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日本の地形レッドデータブックの作成

日本の地形レッドデータブック作成委員会

小泉武栄

東京学芸大学教育学部地理学教室
Department of geography, Tokyo Gakugei University

Compilation of Red-Data Book of Japanese Landforms

Research Group of Critical Landforms of Japan

Takeei Koizumi

地形はすぐれた自然景観を構成する重要な要素であり、また動植物の住家としても大切な存在である。環境教育や野外教育におけるその重要性も高まっている。しかし地形の保護はこれまで動植物の保護ほど重視されず、日本列島各地でその破壊が進められてきた。本課題では、日本の自然を代表するすぐれた地形でありながら、現在、破壊の進みつつある地形、あるいは破壊の危機にある地形を抽出し、なんらかの保護策を提言することを目的に調査を行った。対象は日本全国である。そしてその成果をとりまとめ、『日本の地形レッドデータブック第一集』として刊行した。

1 本課題の目的

地形とは地表面の形態のことを指し、我々が生活の場としている台地や沖積低地、海岸段丘、扇状地などはすべて地形である。したがって地形そのものはごくありふれたものであるということができる。しかしながら海岸や火山、山地、高地、河谷などでは地形はしばしばみごとな自然景観をかたちづくることがあり、国立公園や国定公園などの自然を構成する重要な要素となってきた。層雲峡、陸中海岸、十和田カルデラと奥入瀬渓流、立山や穂高のカール、鳥取砂丘、五島列島や瀬戸内海の多島海など。地形がすぐれた自然の主要な要素となっている事例をあげれば、わが国だけでもそれこそきりなくあげることができる。また、このような規模の大きい地形だけでなくても、「鬼のせんたく岩」や砂丘に生じた風紋などもすぐれた景観を形成している。

地形の重要性はほかにもある。たとえば、甌穴や河畔砂丘は地形学の教育上、重要な存在であるし、氷河地形や周氷河地形は、古環境の復元には欠かせない存在である。干潟やサンゴ礁のように生物のすみかとして重要な地形もある。また、これほど目立つ存在でなくとも、ごくありふれた地形が動植物のすみかとして大切なことも近年、注目されつつあり、自然教育や環境教育、野外教育などにおける地形の重要性は、ますます増加しつつあるといえよう。

ところでわが国ではここ20年ばかりの間、国土の改変や自然破壊が猛烈な勢いで行われてきた。そのため貴重な動植物や群落が失われてきたことは周知の通りであるが、貴重な地形も少なからず破壊されてしまった。自然河川は本州からはほとんど姿を消してしまったし、河畔砂丘もほとんどみられなくなった。海岸の改変も進んでいる。いまやもとの地形が比較的よく保存されているのは山岳地帯だけといったありさまである。地形はこれまで、動植物と比べて保護の対象とされることが少なく、天然記念物に指定されていたり、国立公園や国定公園に含まれていても決して安泰ではなかった。重要な地形でもしばしば破壊の対象になってきたし、そこに人が住み着いているなどということも珍しくなかった。国の天然記念物になっている根尾谷断層ですら、樽見線の工事の際、あやうく破壊されそうになったのである。

本課題では、これ以上のわが国のすぐれた地形の破壊や改変を防ぐために、まず現在、破壊されつつある、あるいは破壊の危機にある重要な地形を全国的に抽出し、それをもとに、社会に対して警鐘を鳴らすことを考えた。それが今回、刊行した「日本の地形レッドデータブック第1集」である。これはいわば「自然破壊黒書」の地形版であって、本当の意味のレッドデータブックではないが、本文中で優れた地形を保存するための提言も行っている。次の企画として、「将来に残すべき地形のリスト」づくりを計画している。

2 レッドデータブック作成の手順

作成作業を進める手順として、まず12名の地形学者からなる「日本の地形レッドデータブック作成委員会」(代表:小泉武栄、事務局長:青木賢人)をつくった。この委員会では全体の方向性や作業の手順を決め、さらに該当する地形を選び出すための基準づくりなどを行った。次に各地方ごとにとりまとめを担当する作成委員を決め、各作成委員がさらに各県1ないし数名の協力者を委嘱した。協力者はそのほとんどが各県に居住する地形学者である。実際の作業として、まず現地調査とアンケート調査により、各地方ごとの「すでに破壊されてしまった地形、破壊の恐れのある地形」を抽出した。次に各地方ごとの作成委員が調査結果のとりまとめを行い、協力者などから提供された資料をもとに報告書の原文を作成した。報告書はリストの他、該当する地形の解説と地形図、写真からなる。

事務局の代表者は各作成委員や協力者と連絡をとり、各作成委員から提出された報告書をまとめて解析し、それをもとに、重要な地形を保護するための提言をまとめた。また、集まった資料は印刷に付し、それを「日本の地形レッドデータブック第一集」として刊行した。

3 『日本の地形レッドデータブック』の概略

調査の対象を「日本の自然特性を代表する地形」に限定し、その基準に従って「優れた地形」を抽出した。そしてリストアップされたものを、保存の程度に基づいて次のように分類した。

A:保存状態が良好で、今後も保護を続けるべき地形
  B:優れた地形でありながら、現在、開発による破壊の恐れがあり、緊急の保護を必要とする地形。開発をめぐって係争中のところも含む。
  C:すでに一部が破壊されてしまったが、その他の部分は保護できた地形。または現在、破壊が進行中のところ。
  D:重要な地形でありながら、すでに破壊されてしまった地形。

このうちAランクは今回のリストからはずし、B、C、Dの3ランクのもののみを取り上げたが、全体として全国から446ヵ所の地形が登録された。解析の結果、次のような特色が認められた。(1)河川に関係する地形がきわめて多かった。B、Cランクだけでなく、すでに破壊されてしまった地形(Dランク)も多い。自然河川は北海道以外ではほぼ消失し、河畔砂丘やバッドランドも消滅の危機にある。峡谷にも消失したものや、開発の影響を受けているものが少なくない。生物の住家として重要な落堀の地形も急速に消滅しつつある。(2)海岸地形も多い。干潟は全国的に姿を消しつつある。海岸砂丘には、過度の利用で危険な状態になったものがある。また河川からの土砂の供給が減少したために、砂州や砂丘の侵食が進みつつある。(3)山地の地形には現在のところ保存状態のよいものが多いが、一部では氷河地形が破壊されるなどの問題が起きている。登山道が侵食のきっかけになって自然が壊れつつあるところも少なくない。

4 今後に向けて

今回の作業の反省として次のような点があげられる。

(1) 全国を対象にしたため、各県を担当する地形学者が平均一人程度になってしまい、精度が低くなってしまった。Dランクの地形を取り上げなかった県もあり、見落としが若干あったと考えられる。

(2) 生物の住家としての地形の取り上げ方がやや不十分であった。

(3) 登録件数に都道府県ごとにかなりの差があった。これらの不備は次集以降、追加措置をとったり、訂正したりしていくつもりである。

Summary

Landforms are the most important factors of natural landscape. Some of them are appointed as natural monument or national park. They are also important as habitats of plants and animals. Recently landforms are appreciated in environmental education or field education or geomorphological education. However, conservation of landforms were slighted in Japan. Some of superior landforms were destroyed by the activities as embankment works. A lot of landforms are put in danger of destruction.

To conserve excellent Japanese landforms we planed to issue the red-databook of landforms. In this book 446 critical landforms were registered from many places of whole Japan. Some proposals were made to preserve the Japanese superior landforms.

作成した本の表紙
作成した本の表紙

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