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環境省の風力アセス検討会ヒアリングで意見を述べました。

2010.11.08
要望・声明

1.前提

国内の風力発電施設は、2010(平成22)年3月までに1,683基(219万kW)が設置、約230 基(約45万kW)が建設中とのこと。地球温暖化対策基本法案やエネルギー基本計画においては、一次エネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合目標を10%(2020 年)とし、風力発電は現状の219万kW から2020年までに約5倍の1,131万kW とすると聞いている。
しかし、今までの風力発電施設建設事業の中では、騒音・低周波音による人間への影響への危惧、自然草地・湿地等の重要自然に対する環境条件の改変、希少鳥類の風車への衝突死事故、景観への大きな悪影響等に関する問題指摘がなされ、建設反対運動も各地で起きている。地域と融和し、自然環境を保全しつつ進めてきたとはいえない状態といえる。

白滝 風力発電2.jpg▲写真は山口県下関市の白滝山。ブログ「あの雲の彼方へ」より許可を得て転載

2.現在の建設と調査に係る問題点

  • 今の自主調査が地元の了解だけ取ればよいとなっているため、一部の人だけでことが進められ、住民や町村境界が接近していても隣の自治体は知らず、県も条例がないので調整できないなどのトラブルが生じている。
  • 景観上の問題を過小評価の傾向があり、実例は長野県の伊奈・入笠山、須坂・峰の原等。
  • 定着している希少大型猛禽類等の生息地に建設され、見過ごせない衝突事故がイヌワシは岩手(釜石)、オジロワシでは北海道(苫前/とままえ町など)で起こっている。
  • イヌワシの繁殖環境に割り込みとなった例は、兵庫(段ヶ峰、反対運動で中止)、岡山(津山、繁殖地辺縁部に段ヶ峰から移ってきた計画、民間団体によりクロスチェック調査を継続中)に。生息地選択の幅が限られた半島部のクマタカ生息環境に割り込みとなった計画は、静岡(伊豆)にある。
  • その場所で効果を発揮させるタイプの保安林の指定地に、関係機関との協議より計画・風況調査等を先行させて批判された例は、福島(白河)。
  • 地域性との調和が図られず反対運動がおきている例は、北海道(小樽市・銭函海岸)。
  • 同一地域に別々の事業者が建設を予定している際の環境影響は合算であるが、現状は個別対応のみ(各社とも自らの事業影響と環境との関係を見たとしても、現実は大規模な面開発であり、それによる影響の考察は誰もしていない)という例は、静岡(伊豆)にある。

3.自主調査の意図や水準の問題

自主調査に、実際にどれほどの資金や労力がかけられているのだろうか。例としては・・・

  • 希少猛禽類以外の鳥や動植物、水文環境などは調べられていない例が多い。現在開催中のCOP10で「里山イニシアティブ」が出されたことからわかるように、絶滅危惧種で社会的に注目されるものだけが保全対象というような考えは、すでに過去のものにもかかわらず、「自然度の高い重要山岳でなく、周囲は田畑しかないので調査は必要ないと考えている」という説明が、実施者からなされたことがある。
  • 大規模開発にもかかわらず、土捨てが安易になされる、道幅拡幅のための法面を削ったが事後の緑化がなされていないという例がある。
  • 風況調査において、希少鳥類がワイヤー等に衝突する危険があるにもかかわらず、「単に高いポールを立てるだけだから調査は不要」という説明がなされた例がある。
  • 兵庫県の段ヶ峰の事例で、NEDOマニュアルに基づく事業者の調査が実施されたが、イヌワシの出現の一部が記録から削除されたこと、繁殖の事実が隠されたこと(使用中の巣を古巣と記載)、風車建設予定の尾根上に調査員を複数配置して数ヶ月にわたって連日観察することで意図的にイヌワシが近づかない状態を作りながら調査した可能性などが社会問題になり、県の「風力発電所環境配慮暫定指導指針」に基づく知事助言においても、引き続き猛禽類の調査を実施し、その調査結果の報告を求める等、調査の社会的信頼性を失う事例があった。その後、兵庫県では風力発電が条例アセスの対象事業とされている。
  • 希少種の衝突死が問題視されない限り、建設後の自然環境変化の監視はなされていない(ないしは、このような情報の集約・報告・対処の仕組みがない)。

これらのことから、現在の事業者のみによる自主調査、自主判断だけでは不十分であることが推し量れる。

4.岩手県・釜石のイヌワシ衝突死事故にみる、事前検討の不十分さの例

ここでの事業者は、野生生物保護対策部会を設けたが、その際の部会長(大学教授)の発言は以下のとおり(釜石市風力発電推進委員会・会議録(第8回)より原文のまま転載)。

『特にイヌワシにつきまして、多少の飛翔が見られている』、『風力発電立地場所を横断した個体は、1個体だけである。』、『一台あたりの風車に衝突する確率は非常に少ない、43基建設されたとしても、年に0.1羽もないということ』、『イヌワシの衝突についてだが、カリフォルニアの例を確率にすると一台あたり230年に1羽衝突する確率である。』、『釜石の風力発電の場合、通常の行動圏でないところに設置するので、アメリカのようなことはほとんどないと考え、あたってもさらに確率は低いと考えられる』。

このような検討を受けてウィンドファームが建設されたが、民間団体により地域で個体識別されていたイヌワシ成鳥の衝突死事故が、2008年9月に発生した。机上の論理だけでは、日本の自然は守れない。

5.定着性のある希少大型猛禽類に対する脅威

北海道では、これまでに23個体のオジロワシやオオワシが衝突死している。苫前町の風力発電施設では、2004年以降6羽以上のオジロワシが衝突死し、年間衝突数は4.0羽と推定(Kitano et al. in preparation)されている。北海道でのみ繁殖するオジロワシは、種の保存法による国内希少野生動植物種に指定され、保護指針に事故防止対策への努力が明記されていることからも、衝突事故が発生した時点で、風車の稼働を一時停止し、該当種の分布と環境利用状況を調査した上で必要な対策を講じるべきであろうが、未だ有効な対策はとられていない(事故発生後に稼働を停止して原因の精査や事業の再検討をした事例はない、と思われる)。

北海道には約150つがい300羽のオジロワシが繁殖し(白木 未発表)、越冬個体数は約600羽(中川 2009)である。留鳥である繁殖成鳥とそれらから出生した若鳥の数から考えると、越冬期間であっても衝突した個体の多くは、北海道で繁殖している成鳥か出生した若鳥である可能性が高い。
このような、個体数が限られた局所集団へのインパクトは、軽視すべきでない。

今後の計画地でとられるべき保全措置として、衝突種や衝突頻度によっては「一時停止→精査」や「移設」等も必要となるが、このような措置は、自主調査に基づく自社判断でなされるものであろうか。保全措置として「風車の停止や撤去」の明確な担保を作るためには、第三者の審査と条件付けが不可欠である。

6.野生生物課「鳥類等に関する風力発電施設立地適正化のための手引き」(案)の要改善点

現在、野生生物課で作成中の「鳥類等に関する風力発電施設立地適正化のための手引き」では、一貫して、衝突リスクの算出、事後調査に基づく解析、そして順応的管理に基づく事後の措置を推奨しているが、この手法は個体数の母数が一定以上確保された集団には使えるであろうが、個体群サイズが小さく、かつ風力発電施設と行動域が重複しやすい種には不適当で、以下の改善を要望している。

・イヌワシやオジロワシのように、死亡率増加による局所集団へのダメージが大きい種には、「順応的管理」でなく「予防的措置」をとること。衝突する可能性が考えられるのであればその回避を図るべきであり、保全措置としては「重要な生息地を建設地として選定しない」ことにしなければならないこと。

・手引きには、スクリーニングで生息状況を把握して候補地を絞れと書いてあるものの、「重要な生息地を避ける」より、「重要な生息地を含め、候補地における調査方法や項目について選定する」ことが推奨されているように読めることの修正。このようなスクリーニングでは希少種の生息地や重要な渡りルート上の建設も進められ、衝突事故や生息環境の悪化が起こり、局所集団へのダメージは不可逆的に増大しかねない。

・これまでの風力発電施設立地メッシュと希少種の生息メッシュをみると、10%がイヌワシ、16.1%がクマタカと重複している事実がある。人間の社会活動の結果である地球温暖化で野生生物は生育生息地に深刻な影響を受ける恐れが高まる中で、その対策のために再度悪影響を受けさせることは、環境倫理的に不適切である。手引きには、『狭い国土において風車を立地するとき,希少種等の生息環境に踏み込まざるを得ないことも考えられるため』とあるが、これを環境行政が安易に認めては取り返しがつかないため、削除を求めている。

7.自然環境と風力発電施設

風力発電施設建設事業では、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の環境影響評価マニュアルによる調査が、事業者の判断により行われている。しかし、風力発電施設が自然環境と共存できる場とできない場があり、計画にあたっては、立地選定と合意形成のプロセスが特に重要だが、現状のしくみでは、必ずしもこの地球温暖化対策を生物多様性保全と整合させることができず、風力発電という温暖化対策が多様性への脅威になるなどの新たな問題を生じさせ、矛盾したり、かえって時間がかかるおそれもある。

調査をしたとしても、最終的な計画や実施の判断を事業者の判断に委ねることでは、調査結果を事業計画に適切に反映させる可能性は低減する。有識者による検討機関は設けられるとしても、そこには恣意による偏りが生じる等の基本的な問題点は解決できない。計画に対する価値判断は、環境行政が中立的な第三者機関の意見を聞きつつ独自の判断基準を持って指導する必要がある。計画段階と事後において中立的な有識者や専門家が事業に干渉できる仕組み作りが特に重要。

このような、自然と人のための風力発電事業に関する環境影響評価手続きの制度化は、欧米諸国においては既になされている。

8.NEDOの『風力発電ガイドブック』への疑問

NEDOが発行しているものに『風力発電ガイドブック』がある。2008年2月改訂第9版によると、4.2導入計画の進め方に(3)自然条件の調査と(4)社会条件の調査があり、なぜか(f)動物・植物は社会条件の調査に入っており、この項目で次のように書かれている。

『風力発電システムの設置による動物・植物への悪影響の報告例は現時点では少ないものの、絶滅が危惧され保護を必要としている動植物種が生息するか否かを都道府県の環境課等で調査し、それらへの配慮の有無を検討する必要がある。特に希少猛禽類のイヌワシ、クマタカ、オオタカ等は、食物連鎖の頂点に位置する上位種であり特段の注意が必要とされており、その他の種と併せて必要に応じてその影響を評価することが望ましい。また、鳥の渡りの経路や中継地点との関係についても、確認・検討を行うことが必要で、関係団体との調整が必要になってくる。』

また、(g)景観については、次のように書かれている。

『景観については主観的なものであるので客観的に評価するのは難しいため、立地地点周辺の自治体等が策定している景観形成方針等を参考としながら、周辺の景観との調和を図ることが望ましい。また、主要眺望地点等からの完成予想図、フォトモンタージュ等を作成して、デザイン・色彩・配置についても配慮する必要がある。』

*同じくNEDOから、『風力発電のための環境影響評価マニュアル』も別に出されており、その中では、『動物、植物の項目が評価項目として選定することが望ましい』とあるが、なぜか「生態系」は入っていない。

なぜ、動植物が社会条件なのかの問題は別として、このガイドブックで示された自然条件は、地形条件と気象条件と地盤条件だけである。生態系として考慮せず、特定の希少鳥類だけにこだわる要因は、これらにあるのではないか。

ガイドブックは、風力発電事業者等が風力発電の導入を検討するときの手引きとするために作られたとあり、『風力発電の導入意義、風力発電の現状、導入事例、並びに実際に導入を行う際に必要となる調査等の検討の進め方等について内容を一新してまとめ、第9版として発行する』とあることから、調査担当業者はこのような考え方でよいと思われるであろう。また、「景観は主観的なもので基準が無い」と常に説明があるが、このことの原本になっているように思われる。

9.地域住民と風力発電施設

NEDOのマニュアルによる調査を実施した案件の約4分の1が、住民の意見聴取手続を行っていなかったという。このようにして、地域住民から苦情が出ていながらもこれまで何万kwも建設してきたことは、今後は繰り返してはならない。

環境作りは企業や行政だけに任せるものではなく、市民との協働はあらゆる場面で求められている。合意形成と協力を得るために最も重要なのは、中立性と公開性・公平性。現在の自主調査には、この点でも限界がある。

10.その他の意見

風力等の自然エネルギーで発電するとしながら、一方で、発電の不安定性や蓄電できないため捨てることになる場合がある電力とも説明され、これらの調整のために火力発電も必要と説明されている。が、現在の火力発電も存続し続ける中での風力利用の発電であれば、風力が石油への依存度を下げるなど、CO2削減にどのように寄与するのか大いに疑問である。実際のCO2吸収能力を持ち、京都議定書によって世界中でカウントされている森林の重視が求められる中、森林環境、自然環境を軽視した風力発電では困る。

また、温暖化対策になりえる新エネルギーにはさまざまな種類があり、今後それぞれの技術開発も進むであろうことから、多くの懸念材料がある現時点で、風力発電をとにかく増やすということを急ぎすぎるのではなく、環境と状況にあわせたエネルギー供給体制を考えるべきである。

11.結論

このような中、早い段階で風力発電事業に係る環境影響を把握し、地域毎に個性を持つ生物多様性を確実に保全し、地域住民の生活環境を守り、市民の理解を得ることは、自然エネルギーの社会的評価の向上と、風力の適切な活用に資すると思われる。

これらを的確に行うため、風力発電施設の設置を環境影響評価法の対象事業とするべきで、その際は、風力発電の影響は立地によって異なり発電規模の大小だけで異なるものでなく、風車毎の地上の開削面積は小さいものの開発には道幅の広い道路が必要なこと、面として広い環境への影響範囲を作り出すものであることや、箱庭のような狭い国土の中に作ろうとしているものであることを、十分考慮する必要がある。

対象とする規模は、新エネ法で補助対象となっている1,500KWからという基準を、環境影響評価条例の対象として使用している自治体の例が複数あること、NEDOの環境影響調査マニュアルの対象が10,000KWからであること等から、「5,000KW以上」程度が国としての区分ラインではないかと思われる。

また、風力発電施設は、小規模の建設が同一地域で連続する、ないしは同時に別々に進むことがあるため(静岡・伊豆や愛媛・佐田(さだ)岬、鹿児島・佐多(さた)岬等)、複合影響を考察する仕組みの導入が不可欠である。

以上


ご参考(環境省)

「風力発電施設に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会」報告書の取りまとめ及び報告書(案)対する意見募集(パブリックコメント)の結果について(お知らせ)

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