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【配布資料】今日からはじめる自然観察「カメの暮らしをのぞいてみよう」

2013.06.28
解説

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【今日からはじめる自然観察】カメの暮らしをのぞいてみよう(PDF/2.93MB)
会報『自然保護』No.534(2013年7・8月号)より転載
このページは、筆者に、教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可)。ダウンロードして、自然観察会などでご活用ください。

本州・四国・九州では3種、琉球列島では3種の在来のカメが分布しています。
北海道で観察できるのは、後から入ってきたクサガメやミシシッピアカミミガメです。
この夏は「自然しらべ2013  日本のカメさがし!」にご協力ください!

矢部隆(愛知学泉大学教授)


ニホンイシガメ(以下イシガメ)やクサガメ、ニホンスッポン(以下スッポン)、北米産のミシシッピアカミミガメ(以下アカミミ)は皆、水陸両生のカメです。クサガメ、スッポン、アカミミは、どちらかというと流れがそれほど強くない平地の河川や池沼にすみ、イシガメは山間部の河川の上流部のような環境にもすんでいます。

琉球列島のカメでは、リュウキュウヤマガメ(以下ヤマガメ)とヤエヤマセマルハコガメ(以下ハコガメ)は、陸生で、両種とも水かきが発達しておらず、泳ぎは下手で水には浸かる程度です。ヤエヤマイシガメは水陸両生で、本州のイシガメと比べて、より水中を好みます。

ニホンイシガメ

本州のカメは昼行性 沖縄のカメは夜行性

本州・四国・九州にすむカメは基本的に昼行性ですが、スッポンは臆病なので日中でもよく水底の砂や泥に潜って隠れています。真夏の日中は水底に隠れて暑さをしのいでいます。琉球列島は日差しが強く暑いので、ヤエヤマイシガメはほぼ完全な夜行性です。ヤマガメやハコガメは明け方や夕暮れ時に活動する薄明薄暮性のようです。

水中で越冬 カメはどこで呼吸する?!

冬、イシガメやクサガメ、スッポン、アカミミは代謝が下がりほどんど動かなくなります。琉球列島のヤマガメやハコガメ、ヤエヤマイシガメも、亜熱帯気候とはいえ1〜2月は気温が下がるので、冬ごもり状態に入ります。イシガメやクサガメは陸地の地中で越冬すると思われることが多いのですが、そのような個体はごくごく一部で、水陸両生のカメは通常は水底の岩の間や落ち葉の堆積の下、浸食されてできた横穴などに隠れて越冬します。陸生のヤマガメとハコガメは陸地の穴や地中に隠れて越冬します。

爬虫類で肺呼吸のカメが水底で1〜2カ月も過ごすのは驚きです。カメは肺の空気を出し入れするのに喉をふくらませたりすぼめたりしますが、この行動を水中にいるときにもすることがあります。(水族館などで観察してみましょう)水中では水を出し入れすることによって、食道から水中の酸素を補助的に吸収することができるのです。おしりの穴(総排出孔)の奥の対になった袋状の器官(副膀胱)でも水中の酸素を吸収できます。カメは変温動物ですから、寒ければ代謝速度がかなり下がるので、食道や副膀胱から得られるわずかな酸素で生きていけるのです。

春になると本州・四国・九州のカメは池や川の岸辺や、岩、倒木などに上って積極的に日光浴をします。双眼鏡で観察すると、種まで分かるでしょう。

求愛・交尾は春と秋

イシガメは野外での研究から、主に秋と春に求愛・交尾をすることが分かっています。断片的な観察からほかの種のカメも秋と春に交尾が多いようです。カメのメスは精子を、長いときには数年間も貯蔵できるので、夏の産卵の直前に交尾しなくてもよいのです。イシガメとクサガメは浅い水辺でオスがメスに求愛します。イシガメのオスは、メスの正面に来て、手のひらを外に向けて両手を交互に揺らして求愛します。

クサガメは手を使わず、オスは頭でメスの頭をコツンコツンと刺激します。アカミミは水面に浮いた状態で、メスに向き合ったオスが手のひらを外側に向けて両手を揃えて爪をふるわせて求愛します。メスが求愛を受け入れたらオスもメスも沈んで水底で交尾します。

スッポンについては詳しく分かっていませんが、求愛交尾期のスッポンの甲羅には噛み痕が付いていることもあり、荒々しい交尾をしているようです。ヤエヤマイシガメの交尾も荒々しく、オスは背後からメスに馬乗りになって、うなじに噛みついて交尾をします。ヤマガメとハコガメも、オスがメスの甲らの縁を咬むなどして交尾をします。

アカミミのオス(右)がメス(左)に求愛中

ヤエヤマイシガメの交尾

産卵は初夏

日本産のカメはすべて6~7月を中心とした初夏に産卵します。カメはヘビやトカゲ、鳥などと同じく炭酸カルシウムの殻を持った卵を陸上に産みます。どのカメも後ろ足をスコップのように使って地面に穴を開け、産卵後はその穴(産卵巣)の入り口を後ろ足でこねた土でふさぎます。野生のカメは夜明けごろ、裸地や田んぼの畦、畑などで、天敵を避けて密やかに産卵をします。

クサガメ(飼育個体)産卵中

しかし公園や社寺の池で人に慣れているカメなら、日中でも平気で産卵することがあります。陸地に上がっているカメを見つけたら、要注意です。境内とか低木の下とか物陰とかで産卵していないか、注意深く観察してみましょう。

多くの生物は、性染色体をどのような組み合わせで持つかによってオスになるかメスになるかが決まります。スッポンはそのように遺伝的に性が決まるのですが、イシガメ、クサガメ、アカミミ、ハコガメ、ヤエヤマイシガメは性染色体を持っておらず、地中に産み付けられた卵がさらされる温度によって性が決まります。高温だとメス、低温だとオスになります。

孵化したばかりのクサガメ(左)とイシガメの卵(右)

ニホンイシガメの暮らし 春夏秋冬

ニホンイシガメの暮らし 春夏秋冬


カメQ&A

Q  カメってどんな足跡?

A こんな風に足跡がつきます。(写真)
ぬかるんだ地面なら、肢としっぽの跡が残るので、探してみましょう。

亀の足跡(写真)

Q カメは万年も生きる?

A 1万年は大げさですが、カメは長生きします。
野外での生態的研究から、イシガメにもヤエヤマイシガメにも、50歳を超えて生存する個体がいることが分かっています。クサガメでは45歳になるまで飼育された例があります。国外のカメではカロリナハコガメが138年間、ヨーロッパヌマガメが120年以上生きた例があります。これらのカメは体重が1kg前後です。小型であるにもかかわらず、人間なみの寿命を持つわけです。
ワニガメやカミツキガメのように体重が10kgを越えるカメは、おそらく100歳を超えることができるでしょう。
そして体重が200kgを越えるゾウガメでは、すでに成体になっていたときから152年間も飼育されたセイシェルゾウガメ「マリオン」や170年以上も飼育されたガラパゴスゾウガメ「ハリエット」が知られており、200年以上生きることができるかも知れません。

Q カメの年齢って分かるの?

A 若いうちは甲羅を見れば、おおよその年齢が分かります。
甲板(こうばん)が木の年輪のようになっており、内側から数えていけば、年齢が分かります。ただ、年齢を重ねるごとに磨り減ったり、傷ついて分かりにくくなります。イシガメやクサガメはおよそ10歳くらいまでなら分かるでしょう。アカミミは年輪が薄い上に、脱皮するので、4~5歳以上になると年齢を数えるのは難しくなります。

背中側の甲羅(左)と腹側の甲羅(右)

Q オスとメスはどうやって見分けるの?

A おしりの穴の位置を見ます。
多くのカメで、おしりの穴の位置が腹甲から離れていればオス、腹甲に近ければメスと性別を判定することができます。とはいえ、それぞれの種でオスとメスのおしりの穴の位置の違いを、一度は並べて比べておかないと、性別の判定は難しいでしょう。クサガメとアカミミでは、オスは高齢になると体が黒化します。ヤエヤマイシガメのオスは、腹甲が大きくくぼみます。

クサガメのオス(左)とメス(右)

Q クサガメは外来種なの?

A まだ結論は出ていません。

DNAを用いた分岐系統の研究から、日本には朝鮮半島と共通の遺伝子を持った集団と中国と共通の遺伝子を持った集団があることが明らかにされました。この研究および遺跡からのクサガメの発掘例がないといった調査結果や、江戸時代前期など古い時代にクサガメの存在を示す記述がないといった民俗学的研究から、クサガメは外来生物であると言われるようになりました。
日本には外部形態の異なる2つのタイプのクサガメがいることが知られており、DNAの研究で明らかになった朝鮮型と中国型に対応しています。聞き込み調査や過去のカメの分布の分析から、中国型はこの数十年という新しい時代に定着しつつあり、これは移入されたものと考えて良いかもしれません。一方朝鮮型は西日本を中心に、古い時代からすでに分布していた地域と、新しい時代に定着を始めた地域があります。クサガメは国内で養殖されてペットとして流通しているので、後者の場合は国内移入種であると思われます。

クサガメ

DNAの研究では朝鮮半島のサンプルが都市近郊で採集された1個体のみであることなど、不十分な面があり、今後韓国や中国、台湾と連携し、より詳細に研究を進めなければなりません。日本に生息するクサガメがすべて外来生物である可能性は否定できません。しかし現段階で、日本のクサガメを外来生物であると結論づけることはできないと言えるでしょう。

Q お寺ではカメを放してよいの?

A ダメです。

捕らわれて囲われた動物を自由にすることを仏教用語で放生(ほうじょう)と言います。放生をすれば功徳を得ることができると考えられており、カメや魚をお寺の放生池に放す放生会(ほうじょうえ)が年中行事として盛んに行われていました。
かつては近隣の川や池から捕ってきた水生動物をお寺の放生池に放していただけなので、地域の生態系や生物多様性への悪影響はほとんどありませんでした。しかし近年では、ペットのカメが大量に放されています。動物に自由を与えるのだという放生的発想を免罪符にして、飼うのに飽きたり飼い切れなくなったりした動物を野外に放逐する無責任な人が、後を絶ちません。
そのように放逐された動物はその地域に定着して、場合によっては繁殖し、在来の生物や地域の生態系、生物多様性に悪影響を与えます。したがってお寺の池と言えども、カメや観賞魚などの愛玩動物を放すことは厳禁です。

手桶の取っ手に吊るされた放し亀の絵。


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