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「(仮称)JRE鏡野風力発電事業」計画の環境影響方法書に関して意見書を出しました

2022.05.19
要望・声明

現在、岡山県北部(真庭市および鏡野町)で大規模な風力発電が計画されています。事業計画地は、岡山県内で自然度が最も高いエリアであり、生物多様性の喪失などの自然環境面での多大な影響が予測されることから、環境影響方法書に対して意見を提出しました。

(仮称)JRE鏡野風力発電事業における環境影響方法書に関する意見書(PDF/MB)  


2022年5月19日

(仮称)JRE鏡野風力発電事業における環境影響方法書に関する意見書

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

日本自然保護協会は、自然環境と生物多様性の保全の観点から、岡山県真庭市および鏡野町で計画されている(仮称)JRE鏡野風力発電事業(事業者:ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社 最大総出力92,400kW、最大25基)について、環境影響評価法に基づく環境影響方法書に関する意見を述べる。

1)本事業計画は、風車の搬入路等が不明であり、自然環境への影響を正しく評価できない

本事業実施想定地域内には現在、大型のタワーやブレードを搬入することができる搬入路は存在せず、新規に搬入路の整備を行う必要がある。しかし、どのような経路でどのように搬入を行うのかが未確定の状態であるため、搬入路の整備をどのように行うかがまったく不明である。このような状態では、自然環境への影響を正しく評価することは困難である。

2)種の保存法の政令指定種クマタカとイヌワシの生息調査を適切に行い評価をすること

対象事業実施区域ではクマタカのペアが複数確認されているとともに、イヌワシの飛翔も確認されている。クマタカは、周辺区域に複数のペアが繁殖している可能性が高く、この地域における個体群の生息に対する影響が強く懸念される。そのため、事業者は事業によるクマタカの繁殖等生息への影響を回避・低減する観点から、環境省「猛禽類保護の進め方(改定版)」にしたがって繁殖成功年を含めた2営巣期以上の調査を行い、行動圏の内部構造を適切に評価すべきである。

3)ブナ林やミズナラ林などの植生自然度の高いエリアであるため適切に調査と評価をすること

環境影響配慮書段階で含まれていた環境省指定の特定植物群落「大空山のブナ林」が、本方法書段階で除外されたものの、事業実施想定範囲には、風力発電機の設置想定範囲の尾根部を中心に植生自然度9のクロモジ-ブナ群集を含むブナ林やミズナラ林が広範囲に分布し、岡山県内で自然度が最も高いエリアである。対象地域の植物群落の重要性からも、環境影響評価として目視観察と植物社会学的植生調査だけでは不十分である。 設置想定範囲の尾根上には風衝植生が存在しており、もし林冠構成樹木個体を伐採した場合、伐採した樹木個体の喪失だけでなく、林冠構造の変化による環境の変化にともなって、周辺の森林にも大きな影響が及ぶ可能性が高い。どのような変化が起こるかを推定するためにも、改変予定区域の周囲で毎木調査を複数地点で行い、伐採による直接的および間接的な影響の評価を適切に行う必要がある。

4)白賀渓谷の生態系への影響が懸念されるため調査を集中的に行い適切に評価すべきである

事業実施想定範囲の南側の白賀渓谷は、オオサンショウウオやナガレタゴガエルをはじめとした希少な生物が生息する岡山県内有数の渓流生態系を有している。同計画には白賀渓谷の集水域の尾根部の大半が含まれており、白賀渓谷の生態系への影響が強く懸念される。そのため、白賀渓谷での生物調査を集中的に行い、同事業実施による影響を適切に評価する必要がある。

5)尾根上での大規模な土地改変や伐採行為により、下流部の土砂災害リスクの増大が懸念されるため、土石流危険渓流で適切な調査、予測及び評価を行うべきである

事業実施想定範囲から流下する渓流のほとんどが土石流危険渓流に指定されており、特に北麓の羽出西谷川右岸には土砂災害特別警戒区域が複数分布している。特別警戒区で域は、土砂災害が発生した場合、建築物に損壊が生じ、住民の生命に著しい危害が生ずる恐れがあり、一定の開発行為の制限や居室を有する建築物の構造が規制されている。上流部の乗幸山の尾根上で大規模な土地改変や伐採行為を行うことは、下流部の羽出西谷川右岸の各渓流での土砂災害リスクを増大させることが懸念される。近年の局所集中的な降雨の傾向と土捨て場や道路工事に係る雨水排水対策を踏まえ、濁水や土石流などの土砂災害の危険性についてすべての土石流危険渓流で適切な現地調査、予測及び評価を行うべきである。また、有数の豪雪地帯であるため、融雪期の降雨時調査も行う必要がある。

6)方法書の公開方法が誠実性を欠いているため、随時閲覧や印刷ができるよう改めるべきである

方法書の閲覧は、環境影響評価法により定められているとは言え、縦覧期間が 1~1.5ヶ月と短く、また、縦覧場所も限られている。インターネット上で閲覧は可能ではあるが、印刷やダウンロードができない。また縦覧期間終了後は閲覧することができないため、アセス図書の内容が、実際の計画地の状況と齟齬がないかの確認もできない。 地域住民や利害関係者等が常時、容易に精査できることが、環境影響評価の信頼性を確保するものであり、地域との合意形成を図るうえでも不可欠である。そのため、閲覧可能期間に限らず、縦覧期間後も地域の図書館などで、環境影響評価の図書を常時閲覧可能にし、また、随時インターネットでの閲覧とダウンロード、印刷を可能にすべきである。

以上

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