョウセンイタチとニホンイタチの尾率
Fig.1. The ratio of tail lengh to the body length

(2) 2種のイタチの生息分布の実態

図−2に、今回の調査により得られた2種のイタチの捕獲地点および死体回収地点の分布を示す。

和歌山県側において、チョウセンイタチは、紀ノ川、日高川、富田川を越えて南下しており、現在日置川の下流域にまで達していることが判明した。日置川より一本南側、すなわちさらに半島先端部よりに流れる周参見川沿いでは、まだ河口部付近においてもニホンイタチが捕獲されたことから、この川の流域まではチョウセンイタチが侵出していないと考えられる。この流域よりさらに南部でも、チョウセンイタチの捕獲は一頭もなされなかった。また日置川以北においても、チョウセンイタチは内陸部では確認されていないことから、本種は大阪湾から南へ続く海岸沿いの低平野部に沿って分布を拡大してきたと考えられる。

図-2. 紀伊半島におけるチョウセンイタチとニホンイタチの生息分布  Fig.2. The distribution of Siberia weasels and Japanese weasels in Kii peninsula
図-2. 紀伊半島におけるチョウセンイタチとニホンイタチの生息分布
Fig.2. The distribution of Siberia weasels and Japanese weasels in Kii peninsula

一方三重県側については、南部の低平野部には和歌山県南部同様、チョウセンイタチの侵出は確認されなかった。そこで次に、尾鷲市と海山町の境にある、通称尾鷲山塊と呼ばれる急峻な山岳地帯が、チョウセンイタチの分布を阻んでいるという仮説のもとに、その山塊の南北両側で精力的に捕獲調査を行った。その結果、両地域とも捕獲されたのはニホンイタチで、チョウセンイタチの侵出は確認されなかった。しかし、松坂市周辺にはすでにチョウセンイタチが侵出しているとの情報もある(織田 私信)。これらのことから、現在三重県側におけるチョウセンイタチとニホンイタチの分布の境界は、大台ヶ原から志摩半島先端部へつづく山系一帯付近である考えられる。すなわち三重県側は和歌山県側に比べると、半島先端部への南下の度合いが低いといえる。また、奈良県においては情報がきわめて限られているので、はっきりしたことは不明であるが、少なくとも奈良盆地の市街地にはチョウセンイタチ侵出してきていることは明らかになった。しかし奈良県の南部は、十津川峡谷をはじめきわめて急峻な渓谷や山地帯が大半をしめることから、おそらく県南部地域への侵出の可能性は低いと考えられる。

(3)チョウセンイタチ侵出の最前線での特徴

和歌山県側では、チョウセンイタチの南下が進み、すでに日置川流域まで侵出していることは上述した。このチョウセンイタチの分布の最前線と考えられる日置川下流域における2種の分布状況をみると、チョウセンイタチが侵出してきた地域においてもまだニホンイタチの生息が確認されている。すなわち同一のハビタットにおいて2種がほぼ同所的に混生していることが、今回初めて確認された。このことは、チョウセンイタチが分布を拡大させる過程として、たとえばニホンイタチが都市化の進展などにより生息できなくなり、空白になったニッチェにチョウセンイタチが侵出するのではなく、ニホンイタチがまだ生息している空間にチョウセンイタチが侵入していくことを示唆している。つまり、チョウセンイタチの分布拡大の要因の一つは、種間競争の結果もたらされたものであると考えられる。したがって今後この混生地域での2種の種間関係を追跡していくことにより、侵入種の分布拡大の速度やどのような空間を侵入の足がかりにするかなどが推定できる可能性が示唆された。しかし、混生が確認されたとはいえ、行動域が完全にオーバーラップした混生なのか、土地の空間的あるいは時間的利用において直接的な回避現象があるのかなど不明な点も多く、今後テレメトリー調査などにより精査しなければ、はっきりしたことはいえないと考えられる。

(4) チョウセンイタチの分布拡大の制限要因

チョウセンイタチが、日置川下流域で侵出が留まっている点に関し、その要因について可能性を考察する。

図−3に、日置川以北と以南の、それぞれ海岸線から2km幅の区間における傾斜区分とその頻度を示した。頻度は和歌山県発行の土地分類図から、各500mメッシュ内にみられる最も優占する傾斜角度で表している。これをみると両地域とも、海岸線から20度を越す急斜面が大半を占めていることがわかるが、日置川以北では30度を越す斜面は見られなかった。それに対し、日置川以南では、30度以上の急傾斜が28%を占めており、一部には40度を越す斜面も見られる。すなわちこの地域は、海岸からいきなり急斜面が断崖状に切り立ち、海岸部の低平野部がごくわずかしか見られないとう特徴を持っている。このことは、農耕地、工場、住宅地などの立地できる条件に恵まれず、いわゆる人間の生業活動域がほとんど見られないことを意味する。事実、日置川町と周参見町の間には、数戸だけの住宅からなる小さな集落が一カ所あるだけで、それ以外の人為的なものは海岸の断崖上を極度に蛇行しながら走る国道42号線と、内陸部を長大トンネルでつなぐJR線が存在するだけである。

図-3. 日置川以北と以南における海岸部の傾斜区分頻度  Fig.3. The frequency of classification by inclination of the coast, in north of Hiki river and in south of Hiki river
図-3. 日置川以北と以南における海岸部の傾斜区分頻度
Fig.3. The frequency of classification by inclination of the coast, in north of Hiki river and in south of Hiki river

そのため、低平野部の人間の生活域に沿ってその分布域を拡げてきたと考えられるチョウセンイタチは、日置川を境に人間の生業域が途絶えてしまうことにより、それ以上南部へ分布域を拡大しにくいのではないかと考えられる。三重県側の志摩半島へ連なる山岳地帯でチョウセンイタチの分布が留まっているのも、同様の条件下にあるためと考えられる。これらのことは、過疎が幸いにして外来種の侵出を止めている一つの例ともいえよう。

4. おわりに

地形的悪条件やそのことよる土地に対する人為的影響の少なさが、幸いにして外来種の侵出を阻んでいると述べた。しかし当該地域では現在御坊市まで南下してきている高速道路が、周参見町まで建設予定になっている。またさらに、近年のリゾート開発の波が次第に南紀州地方に広がって来ており、別荘地の分譲もみられるようになった。したがって将来に渡って、これより以南にチョウセンイタチが侵出して行かない保証はなく、今後はその開発の経緯や場所を注意深く見守って行く必要がある。

本研究を行うにあたり、多くの方々のご協力を頂いた。ここにご芳名を記して厚く御礼申し上げる次第です。

元大阪電気通信大学の渡辺茂樹氏、歌山県立御坊商業工業高校の細田徹治氏、日置川町川村民宿の皆様、田辺市紀伊民報社、田辺市後藤伸氏、そして北大和歌山地方演習林林長および他の皆様。

参考文献

和歌山県 1982 土地分類基本調査、江住・田並・ 周参見 45pp.

Summary

The distiribution for Japanese weasels and Siberian weasels was investigated in Kii Penisula where Japanes native species still existed even on the lowland. The present border area where Siberian weasel invaded in Mie prefecture side is the mountain zone covered from Mt.Odai to the top of Sima peninsula. The border area in Wakayama prefecture side is found on the mouth of Hiki river. In this area, these two species are still existed completely in the same place, which is small village for about 80ha. The reason why siberian weasels went no further than going more southern area was thought as follows; The topographical condition was suddenly change to more steep from southern area of Hiki river. Because of this severe condition, there are no artificial affected area such as the farmland, the industrial area ,even the residential zone are exsisted between Hiki river and Susami river where lived native species only. So siberian weasels, those who were said to expand their habitat through such a artificial area, can't invade to the more southern area.

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