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木曾ヒノキの森の視察に行ってきました。(後編)

2012.11.10
活動報告
編集室の増沢です。木曾ヒノキの森の視察レポート最終回です。
最終日の27日は、岐阜県側を視察しました。

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岐阜県下呂市にある赤沼田(あかんた)の天保林は、江戸時代の天保7年(1836年)に植林されたとされるヒノキが残る森です。
植栽時期が記録されているとのことで、歴史的・学術的にも価値が高い場所。山主さんなどが、「今の山が200年後にどうなるのか」と視察に来られることも多いそうです(右写真)。
幹回りの大きなヒノキはもちろん、沢沿いには大きなカツラなどもあり甘い香りが漂っていました。
ここは一般開放されている場所で散策路も整っているので、どなたでも気軽にヒノキの森を堪能することができます。
↓散策路沿いにはきれいなスギゴケのじゅうたんや、ホコリタケも。
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→最後は、付知峡の奥、やはり旧神宮備林の加子母裏木曽国有林に向かいました。

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伊勢神宮の次回遷宮は来年の予定ですが、その際に用いられる「御樋代」というご神体を納めるためのご神木は、この森から出されました。木曽の旧神宮備林と同じく古くから保護管理されてきたヒノキの天然林です。
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(右下写真:神木は三ッ緒伐りと呼ばれる古式法で伐採されます)。

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←ヒノキが生育する斜面は大きな礫がごろごろと重なり傾斜も急。土壌も薄く生育環境はとても良いとは言えません。
ヒノキはもともと高緯度で比較的寒冷な地域に分布していた樹で、氷河期に分布範囲を拡大したといわれています。
氷河期が終わり、各地に残ったヒノキなどは暖かい環境に適応した樹種や、本当に寒冷な地域を占める針葉樹にはさまれ、こういった比較的生育環境のよくない場所に生育しているのではともいわれています。まさにそれを感じさせるような場所でした。

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←出ノ小路谷のヒノキ天然林の斜面では、1954年から90本程のヒノキを対象に成長量の調査が行われています。
約50年で、樹高はおよそ5m高くなり、胸高直径は約5㎝程度増えたそうです。1年に1mmの成長ペースです。今のような直径60㎝程になるまでには、やはり300年くらいかかる計算。森づくりにかかる時間の長さが分かります。
この資源を枯渇させず、持続的に利用できるかどうかは、成長速度などをふまえた適正な利用管理計画次第です。関係者が連携して保護管理を進めていかなくてはなりません。

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→帰りに不思議な木を見に裏木曽古事の森に寄りました。その名も「合体木」。
何と根本はサワラで上はヒノキとのこと!密着して成長することで幹が一つになったものだそうですが・・・そんなことってあるんですね。
樹高35m、幹回り250㎝で推定樹齢は560年の今も元気な立派な巨木。どうしてこんなことになったのか、詳しいことは今も謎だそうです。
三日間の視察で、森づくりにかかる時間の長さと、天然のヒノキの利用にともなう課題を改めて感じました。
天然ヒノキはその圧倒的な耐久性・強度から今も高いニーズがあります。現在は、実験林で試験のために伐採されたものが材として産出されていると言われますが、そのほとんどは、全国の社寺仏閣など特別な建造物に使われるとのこと。伝統文化を守り継いでいくためにも、この森を保全し枯渇させない方法を考えだす必要性を感じました。
これまでに林野庁が実施してきた多くの林業試験の結果を取りまとめて評価を進め、より良い更新方法を検討するとともに、今後伐採を伴うような試験地を必要以上に増やさない姿勢も重要になるでしょう。
また、全国でも類のない温帯性針葉樹林の森林生態系そのものを保全していくには、空間的にまとまった面積が必要です。現在何らかの保護地域とされている森林は合計しても数百ha 程度と、森林生態系の保全区域としてはごく小さい範囲。現況にとらわれずに広域に保全・再生する方法を、さまざまな立場の人たちと連携し、検討していきたいと思います。

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ヒノキの森の話をしていると、今ある木が芽生えた200年前や、今は小さな実生が大きくなる300年先をとても身近に感じました。とても不思議な感覚ですが、多くの人がこの時間感覚を共有することが、森林管理の第一歩になるようにも思います。

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