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コンサベーション ~草原の場合~(やさしくわかる自然保護14)

2000.03.27
解説

月刊『自然保護』No.438(1999年7/8月号)に掲載された、村杉事務局長による自然保護に関する基礎知識の解説を転載しました。
自然保護に関する考え方や概念それに用語など、基礎的なデータベースとしてご活用ください。各情報は発表当時のままのため、人名の肩書き等が現在とは異なる場合があります。
やさしくわかる自然保護 もくじ


コンサベーション ~草原の場合~

自然状態の草原には大きく分けて自然草原と半自然草原の2つのタイプがある。

前者は自然環境の厳しい高山帯のお花畑のように、放っておいてもこれ以上遷移がすすまない草原をいい、後者は以下に述べるさまざまな人為的な管理によって成立している遷移の途中の状態にある草原をさす。今回はその半自然草原(以下、草原)のコンサベーションについて考えよう。

失われゆく日本の草原

日本の草原は、化学肥料のない時代は田畑の肥料のための採草地とか、馬や牛を飼育する放牧地、屋根の材料生産のカヤ場などとしての利用価値が高かったため、人々は定期的に草を刈ったり、焼いたりすることで草原が森林に遷移していくのを抑制してきた。それが1960年ごろから草原は種々の開発や植林、さらには人為的管理の放棄による遷移の進行などで減少の一途をたどっている1)

例えば、阿蘇では平安時代から約1000年にわたって人々は野焼き・採草・放牧を繰り返しながら広大な草原の景観を維持してきた。自然と人間活動が調和したなかで営まれてきたこのような畜産的な土地の利用が牛肉の自由化・高齢化・後継者不足で次第に困難になっている。昭和40年代には2万ヘクタールあった野焼き面積は今では約半分になってしまった。野焼きや放牧を中止するとそこにはまずススキが生え、20年後には雑木林になるという。

明治・大正時代には国土の11パーセントあったという草原が、今日では約3パーセントしか残っていない2)。草原の減少は草原でしか自生できない植物の減少、さらには特定の種の絶滅をまねく。かつては草原に普通に見られたフジバカマやオキナグサも絶滅寸前だ。マツムシソウですら、近畿地方では絶滅したところもあると報告されている3)

日本の草原は草原そのものの希少価値、生物多様性を確保することの重要性、氷河期の生き残りの種などを通じて自然史を知るうえでの価値、自然と人間のかかわりの社会的・歴史的価値がある。カヤ場については、わずかに残る日本の伝統的な茅葺き屋根の建造物やその集落など、文化財の保存という観点からもなくてはならない。

今後このような貴重な草原生態系を守るには、かつて農家の人が自らの生活のために行ってきた野焼きや草刈りなどの人為的な管理を、自然を守るために行う必要がある。社会のしくみや生活様式・土地利用形態などが大幅に変わった今、これを実行するには智恵と資金と労力が必要で、草原を維持するのは容易なことではない。

『自然保護』4)1・2月号に会員の後藤勝彦氏が大分県久住町での自然指導員による野焼きボランティアの活動のもようを語っておられる。危険と紙一重の大変な仕事ながら、「自分たちでやらなければ地域の自然はだれが守るのだ」という氏の言葉にはおおいに勇気づけられる。

 

(村杉幸子・NACS-J事務局長)

 

<参考資料>
1)第2回阿蘇草原懇話会報告書:環境庁九州地区国立公園・野生生物事務所(1997)
2)環境庁 第4回自然環境保全基礎調査
3)沼田眞編:『自然保護ハンドブック』朝倉書店(1998)
4)各地の団体からのレポート:『自然保護』No.433(1999)

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