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国際シンポジウムで中池見湿地の自然と制度的問題点について議論しました

2014.12.24
活動報告
icon_m_fukuda.jpg 保護・研究部の福田です。
 
12月21日 国際シンポジウムで中池見湿地の自然と制度的問題点について議論しました。
 
10万年の歴史をもつ中池見湿地(福井県・敦賀市)は、2012年にラムサール条約湿地に登録されたにもかかわらず、現在北陸新幹線の開発計画が進行しています。この問題が日本だけでなく世界の保護地域のあり方に影響を与えること、その背景には制度上の課題があることから、NACS-Jでは解決に向けて取り組んでいます。
 

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▲新幹線開発計画がある中池見湿地の様子(2014年12月20日撮影)
 
 
その一環として、国際的な湿地保全の組織であるウェットランドインターナショナルからマーセル・シルビウス事業部長をお呼びし、12月21日(日)東京・御茶ノ水にて、中池見湿地を主題にラムサール条約湿地の保全と課題について考えるシンポジウムを開催しました。
 
 

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▲中池見湿地や北陸新幹線の問題がほとんど知られていない東京での開催でしたが、当日は講演者も含め約70人が集まり、中池見湿地の地元・福井県敦賀市の方や本日の議題に関係の深い環境省の方もご参加いただきました。
 
シンポジウムでは、泥炭地の研究者でもあるマーセル氏から、日本では知られていない「泥炭湿地」の生物多様性や炭素蓄積、歴史を示す資料などとしての重要性を紹介いただきました。また、農業などにより水が抜かれることで泥炭湿地が急速に失われている現状と、それに対する地域の再生活動の取り組みが紹介されました。湿地の維持・再生には、住民参加がキーになること、そのために湿地を維持しながら生産する(paludiculture)ことで地域に経済的な恩恵が受けられる仕組みをつくることが大切であると話されました。
中池見湿地については、泥炭層の深さが45mというのは世界でも他になく、実際訪れてその貴重さを実感したという感想を述べ、新幹線問題については、国は中池見湿地がラムサール条約湿地になった意味をしっかりと認識して、世界の悪例とならないよう中池見湿地を守る責務を果たしてほしい、環境への影響を考えた第3のルートも考えるべき、という力強いコメントをいただきました。
 
2番目の発表者である環環境省自然環境局野生生物課 湿地保全専門官の辻田香織氏からは、ラムサール条約湿地の重要性や国内の保全担保の仕組み、国内のワイズユースの取り組み事例など、ラムサール条約を理解する上での基礎を話していただきました。
3番目にウェットランド中池見の笹木智恵子氏より、中池見湿地がラムサール条約に登録されるまでの間、いくつもの開発計画を乗り越えて多くの人に重要さが認識されるようになった約30年間の保全の取り組みを話していただきました。
最後に、筑波大学大学院の保護地域の専門家で、NACS-Jの専務理事である吉田正人氏から、新幹線問題の現状とその中で見えてきた環境アセスメント(以降、アセス)制度等の問題点として軽微な計画変更は事業者判断であることやアセスの手続きから10年経っても情報が更新されてない、などの指摘がなされました。そしてラムサール条約湿地の保全担保と合わせた改善案が示されました。
 

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▲講演者:左から1番目 吉田正人氏(筑波大学)、2番目 マーセル・シルビウス氏(ウェットランドインターナショナル)、右から1番目 辻田香織氏(環境省野性生物課)、2番目 笹木智恵子氏(NPO法人ウェットランド中池見)
 
パネルディスカッションでは、1番目に重要な湿地を守るための根底となる、湿地の価値を知ってもらうための取り組みについて、2番目にラムサール条約湿地としてふさわしい制度について、会場からの意見を交えて議論しました。湿地の価値については、観察会を開いて価値を実際に知ってもらう、あえて「湿地」の名前にこだわって言い続けるなどの話題があがりました。制度に関しては、保全活動をしている市民に情報がまったく情報が伝わらないという課題が挙げられ、マーセル氏からEUでは司法に訴えることができ、市民への公開や市民からの第3のルートの提案もできるという報告がありました。そのほか会場から韓国ではラムサール条約湿地にあわせた「湿地法」の紹介があり、議論の中で日本の湿地保全の制度について問題点や改善点が少しずつ見えてきました。
参加者からは「中池見湿地が重要な場所であることが理解できた」「国内法の整備が必要だ」「環境に配慮された第3ルートができることを祈る」「国交省や機構にも来てもらうべきだ」などのご意見をいただきました。
 

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▲パネルディスカッションの様子
 
 
シンポジウムは計5時間に渡る長丁場でしたが、質問も活発に行われ意識の高いものとなりました。中池見湿地では3月に事後調査委員会で認可ルートについての結論が出される予定です。NACS-Jではこれらの成果を報告書にまとめて関係者に周知するとともに、中池見湿地に影響のない新幹線ルートの変更に向けてより強く働きかけていきます。
今後ともNACS-Jの活動にご支援・ご協力をよろしくお願いいたします。
 
 

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▲会場ではウェットランド中池見の協力により、写真の展示や中池見湿地の四季のビデオの上映、グッズ販売、中池見のために作詞・作曲された「ミツガシワの歌」の音楽を流すなど、中池見湿地の魅力を知ってもらうための場にも力を入れました。中池見に行ったことがない参加者が多かったこともあり、参加者から「映像に感動した」「現場に行ってみたい」という声を多くいただきました。
 
 
●中日新聞(12月22日掲載)
「新幹線ルートを外側に」 中池見湿地保全で国際シンポ

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