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生物多様性国家戦略への提言

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2012.08.06

生物多様性国家戦略の改訂(案)に意見を出しました

生物多様性国家戦略の見直しは、今回で4回目。今回の戦略(案)は、第1部が戦略、第2部が新たに加わった「愛知目標の達成に向けたロードマップ」、第3部が行動計画となっています。今回は、今までNACS-Jも何度も指摘してきた具体的な数値目標がかなり多く盛り込まれました。例えば、「藻場・干潟などの保全再生」の具体的施策では、【現状】藻場・干潟の保全・創造:4800ha(2007-10年度実績)、【目標】5500ha(2012-16年度)と成っています。このような改善や自然再生の取り組みの推進がみられるものの、戦略が実現するような行動計画になっていない、海の生物多様性保全の取り組みが不十分、東北の復興・再生における生物多様性保全の軽視などの課題も多く、これらについて、NACS-Jは意見を提出しました。

生物多様性国家戦略の改訂(案)に対する意見(PDF/338KB)


2012年8月5日

環境省自然環境局自然環境計画課
生物多様性地球戦略企画室 御中

生物多様性国家戦略の改訂(案)に対する意見

パブリックコメント

公益財団法人 日本自然保護協会

総論

2010年愛知名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議は、ここ数年の環境関連の国際会議の中で最も成功した会議と呼ばれる。日本のリーダーシップのもとに合意された愛知目標を、日本自然保護協会は、大きな成果と考えている。
 「2020年までに、生物多様性の損失を止めるための効果的かつ緊急の行動をとる」ことが愛知目標を採択した各国の使命(ミッション)であるが、今回の国家戦略は、日本の地名を冠するこの世界目標を実現するには、不十分である。特に、2011年の「人と自然の共生懇談会」(環境省)で人口や経済の動向、自然環境や土地利用の変遷など広範な情報を議論の俎上にあげていたが、国土や土地利用のあり方を新たに定める方針や、各省庁の既存の計画や施策を収束したり方向付けるまでに、今回の国家戦略の改訂では残念ながら至っていない。条約加盟国に対してリーダーシップを発揮すべき議長国日本の国家戦略として、第1部に掲げられた理念・基本方針を活かすために、第2部・第3部の内容を大きく改善すべきである。
とくに、「沿岸・海洋」と「東日本大震災からの復興・再生」は、根本的な見直しが必要と考える。「沿岸・海洋」は海に囲まれた我が国にとって、多くの人が意識している以上に、重要な生態系サービスが提供されている。われわれの生存のためにも、文化や精神的にも重要な存在基盤である。陸域と同等、もしくは危機的状況から考えれば、陸域以上の具体的かつ抜本的な保全施策が必要な状況にもかかわらず、戦略にも行動計画にも、その認識が見られない。海の生物の絶滅を食い止める、その明確な意思と行動計画を示すべきと考える。
「東日本大震災からの復興・再生」については、いままさに復興の現場で、自然に対する畏敬の念、自然の恵み、共生する知恵や自然観などとは無関係な事業が数多く進んでいる。堤防建設などの復興工事は、地域の生物多様性、特に重要な場所が破壊することのないように進めるべきである。
国家戦略の第一部に書かれているとおり、恵みと脅威の二面性を持つ自然とともに生きていることを改めて意識し、人と自然の豊かな関係を再構築すべきときにいるにもかかわらず、現場にそれが反映されていない。「自然の理」に込められた考えを、もっと前面に出し、復興庁を含めた全省庁が、文字通り国家の戦略として生物多様性の豊かさを損なわない復興・再生を具体化し、愛知目標のビジョン「自然と共生する世界」の実現にむけたモデルを構築すべきである。

「沿岸・海洋」の目指すべき方向について

流域も視野にいれた海域全体の生物多様性の保全と利用のマスタープラン(海洋のあるべき将来像)をまず策定することを本戦略で位置づけること。

本戦略であげられている既存の海洋保護区制度や環境影響評価制度等の法制度を当てはめても、総合的かつ計画的な保全戦略としては不十分である。MPA8.3% という政府の見解は見直し、生物多様性保全を目的とするMPA 制度を再構築すべきである。
日本の海域全体(浅海域、外洋域)から沿岸や流域といった陸域も含めた総合的な「マスタープラン(海域の生物多様性保全上のあるべき将来像)」をまず策定することが必要である。生物多様性保全を基礎におく持続可能な自然利用(土地利用・海域利用を含む)について、ゾーニングを伴う計画が必要である。陸域起因の流入物質や、流砂系の総合的な土砂管理も関係するなど、海域の施策にとどまるものではない。このようなマスタープランを枠組みのなかで、各種の利用形態やゾーニングを考慮した海洋保護区を設定する地域、自然再生への取り組みを行う地域など、効果的な配置が決められるべきである。今ある自然の海の保全を優先するという原則を明確に示すこと。自然再生や里海の取組によって生物多様性を損なうことがないようにすること。
あらゆる施策で、今残された自然の海域を少しでも多く守ることが、まず優先されることである。埋立など開発計画・行為を見直し・中止する強制力をもった調停等や制度などの手立てが必要である。その上ですでに自然が破壊・劣化してしまった海域については自然再生を行うという基本姿勢を明記すべきである。「自然生態系と調和しつつ人手を加えることにより、生物多様性の保全と高い生物生産性が図られている地域を里海と呼ばれている」とある。一般的に「里海」という言葉は「昔からある豊かな海」という意味合いと、「人手を入れている海」の2つの意味合いで使われていることが多いが、読み手に誤解が生じないようにすべきである。「里海」は人により定義が異なり(日本水産学会監修 2010)、様々な解釈がされ、開発行為の代償や、対処療法的な自然再生として行われることも多い。保全の効果も科学的に不明確である。
本戦略で、「里海」を取り入れるならば、まずは定義を明確にして、人手を加えることによる効果の科学的根拠を明示し、事例を{現状}に示すべきである。「里海」と称して保全の効果をともなわない対処療法的な取組が推進されないようにしなければならない。

「東日本大震災からの復興・再生」の基本的な考え方

東北の復興・再生には、「自然の理」に沿って生物多様性を損なわない方法・計画を実行する基本方針を明示すべき。

第1章第3節に列挙されている損失原因そのままの手法(大規模な防潮堤)が用いられようとしている。東北のくらしを支えてきた生物多様性を失っては、一時的な復興にはなっても、持続可能なくらしそのものが成り立たない。
東日本大震災の教訓を、生物多様性の回復や生態系サービスの観点からも復旧復興の具体的な計画と海岸・沿岸の土地利用に活かすことが、自然共生社会の実現のうえでも重要である。自然の回復力を損なわなずに、最大化していく復興にすることを、国家戦略に明記すべきである。
環境省は、東日本沿岸部の全域の海岸、干潟湿地、後背地、河口や汽水域の自然環境の調査状況や調査結果を集約して、現状の評価を民間(NGO・研究者)とともに早急に行ない、復興・再生事業で重要性を損なわないよう情報を発信し、関係省庁や自治体への調整をはかるべきである。
東日本(東北沿岸部を中心に)全体の自然環境の情報を環境省が早急に調査と情報整備をし、各自治体の復興計画や再生エネルギーの導入の際に、環境影響評価手続きを簡略させず、事業者の一定の負担を減らすうえでも活用できるようにすべきである。

生物多様性国家戦略の全体構成の課題

「第1部 戦略」の理念から課題設定までの素晴しい内容が「第3部 行動計画」にまったく反映されていない。国家戦略の策定プロセスや今後の点検・改定手法を根本的に見直す必要がある。

第1部で述べられている理念(合理性)、課題認識、目標設定、基本方針は非常に素晴しい内容となっている。世代を超えた安全保障を担保する上で生物多様性の保全が必要であることや、日本社会が国外の生態系サービスに強く依存している反面世界でも最も他国に影響を与えている国のひとつであること、地球規模で生態系が急速に崩壊しており生存基盤の保全のためには緊急的な取り組みが必要であるとしている。持続可能な国土を再構築し引き継いでいくためには、第2章第6節で述べられているような課題を確実に克服していく必要がある。
しかし、そこで述べられている「人口減少を見据えた国土利用設計」「分散型の社会システムの構築」「他国も含めた「自然共生圏」としての共同管理」といった重大な要素が、肝心の第3部行動計画には全くといっていいほど実効性のある計画としては触れられていない。国家戦略は各省庁の協力の下で作られているものの、第一部で述べられている必要性や重大性、緊急性が心から理解された上で策定されているとは言いいがたい。執筆担当者だけでなく各省庁がこれらを十分理解したうえで行動計画を策定できるよう、事前の研修や情報提供のあり方、策定期間、手順といった戦略の策定プロセスを根本的に見直すべきである。
また、第1部で掲げられた課題が確実に解決に向かうようなロードマップや行動計画を今後各省庁で作ることができるように、戦略履行状況の点検や改定の手法に関する行動計画を策定していくべきである。
自然の生態系は農水省、環境省、沖縄県、国立公園等と法律や行政区分で切り分け分けられている訳ではない。行政の縦割りを解消し、関係省庁全てが協力し保全を進めるようにしないと、問題は解決しない。

以下、全文は、生物多様性国家戦略の改訂(案)に対する意見(全19ページ)

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