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沖縄・普天間飛行場代替施設建設事業、7000ページの環境影響評価書はデータを恣意的に使い、評価と科学的論理を欠いている。

2012.02.03
要望・声明

「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書」への意見(PDF/215KB)
各専門分野の専門家による理由書(PDF/962KB)


 

2012(平成24)年2月3日

沖縄県知事 仲井真 弘多 殿

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 田畑 貞寿

 

「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書」への意見

 
 (財) 日本自然保護協会は、辺野古・大浦湾海域において、海草藻場モニタリング調査「ジャングサウォッチ」をはじめ各種現地調査を行い、辺野古・大浦湾の生物多様性の豊かさに注目し、その保全を訴えてきた。この度、沖縄県条例およびアセス法に基づく「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書」(以下、本評価書)に対して、科学的知見の集積をもとに、環境保全の見地から下記の問題点をあげ、意見を述べる。

 

主 な 意 見

普天間飛行場代替施設建設事業(以下、本事業)は豊かな生物多様性に大きな影響を及ぼし、「環境保全上問題がある」ことは沖縄県環境影響評価審査会においても結論づけられているように、本評価書においてもデータを恣意的に利用し科学性を欠いているため、環境アセスメントの手続きとして破綻している。したがって、沖縄県知事は、生物多様性の保全と環境アセスメントの所管である環境省に本評価書の妥当性を問い、事業者である防衛省に本評価書を撤回させ、日米両政府へ本事業の抜本的な見直しを求めるべきである。

 

問 題 点

1.データを恣意的に使い、評価と予測に科学的論理を欠いたままである

評価対象となっているほとんどすべての項目において、評価と予測に科学的論理を欠き、事業の実施を前提とする環境保全措置となっている。事業者の都合のよいデータを恣意的に用いていることが散見される。国が事業者であるにも関わらず、科学的な議論と合意形成の手続きを経てきた文書とはもはやいえず、アセスメント制度の限界を示すものである。

2.生物多様性豊かな海域、辺野古・大浦湾の特性が評価されていない

外洋的環境から内湾的環境の特性を持つ大浦湾とサンゴ礁生態系の辺野古がセットであることに生物多様性上、高い重要性がある。特にその接点である、遮蔽された大浦湾西部の砂泥地は、特異的な生物群と希少種が分布し、極めて重要な環境である。さらには、本評価書においてジュゴンの食み跡が記録され、今後の利用可能性を秘めた場所である。このような生物多様性のホットスポットを、科学的な評価をせずに、埋め立てを行い、失おうとしていることは、将来世代へ大きな禍根を残すことになる。

3.孤立した沖縄のジュゴン個体群は危機的状況にあることの認識に欠ける

辺野古地区(大浦湾西部)で食(は)み跡、辺野古沖の遊泳の記録があるにも関わらずこれらの生息情報を矮小化し、個体群への影響を過小評価している。本事業がジュゴンの生息に致命的な影響を与えることは明白である。特に、確認個体が3頭と絶滅危惧種のなかでも極めて危機的な状況にある現在、個体数を回復させるには、生息可能性をもつ海草藻場・環境を可能な限りすべて保全できるかどうかにかかっている。種の保存法による種指定、生息地等保護区の指定、保護回復計画などあらゆる制度と施策をつかった保全回復計画が必要である。

4.具体性を欠いた環境保全措置。実施責任が明記されていない

工事中・供用後のモニタリング方法や環境監視体制、環境変化の指標や環境保全の目標の設定が曖昧にされたままでは、環境アセスメント自体がより形骸化したものになる。影響の低減・代償として行われる環境保全措置は、「必要に応じて」「可能な限り」など条件付きの記述では実効性がない。最初から、環境保全上の責任を放棄しているとしか思えない。

5.埋め立て土砂の調達計画が未だに具体化されない

沖縄県環境影響評価審査会でも、埋め立てに必要な約1,700万m3(東京ドーム約14個分)の調達計画の記述が求められているにもかかわらず、「現時点において具体的に示すことは困難」との回答では、何も応えていないに等しい。大量の埋め立て土砂について、採取先が県内・県外や陸上・海上のいずれでも、採取地・埋立地の両方の自然環境に与える影響は大きく、長期的・複合的な影響を考慮する責任が事業者にはある。

6.非常識な提出方法をとった評価書は社会的に認められない

2011年12月28日未明に沖縄県守衛室へ持ち込まれた評価書の提出方法は、政府が事業者であるにも関わらず、法律と条例に基づく環境アセスメントの手続きを遵守しておらず、非常識であり決して社会的に認められるものではない。

7.国際的に求められている要件を満たさず、CBD/COP10議長国としての責務が問われる

国際自然保護連合(IUCN)世界自然保護会議で三度にわたるジュゴン保護の勧告が日米両政府にされている。米国ジュゴン訴訟として米国連邦地方裁で国家歴史保存法違反として沖縄のジュゴンの影響の考慮が米国国防省に求められている。それぞれ国際的に求められている環境アセスメントの要件を本評価書はまったく満たしていない。また、2010年名古屋で開催された生物多様性条約締約国会議(CBD/COP10)では、新たな戦略目標「生物多様性の損失を止めるために効果的かつ緊急の行動を実施する」ことを約束した。その開催国、議長国としての責務が世界から問われることになる。

以上

*本書の付属資料の理由書(総22ページ)と合わせて意見内容として提出する。
*本書写しは、防衛大臣、環境大臣にもあわせて送付する。

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