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日本の海洋生物多様性保全の制度の改善に関する要望書を出しました。

2014.12.06
要望・声明

日本の海洋生物多様性保全の制度の改善に関する要望書(PDF/191KB)

 


2014年12月5日

内閣総理大臣 安倍 晋三 様
環境大臣   望月 義夫 様

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

日本の海洋生物多様性保全の制度の改善に関する要望書

今年9月中旬から11月にかけて行われた宝石サンゴの密漁問題を通じて、日本の海洋生物種ならびに海洋生態系の保全制度に大きな欠陥があることが浮き彫りとなった。

宝石サンゴ類の密漁を取り締まれない現状には、日本の法制度のもとでは、海の生物種ならびに海洋生態系に悪影響を与える行為に対する規制が不十分であるという背景がある。アカサンゴやモモイロサンゴなどの宝石サンゴ類は成長が遅く回復に時間がかかる絶滅のおそれのある生物であることはよく知られている。一例としてモモイロサンゴの成長速度は1年で0.15 mm程である。宝石サンゴ類などの捕獲・採取に対する規制を強化しなければ、容易に絶滅危惧種となってしまうおそれがある。

また、宝石サンゴ類の密漁のための珊瑚網等の漁法は、深海の生態系のみならず、浅瀬の生態系をも撹乱し、海洋生態系に広く深刻な影響を与える。浅瀬には造礁サンゴが広がり、魚類、無脊椎動物など多くの生物が棲むことから、漁業資源や観光資源にも大きな影響が生じる。浅瀬のサンゴ礁や砂浜など地球温暖化の影響を受けやすい脆弱な海洋生態系の保全の重要性と、その保護を求めた愛知目標10が達成されていないことは、今年10月に行われた生物多様性条約第12回締約国会議でも再度確認された。

近年、海中で人間活動が出す騒音が生物に与える影響が国際的に問題になっている。鯨類やジュゴンへの影響は以前から知られていたが、最近になり、騒音は造礁サンゴ類の成長にも影響を与えることが解明された(Vermeij et al.2010)。従って、どこの国籍の船であれ、今回のように、多数の船が一定の海域で長期間停泊する行為は海の生物種に取り返しのつかない影響を与えるおそれがある。

世界遺産条約のもとでは、他の締約国の領土内にある文化遺産・自然遺産を破壊するいかなる試みも世界遺産条約第6条3項に違反する行為である。今回、小笠原諸島世界遺産地域周辺の海域で生じたような問題は、この条約の趣旨からも許されないことである。

 
上記をふまえ、海の保全という観点から、日本自然保護協会は以下のことを要望する。

1)日本政府は、海の生態系の保全を積極的に進めるべきである。環境省(2011a)は、領海および排他的経済水域の8.3%が海洋保護区であると称しているが、今回の問題によって、海洋保護区の厳密な線引きが出来ておらず、国内外に海洋保護区であると宣言された海域はほとんどないことが明らかとなった。これに対して早急な対処を必要とする。

2)日本政府は、保護すべき海洋生物種を明らかにするため、海のレッドリストを早急に完成させるべきである。明らかに絶滅のおそれのある海洋生物種については、海のレッドリストの完成を待つことなく、種の保存法の国内希少野生動植物種に指定すべきである。

3)日本政府は、小笠原諸島の周辺海域を海洋保護区とする具体的な方策を検討すること。2011年の小笠原諸島の世界遺産登録にあたって、IUCNおよび世界遺産委員会は、海域公園の区域を世界遺産に拡張することを日本政府に強く推奨(strongly encourage)している(UNESCO 2011)。

4)日本政府は、名古屋議定書の国内措置の検討を急ぎ、早急に議定書を批准すること。なお、国内措置の検討にあたっては、我が国が遺伝資源の提供国となる場合の措置については議論が先送りされている。しかし、日本列島の周辺海域には、世界の海洋生物の15%にあたる34,000種が生息する世界でもまれな生物多様性が豊かな海域である(環境省2011b)。我が国が海洋資源に関してはメガダイバーシティー国家であることを念頭に、遺伝資源の提供国としての措置についても早急に検討すべきである。

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<ご参考>

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