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2012年2月4日(土)生物多様性地域戦略づくりのシンポジウム『みんなでつくる生物多様性地域戦略 ~暮らしと自然の未来像』を開催します

2011.12.14
要望・声明

「農林水産省生物多様性戦略の見直し案」についての意見(PDF/244KB)


2011年11月30日

農林水産省 環境政策課  御中

「農林水産省生物多様性戦略の見直し案」についての意見(パブコメ意見)

公益財団法人 日本自然保護協会
保全研究部 高川晋一・朱宮丈晴
保護プロジェクト部 大野正人

意見1:「生態性サービスとその源泉である生物多様性」があってこそ、持続的な農林水産業が成立することを十分認識し、その保全を戦略の目的として明確に掲げるべきである

本戦略の目的が十分に明記されておらず、取り組みの多くが「生物多様性保全型の農林水産業の推進」を目的としたものばかりである。生物多様性とそこからもたらされる生態系サービスがあってこそ持続可能な農林水産業や食料の安全保障がもたらされることをより強く明記し、「生態性サービスとその源泉である生物多様性の保全」も本戦略の目的として冒頭に明記すべきである。また第Ⅱ章(1)節(P2~P3)の生態系サービスについては概念的な表現ばかりが目立つため、農業における花粉の送粉サービスや水の供給サービスなど現在でも実質的に重要である生態系サービスについて、定量的な評価がされているものについては、客観的にその重要性について記述すべきである。東日本大震災からの復興についても「農林水産業を復興させることが生物多様性や自然環境の回復・維持につながる」(P42L12)のではなく「地域社会の基盤となる健全な農林水産業を再生・維持するためにも生物多様性と生態系サービスの保全・再生が重要である」という認識のもと、生物多様性の保全を内在した農林水産業の復興をめざすべきである。

意見2:生物多様性条約決議や生物多様性国家戦略に基づく農林水産省戦略という位置付けを明確にし、市民やNGO等の参加型プロセスによって「行動計画化」をすべきある。

本文中の随所に生物多様性条約第10回締約国会議(以下、COP10)の決議内容が引用されているものの、本戦略と生物多様性条約及びそれに基づく生物多様性国家戦略との位置付けが明記されていない。また、農林水産業にかかる他の上位計画(例:全国森林計画、農業振興地域整備計画、等)との位置付けも明らかでない。戦略の実効性を担保するためにも、これらとの位置付けを明記するとともに、特に生物多様性条約・国家戦略を踏まえた省庁別戦略行動計画として策定していることを明記すべきである。具体的には、生物多様性の保全や生物多様性を脅かす要因、その駆動要因についての評価・対応策の実施についても十分に盛り込み、「いつだれがどのような手順でそれらを実現し、その実施状況・効果をどう評価するか」といった具体的な「行動計画」にしていくべきである。また、あらゆる分野別の戦略行動計画は市民・民間セクターが参画する形で策定・実施されることが強く求められていることから、今後の戦略の実行・見直しについては市民やNGO等の参加型プロセスを十分担保すべきである。

意見3:農林水産業の場に関わりのある生物多様性・生態系サービスの保全を第一の目的とした実行力のある政策を進めるべきである

3-1)絶滅危惧種の多い里地里山は、保全を目的とした施策の推進と新たな制度が必要

実質的に農林水産業が地域の生態系サービスに強く依存していることや、多くの絶滅危惧種が里地里山を生息生育地としていることなどからも、農林水産業の場に依存している生物多様性の保全を第一目的とした施策を強力に推し進めるべきである。特に生物多様性の保全上重要な場所については、保護地域や適切な奨励措置によって保全が実現されるような施策の検討・実施をおこなうべきであり、COP10の愛知目標、保護地域に関する決議(X/31)、改訂版世界植物保全戦略(X/17)といった決議に基づく数値目標(例えば特有の景観タイプである里地里山の全体の15%を、特に植物の多様性上重要な場についてはその75%を効果的な手法で保全管理・再生する、等)を盛り込むべきである。なお、里地里山など保護の法的な網掛が困難な私有地での保護地域制度については、環境省の関連施策とも十分な連携を図りながら、他国の制度(例えばイギリスのSite of Special Scientific InterestやアメリカのHabitat Conservation Plans等)を参考にして新たな制度を検討すべきである。

3-2)沿岸域の環境整備の発想転換、漁場の新たな海洋保護区の制度の検討が必要

沿岸域においては、漁業活動の規模に見合わない漁港整備によって、潮流の変化、砂浜の浸食と堆積のバランスが崩れるなど様々な自然改変を引き起こしている。特に生物多様性上重要な沿岸域の漁港整備の際には、計画段階から既存権益(漁業権等)にとらわれずに立地や規模を適正にする必要がある。また、海岸の保全整備として行われるクロマツ林植林の管理によって、砂浜海岸の生物多様性が脅かされている。本来の砂浜植生や砂浜の生態系を重視した環境整備が必要である。海洋保護区については、既存制度を活用した政策推進と言及されているが、水産庁の主管の既存制度は主に「水産資源の保護増殖」を目的としているうえに、共同漁業権区域のような漁業者の自主的な共同管理だけで海洋保護区の機能を果たせるとは言い難い。生物多様性の保全と持続可能な水産資源管理を目的にした海洋保護区の制度の検討を戦略に盛り込むべきである。

3-3) 失われる伝統的な家畜・作物の遺伝資源と利用知識の現状把握と保全対策が必要

愛知目標の目標13にも掲げられる家畜・農作物の遺伝的多様性の保全については、国内では対策はおろか現状把握すら全く行われていない。全国の各地方で辛うじて維持されている伝統的な家畜・作物の遺伝的系統とその利用知識についての現状把握と保全対策を早急に講じることを戦略内に明記すべきである。

意見4:生物多様性に深く関わる農林水産業政策や奨励措置についての評価を十分に行い、結果に基づき適正化を図るべきである

諫早干拓事業のように、これまで工業的・集約的な農林水産業を推し進めることを目的とした政策や奨励策がその場の生物多様性や生態系サービスを喪失・劣化させてきたことは明らかである。また、環境保全を目的に含む奨励制度(例えば中山間地等直接支払い制度、農地水環境保全向上対策)についても、それぞれの地域の生物多様性の保全にどれくらい貢献してきたかは科学的に十分検証されていない。これらの施策・奨励策の生物多様性上の評価を計画的に進めるとともに、その結果に基づき補助金等の奨励制度の撤廃や適正化を図るべきである。特に、全国一律に「冬期湛水」の奨励(P10L24)や、「里海」の事例として海草類の移植や漁場の耕うん等の取り組みの奨励(P28L12以降、P29L13以降)については、それぞれの地域の気候・地形・地史等に照らして本来のその場の生物多様性の保全にとって寄与するものかどうかの十分な科学的検証を踏まえて慎重に進められるべきである。一方で、農地や森林の(希少種や伝統作物の遺伝的多様性を含む)生物多様性は、かつてから生産性の低い小規模家族経営による農林業活動によって維持されてきた。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)などの自由貿易政策が小規模経営によって維持されている場にどのような影響を及ぼすかについても十分な予測を行うとともに、そのような農林業活動の継続を保障する奨励措置を十分講じる必要がある。

意見5:生物多様性や生態系サービスの実体を十分に捉えられる指標の開発とモニタリングの実施を行うべきである

上述した奨励措置の影響をはじめとして、戦略に述べられている施策の効果を評価するためには、保全対象となる生物多様性や生態系サービスの多面的な要素・構造・機能をバランスよく評価できる適切な指標群とフレームワークが必要となる(例えばCOP10新戦略計画5章や決議X/7)。本戦略についても指標開発について明言されているものの(P40L7など)、特に里地里山の評価指標については主要農作物の害虫の防除サービスのみに極端に偏った指標となっており適切な政策評価が可能となるとは言い難い。生物多様性・生態系サービスの実体や衰退要因・対応策の包括的な評価が可能となるような指標開発とモニタリング調査の実施体制、評価に関するレポーティングシステムを確立すべきであり、環境省で同様の目的で進められているモニタリングサイト1000里地調査とも十分連携を図るべきである。

以上


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