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責任を追及されない「専門家」は、安心して過ちを繰り返す ──大飯原子力発電所の再稼働問題から

2012.08.30
解説

著者:渡辺満久
東洋大学教授。新潟県生まれ。東京大学理学系研究科地理学専攻博士課程修了。理学博士。専門は地形学(変動地形学)。


私はこれまで地形学の視点から、原子力関連施設周辺における活断層の評価が間違っていることを繰り返し指摘してきた。それは、専門性や中立性が疑問視される「専門家」による審査への批判である。

活断層が近くにあると、M7クラス以上の地震が発生して強い揺れに襲われること(揺れによる被害)や、断層運動によって土地がずれて建造物が壊れること(ずれによる被害)が懸念される。

特に、ずれによる被害は建物の耐震性とは無関係に発生する(図1)ので、被害は深刻である。原子炉建屋が損傷を受けた場合には、配管が切断されるなど、深刻な状況となることが容易に想像できる。

また、東通(青森県)・六ヶ所(青森県)・浜岡(静岡県)・敦賀(福井県)の施設では敷地を変形させる活断層が存在することを明らかにしてきた。もんじゅ・美浜(福井県)もその疑いが濃厚である。しかし、これらの点は審査で評価の対象にされてこなかった。さらに施設周辺の活断層は、「専門家」らによって本来より短く評価され(想定すべき地震の過小評価)、多くの施設は十分な耐震性を備えていない可能性がある。

No529konomondai-watanabe1.jpg図1:集集地震(1999年、台湾、M7.6)の被害の様子。丈夫な鉄筋コンクリート製の建造物は「揺れ」による被害は免れたものの、活断層直上にあったため、建造物の真ん中で折れてしまった。

 

当時も今もあいまいな評価

大飯(福井県)と志賀(石川県)の施設も、最近重大な問題が明らかとなった。大飯原子力発電所では、原子炉の直下などに複数の断層(破砕帯)が確認されている(図2)。

図3図4は、大飯原発の建設にあたりF‐6断層を横切って溝を掘り、断層付近の地層の様子をスケッチしたという当時の調査資料である。南東側のスケッチ(図3)では、岩盤の上にある若い地層(礫層)にずれはなく、活断層ではない印象を与える(ただし礫層の年代が分からないので活断層ではないと言い切れない)。

しかし、北西側のスケッチ(図4)では、岩盤とともに上の地層も上下にずれており、岩盤がこすれてできた「断層粘土」が礫層の中にまで連続している。このような特徴は、F‐6が活断層である可能性を暗示するものである。

No529konomondai-watanabe2.jpg図2:大飯原子力発電所敷地内の断層(関電資料による)F-6断層は最重要視されるSクラスの重要施設(3号炉・4号炉の緊急取水路)と交わっている。

No529konomondai-watanabe3.jpg図3:大飯原発F-6断層の南東側壁面(関電資料に著者加筆。

No529konomondai-watanabe4.jpg図4:F-6断層の北西側壁面(関電資料に著者加筆)。

新しい時代に積もった砂礫層(茶)と岩盤(緑)のずれた量が同じであり、岩盤がこすれたときにできる「断層粘土」(赤)が砂礫層の中に見られる。図3と4は3号炉・4号炉の設置許可申請書には示されているが、バックチェックにおいては図3だけに基づいた審査が行われている。

つまり、どちらかのスケッチが間違っているか、別々に異なる断層を見ている可能性があり、F‐6が活断層である可能性を否定できない。このF‐6断層は、3号炉・4号炉の重要施設(非常用取水路)を横切っており、F‐6が動いた場合には、冷却水供給に支障が出て深刻な事態となることが想定できる。これは、安全審査の際、「専門家」が当時でも容易に指摘できたはずである。

また、2012年7月17日の「地震・津波に関する意見聴取会」で、志賀原子力発電所の1号炉建屋直下にあるS‐1断層(図5)が活断層であることが明らかとなった。
「活断層である可能性が高い」と、やや控えめな意見もあったようであるが、著者から見れば何の疑いもない活断層である。

No529konomondai-watanabe5.jpg図5:志賀原子力発電所敷地内の断層(北陸電力資料による)。

 

今こそ「福島第一」の教訓を生かすとき

こうした問題が指摘されながら、大飯原子力発電所の3号炉・4号炉は、原子力・安全保安院のストレステストの一次評価の簡単な審査のみで「最高レベルで安全性が判断された」として再稼働された。活断層の専門家として、このような判断は絶対に受け入れられない。

「福島第一」の事故は、「想定すべきことを想定しなかった」ことによって発生した人災である。869年貞観地震の津波や地震動の大きさは、専門家ならば誰でも知っていたのであり、「想定外」ということはありえない。大飯の再稼働は、再び同じ過ちを犯したことになる。

大飯や志賀の例を見ても明らかなように、この国の安全審査には大きな問題がある。「福島第一」の事故も同じ背景の中で発生したのであり、その責任の所在は明らかである。しかし、誰も責任を負っていない。

これは非常におかしなことである。責任を追及されなければ、「専門家」は安心して過ちを繰り返す。F‐6の確認もせずに大飯を再稼働させたことは、危機感や責任感の欠如の表れである。今のやり方は完全に我々を侮辱している。それを許すようでは、日本人は優しすぎる。

 

ご参考

NACS-Jの原子力発電に対する意見はこちら。

原子力発電はただちにやめ、廃炉・省エネ策の推進を!「エネルギー・環境に関する選択肢」に対する意見(パブリックコメント)を発表(2012年8月)

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