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【種の保存法改正】 生物多様性保全の歴史の大きな転換点!

2013.08.28
解説

2013年6月4日、国会で「種の保存法」の改正法が成立し、1992年の制定から20年以上問題を抱えたままとなっていた同法が改正されました。

これまで、NACS-JはほかのNGO団体などと連携し、国会議員や環境省に対して、同法の抜本改正に向けた提案や働きかけを行ってきました。その結果、「2030年までに国内希少種600種追加指定」など、日本の生物多様性保全の歴史の転換点ともいえる目標が盛り込まれるという、画期的な成果が得られました。一方で、法律の抜本改正は3年後に先送りという大きな課題も残っています。今回の法改正の成果と課題をまとめます。

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鳥羽水族館のジュゴン。日本の野生のジュゴンは、沖縄の大浦湾周辺などごく一部で数頭しか確認されておらず、絶滅の危険性が最も高い絶滅危惧ⅠA類に指定されている。しかし現在、種の保存法では海の生物は1種も指定種になっていない。今回の法改正では付帯決議の中で「海洋生物を積極的に選定の対象とする」と明記された。今後、海洋生物の指定を進め、保全を推進することが求められている。

改正の主なポイント

  • ①違法な譲渡しなどの罰則の強化
  • ②販売目的の広告規制
  • ③目的条項に「生物多様性の確保」の明記
  • ④国の責務に「科学的知見の充実を図る」の追加
  • ⑤「教育活動等により国民の理解を深めること」の追加
  • ⑥3年後の見直し規定の追加
  • ⑦「国内希少種を2020年までに300種追加指定」などの目標を含む11項目の付帯決議

「種の保存法」が 抱えていた問題点

「種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」は、絶滅のおそれのある野生生物を保全するために、国が1992年に制定した法律です。同法で「国内希少野生動植物種」に指定された動植物種(以下、指定種)は、販売や譲渡し、捕獲などが原則禁止されたり、必要な場合は生息・生育環境の保全のための「生息地等保護区」が設定されるなど、野生生物保護の砦となるべき法律です。

しかし、制定から20年以上が経過しましたが、絶滅危惧種は2007年から2012年の5年間で422種増加し3597種となるなど増え続けています。現在までに同法では90種が指定種となっていますが、これは絶滅危惧種の2.5%に過ぎず非常に少ないこと、指定種選定の基準やプロセスが曖昧であることなど多数の課題があり、種の保全に有効に機能しているとは言えない状況にありました。今回の改定は、現状を変える大きなチャンスだったのです。

2030年までに600 種を新規指定

今回改正された主なポイントはページ上の表の7点です。特に今回の法改正の最大の成果は、7つ目の項目。「2020年までに国内希少種を300種新規指定する」ことが付帯決議に明記されたことです。付帯決議とは、国会(立法府)が、政府(行政府)に対して、その法律の運用や、将来の改善についての希望などを表明するもので、法律的な拘束力はありませんが、政府はこれを尊重することが求められます。新たに指定種を追加するための大きな一歩となりました。

さらに国会審議の中の環境省の答弁では、2030年までにさらに300種指定し総計600種の追加指定を目指すことが表明されました。これらの目標は、「生物多様性国家戦略2012ー2020」で定めた指定種の目標「2020年までに25種追加」と比べ10倍以上の意欲的な目標となっていて、「日本の生物多様性保全の歴史の転換点」として高く評価できます。

今回の改正内容のうち、③~⑦は政府案が閣議決定された後、NACS‐Jを含むNGOの働きかけと、それを真摯に受けとめた与野党議員の努力によって追加・修正された大きな成果です。

法律の抜本改正は 3年後に先送り

一方で、根本的な課題に対する改正は行われず、3年後に先送りされました。そもそも、現状の大きな問題は、「なぜ絶滅危惧種の2・5%しか指定できていないのか?」という点です。環境省の担当者からは、「指定のための調査費が不足しているため」と説明されていますが、本当にそれだけの理由でしょうか? 指定をするための情報・資金だけでなく、指定を進める制度が不足しているのではないでしょうか?

これらの課題解決のために、NACS-Jは、今回の法改正にあたって、⑴指定種の選定を進めるための「常設の科学委員会」を設け、選定の基準・プロセスを明確にすることや、⑵市民と連携して、指定に必要な調査・情報収集を行い、市民からの指定種提案も受ける「国民による種指定提案制度」の創設などを提案してきました(※)。この市民による提案制度は、すでに京都府や徳島県などで設けられています。

これらの提案を含む抜本的な改正は、ほかのNGOや学会、法曹界などからも挙げられており、各団体と連携して、国会議員や環境省に対して同法の抜本改正に向けた提案、働きかけを行ってきました。

その結果、これらの提案は、野党「みどりの風」の修正案としてまとめられ、国会に提出されました。国会審議において、自民・公明・民主党の反対多数で否決され、先送りとなったものの、指定種が非常に少ないことや、指定のための体制・予算不足、指定の基準・プロセスが曖昧であることなどが主な論点として国会で大きく取り上げられました。その結果、3年後の抜本改正に向けた政府への宿題として、「科学委員会の設置の検討」、「種指定提案制度の検討」などNGOが求めていた改正項目が付帯決議に明記されたのです。将来的な改正に向けての試金石となるでしょう。

次のチャンスは今年度末!

同法の課題を解決するために、今後重要な節目がふたつあります。ひとつは3年後の法改正のタイミング。もうひとつは今年度末の「絶滅のおそれのある野生生物種の保全戦略」を環境省が策定するタイミングです。  この保全戦略には、種指定の優先順位や基準、指定のための体制、指定後の保全方針などが具体的に書き込まれる予定です。2030年までに600種新規指定という意欲的な目標を達成し、指定した動植物を絶滅の危機から救うためには、従来のしくみや体制では実現できず、環境省だけでなく、市民や行政、NGOなど多様な主体の参加が不可欠です。

特に、NACS-Jが提案してきた「国民による種指定提案制度」のような市民参加のしくみや、指定種の保護増殖事業などの保全計画に、地域で活動している方々が参画できるしくみなどが戦略に書き込まれる必要があります。この戦略は、年末ごろにはパブコメにかかりますので、皆さんも注目いただき、ぜひ現場からの意見を環境省に届けてください。NACS-Jは、日本の絶滅危惧種の保全に向けて、3年後の同法の抜本改正を実現すべく今後も活動を続けていきます。

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現在、国内希少野生動植物からの指定解除が検討されているオオタカ。
指定解除の基準が不明確、かつ科学的根拠が不足、指定解除が及ぼす負の影響が懸念されるなどの点から、NACS-Jは指定解除に反対する意見書を提出した。 (意見書全文はこちら

キキョウ(写真)

絶滅危惧Ⅱ類に指定されている秋の七草キキョウ。
日本の植物の絶滅危惧種は1779種もあり、日本の絶滅危惧種の約半数を占めている。昆虫と共に、今後、種の保存法での指定が最も必要とされる分類群である。

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