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川辺川ダム建設計画問題

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2022.05.13

「川辺川の流水型ダム」の環境配慮レポートに対して環境保全の見地から意見書を提出しました

現在検討が進められている「川辺川の流水型ダム」建設計画において、環境影響評価法に基づく計画段階の環境配慮書に相当する「川辺川の流水型ダムに関する環境配慮レポート」が出されました。NACS-Jはこの環境配慮レポートに対して、流水型ダムであっても環境への影響は多く懸念されるため、国土交通省九州地方整備局へ意見書を提出しました。

川辺川の流水型ダムに関する環境配慮レポート(国土交通省 九州地方整備局)

川辺川の流水型ダムに関する環境配慮レポートに対する環境保全の見地からの意見(841KB/PDF)


2022(令和4)年5月13日

国土交通省 九州地方整備局長 藤巻 浩之 様

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F

川辺川の流水型ダムに関する環境配慮レポートに対する環境保全の見地からの意見書

川辺川の流水型ダムに関する環境配慮レポートについて、環境保全の見地から次の通り意見を述べます。

1.配慮レポートで国土交通大臣から環境大臣に意見を求めることを明記したことは評価できるが、厳格に環境アセスメント手続きを行い、住民等の意見に真摯に対応するうえでも環境影響評価法にもとづくべきである。

<理由>日本自然保護協会では、これまでの川辺川ダム計画とこの度の川辺川の流水型ダム計画について、環境影響評価法に基づく環境アセスメントの実施を求めてきた。この間、国土交通省はすでに関連工事を進めていることを理由に、環境影響評価法の対象外という判断をしてきた。しかし、熊本県知事からの「法に基づく環境アセスメント、あるいは、それと同等の環境アセスメント」を要望されたことを受け、配慮レポートで環境大臣に意見を求めることを明記したことに一定の評価をし、環境省が環境保全の見地からどのような意見をまとめるかを注目したい。一方、事業者である国道交通省が、国の事業として厳格に環境アセスメント手続きを行い、住民、知事、大臣の意見に真摯に対応するうえでも環境影響評価法にもとづくべきである。

2.川辺川の流水型ダムの堤体や洪水吐と減勢工の規模や形状、原石山の位置と規模が明確にされていないので、環境影響の予測評価を十分に行うことができない。

<理由>旧川辺川ダム計画はアーチ型コンクリートダムであったが、川辺川の流水型ダムは重力式コンクリートダムに変更された。総貯留容量と湛水面積はそのままとされているが、流水型ダムの堤体の規模や、洪水吐と減勢工の形状や長さ、は「2.4事業の内容」に記載されていない。重力式コンクリートダムへの変更により大量に粗骨材が必要になったにも関わらず、原石山の位置と規模が明かされていないので、環境影響の予測評価は十分に行うことができない。

3.球磨川水系流域治水プロジェクトに位置づけられているため、球磨川河口や八代海まで含めた、球磨川流域全体を環境影響の予測・評価の対象とすべきである。

<理由>川辺川の流水型ダムは、令和3年3月策定の球磨川水系流域治水プロジェクトにおいて、治水と環境の両立を目指す「新たな流水型ダム」と位置づけられている。それならば、自然的状況の調査範囲(3-2ページ、図3.1-1)を球磨川河口や八代海まで球磨川流域全体を環境影響の予測・評価の対象とすべきである。

4.流水型ダムであっても予想外の環境影響が生じる可能性を認めており、これまでに事業の実施事例が少ないダムであることから、事業の過程や事後の検証調査の徹底や、その情報の公開と客観的な評価方法、及び不測の事態が生じた場合の手続きを定めること。

<理由>2. 4. 4. (2) 貯留型ダムと比較した場合の流水型ダムの環境影響の論点整理について、環境影響を軽減できるとする見通しとともに、「ただし」書きとして、留意すべきことと予測外の環境影響が生じる可能性もあることを配慮レポートで認めている。事業の過程や事後の検証調査の徹底や、その情報の公開と客観的な評価方法、及び不測の事態が生じた場合の工事の一時停止や計画の変更などの手続きを明確に定めるべきである。

5.試験湛水を影響要因として検討しているが、その方法や期間が明らかにされていない段階での影響の予測評価は拙速である。

<理由>4.1.1.計画段階配慮事項の選定で「ダム堤体の工事中に行う試験湛水が長期間に及ぶ場合、水環境や動植物等に重大な影響を及ぼすおそれもあると考えられることから」としたうえで、試験湛水によるものを影響要因として加えて検討することとしている。流水型ダムであっても試験湛水によって湛水域は一旦水没してから、放流するため、ダムの上下流域で環境変化を伴うことは容易に想像される。配慮レポートではダムの放流施設等の構造や試験湛水の方法や期間が明らかにされておらず、影響の予測評価は十分に行えるものではない。

6.試験湛水や洪水調整による水没と水位変動から、ダム上流側の湛水域の斜面部の植物の生育環境は撹乱状況が発生し、それによる植生への影響、土砂の生産や移動、川の濁りなどの影響が十分に考慮されていない。

<理由>試験湛水や洪水調整による水没と水位変動から、ダム上流側の湛水域の斜面部の植物の生育環境は、広範囲にわたって撹乱状況が発生することになる。配慮レポートでは、それらによる植生への影響や、それにともなう土砂の生産や移動、また下流への川の濁りなどの影響が十分に考慮されていない。

7.貯留容量4.5倍、貯水面積17倍と規模が大きく異なる足羽川ダムの予測モデルでは、川辺川の流水型ダムの予測とは言い難く、専門家等の助言や環境保全措置や配慮事項の検討では具体的な記述を欠いている。

<理由>4.3.1(2)予測では、水環境の予測手法は類似予測事例として足羽川ダム(九頭竜川水系、福井県)の予測モデルをもとに、「水環境への重大な環境影響が生じる可能性は低いものと考える」と結論づけ、「ただし」書きで環境変化の可能性を残しつつ、「環境影響が生じるおそれがある場合」には、「専門家等の助言や環境保全措置や配慮事項等の検討を行う」ことになっているが、その具体的な記述を欠いている。そもそも、川辺川の流水型ダムは足羽川ダムに比べ、貯留容量4.5倍、貯水面積17倍と規模が大きく異なり、水深や集水面積に対する貯留容量の割合が類似していることだけで、川辺川の流水型ダムの予測に当てはまるとは言い難い。

8.洪水調整や試験湛水による放流で、放流末期に濁りが発生し、ダム下流の河床に濁質が堆積することは、アユの餌となる付着藻類やアユの成長阻害が懸念されるため、「ダム下流の河床に濁質が堆積する期間の予測」を行う必要がある。

<理由>足羽川ダムの予測をもとに川辺川の流水型ダムで洪水調整を行う規模の放流で、後期放流末期には堆積した濁質が再浮上しSS(浮遊物質量)は一時的に増加する可能性がある(4-32ページ)と記載されている。これは試験湛水でも同様のことが起こると考えられ、水位低下の後期の濁りの発生は、住民にも感知できるため大きな問題となる。ダム下流の河床への濁質の堆積は、次の大規模な降雨まで恐らく解消せず、アユの餌資源となる付着藻類への影響、及びアユの成長阻害が懸念される。アユの成長期のダム運用や試験湛水を想定した「ダム下流の河床に濁質が堆積する期間の予測」を行う必要がある。

9.コウモリ等が生息する九折瀬洞は試験湛水及び洪水調整によって、洞口が湛水することから、コウモリをはじめとする洞窟生態系へ重大な影響が懸念される。対応される「専門家等の助言」「環境保全措置や配慮事項等の検討」では、環境影響の回避又は低減を図るための具体的方策を欠いている。

<理由>ユビナガコウモリやツヅラセメクラチビゴミムシ等が生息する九折瀬洞については「注目すべき生息地」として記載され(4-69ページ)、「その洞口が試験湛水及び洪水調整による貯留により一時的に湛水する可能性がある」「生息・繁殖環境に変化が生じる可能性があると考えられる」とされている。九折瀬洞はニホンコキクガシラコウモリやユビナガコウモリなどの洞窟性コウモリ類が繁殖やねぐら、越冬地として利用し、コウモリの糞の堆積物(グアノ)に依存する洞窟生物のツヅラセメクラチビゴミムシや、イツキメナシナミハグモなどが生息している。洞口が試験湛水や洪水調整よって湛水し、複雑な構造である洞内が水没すれば、コウモリ類の出入りはできなくなりグアノは流失し、コウモリをはじめとする洞窟生態系へ重大な影響が懸念される。その対応として、「専門家等の助言」「環境保全措置や配慮事項等の検討」とされているが、環境影響の回避又は低減を図るための具体的方策を欠いている。

10. 生態系の上位種のクマタカへの影響は、試験湛水および洪水調整による湛水や、明らかにされていない原石山の位置や規模、流域で増えている植林地の伐採地などを十分に考慮する必要がある。

<理由>配慮レポートでは、生態系の上位種としてクマタカを予測評価しているが、川辺川の流水型ダムは、「流水がそのまま流下している状況にあるため、貯留型ダムと比べて、生息・繁殖地の改変による影響は軽減されると考えられる」(4-92ページ)とされている。しかし、試験湛水および洪水調整による湛水の期間の長さ、また水位変化による撹乱の状態によっては、クマタカの狩り場や餌量への影響が懸念される。また、川辺川の流水型ダムは重力式コンクリートダムに変更されたが、それに必要な粗骨材を供給する原石山の位置と規模が明らかにされておらず、十分な予測評価とは言えない。加えて、近年、川辺川流域の植林地での皆伐による伐採地も増えているため、クマタカの生息・繁殖環境との関係を考慮する必要がある。

以上


ご参考

川辺川における「流水型ダム」に対する住民参加手続きと環境影響評価法による環境アセスメントを求める要望書を提出しました(2021年3月)

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