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生物多様性条約への取り組み

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2011.02.10

NACS-Jからみた COP10の成果と今後の課題

NACS-Jは2011年1月22日、清澄庭園大正記念館(東京・江東区)で特別セミナー「COP10から次の10年へ ~NACS-Jが見たCOP10と次のステップ」を開催しました。

COP10の全体概要や「新戦略計画2011-2020(通称:愛知ターゲット)」の解説から始まり、「保護地域」「海洋・沿岸」「市民参加型モニタリング」などのテーマごとにCOP10でどんな成果が得られたか、これを受けてNACS-Jが今後どんな活動を展開していくのかについて発表しました。

NACS-Jは、これらの資料をもとに、COP10の成果をしっかりと伝え、さらに生物多様性国家戦略や地域戦略の策定や、現場の生物多様性保全に活用していきます。

 

 日本自然保護協会(NACS-J)からみた
COP10の成果と今後の課題

~COP10から次のステップへ~

2011.1.22発表

(全文PDFファイル/261KB) 


 

1. 全体概要

2010年10月11日から29日にかけて生物多様性条約第5回カルタヘナ議定書会合(MOP5)、第10回生物多様性条約締約国会議(CBD/COP10)が愛知・名古屋で開催された。全47件の決議を採択し、前回のCOP9(2008、ドイツ)を大きく上回る約13,000人が参加した。国際会議場の周辺で行われた生物多様性交流フェアには12万人近い市民の参加があった。

2020年までの条約の方向性と一部の定量的(数値)目標を含む20の目標を設定した生物多様性条約新戦略計画(別名:愛知ターゲット)、遺伝資源へのアクセスと利用から生ずる利益の配分(ABS)の国際ルールとなる「名古屋議定書」が採択された。

また、NACS-Jも加盟し運営に深く関わった生物多様性条約市民ネットワーク(CBD市民ネット)が提案した「国連生物多様性の10年」を求める決議がなされたことや、単に面積だけでなく管理効果や参加型管理、連続性、先住民・地域住民主体の保護地域の重要性を訴えた「保護地域」の決議、絶滅危惧植物の生息域内・域外の保全に関する、より意欲的な数値目標が含まれた「世界植物保全戦略」が採択されたことなども注目に値する。

会期中、一時は先進国と途上国の意見対立から、主要決議のすべての採択が危ぶまれたことを考えれば、期待されていた決議が最終的に合意された意義は大きい。今後は決議の実現に向けた取り組みをいかに進めるかが最も大きな課題である。

日本政府は、会議全体の運営を通じて各国から高い評価を受けるとともに、これまで提唱してきた「SATOYAMAイニシアティブ」が「持続可能な利用」をテーマとした決議の中で国際的に位置づけられるなどの成果を得た。しかし一方で、本会議のNGO声明では、期間中に工事を始めた山口・上関原子力発電所建設計画の問題、沖縄・辺野古米軍基地移設計画の問題が指摘され、最終日に発表されたNGOのニュースレターのなかで、日本は「大いなる矛盾を抱えた国」と称された。また「SATOYAMAイニシアティブ」に関する交渉過程等で日本の縦割り行政の弊害が露見したり、注目を集めた「海洋・沿岸」の分野において世界の取り組みに比して海洋保護区の設置が遅れていることが浮き彫りになるなど、日本の課題は大きいといえる。

COP10開催を機に、マスメディアにおいても「生物多様性」という言葉が日常的に用いられ、目にする頻度が高まるなどの副次的な成果もあったといえる。まだ大企業中心ではあるものの、企業活動における生物多様性への配慮や保全への貢献も注目されていた。

市民団体のネットワークも様々な力を持ち寄り、ホストNGOとしての役割を果たすことができ、条約の国際会議に実際に参加するという得難い経験を積んだ。今後は議題ごとの連携を密にして、決議文への働きかけなど戦略を持った政策提言・ロビー活動の推進が必要だろう。

NACS-Jとしては、この会議が現場の保全にどのように結びつくものなのか改めて検討する必要があり、かつ、この会議を単なるイベントで終わらせないためにも、現場の保全の重要性を広く訴えていかなければならない。

一方で、COP10以降は生物多様性に関するメディアの報道が急速に減少した。そのため、生物多様性そのものの意味や価値、COP10の成果などはまだ十分に取り上げられていない。
NACS-Jが訴えてきたことを再確認し、決議の分析や解説、COP10の成果が日本の自然保護にどのような示唆を与えているかを伝えていくことが、全国の現場で活動する会員に支えられている、全国規模NGOであるNACS-Jの役割といえる。

そして、世界の潮流を視野に入れながら主要課題の成果と今後の方向性をまとめ、日本の多くの市民の参画を促し自然保護の底上げをはかり、現場の生物多様性保全に反映されるようにしたい。

2. 個別議題の成果

2-1 愛知ターゲット
「陸地の17%、海域の10%を保護地域にする(目標11)」といった目標をはじめ多くの個別目標に定量的(数値)目標が定められたことは大きな成果である。

また、単なる生育生息地・絶滅危惧種の保全回復だけでなく、「生息地の損失速度を半減又はゼロにする(目標5)」や「生物多様性に悪影響を及ぼす補助金の撤廃(目標3)」など直接・間接の衰退原因への対策に関する目標(戦略目標A・B)や、「あらゆる資金源からの資金を拡大する(目標20)」といった取り組みの強化に関する目標(戦略目標E)というように、戦略目標をAからEの5つに分けて生物多様性に関わる社会的要因を一体でとらえていく枠組みを採用した。この2点により「2010年目標」よりも個別課題での取り組み目標と評価が明確になるよう工夫された。戦略計画の実施・評価などのフォローアップに関する方針や、戦略計画の実施を支える支援手法の方針も定められた。

しかし、議論の過程で数値目標が削除されたり、表現上分かりにくいものとなった目標もあり、その評価は一長一短といえる。

【今後の課題】
社会全体として、あるいは、政府、企業、自治体、教育研究機関、そしてNGOといったあらゆる主体が、愛知ターゲットを理解し、その実現のための具体的アクションを検討するために、決議の読み解きと行動計画の設定が欠かせない。2011年度から検討が始まる生物多様性国家戦略の改訂をより市民参加型のプロセスで行うこと、グローバルな目標である愛知ターゲットの20の個別目標に沿った形でより意欲的な国内目標を設定するよう働きかけることが必要である。

愛知ターゲットの目標にてらして、国の取り組みの達成状況(特に生物多様性の状況把握や施策の実施状況について)を定期的に「評価・点検」していく仕組みが不可欠といえる。その評価・点検のプロセスには、多様な主体の参加を確保した仕組みと、第三者も入れた達成度評価が必要である。

この愛知ターゲットの実現に向けては、自治体・企業の積極的な取り組みが求められている。愛知ターゲットは現在進んでいる地域戦略策定にも活用される必要がある。生物多様性保全上重要であるにも関わらず取り組めていない活動領域を検討するチェックリストの活用が考えられる。

【参考:愛知ターゲット20の目標 PDFファイル(3.9MB)

 新戦略計画2011-2020 (環境省仮訳より)・日本自然保護協会『自然保護』2011年1・2月号】

2-2 海洋・沿岸
サイドイベント、フォーラム、ワールドオーシャンデーなど、海に焦点をあてたイベントや会議が多く開かれ、Nagoya Oceans Statementが採択されるなどCOP10で注目を集めた議題となった。世界の生態学的または生物学的に重要な地域(EBSA:Ecologically Biologically Significant Area)の目録の作成が決まり、関連するワークショップの開催が決まるなど、着実な歩みを見せた。

同時に、公海に対する国際ガバナンスの不在、気候変動がもたらす海洋生物多様性の危機への警鐘や、地球工学(ジオエンジニアリング)にみられるような気候変動対策が海洋生物多様性にあたえる悪影響への懸念も表明されるなど、多くの課題がある。

【今後の課題】
海洋・沿岸の生物多様性における日本の取り組みは遅れている。砂浜・海岸管理の縦割り行政の弊害への対処や、海洋保護区の定義、重要海域の選定、科学的検証が十分でない「里海」の議論も含め、NGOとして注目すべき項目は多い。重要な課題であるだけに、COP10期間中に感じられたNGOの連携の弱さを克服するための取り組みも必要である。

2-3 保護地域
保護地域の面積をただ拡大するだけではなく、生態系の代表性、連続性といった生態系の質の確保や気候変動に対する緩衝作用(二酸化炭素の吸収、蓄積)、砂漠化防止、生物多様保全、人間の福利への貢献といった生態系機能を促進する重要なツールとしての価値が再確認された。また、そうした機能を発揮するための生物多様性保全と持続可能な利用を促進するエコシステムアプローチの推進も求められている。

さらには、適切な保全管理の推進をめざし、多様な主体、すなわち地域コミュニティ、NGO、先住民の保全管理への参画、保全管理のためのモニタリングの推進、国境を越えた合意形成の奨励などが盛り込まれた。保全管理の中には生態系や生息地の復元事業の推進、外来種対策の促進も盛り込まれている。具体的な数値目標として2015年までに60%の保護地域の管理効果を測ることも合意された。

【今後の課題】
保護地域はNACS-Jの自然保護活動においても主要ツールである。綾の照葉樹林プロジェクト・赤谷プロジェクト、尾瀬・小笠原、里山保全研究、SISPA(戦略的保全地域情報システム)など個々の現場でその実績を積んでおり、その方向性の正しさを再確認した。COP10の成果は、従来のような個々の事業の推進のみならず、関連事業を有機的につなげる必要性を示している。これはNACS-Jの中長期の課題でもある。

特に環境省だけではなく、林野庁や文化庁などが所管する保護地域制度も多く、行政の縦割りを打破する取り組みが必要となる。海洋保護区の拡大や管理効果を測るには、十分な市民参加と、法制度の整備などを日本政府に対して提案する必要がある。

IUCN-WCPA(世界保護地域委員会)が作成し、NACS-Jで翻訳した「保護地域の管理効果の評価に関する指針」や、韓国における国立公園の管理効果の評価事業の事例などこれまで集めてきた知見を活かすことで、NACS-Jとしても評価の枠組みづくりにリーダーシップを発揮できる可能性がある。

2-3-1 先住民・地域共同体による保全地域(ICCA)
生物多様性条約(CBD)において、ICCAへの認識は十分に広まっていない。しかし、IUCNとCBD事務局は、ICCAの概念と重要性の普及を進めており、保護地域決議でも正式に位置づけられた。先住民居住区等における、住民による地域の生物多様性保全と持続可能な資源利用を促進するため、国レベルの法制度の整備や資金援助の必要性が議論の中心となっている。一方、日本では、ICCAの考え方が里やまの保全など、地域の歴史や文化と深く結びついて地域の人たちが大切に思う場所の生物多様性と生態系サービスを、地域が主体となって保全する活動に合致する。

【今後の課題】
NACS-Jが進める里やまモニタリングや生態系サービスモニタリング、ふれあい調査の根拠の1つとして活用できる。

 

2-4 世界植物保全戦略
2002年のCOP6に際して2010年目標とともに採択された「世界植物保全戦略」は、今回目標数値の上乗せを行う形で改訂版が採択された。絶滅危惧植物の重要な生育地の75%を効果的な管理のもとで保護すること、絶滅危惧植物の75%を野外個体群として生息域内保全すること、各植生タイプの15%を復元・管理することなど、明確で意欲的な数値目標が多数採択され、大きな成果を得た。そのほか、2012年までに各国で使用可能なツールキットを作成することや、2015年に目標の達成状況の評価報告を行うことが決議された。

また、この改訂版植物保全戦略を受けた形で各国・各地方の目標を作成することが奨励されたことは、地域で重要な場所を管理計画を伴う保護区として設定するよう働きかけを行う上での重要な根拠を得たといえる。

【今後の課題】
数値目標の設定や検証のタイミングが明記される一方、その検証の方法が今後の課題といえる。実際、日本における評価結果からは、旧戦略によって、世界的にも域外保全は大きく進んだが、域内保全目標はほとんど達成されていないことが明らかになった。日本の絶滅危惧種のうち域内保全は5%程度と推定され、今後多大な努力が必要といえる。
まずは、一般的に知られていないこの戦略の存在・意義を多くの人に伝えることが必要である。

また、既に、国レベルで世界植物保全戦略に対応した国内計画を作成している国と地域(UK、中国、フィリピン、ニュージーランド、アイルランド、ヨーロッパ)があるが、生息域内保全の目標はほとんど達成されておらず、その実現が世界的な課題である。日本については未だ日本版植物保全戦略は策定されておらず、NGO(主に生物多様性JAPANが中心)が旧植物保全戦略に基づく評価・展望をまとめた段階に留まっており、生物多様性国家戦略においても民間との連携しか記述がないなど不十分な状況にある。

NACS-Jとしては、ほかのNGOと協力することも視野に入れながら、次期の国家戦略策定にあわせて国内目標が作られるよう、研究者・NGOとの連携を進め、さらに、各自治体に対して世界植物保全戦略に対応した戦略策定を働きかける必要がある。

改訂植物保全戦略の目標にあわせ、SISPAの植生タイプごとの解析結果やRDBデータを用いて、今後保全を進めるべき植生・地域を特定し、今後進む国立公園や保護林の拡充に対して、先手の提案をすることが重要である。

戦略目標にあわせ、多様な主体による域内保全を推進するための仕組みづくり、域内保全目標を検証する方法の検討が必要である。

2-5 CEPA(コミュニケーション・教育・普及啓発)活動
CBD市民ネットからの意見が決議に反映されるなどの一定の成果があり、国内にフォーカルポイント(担当窓口)を設置することも求められたほか、今後、国連生物多様性の10年の基本ツールとしてCEPA(コミュニケーション・教育・普及啓発)を活用することとなる。しかし、具体的な手法や資金の調達など見えていないことが多く、実行面に注目する必要がある。生物多様性の理解度や、生物多様性保全のために市民ができる活動の認識度など、世界レベルでの共通の質問シートがあり、その回答を見る限りでは、日本は、COP10ホスト国であるにも関わらず、非常に生物多様性の理解度が低いといえる。

【今後の課題】
CEPAフェアやサイドイベント等では、ユニークな方法・事例が見受けられたが、映像・音楽・ウェブサイト等のCEPAに活用できるツールに関する発表が大半を占めていた。すべての人が生物多様性を正しく理解するために重要となる学校教育での生物多様性の伝え方や、問題のある場所で立場の違う人たちとどうすればコミュニケーションをとれるか、などの重要な視点が欠けていた点は大きな課題である。

本来CEPAとは、生物多様性の保全や持続可能な利用を推進するために、生物多様性の価値を知ってもらう(Public Awareness)、学んでもらう(Education)、対話(Communication)することが欠かせないことから、地域社会の合意形成を図るツールとしての重要性を認識し、その手法を共有するところから始まった課題である。COP10における議論では、「何を保全するのか、何のためにCEPAが必要なのか」という基本的部分がなおざりにされていたように思われる。

愛知ターゲットや国連生物多様性の10年の実施における今後のCEPA活動を、本来の目的である生物多様性の保全や自然保護に活かすためには、NACS-Jが生物多様性の保全という基本目標のもとに30年以上にわたり取り組んでいるNACS-J自然観察指導員の養成事業での人から人へ自然保護の重要性を伝える人材養成の目標や仕組みに加え、赤谷プロジェクトなどでの異なる立場の人々とのコミュニケーションを進めていく方法など、培った手法と実績、課題をより積極的に発信していく必要がある。

また、言葉が広く一般に普及する際には、わかりやすくするために言葉の持つ意味を単純化することで、間違った理解が広まってしまう可能性もある。「生物多様性」という言葉が社会に広まるにつれ、経済的価値や生物の個体の保存などの側面のみが強調されると、生物多様性の保全と自然保護との間に違いが生じる恐れがある。NACS-Jのいう自然保護と生物多様性保全の意味を整理し、社会に提示していくことが必要である。

2-6 自治体と生物多様性、都市と生物多様性
自治体と生物多様性については「生物多様性のための地域政府、都市その他の地方自治体に関する行動計画」が採択された。これまで生物多様性とかかわりが薄いと考えられてきた自治体について、はじめて生物多様性保全のための自治体の行動計画の策定を採択し、あらゆる関係者に実行を呼びかけたことは注目すべきことである。

決議された行動計画は、2020年までに生物多様性保全のためのツールやガイドライン、キャパシティビルディング(運営能力の向上)の整備、普及啓発の実施、進捗状況に関する監視評価システムの適用、などを目ざすものとなっている。また、都市がどれだけほかの区域の生態系に依存しているかを可視化するための指標も提案された。

世界自治体会議も開催され、石川県や千葉県からの発表など積極的な参加も見られるようになってきた。

【今後の課題】
地域戦略は、千葉県や兵庫県などの先進的な取り組みから、全国的にその策定の動きが広がりつつあり、名古屋市・神戸市・流山市など市レベルでも進みつつある。愛知ターゲットをベースとした地域戦略の策定の支援についてNACS-Jから積極的に働きかける必要がある。

2-7 企業と生物多様性
今回は多くの企業が展示やサイドイベントを実施しており、COP8以降、企業も生物多様性に関わることが常識となりつつある。企業参画の決議では、企業活動による生物多様性の保全や持続可能な利用の促進と、そのための企業の参画の推進に関する今後の課題について、国がすべきこと、企業に推奨される活動、条約事務局がすべきことに整理された。

企業の参画を進めるために、①国は、企業参画のための対話や、参加促進のための環境整備(ガイドライン等の整備)、企業と生物多様性イニシアティブの支援など全8項目が求められており、②企業は、愛知ターゲット達成に貢献することを期待されるとともに、自社事業がおよぼす生物多様性や生態系サービスへの影響評価の実施、FSCなどの自発的認証制度への積極的参加、「企業と生物多様性イニシアティブ」といった企業全体の事業への協力など全11項目が推奨されている。③条約事務局は、各国・各企業の事例収集と普及啓発、企業参画のためのツールの評価など全6項目が求められている。

また、会期中に発表された『生物多様性と生態系の経済学(The Economics ofEcosystem and Biodiversity。略称TEEB)』報告書により、生物多様性・生態系サービスが経済的価値や市場の視点からも重要であることが強調された。生物多様性保全活動がもたらす経済効果の報告がなされるなど、TEEBによって経済と自然保護との紐付けが盛んになり、自然保護だけではなく、経済活動を重視する層へアピールする方法が整理された。さまざまな法制度(水源税などの生態系支払い(Payment for Ecosysytem Services))が紹介された。その価値がより広く認識され、保全への費用負担の根拠となることは、今後の生物多様性保全において重要である。

【今後の課題】
大企業による発表はあったが、その他多くの中小企業や地域に根付いた企業は、生物多様性に関して何をすべきかわかっていないのが現状である。生物多様性と経済活動がどのように関連づけられ考えられていくべきか、行政・企業・市民へまずはTEEBの紹介などを通して普及を図る必要がある。

一方で、その経済的価値を負担することは、地域固有の生物多様性を代償することにはならないことを注意喚起する必要がある。生物多様性は地球誕生からの歴史と進化の産物であり土地固有のものであるため、他地域のものと代替することが極めて困難であることを認識し、生物多様性オフセットや市場メカニズムなど経済的手法を通じた代償措置が不適切な形で促進されることのないように監視していく必要がある。

2-8 里やま(農業と生物多様性、持続可能な利用)
農業と生物多様性については、愛知ターゲットで「遅くとも2020年までに、生物多様性に悪影響を及ぼす「補助金」を含む奨励措置の撤廃(目標3)」や、「農林水産業が持続可能に管理される状態とすること(目標7)」などが決議されたり、ラムサール条約の水田決議を受けてCBDでも農業決議に「水田の生物多様性を湿地システムとして高めること」が盛り込まれるなどの成果があがった。また、日本政府が強調してきた「SATOYAMAイニシアティブ」(持続可能な利用・管理がなされてきた「社会生態学的生産ランドスケープ」の維持・構築に関するイニシアティブ)が、持続可能な利用に関する決議の中に盛り込まれ、国際的な枠組みの下で推進していくための「国際SATOYAMAパートナーシップ」が発足するなどの成果があがった。

【今後の課題】
農業と生物多様性の分野では、市場のグローバリゼーションに伴う農業の集約化・工業化が進む中で、人間の福祉・安全保障に寄与する農作物の遺伝的多様性や伝統的知識を有している小規模・脆弱な農業を保全しなくてはならないという課題が指摘された。CBDでは未だその本質にまで迫る決議はなされておらず、日本においても小規模農業の集約化・単調化を助長する整備事業・補助金が未だに進められている。愛知ターゲット受けた政策転換をいかに進められるかが大きな課題であり、NGO・市民としてもモニタリング調査から現行施策の評価や関連制度の改善へとつなげていくなどの取り組みが必要である。

「SATOYAMAイニシアティブ」についても、農業決議の中ではまったく言及されておらず、このままでは現在、各地にかろうじて残っている伝統的な社会生態学的生産ランドスケープの情報共有に留まってしまう恐れが高い。本質的に世界全体の農業生態系において生物多様性を保全していくためには、小規模農家の保全のための世界的な枠組み確立や国際貿易のあり方にまで踏み込む必要があり、NGOや市民・農家からの強い働きかけが必要である。

2-9 市民参加型モニタリング
NGOや市民の行う広域的なモニタリング調査は、既にその成果がGBO3(第3次地球規模生物多様性概況報告)に主要データとして活用されるなど、地球規模でのモニタリングネットワークを構築する上で不可欠な要素となりつつある。それにも関わらず、未だに国際的な認識は十分ではなく、今回の会議でも市民参加型調査の推進に関する関連決議はなされなかった。

しかし、NACS-Jでは会議中に行ったドイツ自然保護連盟(NABU)、Birdlife International との情報交換やサイドイベント等での情報収集を通じて、NGO・市民セクターこそが地球規模の実データを長期間にわたり取得できる唯一の存在であることを再確認できた。また、持続可能な利用や保護区内の保全における地域コミュニティの役割が決議としても盛り込まれている中、既にBirdlife Internationalが重要野鳥生息域(IBA)内での地域住民によるモニタリングやそれを通じた環境教育やエコツアー、農作物の付加価値化などによる地域活性といった分野において大きな成果を挙げつつあることも確認できた。

【今後の課題】
生物多様性の地球規模での長期的モニタリングと、それによる評価・保全の実現のためには、多くの市民が調査の主体として参加して生物多様性と生態系サービスの重要性が再認識されていくこと、NACS-Jのような全国規模のNGOが調査手法の統一やトレーニング、データ集約・分析などの中核的役割を担うこと、政府・地方自治体がモニタリング活動を政策に組み込み成果を新たな施策に反映さていくこと、という三者がそれぞれの領域で役割を果たさなければなし得ない。

NACS-JはじめNGOは自身の役割を十分自覚し、政府・自治体への働きかけや市民への普及啓発・研究者との連携などを通じて、事業内容を昇華していく必要がある。

以上

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