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奄美大島・嘉徳川に生息するスジエビをはじめとした生物に関する河口域の科学的モニタリング調査を求める要望書

2022.02.25
要望・声明

奄美大島の嘉徳海岸で海岸侵食対策事業の一環として工事用道路の設置工事が実施されています。嘉徳川に生息するスジエビに関し、研究者により新たな知見が2022年2月に発表されました。嘉徳川には国内の複数の地域に生息している2つのタイプ(AとB)とは異なるCタイプに分類されるスジエビが生息しており、現在このCタイプは嘉徳川のみで確認されており、他のスジエビ個体群と比べて絶滅リスクが高いことが示唆されています。このようなことから、日本自然保護協会(NACS-J)はスジエビCタイプを中心とした河口域での生物の科学的モニタリング調査の実施を鹿児島県に要望しました。

嘉徳川に生息するスジエビをはじめとした生物に関する河口域の科学的モニタリング調査を求める要望書(PDF/241KB)


2022年2月25日

鹿児島県知事 塩田 康一 様

嘉徳川に生息するスジエビをはじめとした生物に関する
河口域の科学的モニタリング調査を求める要望書

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

奄美大島の嘉徳海岸において、鹿児島県の海岸侵食対策事業が進行中でありますが、今般、嘉徳川に生息するスジエビPalaemon paucidens に関し、新知見が示されたことを受けて、奄美大島の自然環境の保全に取り組んでいる当会の立場から以下のことを要望いたします。

これまで国内に生息するスジエビは、アロザイム分析や DNA 分析により、生活史及び形態の異なった2つのタイプ(AとB)の存在が知られてきました。Aタイプは河川や湖沼など様々な内水面に生息するのに対し、Bタイプは河川のみに生息しAタイプに比べて額角長が長く縁額角歯数が多いなどの特徴があります。またAタイプは対立遺伝子やハプロタイプの分布に地理的なまとまりが認められないのに対して、Bタイプ内のハプロタイプの地理的分布には明瞭なまとまりが認められます。張ら(2018)は、嘉徳川で採集したスジエビが、AやBではない新たなCタイプに分類されるスジエビであることを指摘しています。

2022年2月に公表された武田・池田(2022)は、塩基配列分析(18S rDNA のマルチプレックス PCR および 16S rDNA )の結果より、嘉徳川で採取したスジエビ27個体すべてが、Cタイプであることを明らかにしました。Cタイプは卵サイズが小さく、浮遊幼生期間が他の2タイプに比べて長い可能性があります。本研究によると、Cタイプの分布は多数ある奄美大島の河川の中でも嘉徳川のみで確認され、中流域から汽水域までが主な生息場所であると推定しています。嘉徳川に生息するスジエビは、抱卵雌やさまざまな体サイズの個体がいることから、嘉徳川で再生産されている可能性があるとしています。スジエビCタイプは、生息の確認が嘉徳川のみであること、遺伝的多様性が低いことから、他の国内に生息するスジエビと比べて絶滅リスクが高いことが示唆されています。

嘉徳川については、2019年に当会から提出しました「奄美大島嘉徳海岸の陸と海の連続性を保全することについての要望書」(日本自然保護協会 2019)でも指摘しましたように、河口域にはヨコアナアナジャコとリュウキュウコメツキガニが生息する砂干潟及び砂泥底があり、河床転石帯には、鹿児島県のレッドデータブックに掲載されているヒメヒライソモドキ、ケフサヒライソモドキ、カワスナガニの生息も確認されているなど生物多様性の観点から重要な地域です(藤田 2019)。

現在、本事業の一環として工事用道路の設置工事が嘉徳川河口付近で実施されていますが、海岸護岸工事およびその設置によって、嘉徳川の重要性を示すこれらの生物に影響を及ぼすことがあってはならず、予防原則としてスジエビCタイプをはじめとする生物の河口域の科学的モニタリング調査を専門家の助言に基づき行うことを、事業者である鹿児島県に要望します。

以上

▲奄美大島・嘉徳河口域の様子(2017年6月撮影)


引用文献:

・張 成年・柳本 卓・丸山智朗・池田 実・松谷紀明・大貫貴清・今井 正 (2018). スジエビPalaemon paucidens の遺伝的分化.日本生物地理学会報 73: 1-16.
スジエビスジエビPalaemon paucidensの遺伝的分化

・藤田喜久(2019)奄美大島嘉徳海岸の陸棲・半陸棲十脚甲殻類相.
https://www.nacsj.or.jp/archive/wp-content/uploads/2019/01/20190106_katokucoast_surveyreport_fujitayoshihisa.pdf

・日本自然保護協会(2019)奄美大島嘉徳海岸の陸と海の連続性を保全することについての要望書.
https://www.nacsj.or.jp/archive/wp-content/uploads/2019/01/20190109_katokucoast_hozenrequest_nacsj.pdf

・武田真城、池田 実(2022)奄美大島と加計呂麻島におけるスジエビPalaemon paucidens Cタイプの分布と遺伝的特徴ならびに幼生の海水要求性. 水生動物 2022:1-20.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aquaticanimals/2022/0/2022_AA2022-2/_pdf/-char/ja

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