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2016.02.15

防潮堤と環境アセスメント


防潮堤と環境アセスメント

日本自然保護協会
安部真理子
増沢有葉

今、東北の被災地をはじめ全国各地で、巨大な防潮堤の建設計画が進もうとしています。

青森県八戸市から千葉県房総半島の東日本太平洋岸ですすめられている巨大防潮堤建設計画の規模は、岩手、宮城、福島の東北3県だけで総延長約370km、費用は約8200億円です。高さは既存のものを大きく上回る10m前後で、高い場所では14mを超えています。

巨大防潮堤の問題は高さだけではありません。高さが10mの場合、底幅は43m以上の巨大な台形となる点です(図1)。このような巨大な構造物が海と陸をつなぐ重要なエコトーン(移行帯)である沿岸部に配置されることの影響は甚大です。

このような形状は、東日本大震災の津波による防潮堤の被災状況をふまえ、国から提示された指針(海岸における津波対策検討委員会 提言「平成23年東北地方太平洋沖地震及び津波により被災した海岸堤防等の復旧に関する基本的な考え方」)に従い、越流しても直ちに全壊しない「粘り強い構造」が基本とされているからです。天端幅の一定幅確保や、裏法勾配の緩勾配化などがあげられており、この指針に従って標準断面形状が示されています。

過去の開発ですでに希少となった海岸独特の生態系の消滅はもちろん、エコトーンにおける動的環境が消失することで周辺の水陸両面の生態系にも広く大きな影響を及ぼします。北海道の奥尻島の事例からも、構造物をつくることで海岸浸食などの地形変化を引き起こすことも指摘されています。自然環境の破壊は、水産漁業、観光業といった自然を活かした産業の継続を困難にし、地域社会の経済基盤をも失う恐れがあります。

さらに、巨大防潮堤により人と海との接点が失われることで、地域で培われた自然を活かす伝統的な知恵、伝統芸能、自然への畏敬の念など、地域社会の形成の根源を失う恐れすら含んでいます。海と共に暮らしてきた沿岸の地域社会に及ぼす影響の大きさは計り知れません。

しかしながら、これほどの事業が環境影響評価(以下、「環境アセス」と略)の対象とはなりません。1つ1つの防潮堤が公共事業としては比較的規模が小さいことや復興事業の対象という理由と思われがちですが、実は防潮堤に限らず、日本では海岸で行われる工事は、環境アセスの対象になっていないのです。

日本の環境影響評価法に基づく環境アセスメントの対象事業は、道路、ダム、鉄道、空港、発電所などの13 種類の事業のみです(表1)。環境アセスメント法は、あらかじめ根拠となる法律を規定しています。海岸法はその対象となっていないので、海岸法に基づく海岸で行われる事業は環境アセスの対象にはならないのです。

河川を例にあげると、河川法は対象となる根拠法の一つとなっているものの、河川で行われるすべての事業が環境アセスの対象になるという訳でもありません。環境アセス法の下の「環境影響評価法施行令」で、その対象をダム、堰、放水路、湖沼水位 調節施設の4つの事業種に限定し、規模も大きなものに限られています。

なお、4種のうち放水路事業と湖沼水位調節施設はもう日本で工事はほとんど行われていないので、ダムと堰が主な対象となります。それ以外の河川で行われる事業は、規模が大きくても環境アセスの対象外となります。

米国ではスクリーニングという手続きがあり、原則すべての事業をまず環境アセスの対象にするかどうかを検討し、事業を行わない場合との比較を実施します。そのため、環境影響を回避するための施策がしっかりと考慮されます。環境への影響がほとんどない事業は類型除外リストにまとめられていますが、このリストは最新の知見をもとに更新されています。

海岸は海と陸をつなぐ場所です。2つの異なる環境をつなぐ移行帯(エコトーン)は、海から陸への連続性を保つ、特別な環境です。そのためここに生息する生物相も豊かです。また沿岸の環境は、河川などを通じて陸から栄養や土砂が運ばれてきます。海岸に防潮堤などの大きな構造物を作れば、このエコトーンの連続性が遮断されてしまいます。直接の改変地のみならず、海岸を持つ地域全体の生態系が劣化してしまいます。

ウミガメやヤドカリのように海と陸を行き来する生物も多く存在します。その他、海岸は、景観の美しさ、防災(消波機能)などの機能を持ち、地域の行事やお祭りなどの場として使われることも多く、失われることの影響は多大です。

日本の海岸線の47% (15,075 km) は開発されて人工海岸、半自然海岸となってしまい、自然海岸は全体の53%程度(第5 回自然環境保全基礎調査結果から)しか残っていません。特に東北3県の自然海岸は海食崖等が多く、自然海浜(泥浜・砂浜・礫浜の合計)は、平成6年の19%から、平成24年には7%にまで減少しています(※)。

このように、全国で、護岸や防潮堤、人工リーフ、離岸堤などの巨大な構造物の建設が、海岸保全施設設置という名のもとに進んでいます。多様な日本の各地の海岸のすべてに海岸保全施設の必要性はなく、また全国一律で同じ型の工事を導入することにも問題があり、地域に合った工法の導入が必要です。さらには、住民の合意形成という点も重要で、東北の巨大防潮堤建設計画に対し、気仙沼市西舞根地区や、同本吉町の大谷海岸など、一部地域では住民から計画撤廃・見直しの要望も提出されています。

巨大防潮堤建設計画は、決して被災地だけの話ではありません。5年間で約19 兆円を投じ東日本大震災からの復興を目指す「全国防災対策費」のうち、1兆円程度は被災地以外の防災・減災対策にも使用可能な予算です。「国土強靭化」を進める安倍政権が誕生させた2012年補正予算、2013 年当初予算では、公共事業予算が増額され、議論のないまま新規事業に多額の予算がつけられました。

さらに、今年5月に自民・公明両党から提出された「防災・減災等に資する国土強靱化基本法案」が成立すれば、全国を対象とした新規公共事業の根拠法がさらに増えます。自然災害への備えが必要な一方で、巨大なコンクリート構造物に頼る方法で拙速に対策事業を進めてしまうことは、地域の財産でもある自然環境を失うことになりかねません。今こそ、このような従来の沿岸管理に対し、根本的な変化を求める時機にきているのではないでしょうか。

四方を海に囲まれた国、日本にとって海岸はとても大切です。この重要な環境を後世に引き継ぐために、少なくとも海岸法に基づく事業が環境アセスの対象とならなければいけないと考えます。

※ 平成6年については、第4回自然環境保全基礎調査海岸調査報告書(環境省)、平成24年度については平成24 年度東北地方太平洋沿岸地域自然環境調査海岸調査(環境省)よりNACS-Jが算出

参考文献:
「特集 このままでいいのか?防潮堤計画」、自然保護 No.534.日本自然保護協会会報 7/8月号、2013年

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▲表1 環境アセスメント制度のあらまし(http://assess.env.go.jp/files/1_seido/pamph_j/05.pdf)より

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▲図1 堤防断面の例

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