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2012.08.29

ニホンカワウソの「絶滅」~「種」が消えていくことの意味

環境省は2012年8月28日、絶滅の恐れのある野生生物の「レッドリスト」を見直し、第4次の改訂版を発表しました。

ニホンカワウソを絶滅危惧種から「絶滅種」に指定するなど、新たに8種が絶滅種に指定され、419 種が絶滅危惧種となりました。

日本自然保護協会の会報『自然保護』1991年9月号「生き物たちのメッセージ」より、小原秀雄NACS-J顧問(当時理事長)と動物写真家の田中光常さんによる、ニホンカワウソについての記事を転載します。

nihonkawauso_tanakakojo1965.jpg
 
ニホンカワウソ撮影 田中光常)
動物写真家として多くの動物を取り続けている田中光常さんも、カワウソをおさめたのは1965年(昭和40年)12月ごろに愛媛県御荘で撮影したこの1点だけとのこと。(キャプション一部抜粋)

生き物たちのメッセージ

「種」が消えてゆくことの意味

小原秀雄

 

生物の進化史は、「種」の絶滅史であるといえるほど、数多くの種が生まれて死ぬ、つまり”絶滅”してきました。
しかし、それにもかかわらず、1万3000種以上の鳥獣を含め、今日地球上には300万種以上の生物が生きています。
最近は3000万種ともいわれています。地史的な時間でいえば、この現生の鳥獣その他の生物種にとっても、絶滅は運命なのでしょう。

 

「それなら、現在危機にさらされているような、絶滅する動物は絶滅するにまかせればよい」という人もいますが、これは時間のスケールを考えない暴論です。
しかも過去には、子孫を残さない真の絶滅ばかりでなく、基本的には別属の種に進化して子孫種を残しての「絶滅」であったのです。
なによりも人類が舞台を支配するようになる前と後の地球の違いに目をつぶった議論といえます。
人間もどうせ滅亡するのだから、自然破壊もしょうがないという考え方もあるでしょうが、ヒ卜の絶滅自体「自然な」ものでなく、急速な絶滅は人為的なものなのです。
その影響を受ける野生動物も、その仕組みはけっして「自然な」ものではないからです。

 

人類の出現は直接間接に、動物の種の生存・種の維持に影響を与えました。
特にいくつもの種の人為的な絶滅と家畜や作物の出現、それに都市生態系に代表される人工の生態系をっくりだしてきたこと。
ひいてはそれが増大拡大して地球の生物圏に全体的影響を及ぼしはじめたことで、各地の生物の世界の再編成が始まったのです。
それが進んだのが、大規模な絶滅を起こす最大の要因でした。

 

かつては、「日本でオオカミやトキが滅びて、なんらかの支障が生じたか?」と言った人もいましたし、現在でも、野生動物保護は人聞が「豊かになること」の反対と見る人が多いのも事実です。
「人聞か、野生動物か」、「人間生活と自然保護のどちらが大切か」、といった議論を相変わらず見かけるのも、そういった見方によるものと思います。

 

生物種の数が3000万種だとして、そのうちのたった1種が地球からいなくなるだけとはいえ、自然界に存在する種のすべては、自然界の中で環境条件と深く結びついて存在しています。
環境条件とは生活場所・棲息地で、動物の場合でいえば、大気や水だけでなく、食物連鎖の対象となる他の生物種や天敵まで含みます。
種とは、たとえば「自然界において、または、自然状態で生殖的に隔離されており、生活している場所の生態系で一定の生態的位置を保っている、形質を同じくする個体群」と定義されています。
ですから、動物園や植物園にだけ存在している生物は、もはや種として実存しているとはいえないでしょう。

 

「種の減少は、将来の人類の資源にとって深刻な問題だと多くの研究者からも指摘されています。
人類にとっての可能性が減り、地球の病気の進行を示し、死期が早まったというような思いです。

 

種の保護とは、個々の珍しい野生動物を保護することも当然含んでいますが、野生生物の種が維持・構成することで成り立っている自然の存在を守ることでもあるわけです。
人間にとって有用な種だけ保護しようとしても、その種を取り巻く自然のバランスが狂って、地域生態系が破壊されたら……。自然の野生種の一つひとつは、どれほど遺伝子工学が進んでも人聞が作り出すことはできません。

 

そしてさらに、多様な種が進化史を経て形成してきた、精妙な自然界のバランスとその自然な歴史的変化は、いっそう回復不可能なのだということを、私たち人間は忘れてはならないのです。

 

(おばらひでお・NACS-J理事長、聞きて:NACS-J編集部/役職名当時)

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