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<参加者特典3>おもしろ赤とんぼばなし

2014.06.30
解説
会報『自然保護』No.540(2014年7・8月号)より転載


このページは、筆者に、教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可)。
ダウンロードして、自然観察会などでご活用ください。


今日からはじめる自然観察「赤とんぼさがしに出かけよう!」(PDF/2.26MB

 

赤とんぼさがしに出かけよう!


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この夏は「自然しらべ2014 赤とんぼさがし!」を開催しています。

赤とんぼは普通、アカネ属のトンボを指します。実は赤くないアカネ属のトンボもいて、見分けは少し難しいですが、ぜひご協力ください。(編集室)

(←写真:アキアカネ)

赤とんぼの一生


No540_kyokarahajimeru_yago_R.jpg多くの赤とんぼ(アカネ属)は秋に産卵して、卵で冬を越し、次の春に孵化して初夏に羽化します。つまり、一年で一世代ということになります。(ただ、すべての種が卵で冬を越すわけではなく、ネキトンボなど一部の種類は、秋に孵化して幼虫で越冬します。)トンボは、卵からかえると「前幼虫」になり、さらに脱皮して幼虫になります。幼虫のことを「ヤゴ」と呼びます。    

赤とんぼの代表種であるアキアカネの幼虫は、約2カ月間で9回脱皮をします。これを10齢幼虫と呼びます。アキアカネの場合、普通この10齢幼虫が、次の脱皮で成虫となる終齢幼虫ですが、遅く孵化したものでは、わずか36日間で8回脱皮して9齢で終齢幼虫になったという報告があります。


No540_kyokarahajimeru_tonbouka_R.jpg

赤とんぼの羽化は、6~7月ごろに多く、たいてい真夜中に行われます。アキアカネでは、1時間半近くかけて脱皮し、成虫の姿になります。さらに1時間半ほどすると羽を開き、朝方になると飛びたっていきます。羽化後、種によってさまざまな場所に移動して夏を過ごし、秋になると産卵場所に戻って交尾・産卵をし、次の世代へ生をつなぎます。

野外でトンボが何をどれくらい食べているのか、実はあまり詳しく分かっていません。飼育下のヤゴは、ミジンコ、イトミミズ、アカムシ(ユスリカの幼虫)などを与えると食べます。野外ではアキアカネについては、シナハマダラカやユスリカ類の幼虫を盛んに食べていたという研究があります。また、成虫については、野外でウンカやハエの仲間、小さなガなどを食べているところを見かけたことがあります。

気温と静止場所や姿勢

変温動物のトンボは、気温の影響を強く受けるので、止まる場所を工夫して上手に体温調整しています。ナツアカネ、マユタテアカネ、ノシメトンボなどは、夏は水田周辺の薄日の当たる樹木の下枝の枝先に止まって強い直射日光を避けています。アキアカネは、晩秋の夕方になると日の当たる樹木の幹や土蔵の壁など垂直面に何匹も止まっていることがあります。
また、暑い時期は電線などの比較的高い場所に止まっていますが、10月以降で寒くなると、熱が吸収しやすい地面や石の上など低い場所でよく静止しています。
ネキトンボなどでは日中暑い場所で静止している時は、腹部を上にして逆立ちしたように止まっていることがあります。これは太陽の光を受ける面積を最小にすることで体温上昇を防いでいるのだと考えられています。赤とんぼたちがどんな場所でどんな格好で止まっているか観察してみてください。

赤とんぼQ&A

赤とんぼの成虫はどんな環境にすんでいる?
日本では大陸から飛んでくる偶産種も含め21種1亜種の赤とんぼ(アカネ属)が記録されています。
それらは、水田のほかにも、さまざまな場所に生息しています。以下は赤とんぼたちの主な生息地。
(下の図をクリックすると大きくなります)

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オスとメスで色や形がちがう?


No540_kyokarahajimeru_tonbokobi.jpg羽化から未成熟期ではオスもメスも同じような色の種が多いのですが、成熟するとオスとメスで色が異なってきて、オスの腹部が鮮やかな赤色に変わる種が多く、赤とんぼと言われるゆえんです。しかし、中にはメスでも腹部が鮮やかな赤色に変わる個体が知られています。その出現比率は種類や地域によってさまざまです。

オスとメスの形は、横から見ると腹部全体の体型や、腹部の先の形が違うことが分かります。オスは腹部第2節に交尾のための副性器があり、メスは腹部第8節に産卵のための産卵弁があり、それぞれ種によって形が異なっています。
(下の写真をクリックすると大きくなります)No540_kyokarahajimeru_tonboseibetsu.jpg
赤くない赤とんぼ?
トンボの属は翅(はね)の脈の形状などで分類しているので、赤くないアカネ属のトンボもいます。アカネ属の体の色は、黄色、橙色、赤色などの地に黒い斑紋があるものが一般的ですが、中にはオスが成熟すると、黒くなるムツアカネや青くなるナニワトンボのような種もあります。

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どんな方法で卵を産むの?
アカネ属の産卵は、①直接水面に卵を産み付ける打水産卵、②泥に行う打泥産卵、③空中から湿った地上に卵をまき散らす打空産卵の3種類の方法が知られています。ミヤマアカネ、マユタテアカネ、コノシメトンボのように打水産卵と打泥産卵の両方を行う種もあります。
卵の形はほぼ球形のものとラグビーボール形をしたものとがあり、日本のアカネ属のうち球形のものはリスアカネ、ヒメリスアカネ、ノシメトンボ、ナニワトンボ、ナツアカネ、マダラナニワトンボ、エゾアカネの6種1亜種で残りはラグビーボール形をしています。打空産卵を行うのは球形の卵を持つ種だということが分かっています。


No540_kyokarahajimeru_tonbosanran_tamago.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキアカネは減っている?
近年問題視されているアキアカネの短期的で急激な減少は、2000年前後から始まったようです。例えば富山県では、1998 年を境に急激な減少がみられたという報告があります。静岡でも以前の10分の1から30分の1になったという報告もありますし、100分の1、あるいはまったく見られなくなったという地域もあります。その一方で、さほど大きく減少していないという地域もあり、隣接する県でも状況は一様ではありません。

 

No540_kyokarahajimeru_nae_R.jpgその主な原因として2000年ごろから急速に普及した育苗箱(タネからある程度の大きさの苗になるまで育てるための箱)に使用する殺虫剤が挙げられています。この新しい殺虫剤は、農作業の省力化にもなり、稲苗と一緒に土壌中に埋め込むため、周囲の環境への農薬の飛散を抑えるという点でも優れているのですが、春の移植時あるいは播種(はしゅ)時に施用される農薬であるという点が、水田にすみ、その時期を弱齢幼虫で迎えるアキアカネにとって致命的な影響を及ぼしているのでは、と上田哲行教授(石川県立大学)は指摘しています。皆さんの地域ではいかがでしょうか。(アキアカネの減少について詳しくは、会報『自然保護』2012年9・10月号の「全国で激減するアキアカネ」(PDF)をご覧ください。)

 

※以上が会報『自然保護』2014年7・8月号に掲載しているものです。以下は会報未掲載原稿です。

赤とんぼはどのくらい移動するの?
アキアカネは多くの個体が群れをなして長距離移動をすることが知られており、マーキング調査によると、移動距離は垂直で1000m以上、水平で数十キロメートルに及ぶという記録があります。その一方で、低地で夏を過ごしたり、高地だけで繁殖を続けるといった個体があることも示唆されています。ミヤマアカネでは数キロメートル以内の移動が中心という報告がありますが、その報告中でも例外的に12キロメートル先で見つかった個体があります。他のアカネ属の種の移動については、あまり詳しいことは分っておりませんが、マーキングによる研究ではナツアカネもかなり移動をするようで、同所での再捕獲率が低いとのことです。

絶滅しそうな赤とんぼは?
環境省レッドデータブックで、マダラナニワトンボ、オオキトンボ、エゾアカネの3種が絶滅危惧ⅠB類、ナニワトンボが絶滅危惧Ⅱ類の指定を受けています。県単位のレッドデータブックでは、オオキトンボ、キトンボ、ミヤマアカネは既に絶滅した県がありますし、マイコアカネ、ヒメアカネ、ネキトンボなどが絶滅危惧種に指定されている県も複数あります。

また、マユタテアカネやアキアカネが要注目種になっている県もあり、日本全体でみた場合、全く絶滅の心配のない赤とんぼは1種もいないといっても過言ではありません。なお、沖縄県では、スナアカネ、タイリクアキアカネ、オナガアカネなどが数回記録されたことがありますが、アカネ属の定着は確認されていません。記録されたらすべて珍しい記録ということになります。

赤とんぼについてさらに詳しく知りたい方にお勧めの本
1) 井上 清・谷 幸三(2010)「赤トンボのすべて」(トンボ出版)
2) 新井 裕(2007)「赤とんぼの謎」(どうぶつ社)
3) 田口正男(1997)「トンボの里ーアカトンボにみる谷戸の自然」(信山社)


執筆:松木和雄(日本トンボ学会会長)
写真提供:A、B、D、I  喜多英人
       C  石川 一
       E、F、G、H、J、L、M  堀田 実
       K  上田哲行

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