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沖縄県教育長に天然記念物についての要望書を出しました

2020.02.27
要望・声明

10月29日の意見交換を踏まえたもので、天然記念物は「学術上貴重で、わが国の自然を記念するもの」という文部科学省の指定基準に基づいて、沖縄県の天然記念物として、チリビシのアオサンゴ群集と、長島の洞窟を指定して保護していくことを改めて要望しました。


2019 年 11月 30日

沖縄県 教育委員会教育長
平敷 昭人 様

大浦湾チリビシのアオサンゴ群集について沖縄県による天然記念物指定を求める要望書

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

ジュゴンの里
代表 東恩納 琢磨

私たちは辺野古・大浦湾の生物多様性豊かな自然環境の保全に長期にわたり取り組んできました。このたび、米国 NGO ミッションブルーにより辺野古・大浦湾一帯がホープスポット(Hope Spot:希望の海)に認定され、改めてこの海域一帯の価値が世界に認められました。対象範囲は、辺野古・大浦湾を中心にした天仁屋から松田までの 44.5 平方キロメートルの海域です。認定のポイントの1つが世界的にも貴重で普遍的な価値を持つチリビシのアオサンゴ群集であったことを踏まえて、改めてチリビシのアオサンゴ群集の天然記念物指定を要望いたします。

2007 年 9 月に発見された名護市大浦湾のチリビシのアオサンゴ群集は、長さ 50 メートル、幅 30 メートル、高さ 14 メートルに達するもので、単一の種であるアオサンゴの群集がこのような規模にまで成長することはこれまで報告例がなく、大変貴重なものです。

滝野ら(2008)の研究によると、チリビシのアオサンゴ群集の遺伝子型と石垣島・白保のアオサンゴ群集の遺伝子型は異なり、またこの群集は全体が同じ遺伝子型であることがわかりました。また性別についても雄である(山城、2015)ということが明らかになりました。2017 年 12 月には新たに、最新の遺伝子解析の結果が判明し、同群集は勝連半島のアオサンゴ群集と異なる遺伝子型であることがわかりました。同じ沖縄島周辺に位置する勝連半島のアオサンゴ群集とも遺伝子型が異なるということは、大浦湾に存在するものがかけがえのない唯一無二のものであることが示唆されます。

2016 年以降、夏になると気候変動の影響で、サンゴの白化が広範囲に起こり、大浦湾一帯のサンゴ群集は大きな影響を受けました。チリビシのアオサンゴ群集も白化しましたが、秋には無事にもとの状態に戻りました。2018年は大型の台風の影響で多くの枝が折れたましたが無事回復しました。しかし同じ海域で大規模な工事が進み気候変動も激しくなるなか、いつまでも健全な状態を保てる保証はありません。

10月29日に意見交換をさせていただいた際に、沖縄県は天然記念物指定の条件として人間が長く利用し親しんでいることを重視していると伺いましたが、文部科学省の昭和二十六年文化財保護委員会告示第二号(国宝及び重要文化財指定基準並びに特別史跡名勝天然記念物及び史跡名勝天然記念物指定基準)にありますよう、学術上貴重であるものは対象とすべきであると考えます。ご紹介させていただきましたように、春日山原始林(特別天然記念物)や群馬県中之条のチャツボミゴケ公園(国指定天然記念物)などのように人の利用とは直接の関わりが薄いものの、学術上大切なものであるという判断のもと指定されたケースもあります。

唯一無二のこのアオサンゴを天然記念物として保全していくことは、将来的に観光資源としても有益であり、辺野古・大浦湾一帯にある貴重な財産を全国にアピールすることにもなります。天然記念物として早期に積極的に保護し、次世代へ引き継ぐことを要望いたします。

参考資料

  • 「沖縄島・大浦湾におけるアオサンゴ群集 合同調査レポート(速報)~生物多様性豊かな辺野古・大浦湾の海~」 日本自然保護協会・WWF ジャパン・国士舘大学地理学研究室・沖縄リーフチェック研究会・じゅごんの里、2008 年 7 月発行
  • 「Verdant seas」The Daily Yomiuri.2008 年 7 月 22 日
  • 「大浦湾生き物マッププロジェクト報告書」. 沖縄リーフチェック研究会.2009 年 3 月 5 日発行
  • 「辺野古・大浦湾 アオサンゴの海 生物多様性が豊かな理由 ―合同調査でわかったこと―」.日本自然保護協会・WWF ジャパン.2009 年 4 月発行
  • 「特集 大浦湾の海 大浦湾を識る」月刊『地図中心』通巻 442 号財団法人日本地図センター、2009 年 7月 10 日発行
  • 滝野 功ら(2008)「石垣島東海岸と本島大浦湾におけるアオサンゴ群集の地形的・遺伝的特性の把握」. 第10 回日本サンゴ礁学会講演要旨集 p92
  • Yasuda et al (2012).Large-scale mono-clonal structure in the north peripheral population of blue coral, Heliopora coerulea. Marine Genomics.
  • Yasuda et al (2014). Genetic structure and cryptic speciation in the threatened reef-building coral Heliopora coerulea along Kuroshio Current. Bulletin of Marine Science.
  • 山城秀之(2015)名護市大浦湾のアオサンゴ群落の保全に向けた生殖等の基礎調査.pro natura ニュース
  • No25.p7.公益財団法人自然保護助成基金.
  • 希少アオサンゴ確認.琉球新報.2017 年 12 月 7 日
  • 別種のアオサンゴか.東京新聞.2017 年 12 月 17 日
  • 辺野古アオサンゴ、「遺伝的に独立」日本自然保護協会など、保護訴え.2018 年 1 月 22 日.朝日デジタル
  • 文部科学省ウェブサイト.昭和二十六年文化財保護委員会告示第二号(国宝及び重要文化財指定基準並びに特別史跡名勝天然記念物及び史跡名勝天然記念物指定基準)

2019 年12月9日

沖縄県 教育委員会教育長
平敷 昭人 様

長島の洞窟について沖縄県による天然記念物指定を求める要望書

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀 山 章

私たちは日本の生物多様性豊かな自然環境の保全に長期にわたり取り組んできました。このたび、米国 NGO ミッションブルーにより辺野古・大浦湾一帯がその生物や地形の多様性が認められ、ホープスポット(Hope Spot:希望の海)に認定されました。対象の範囲は、辺野古・大浦湾を中心にした天仁屋から松田までの 44.5 平方キロメートルの海域です。そこでこの機会に、この海域にある貴重な長島の洞窟について天然記念物の指定を要望いたします。

名護市辺野古崎沖に位置する長島の洞窟の存在は、地元の人々には知られたことでしたが、その貴重さはよく知られていませんでした。その価値が見直されるきっかけは2014年のことで、藤田喜久氏(沖縄県立芸術大学)がその洞窟内で、サンゴ礫が付着した鍾乳石があることを確認しました。日本自然保護協会がその写真を鍾乳洞などのカルスト地形の専門家である浦田健作氏(九州大学/日本洞窟学会元会長)に提供したところ、「このように石筍にサンゴ礫が付着して成長した鍾乳石は珍しく、日本での報告例はない」ことと、より詳細な調査の必要性が指摘されました。

長島は現在、沖縄防衛局の管理下にあるためその後しばらくは上陸もできませんでしたが、2018 年 8 月 31 日の公有水面埋立承認撤回に伴う工事の停止を受け、日本自然保護協会は辺野古海域において複数分野の緊急調査を実施しました。長島の洞窟については、9 月の 2 日間の調査で、サンゴ礁地理学・地形学を専門とする中井達郎氏(国士舘大学)に洞窟内を観察して地形や堆積物の状況を記録していただき、前出の藤田喜久氏(沖縄県立芸術大学)には、同島の甲殻類相調査の際に、洞窟の簡易な測量を行い、その平面的形状と断面的形状の概要を明らかにしていただきました(中井・藤田、2018)。さらに、同年10月 27 日と 29 日には、前述のカルスト地形の専門家である浦田健作氏(九州大学/日本洞窟学会元会長)にこの洞窟の正確な測量などの調査をしていただきました。

これらの調査から、この洞窟は、国または県の天然記念物に指定するに値する高い学術的価値があることが推察できました。洞窟の規模は小さいものの多様な鍾乳石が見られること、人の立ち入りなどでそれが破損されていない状態にあることは、洞窟が多数ある沖縄県の中でもきわめて珍しい状況であること、サンゴ礫が付着して成長している石筍は現在も形成中の新しいものであること、鍾乳洞内に鍾乳石に覆われたビーチロックやサンゴ礫などが存在し、海からの影響も受けている学術的に珍しい状態であること等がわかりました。鍾乳石の年代測定も行っています。これらのことは、辺野古周辺の地域の数万年から十数万年にわたる海面変動に関連した自然史を解明できる可能性につながります。

長島は米軍普天間飛行場代替施設建設事業予定地の近くに位置しているため、工事の影響や、潮流の変化による影響を受ける可能性があり、また地球規模で起こっている気候変動による海面変動の影響も考えられます。

本年10月29日に沖縄県および沖縄県教育委員会文化財担当者と意見交換をさせていただいた際に、沖縄県は天然記念物指定の条件として人間が長く利用し親しんでいることを重視していると伺いましたが、文部科学省の昭和二十六年文化財保護委員会告示第二号(国宝及び重要文化財指定基準並びに特別史跡名勝天然記念物及び史跡名勝天然記念物指定基準)にありますように、天然記念物は「学術上貴重で、わが国の自然を記念するもの」となっています。人間が長く利用し親しんでいる、というような記述はありません。あくまでも、学術上貴重であるものは対象とすべきであると考えます。沖縄県名護市の嘉陽層の褶曲や奈良県の春日山原始林(特別天然記念物)などのように人の利用とは直接の関わりが薄いものの、学術上大切なものであるという判断のもとに指定されたものが大部分です。

洞窟をはじめとする辺野古・大浦湾の自然は沖縄県の大切な財産です。沖縄県がこれらの洞窟を天然記念物に指定して保護していくことを強く要望いたします。

なお天然記念物に指定した後に、保存活用計画を策定する際には、洞窟の測量の過程で確認された最奥部についての詳細測量、洞窟に流れ込んでいる地下水の化学分析、鍾乳石をつくる地下水をもたらしている島の陸上部の地質や 植生の調査の実施が望まれます。また一般にこのような洞窟には光が乏しいことから、真洞穴性や好洞穴性生物などの特殊な環境に適応した生物が生息していることが知られています。長島や平島は他所から地理的に隔離されているため、洞窟や島全体に固有種なども含む特異な生物群集が存在している可能性が考えられ、詳細な生物調査も必要です。


参考資料

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