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解説 IUCNレッドリスト2014について

2014.06.12
解説

icon_douke.jpg 保護・研究部の道家です。

6月12日日本時間午前9時に、IUCN(国際自然保護連合)による最新のレッドリスト2014.1が発表されました。

日本自然保護協会が、このIUCNの日本の連絡窓口を引き受けていることから、ここ数日、メディアに正確な情報提供をし、価値ある報道につなげようと朝から晩まで取材対応を続けています。

本日情報解禁になった、最新のレッドリスト2014についてより詳しくご紹介をしたいと思います。

今回の更新で、新たに2721種が評価され計73,686種がレッドリストに掲載されました。

レッドリストは、7500人を越すの科学者コミュニティーが中心になって、地球上の野生動植物が世界レベルで絶滅危惧種かどうかを判定し、その成果を取りまとめて、IUCNとして掲載していくデータベース、というものです。

判定の成果によっては、絶滅の恐れがなくとも、IUCNレッドリストに掲載されます(良く間違えられるポイントの一つです)

レッドリストに記載されている生物のうち、「絶滅危惧種」と判定されたのは、22,013種になります。

前回は、2013年11月になされましたが、そのたった半年後の今回新たに1057種も増えた形です。

6) CR_Indri (Indri indri)_ Nick Garbutt_r.jpg▲キツネザルの仲間、インドリ C Nick Garbutt

話題のニホンウナギ以外では、キツネザルの仲間の90%が絶滅危惧種であることが分かりましたし、ランの仲間のアツモリソウ属(slipper orchid)の80%もが絶滅危惧種であることがIUCNのプレスリリースの中で明かされています。

キツネザル類は、キツネザル類最大のインドリ(Indri indri)が絶滅危惧ⅠA類に、霊長類のなかで世界最小のマダムベルテネズミキツネザル(Madame Berthe’s Mouse Lemur (Microcebus berthae)も絶滅危惧種であるとされています。

日本の関係では、2014年に評価された種の中で、日本も生息地の一つである絶滅危惧種として評価されたものなかには、コアツモリソウ(Cypripedium debile)やクマガイソウ(Cypripedium japonicum)があります。

詳細解説 ニホンウナギが指定された理由

2) EN_Japanese Eel (Anguilla japonica) _ OpenCage.info_R.jpg▲ニホンウナギ C OpenCage.info

話題のニホンウナギですが、ご存知のとおり、絶滅危惧ⅠB類に指定されました。

個体数の状況や生息環境の質などを根拠に、過去10年間あるいは3世代(どちらか長いほう*)の間に、個体群サイズが50%以上縮小していることが観察、推定、水量、あるいは推論され、縮小やその原因がなくなっていない、理解されていない、あるいは可逆的でない*評価書を読むと3世代を採用し、一世代を10年としている。という基準に合致しました。

つまり、この30年で、個体数(あるいは個体数に相当する指標)が50%以上減少し、減少した理由が今も続いている。という判定です。ウナギというのは、産卵・幼生(主な生息地:海洋)・シラスウナギ(主な生息地:沿岸)という段階をへて、私たちが見慣れている背が黒くおなかの白いウナギ(主な生息地:河川や湖沼)へと成長し、沿岸河口域でえさを食べ、繁殖産卵のため太平洋に泳ぎだすという複雑な生活史と、いまだなぞに包まれた生態を数多く持つ動物です。個体数の判定も非常に困難だったことが、判定理由から読み取れます。判定のポイントは下記のとおりです。

  • 判定基準である、個体群サイズ(=個体数)をはかるのに、本来は、成熟個体(ウナギの場合、大きくなってsilver eelと呼ばれる段階、河口域に生息するようになり、繁殖・産卵のため海洋に出て行く個体数)に、産卵場所へいける確率等を勘案して判定するべきところだが、情報が不足。・3世代=30年というスパンで判定。
  • 情報がないため、ウナギの多彩なライフステージ、幼生、シラスウナギ(glass eel)、成長した段階(yellow silver)の漁獲量に、漁獲努力量(catch per unit effort (CPUE) 単位努力量で、ウナギを取るのにどれだけの労力を使ったか)等を勘案し検討。・例えば、シラスウナギは、農水省統計で1957 年から2010 年の間で90% の減少などがあるが、5つの県の捕獲努力量などを勘案するとシラスウナギの漁獲量54% and 74%近く減少している・大きくなったウナギ(yellow/silverという段階)は日本のデータ(環境省RDB)を採用し、70-90%の減少。大型のウナギは、沿岸・河口域に85%近く存在するだろうという研究も存在。・さらに台湾での調査も加味。
  • ニホンウナギは、全個体数の20-50%おり、日本の水域にいることから日本の統計データを重視。ただし、情報があるのは、FAO、日本と台湾。一方、中国と韓国の情報が少ない。・減少の主要因は、消費のための漁獲と、養殖産業のための漁獲。近年の海流の変化。それに加えて、回遊ルートの阻害、汚染、生息地の損失。・回復のための取組み(宮崎、熊本、鹿児島でのシラスウナギ漁の規制、東アジアウナギ資源協議会の調査など)があるが、大きな動きになっていない(日本政府の支援がないという記述まであります)
  • 以上結論として、個体数は少なくとも50%以上減少と判断。現在、繁殖個体数の減少は止まっていると示唆があるものの、危機要因は継続中である。

評価書に列挙されているシラスウナギ・ウナギの漁獲量の減少の数字には、90%以上の減少(シラスウナギ 農水省統計 1957-2010の間)、80%以上の減少(シラスウナギ、中国、過去6年)、54%-74%の減少(シラスウナギ、台湾)、過去3世代で70-90%の減少(ウナギ、農水省)などと、厳しい数字が並ぶ中で、「個体数は少なくとも50%以上減少」という評価は、だいぶ控えめな判断を行ったように思います。

ニホンウナギに関するIUCNのプレスリリースは、短いのですが、いろいろな含みを持ったメッセージでした。
ニホンウナギ(Anguilla japonica)は、日本で伝統的な美味とされ日本の最も高級な魚の一つであるが、生息地の損失、過剰捕獲、回遊ルートの障害、汚染、海流変化によって絶滅危惧IB 類とされた。東アジアは、養殖、取引(貿易)、消費の拠点となっており、その減少は、ビカーラ種(Shortfin Eel(A. bicolor))などの他のウナギの種の取引増加につながっている。

「この生物種の状況は、非常に大きな関心事ではあるけれど、ニホンウナギや他のウナギの評価は非常に大きなステップといえます」と、マシュー・ゴロック博士(ウナギ類専門家グループ委員長)は語る。「この情報は、ウナギ類の保全に向けて優先的に取り組まなければいけないことや、広く淡水生態系について取り組むべきことを私たちに教えてくれます」

以上です。この中で注目すべきは1.ニホンウナギの危機要因を複数指摘している。メディア等で注目されがちな「ニホンウナギを食べられなくなる」とか「ワシントン条約による国際取引規制」という手法だけでは、この問題の解決が難しいことを意味します。2.一方で、東アジアにおける養殖・取引・消費の問題のほか、それによって他のウナギにまで影響を及ぼしていることを伝えていることです。

その候補の一つアンギラ・ビカーラ(Anguilla Bicolor、インドネシア産ウナギと紹介されることもあるそう)は、すでにレッドリストで軽度懸念(Least Concern)とされていたのですが、今回の再評価で、過去24年(3世代)で30%近くの減少が見られたとして準絶滅危惧種(Nearly Threatened)へと危機ランクが引き上げられました。ニホンウナギが食べられないなら、別のウナギがあるではないか」というのは、問題解決にはなりませんよということですね。

今回情報を整理するための海外とのやり取りの中で、2010年に絶滅危惧IA類に判定されたヨーロッパウナギに対して、EUでは、EU域内法とワシントン条約による輸出規制(決定は2009年、絶滅危惧種の指定すべきか検討されている最中!!)を行い、各国での管理計画をたてていることを聞きました。

2014年の再評価で危機ランクが下がるということになりませんでしたが、改善傾向がみられているということを、ウナギの評価を行ったウナギ専門家グループが報告しています。まだ絶滅危惧ⅠB類という評価のニホンウナギに対して、どんなアクションを日本がとるのか世界的に注目されていると思います。

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